マスメディアとは何か 「影響力」の正体
稲増一憲(著)
/中公新書
作品情報
「マスコミの偏向を信じるな」。インターネットの接触が増えるにつれて、高まる既存メディアへの不信。これまで不動の地位を築いてきた新聞、ラジオ、テレビに、近年は不要論まで語られる。視聴者に大きな影響を及ぼし、偏向報道で世論を操るという「負のイメージ」は、果たして真実なのか。本書では、マスメディアの「影響力」を科学的に分析。問題視される偏向報道、世論操作などの実態を解明し、SNS時代のメディアのあり方の検討を試みる。
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商品情報
- シリーズ
- マスメディアとは何か 「影響力」の正体
- 著者
- 稲増一憲
- 出版社
- 中央公論新社
- 掲載誌・レーベル
- 中公新書
- 書籍発売日
- 2022.07.25
- Reader Store発売日
- 2022.07.20
- ファイルサイズ
- 18MB
- ページ数
- 288ページ
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この作品のレビュー
平均 3.2 (7件のレビュー)
-
このレビューはネタバレを含みます
インターネットが身近な時代にマスメディアの立場とは?
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マスメディアが私たちの生き方に影響を与えていることを否定する人はいないだろう。また、インターネットの攻勢によってマスメディアの影響力が小さくなってきたと考えている人もいるだろう。ある人は誰もが自由に発信できるインターネットがあれば一定の立場からの情報しか提供しないマスメディアは不要だと考えているかもしれない。
これは「なんとなく」持っているマスメディアへのステレオタイプを解きほぐしてインターネット時代のマスメディアの捉え方についてまとめられた本である。現代までのメディアに関する研究を紹介しながら「マスメディアが人の行動にどのように影響するのか」の研究の歴史を追う構成になっている。
専門用語もあり数多くの研究が次々と紹介されるため読み進めるのは決して簡単ではないが、ところどころに議論のまとめがあるので脱落することはなかった。特に第5章や第6章では、それまでのマスメディア研究の蓄積をインターネットの研究にどのように活かしていくかについても述べられており、今後の研究に興味がわいた。
見たいものを見られるインターネットだから、あえて観るべきものを提供する必要がある、それが社会的にも益になることである、という著者の指摘は重要だと思った。ここに広く多くの人へ同じ情報を届けるマスメディアの存在意義がある。投稿日:2023.12.27
ダメだこりゃ。
著者は「中の人」なので、メディアは善意で無力という自己イメージを補強したい動機が垣間見える。しきりにメディア効果の過大視を戒めるが、メディアの効果を過小評価することは過大視以上に危険で…ある。特に著者のように無自覚な場合は。
いくらメディアの力を否定しようとしてもコロナ禍の報道で誰もが嫌というほどその力を実感しただろう。古くは日露戦争後の日比谷焼き討ち、米騒動、太平洋戦争開戦。いずれも新聞、ラジオの論調が世論の形成に大きな役割を果たしたことは常識である。これを否定しようとする試みはヤバい。
メディアの力を過小評価したい著者の論拠はエリー調査とディケーター調査である。これには以下の問題がある。
エリー調査
メディアの論調は投票先を決定しないというが、アメリカのような二大政党制が根付いている国では投票先の選好は半ば確立している。何しろ選択肢が2つしかない。アメリカという特殊な国の、選挙という特殊な意思決定を以てメディアの力全般を語るのは研究者としての見識を欠いている。
ディケーター調査
この調査で「マスメディア」とされているのは広告である。フェスティンガー実験も公共広告であった。どこの世界にCMに心動かされて直接購買行動に走る人がいるのか。本書で問題にしているのは広告ではなく報道である。全く別の議論だ。逆説的にそれでも世界中でメディアを使った広告が溢れているのは、潜在的に広告には「力」があるからである。これも否定しようのない事実だ。
更にメディア偏向について、最もターゲットの多い層にアプローチするのに偏向報道は損だと言うが、どのメディアも中立だと他社との差別化ができないから、ある程度「色」をつけて記事を書くことは理に適っている。顧客のターゲティングと商品のポジショニングはマーケティングの基本のキである。人数が多い層に向けて商売するのが得、という発想はあまりにも幼稚だ。許認可業種である放送は別にして、新聞各社に特有の色があることは常識なのに、何故これを否定しようとするのか全く理解できない。
最後にインターネットに言及しているが、インターネットはマスメディアではない。1対多の一方向伝達であるマスメディアと対照的に、多対多の双方向通信がその本質である。だから同列に比較論考すること自体がナンセンスである。見た目は似ているが機能も役割も異なるものだ。
現在インターネットやSNSの普及でマスコミを信じない人が増加していると言うが、これはクリティカルシンキングをする人が増えていることを意味し、むしろ望ましい状況である。
結局マスコミに対する人々の本質的な不満は以下の3点であるように思われる。
1)不必要に不安を煽る。
2)物事を過度に単純化するために世論形成を極端化する。
3)権威を傘に着た啓蒙主義(上から目線)と、その裏面のご都合主義
そして重要なことはこれらがマスコミ各社の利益目当てであることが見え透いてしまっていることである。
放送局も新聞社も出版社も営利企業であるから、センセーショナルで分かりやすい記事をたくさん売りたい、スポンサーに不利な報道はしたくないという動機は当然である。そうであれば「不偏不党」「第4の権力」「社会の木鐸」などのタテマエを脇に置き、社説で偉そうなご高説を垂れ流す前に「そうは言ってもイチ民間企業でございます」と素直に認めることから始めてはどうかと思う。
インターネットがあればマスメディアは不要かと言われればNOだ。情報の一元的な収集、選別、事実関係の検証、重要度の提示、などマスメディアでしかできないことがある。だからこそ健全なあり方を期待したいのだが、残念ながら期待に応えているとは言い難い。続きを読む投稿日:2023.09.14
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