入門 開発経済学 グローバルな貧困削減と途上国が起こすイノベーション
山形辰史(著)
/中公新書
作品情報
世界は今なお悲惨さに満ちている。飢餓、感染症、紛争にとどまらず、教育、児童労働、女性の社会参加、環境危機等、課題は山積みだ。途上国への支援は、私たちにとって重要な使命である。一方、途上国自身にも、新たな技術革新の動きが生じている。当事者は今、何を求め、それはどうすれば達成できるか? 効果的な支援とは何か? 開発経済学の理論と最新の動向を紹介し、国際協力のあり方や、今こそ必要な理念について提言する。
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商品情報
- 著者
- 山形辰史
- 出版社
- 中央公論新社
- 掲載誌・レーベル
- 中公新書
- 書籍発売日
- 2023.03.25
- Reader Store発売日
- 2023.03.22
- ファイルサイズ
- 25.6MB
- ページ数
- 288ページ
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この作品のレビュー
平均 2.5 (4件のレビュー)
-
このレビューはネタバレを含みます
1970年代、80年代に学生時代を過ごし(学舎も同じ)、その後、アジ研等を経て、現在、立命館アジア太平洋大学で教鞭を揮う著者。
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専門は、開発経済学。開発途上国が、現状を回復し、物質的に豊かに、社会制度的に高度に発展するよう、その仕組みを開発し、その開発上の諸問題に応えていく学問が国際開発論、その中で経済的なメカニズムに着目するのが開発経済学だそうだ。
とはいえ、開発途上国が独自に豊かに高度になる仕組みを開発というより、先進国からの援助、支援を如何に効率よく行うか、富の再分配の効率化によって底上げを図る有効な手段を探る学問と言っても良さそうだ。
同年代の著者が、その分野に興味を持った時代的背景も良く判る。
1970~80年代、イケイケどんどんの日本社会に育ち、我々日本は、貧困国に援助をする立場、という思いが身に染みている。
1960年初頭に日本は、経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)に加盟、当時の自由主義陣営の援助供与国(ドナー)の仲間入りを果たす。当初は、アメリカの25分の1程度の援助額だったが、1990年代に世界1位の援助国となる(1993年~2000年までTOPドナー)。そういう時代を過ごし、日本政府からの援助が、どのように使われ、如何に対象国の発展に寄与したのか(あるいはしなかったのか)を検証する、そして、より効率化を求める研究は、楽しかったに違いない。
が、その開発経済学も、役目を終えた(by ノーベル経済学賞のポール・クルーグマン)というワケではないが、ひとつの岐路に立っている感はある。ゆえの、このタイミングでの本書執筆なのだろう。敢えて、「入門」と冠し、その歴史、過去の功罪を含めて振り返ってみたもの。そして、今後の開発援助の行方、有り方を探る好著。
昨今、気になるのは、中国の政府援助は是か非か? 西側目線では、質の悪い高利貸し、マチキンの類で、いずれ身ぐるみはがされる、みたいな議論をよく耳にするが、「中国政府による開発途上国への公的資金供与は、融資条件は比較的厳しいものの、規模が大きいという特徴がある」と、冷静に分析している。
あと、かつての国際援助は、今やSDGSという言葉に置き換えられているという実態。そのことで、開発の側面が弱まり、環境保護や、独自開発が奨励されるようになったが、果たしてその効率、有効性はどうかと疑問を呈する。目標が多岐にわたり、なんでもSDGSだということにも、著者は異を唱える。
また、南北縦方向の援助の難しさの指摘は面白い。ヨーロッパが均一に発展してきたのも(もちろん差はあるが)、東西、すなわち横展開は、技術も伝播しやすいという側面がある。一方、南北アメリカ大陸の格差、アフリカや南アジアへは、いわゆる西側諸国が蓄えた、技術、智恵、あるいは農業で使ってた種、品種でさえ、縦ほうこうへ伝えていくには、新品種の改良や技術の開発、刷新が必要となるなど、いっそうハードルが上がる。なるほど。
そうした、東西、南北の貧富の差、技術力の差、時差を含め、あらゆるギャップを利益の源泉としてきた時代に社会人生活を送ってきた身としては、今後の世界の在り方は如何に!?と、ついつい考えてしまう。その為の、基本情報を整理して伝えてくれている。
あとがきにある、著者が今の学生に感じる意識の差が、面白い(2108年から立命館アジア太平洋大学@大分県別府市に勤務)。
「学生たちはしばしば、「現実」が常に優位に立つと思い込む。また国際協力の実務者の側も「理想だけでは多くの人々の意見の一致(コンセンサス)が得られず、物事が前に進まない」という経験則を振りかざし、理想の意義を相対的に低めるメッセージを発しがちである。」
これに対し、本書で言いたかったことは、「理想こそが、すべての原動力であった」と強調する著者。右肩上がりの時代を駆け抜けてきた著者の思い、大いに同意できるが、それを、ストレートにぶつけても、停滞の四半世紀を過ごしてきた若者には伝わりにくいのかなとも思う。
が、今、時代は、ひとつの岐路にあると思う。これからは、「現実」がこうだからと、停滞していては時代に乗り遅れるのかもしれない。「理想」を掲げ、猪突猛進する時が来ているのかもしれない。投稿日:2023.07.11
戦後はじまった先進国から途上国への援助が、その理想に向かってどのように変わってきたかをコンパクトにまとめている。ただ最近の「自国中心主義」「SDGs」に現れる反理想傾向に熱く憂いていて共感できる。
投稿日:2023.07.28
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