この作品のレビュー
平均 3.5 (17件のレビュー)
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聖書をどう読んでも、天地創造からイエスの誕生までの間は5000年しかありません。
聖書に矛盾しないように「歴史」を記述しようとするとき(普遍史)、イエスの誕生以前のイベントをその5000年に収納しなけ…ればならないという問題が発生します。
この「5000年問題」に例外はありえません。
なぜなら、天地創造以前には「時間」そのものが存在しないから。
ところが、新たな文献の発見、地理的交流範囲の拡張(中国や北米)、自然科学の興隆、啓蒙主義の登場といった事件が突きつける、時間を遡るべき”新証拠”が、「5000年問題」を揺るがします。
かくして、「聖書年代学というベッドにあわせて…(歴史)の時間を切り詰めよう」とする(「科学vsキリスト教」p204)、普遍史サイドの苦闘が展開されることになります。
聖書ではご丁寧にもキリストの復活という「お尻」も決まっているので、過去のイベントを余裕をもってパッケージングしていると、すぐに「終末」が来てしまうことになります。
あちらを立てればこちらが立たず、並大抵の工夫では収まりません。
連続する王朝を並立していたことにする(鎌倉・室町・江戸の各幕府が同時に存在していたことにするような無茶な話)ぐらいは可愛いもので、都合の悪い国はなかったことにする、大した事業を行わなかった王を抹消する「ファラオの大虐殺」(本書p165。しかも犯人はあのニュートン)、◯◯王と☓☓王は実は同一人物だった、バージョン違いの聖書をもってくるなど、なんでもあり。
しかもそこへカソリックvsプロテスタントの闘争も影を落として、大論争となります。
21世紀に、しかもキリスト教化外の地に生きる者にとっては単なるつじつま合わせのための荒唐無稽な話に見えるかもしれません(実際、必死の辻褄合わせですが)。
しかし、普遍史論争における両陣営のプレーヤー達はいずれも、当時の宗教・思想・科学界のスーパースターであり、そこから文献学などの学問が発達し、我々が使っている暦が生まれ、さらには始まりも終わりもない無限の「時間」が承認されたことも考え合わせると、ヨーロッパの思想風土の分厚さを再認識することになります。
18世紀の終わりとともにヨーロッパにおいては普遍史は止めを刺されますが、話はそこでは終わりません。
メイフラワー号とともに普遍史の残り火は新大陸を目指し、その構造を変えながらアメリカにおいて命脈を保ったのです。
してみると、アメリカにおいて進化論教育の是非がいまだに論争のタネになることの遠因は、はたしてこれであったかと、想像を逞しくしたくもなります。
さらに。
アメリカでしぶとく生き延びた普遍史(的なるもの)は、翻訳歴史教科書の形を借りて、こんどは太平洋を越えて我が国へ渡ってきます。
筆者の言葉を借りれば、「神代の歴史から叙述を開始する日本史の記述と『パーレー萬國史』(引用者注:アメリカで書かれた普遍史ベースの歴史書)は、神話を歴史に組み込むという点では同じ構成を有しており、両者は、共通の精神構造に基いているといえる」(本書p251)。
この精神構造が妙な形で発現して、「(皇国史観を)取り戻す」ことにならなければ良いのですが…。
人間の知性がキリスト教を乗り越えてゆく、歴史学における聖俗革命をめぐる一大ロマン。
自然科学リーグの大奮闘を描いた姉妹編「科学vsキリスト教」とあわせて読むと、楽しさ3倍です。
(本書に紹介されているキテレツな地図も良いですが、「科学vsキリスト教」に紹介されている穴居人や野蛮人のイラストは最高。)
2冊合わせて、星4つ。オススメ。続きを読む投稿日:2014.06.30
このレビューはネタバレを含みます
西洋古代~近代におけるキリスト教的歴史観、「普遍史」の発展と衰退とを解説した書。聖書に基づく人類史として生み出された普遍史が現実の歴史をどのように記述していったのか、その二者の間の齟齬をどのように処理…しようとし、そして瓦解していったのかを詳説する。
レビューの続きを読む
本書は、聖書に基づく西洋の歴史観である普遍史を、主に近世~近代における動揺の時期を中心に紹介したものである。キリスト教的歴史・世界理解の方法とも言える普遍史は、天地創造やノアの洪水などの聖書の記述を軸に(西洋人にとっての)普遍的な人類史を組み立てて行こうとする試みであった。アダムに始まる人類の歴史は預言者ダニエルの説いた四つの帝国を経て黙示録の終末に至るものであり、その中においてキリスト紀元や「化物世界誌」といった概念が西洋人の世界観として構築されていった。
しかしその一方で、聖書の記述と現実の歴史との間には易々と解消することの出来ない齟齬・矛盾が存在していた。古くは創世紀元を大きく超過してしまうマネトのエジプト史に始まり、聖書の想定していない「新大陸」や中国文明の発見、果ては文献的研究の進展に伴う聖書の記述そのものの信憑性疑義など、歴史を経るにつれ普遍史の権威は大いに揺らいでいく。多くの学者がこの齟齬を解決しようと様々な理論・歴史記述を呈するも根本的な解決には至らず、遂に18世紀のシュレーツァーを以ってして普遍史は「世界史」へと瓦解していく――その一連の流れに焦点を当てて解説しているのが本書である。
本書の内容で興味深かったのは、「聖書に基づく」普遍史において聖書の記述の取捨選択が行われてきたという事実と、中国史など聖書の枠外にある地域・文明を聖書の記述の中に包摂しようとした諸々の試みである。聖書にも記述のあるはずの新アッシリア帝国や新バビロニア帝国が(『ダニエル書』に基づく四世界帝国論を説く)普遍史においては無視されている件や、また中国史の古さを解決しようと中国の歴代皇帝を聖書の登場人物に対応させていく(例:伏犠=アダム)といったことは、まさに自らの文化・価値観の下で他者をどのように描写するか(その過程で他者をどのように改変していくか)ということと深く結びついていると感じられた。続きを読む投稿日:2024.05.25
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