愛国の起源 ――パトリオティズムはなぜ保守思想となったのか
将基面貴巳(著者)
/ちくま新書
作品情報
「愛国」思想は現在、右派や保守の政治的立場と結びつけて語られる。しかしその起源は、かつて古代ローマの哲学者キケロが提唱したパトリオティズムにあった。フランス革命では反体制側が奉じたこの思想は、いかにして伝統を重んじ国を愛する現在の形となったのか。西洋思想史における紆余曲折の議論を振り返り、尊王思想と結びついた明治日本の愛国受容を分析、さらに現代のグローバルな視点からパトリオティズムの新しい可能性を模索する。
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「愛国」のイメージ
今なぜ「愛国」なのか
「愛国」=パトリオティズムの思想史とは
歴史の中で概念は変化する
「パトリオティズム」と「愛国」
本書の構成
第1章 愛国の歴史──古代ローマからフランス革命…まで
1 古代・中世初期のパトリオティズム
「愛国」の由来は「パトリオティズム」
キケロによる二つのパトリオティズム
アウグスティヌスによるキリスト教的パトリオティズム
2 中世・近代初期のパトリオティズム
「祖国のために死ぬこと」
選ばれた民
共通善の敵とは誰か
外国人に開かれた共和主義的パトリオティズム
ミルトンと「どこであれ自分がよく生きられるところ」
共通善か国王か
王党派パトリオティズムの特徴
教皇と国王の二者択一
3 一八世紀のパトリオティズム
伸縮自在な祖国愛
フランス革命と「国民」の誕生
ナショナリズム的パトリオティズムの誕生
国民意識形成のプロジェクト
普遍と個別という矛盾する要素
反体制的だったナショナリズム
第2章 愛国とは自国第一主義なのか
1 「普遍的慈愛」とは何か
愛国はなぜ「保守」の思想になったのか
自国第一主義の萌芽
フランス革命をめぐる大論争
プライスとバークの先駆者
ハチスンのコスモポリタンなパトリオティズム論
距離が近ければ共感しやすい
人類愛と祖国愛
2 プライス・バーク論争
プライスの「祖国愛について」
ナショナリズムと外国人嫌いの台頭
「虚偽でいかがわしい」パトリオティズム
「保守主義の父」バークのフランス革命批判
パトリオティズムを換骨奪胎したバーク
第3章 愛すべき祖国とは何か
1 「パトリア」概念の変遷
ヴォルテールとルソーの「パトリ」
「パトリア」と英語訳「カントリー」の違い
自国の風景を愛する祖国愛
ロマン主義と自然的祖国の肥大化
2 保守的パトリオティズムの誕生
家族愛や近所付き合いの先にある「国」
「伝統」としての「国」
保守的パトリオティズムの誕生
スミスの共感理論によるキケロ的パトリア概念の解体
理想の追求か現状肯定か
家族愛を基本とする祖国愛
プライス・バーク論争に見る政治的な歴史解釈の対立
近代ナショナリズムと保守的パトリオティズムの接点
3 保守的パトリオティズムの台頭と共和主義的パトリオティズムの退潮
バーク以後の論争
自国の伝統を愛する「真の愛国者」の登場
一九世紀イギリス知識人とパトリオティズム
第4章 愛国はなぜ好戦的なのか
1 フランス革命と軍事的パトリオティズム
市民に広まる〝愛国〟
「貴族」は本当に「高貴」なのか
「貴族」をめぐる論争
「貴族である」ことと「貴族らしくする」こと
愛国心とは無縁のフランス軍隊
フランス革命と軍隊の近代化
ナショナリズム的な軍事的パトリオティズム
2 軍事的パトリオティズムの「熱狂」
フランス革命の「熱狂」
「熱狂」するパトリオティズムの正体とは
新しい軍事的パトリオティズムの衝撃
好戦と反戦の「空白」
第5章 近代日本の「愛国」受容
1 「パトリオティズム」から「愛国」へ
見慣れない日本語だった「愛国」
国のために戦う「報国」
近代スポーツと軍事の結びつき
福沢諭吉が説いた「平時のパトリオティズム」
思慮か本能か
戦争と「報国心」
福沢諭吉にとってのパトリア
キリスト教と博愛主義
2 明治日本の保守的パトリオティズム受容
尊王愛国
欧米保守思想の輸入
金子堅太郎によるバーク愛国論
明治日本の愛国思想
第6章 「愛国」とパトリオティズムの未来
1 私たちにとってパトリアとは何か
現代社会とパトリオティズム
バークの呪縛
「バークを殺す」
私たちにとってパトリアとは何か
憲法パトリオティズム
環境パトリオティズム
国家を超えるパトリア
2 現代日本の「愛国」とパトリオティズム
バーク路線の「愛国」的道徳教育
現代日本の「愛国」の問題点
「反日だ」という罵声にどう答えるべきか
私は「パトリオット」
それでもパトリオティズムは必要なのか
「である」から「する」へ
あとがき続きを読む投稿日:2022.07.03
キケロに始まりバークによって変化した「愛国」概念の変化と、福沢諭吉を中心にそれを受容した近代日本までを説明されており、思想史的な読み応えがある。
興味深いのは日本受容の部分で、「報国」と「愛国」の比較…、福沢のナショナリズム的パトリオティムズは革命期フランスのそれとは異なっていると解釈し、そして、これは尊王と結びついた井上哲次郎や金子堅太郎らの所謂保守系の国権的愛国とも異なるという指摘である。ただし、ここで抜け落ちているのが、英系の福沢に対する仏系の板垣退助らによる民権的愛国で、最終章で「バークを殺す」と唱えた植木枝盛には言及しているものの、彼らが「愛国公党」を設立したという背景・経緯をどのように考えるのかという問題である。この辺については今後自分なりに考察していきたい。
最終章で著者は、歴史学者としては一歩踏み込んで「脱バーク」を提唱し、環境パトリオティムズの優位性を唱えるが、昨今の国際情勢を鑑みるとやはり地政学的な視点が欠如していると言わざるをえない。逆に言えば、海外在住で国際結婚している「コスモポリタン」ならではの視点であるのかもしれないが。続きを読む投稿日:2022.08.11
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