この作品のレビュー
平均 4.0 (2件のレビュー)
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著者が長年にわたり防衛産業について調査し、雑誌「丸」に連載してきたものをまとめた本。よく調べられていると思う。知らなかった内容が多く、勉強になった。
「(防衛産業問題)この問題が産業政策だと捉えてい…る人も多く、そうではなく、これは「安全保障政策」であるという認識を高めなければならないのである」p10
「防衛装備品生産に従事する企業における防衛需要依存度は平均で4%程度だ。防衛産業の規模は約1.8兆円といわれ、自動車などの製造業全般は58兆円である中、100円ショップよりも小規模である。企業にとってこの部門ははっきり言って、なくなってもいいものである。防衛需要への依存度は企業によっては1%以下というところも少なくない」p11
「どんな経営においても「特需」ではなく「安定受注」を求めている。それこそが、コストつまり価格を下げ、雇用創出に繋がるということがあまり理解されていない」p18
「(防衛生産基盤の維持が難しいこと)大きな要因は、自衛官にあると思う。多くの自衛官には当事者意識はない。それどころか「防衛産業のために運用するわけにはいかない」「防衛産業の話は聞かない方がいい」などという考え方がまかり通っているのである」p19
「防衛生産・技術基盤の維持」とは、「可哀そうな防衛産業に送るエール」でも何でもなく、残しておかないと「日本の防衛力が困る」つまり、自分たちの生命に関わる施策といっていいことを、繰り返し認識して政策なり戦略なりを進めて欲しいと思う」p41
「(FMS)修理に出したら最後「2年前に送ったきり戻ってきません」などという話もザラにある。また、そもそも納入が6年以上も遅れた誘導弾があったり、戦闘機の通信機が丸9年以上納入されなかったケースもあるという。結局、購入する時は「すぐに」「最新のものを」と良かれと思い決めても、後で泣かされることになるパターンが少なくないのだ」p57
「(IHIのジェットエンジン開発)少なく見積もっても、向こう10年は赤字になるだろう。企業にとっては大胆な決断だった」p128
「米国では経済安全保障は国防省主導で考えられているようだが、わが国では防衛省が主導するわけではない」p176
「(装備移転)「装備品の輸出を」というが、だいたい、日本の自衛隊が国産を買わないのに、それを外国に買ってもらおうという発想自体がおかしいのではないだろうか。相手国を見下しているのだろうか」p237
「(防衛装備庁が担当)相手は国や軍であり、装備品を買うことに対し自国の農産物などの購入を約束させる「オフセット取引」を求められる場合も多いというのに、勝手に対応できるはずがない。諸外国が当たり前に行っている首脳外交の場を使ってトップセールスをしなければ話にならないだろう。そのためには、官邸が装備庁では今どんな話が進行中なのかといった情報を常に知っている状況を作る必要があるだろうし、首脳会談で漠然とした話をしても意味がなく、具体的な売り込みをここでできるように準備する必要がある」p242
「今後、装備移転の成功事例を増やしたいのなら、首相だけでなく「制服自衛官」もキープレイヤーになる覚悟が必要だ」p245
「米国では、国家の研究開発予算の約半分を国防総省が持っている」p255
「(ノーベル)ニトログリセリンは振動などでも爆発を起こしてしまう非常に不安定な物質だったため、ノーベルの爆薬製造工場が爆発事故を起こしてしまい、5人もの死者を出してしまった。その中には実弟も含まれていた」p259続きを読む投稿日:2022.09.11
兵器国産はわが国の防衛の基本方針ではなかったのか
下請けの町工場に押し寄せる廃業、倒産、外国ファンドの買収危機
危機とは国家安全保障の状況を一般的に表す。保守論壇は相変わらず、日米安保同盟深化、…日米安保条約の改定と憲法改正はセット、米国と核シェア、日本の核自主開発などの議論で賑わっている。
しかし足下をも見よ!
防衛力強化、自主開発などといっても、それは難しい環境にあるばかりか、日本国内の防衛産業は人材不足と予算不足により未曾有の経営危機に瀕している。
何がネックかと言えば、第一に防衛予算のアンバランスである。
「約44%が人件費、約35%がローン支払いという義務的経費、残りの20%に満たないお金がその年に使える金額である。しかし、その虎の子の20%も大半が米軍や基地周辺への自治体に支払われる分や装備の維持整備費になっている」。
もっとも重要な「研究開発費」に割かれるのは予算の僅か4%。これじゃ、防衛の根幹が崩れていると同義ではないのか?
はたして国内防衛産業が存続できるのか、廃業に追い込まれるのかの瀬戸際に立っている。
防衛予算のアンバランスの問題、とくに装備一辺倒の特徴がある防衛予算は分割ローンが組まれている。装備の充実といっても、対米一辺倒という方向性、しかも、この状況の間隙を縫って、中国がダミーのファンドを駆使し、日本防衛産業の重要な部品をつくる企業の買収を狙っている。
国内調達が減少し、関連企業は防衛から撤退したため、技術基盤は弱体化している。まさに著者が指摘する如く「これは産業の問題ではない。国家安全保障の問題」なのだ。
あまつさえ、国防の基本方針にあった「国産化」は、あらかた消えて、我が国の防衛体系は、自主防衛など不可能、在日米軍の作戦補完のための装備が強要され、国内産業の育成強化どころではない。まして日本学術会議とかいう不思議な左翼団体が、国家破壊の策動に手を貸している。
日本に戦略兵器は存在しない。すなわちICBM、戦略爆撃機、原潜、空母、宇宙キラー衛星がない。あるのは米軍の作戦を補完する護衛艦、哨戒機、あとは『防護兵器』のみで、攻撃兵器は、これからホンのちょっと配備される。継戦可能な弾薬、弾丸、砲弾、ミサイル、その他は圧倒的に不足している。ウクライナがもっている防衛兵器すら自衛隊には数えるほどしかない。
本書は、このような日本の防衛上の欠陥をみごとえぐり出した。そのうえで、いかに国内で防衛産業を復活させなければならないかの重要性を説いている。
「自衛官は装備に自らの生命を預け、それを維持し運用するために全力を尽くす。あやまった選択の結果は現場隊員が命がけでツケを払うことになる」(64p)
いやツケは表面化している。日本経済新聞(9月6日)にこんな記事がでた。
「南西諸島で『有時があれば数日も持たない』。精密誘導弾が不足しているからだ。『稼働できる航空機が足りません。』。陸海空の三自衛隊総てでている。全装備品のうち、足下で稼働するのは五割、必要な部品と予算が足りない」からだ。(日経『防衛費を問う』シリーズ)。
著者の桜林さんは十二年前に『誰も語らなかった防衛産業』(並木書房)以来、防衛産業を取材し続けてきた。いま、嘆息していう。
「だんだんとその活動に『辛さ』を感じるようになっていった」
状況はますます悪化している。本書は防衛議論の前提となる問題提議である。
(C)有限会社・宮崎正弘事務所 2022続きを読む投稿日:2022.09.14
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