ガンディーの真実 ――非暴力思想とは何か
間永次郎(著者)
/ちくま新書
作品情報
★中島岳志氏推薦! 「今後、この本を抜きにしてガンディーを語ることはできないだろう」★ 贅沢な食事をしないこと、搾取によってつくられた服を着ないこと、性欲の虜にならないこと、異教徒とともに生きること、そして植民地支配を倒すこと――。ガンディーの「非暴力」の思想はこのすべてを含む。西洋文明が生み出すあらゆる暴力に抗う思想・実践としての非暴力思想はいかに生まれたのか。真実を直視し、真実と信じるものに極限まで忠実であろうとしたガンディーの生涯そのものから、後の世代に大きな影響を与えた思想の全貌と限界に迫る。ガンディー研究を一新する新鋭の書!
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商品情報
- シリーズ
- ガンディーの真実 ――非暴力思想とは何か
- 著者
- 間永次郎
- 出版社
- 筑摩書房
- 掲載誌・レーベル
- ちくま新書
- 書籍発売日
- 2023.09.07
- Reader Store発売日
- 2023.09.07
- ファイルサイズ
- 15.5MB
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この作品のレビュー
平均 5.0 (3件のレビュー)
-
ガンディーとはインドの仙人のような人かとおもっていました。が、違っていました。
生身のガンジーの姿がありました。
宗教の普遍性、共通性に気が付いたのですが、その相違の部分に注目しなかったことが
イン…ドの分離が、ガンディーの悲劇を生んだのです
気になったのは、以下です。
・非暴力は臆病とことなることをはっきりと断言した。加えて重要なポイントは、非暴力とはあらゆる力の否定とも異なるということである
・ガンディー非暴力は、単に政治的な抗議の方法のみ語られるものではなく、衣食住や宗教を含む公私をまたぐ生活領域に及び主題であった
・ガンディは1869年10月2日に、グジャラート地方の人口8万のポールバンダルという藩王国で誕生した。
・18歳でイギリスに留学して、弁護士資格を獲得した
・南アで人種差別にあい、差別を根絶するために必要なこととは、加害者を糾弾することではなく、システムを変革することであると悟った
・南アからもどったガンディーは、インド独立運動にのめり込んでいく
第1次独立運動 1919-1922 ボイコット・ストライキ
第2次独立運動 1930-1934 塩の行進
第3次独立運動 1942-1944 インドを立ち去れ
・インドの農民の結集、ヒンドゥ教徒とイスラム教徒との融和が生涯の願いであったが、1947 のパキスタン分離、1948 ヒンドゥ教徒によって殺害され、ガンディの思いは生前には実ることはなかった
・トルストイの「神の国は汝らのただ中にあり」との出会いが、ガンディを変えた
・洋服を脱ぎ捨て、腰布1枚になったガンディが、農民の魂を揺さぶった
・紛争の地、カシミールこそが、ヒンドゥ教徒とイスラム教徒との共生の地であった
・ガンディの性、妻とは3人の子をなしたが、長男はガンディの愛をうけることなく,廃人として死亡した。妻ともうまくいっていなかったようである。
・おどろくことに35歳を超えた、ガンディは男性性的な関係のにあったようだ。
・ガンディが唱えた、宗教的多元性の理論は、さまざまな宗教に共通する普遍的な真実であり、西洋のダイバーシティ:多文化主義とは異なっていた
・ヒンドゥ教、イスラーム教、シク教、などの制度的な宗教というよりも、分断を超えて自己と他者が共存していくための「寛容の精神」を第一義的に意味するとした。
・ガンディの非暴力思想は
①完全な非暴力
②非暴力的暴力
③偽善的無抵抗
という3つのレイヤから構成されていた
ガンディの非暴力運動の特徴は、当時のインド人大衆が非識字者であり、口コミで伝わっていったということである
【目次】
はじめに 非暴力思想とは何か
第1章 集団的不服従―日常実践の意義
第2章 食の真実―味覚の脱植民地化
第3章 衣服の真実―本当の美しさを求めて
第4章 性の真実―カリスマ性の根源
第5章 宗教の真実―善意が悪になる時
第6章 家族の真実―偉大なる魂と病める魂
終章 真実と非暴力
謝辞
文献一覧
ISBN:9784480075789
出版社:筑摩書房
判型:新書
ページ数:288ページ
定価:940円(本体)
発売日:2023年09月10日第1刷続きを読む投稿日:2023.11.21
「敵」に命がけで抵抗しながらも「敵」を決して殺さない。この不思議な光景を前に、ミラーは心底「困惑」したのだった。
行進者の瞳孔の中にうかがわれたのは、天地が逆転しようとも、自らの信じる「真実」に忠実で…あろうとする不屈の意志であった。
ガンディーは生涯の中で、幾度となく、自らの「非暴力」の意味を無抵抗と混同されそうになった時、非暴力は「臆病」と異なることをはっきりと断3 した。加えて、重要なボイン卜は、非暴力とはあらゆるカの否定とも異なるということである。
ガンディー自身は、非暴力を食・衣服・性・宗教といった一般的に人々の私的なものとされる関心事にも繫がる主題として語っていた。
非暴力という語が使用される以前の「非暴力」運動は、ガンディーによって何と
呼ばれていたのだろうか。それははっきりとした名前を持っていた。それは「サッティヤーグラハ」である。
天地がひっくり返ろうとも、 自らが「真実」だと思う信念に決して妥協を許さないという断固たる意志・実践が、その語の意味するところなのであった。
ガンディーの生涯をめぐるー貫した問いとは、人間はどこまで真実を重視し、それに忠実に従うことができるのか、換言すれば、どこまで人間は真実にしがみついていられるか、ということだった。そして、ガンディーの生涯は、その「極限」を模索するものだったと言える。
「サッティヤーグラハ=真実にしがみっくこと」
彼が最期まで決して向き合えなかったもの( 否、向き合おうとしなかったたものと言うべきか)が一つだけあった。それは家族である。
人間の魂に訴えかける術に長けていたガンディーが、生涯で決して説得できなかった二人の人物がいた。一人が、パキスタン建国の父ムハンマド・アリー・ジンナーであり、もう一人が、実の長男のハリラールである。
ガンディーを人種差別体験以上に驚かせたのは、明らかに不正に思える社会的慣行を、被差別考たちであるインド人自身が自明のものとして甘受している姿だった。
ガンディーは差別を受ける者と差別をす
る者の二項対立で物事を考えたのではなく、より俯瞰的な観点から、差別をする者さえもが野蛮な文明の被害者であると見なしたのであった。
ガンディーは集団的不服従運動を行っていない時期に、常に新しい知識を蓄え、食や性を統制し、運動を欠かさないことで、地道に心身の「健康」を向上させ、公的な政治実践に備えていたのであった。
このような「目立たない」日常の非暴力実践の積み重ねという土台の上にあって初めて、「目立った」非暴力運動が可能となっていたのである。
暴力が支配者に、豊かな暮らしと「美味しい」食爭を倦してきたからに他ならない。
ガンディーはトルストイやソローの苦作から、「市民的不服従」の思想を学び、この思想こそが、現状を打破する鍵となると確信するに至った。
ガンディーは「最良」の服には、次の三つの条件が必要であると考えた。第一に、「着心地の良さ」である。「機能性」と言ってもいい。第二に、「国産」である。
第三に、伝統を舞重しながらも伝統に縛られない「伝統的革新性」である。
ガンディーの説く多元性の理食では、異なる呢団を暖譏することは目的ではなく乎跳であり、様々な集団の価値観を尊重し擁護していクた先には「統一性/融和」すなわち「絶対的な真実」の地平があると考えられた。
ガンディ—によれば、非暴力の原理は、あらゆる宗教に共通して見出される「普遍的な教え」であった。糸ではこのようなガンディーの宗教的多元性の理念と非暴力の原理を結び付けた彼独自の宗教思想を、便宜的に「非暴力的宗教多元主義」と呼ぶことにしたい。
全ての宗教の根源が、自己犠牲、慈悲、愛といった同一の倫理に根差していることを学んでいった。
非暴力思想の三つのレイヤー
まずガンディーは「恐れ」や「臆病」といった「負の感情」( これには感官の統制のー境としてブラフマチャリャが不可欠とされた) を完全に払拭し、死をも恐れない「勇敢さ」を純粋な勒機とした非暴力行動を最も理想的なものとした。
ガンディーはこのような上辺だけの非券よりは、暴力に策してでも勇敢に立ち上がって抵抗した方がよっぽど「非暴力的」であると見なしたことであった。
①完全な非暴力>②非暴力的暴力>③偽善的無抵抗
ガンディーの生涯最後の半年問において注目すべきことは、それまでの自信に満ちたガンデイーの思想と異なり、ガンディーが「神の恩絕」を求める他力本願的なヒンドウ—教のバクテイ( 信愛) の思想に傾斜していったことである。ガンディーは自らの力の限界を痛切に悟った。
晚年の発言の裏に垣問見られるのは、圧倒的な残虐性を前にして、神の摂理や生命の神秘といった形而上学を語る奇妙な「冷静さ」である。最も重要なことは、この時期にガンデイーがラ— マの御名を唱えて神の恩寵を求めた時、その救済の対象は、目の前で嘆き苦しんでいるー〇〇〇万人の同胞のインド人ではなかったことである。彼はあくまで自己の救いを求めた。
ガンディーは生涯を通して、自分の目の前に起こるあらゆる「暴力的」現象が、自己の心・身体の「清浄性」の度合いを反映したものであるとする理解(身体宇宙論) を抱くようになっていた。
ガンディーは人種差別を受けて我に返った時、初めて他者の痛みや苦しみに目を向けることができるようになったことである。
ガンディーもまた人生の最終目的が、「本当の自分との出会い」にあり、それこそが「絶対的兵実」の到達(=解脱) を意味すると語ったのだった。
ガンディーが「本当の自分」を迫求する中で起こったことは、他者との分
離どころか、むしろ他者を引き寄せる吸引力の増大だったからであった。ガンディーが「本当の自分」を追求すればするほど、ますます周囲の人々がガンディーのもとに集まってきたのだった。彼の行った「本当の自分」の追求は、逆説的にも自発的に苦難を被るとい、? 苞味での非暴力の実践と表裏一体だったからである。
自己=魂(アートマン)の発見こそが、世界中に影響を与えることになったガンディ—のサッティヤ—グラハとしての非暴力の思想を理解する鏈だったのである。
ガンディ—は「本当の自分」を見出していく過程で最大の障害となるものが2つ存在すると考えていた。「恐れ」と「文明」である。
近代西洋文明が奪ったとする人問の本来の目的、人間の生きる寤味とは何なのか。そ
れはガンディーに言わせれば、はっきりしていた。それは「おのれを知っていくこと」であった。
目立たないづ日常のサッテイヤーグラハの積み重ねこそが、大規模に展開した彼の集団的不服従運動の土台となっていたのだクた。
仮に「ガンディー主義」といったものが存在しうるならば、それは逆説的にもガンディーの思想に対する批判的精神によってのみ可能となる。非暴力の実践者がしがみつこうとする「眞実」は、常にそれ自休の中に、自己解休と再生の契機を含んでいる。これら仝ての試みは、より深く「おのれを知っていくこと」という唯一の目的に向けられている。続きを読む投稿日:2023.10.18
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