ジョン・ロールズ 社会正義の探究者
齋藤純一(著)
,田中将人(著)
/中公新書
作品情報
米国の政治哲学者ジョン・ロールズ(1921~2002)。1971年刊行の『正義論』において、独創的な概念を用いて構築した「公正な社会」の構想は、リベラリズムの理論的支柱となった。「平等な自由」を重視する思想はいかに形成されたか。太平洋戦線における従軍体験、広島への原爆投下の記憶がロールズに与えた影響とは。最新資料から81年の生涯を捉え直し、思想の全体像を解読。その課題や今日的意義にも迫る。
もっとみる
商品情報
- シリーズ
- ジョン・ロールズ 社会正義の探究者
- 出版社
- 中央公論新社
- 掲載誌・レーベル
- 中公新書
- 書籍発売日
- 2021.12.25
- Reader Store発売日
- 2022.02.21
- ファイルサイズ
- 3.8MB
- ページ数
- 264ページ
以下の製品には非対応です
この作品のレビュー
平均 3.8 (11件のレビュー)
-
『正義論』で有名なロールズの新書での解説本。著者は、「ロールズの議論のもつアクチュアルな魅力をあらためて伝えたい」という思いから書いたと言う。もし、ロールズの議論が今必要とすれば、それは格差社会におい…て公平とは何か、そして経済成長の最大化は目指すべき目標であるのかといった社会全体の道理に関する問題が立ち現れているからだろう。本書でも取り上げられている通り、批判も多かったロールズだが、改めてその理論を確認することで見えてくるものがあるのかもしれない。
ロールズの正義論でもっとも有名なものと言えば、「無知のヴェール」の議論だろう。自分の立場を知らない無知のヴェールをかぶった人たちが社会契約を結ぶとするとどのようなルールとなるか。ここから、もっとも不利な立場になったとしても引き受けることができるようなルールこそがあるべき公正なルールであるとする「マキシミン・ルール」につながる。『正義論』で掲げられた原理は次の通りだ。
○第一原理 「平等な自由の原理」: 各人は、平等な基本的な諸自由からなる十分に適切な枠組みへの同一の侵すことのできない請求権をもっており、しかも、その枠組みは、諸自由からなる全員にとって同一の体系と両立するものである。
○第二原理 「公正な機会平等の原理」と「格差原理」: 社会的・経済的不平等は、次の二つの条件を満たさなければならない。第一に、社会的・経済的不平等は、公正な機会の平等という条件のもとで全員にひらかれた職務と地位にともなうものであるということ。第二に、社会的・経済的不平等は、社会のなかでもっとも不利な立場におかれる成員にとって最大の利益になるということ。
本書の最初にロールズがヴィトゲンシュタインの系譜につながっているということが書かれていて、この辺りの理想理論の考え方はヴィトゲンシュタインに似ていなくもないと感じた。また、『正義論』から『政治的リベラリズム』への「転回」についても同じくヴィトゲンシュタインが『論理哲学論考』から『哲学探究』へと「転回」したのともちろんその内容は違うのだろうが、突き詰めたその先により現実的な問題と解決に移行したというように見える点でも相似性があるようにも思う。
一方で、「道理性は合理性を前提するとともにそれを従属させる」ということが鍵となっているが、本書ではロールズがそのように結論づけたという以上の、そこに至る道筋が必ずしも明確ではないように思われる。それこそが『正義論』を難解な書物だと言わしめているものなのではなかろうかと思う。
また、ロールズが「正義のルールに従い、自律を達成することを通じてのみ、人間はその本性を完全に表現することができる」というきわめてカント的な考えに依拠していたと解説しているのも興味深い。多くの人がデカルトでもなく、またヘーゲルでもなく、カントを取り上げるのはとても示唆的である。カントが論理の上ではもっとも踏み込んでその理論を構築したからだと言えるのかもしれない。
■ 国際社会について
ロールズは、国際的な万民の法について次のように整理したという。
① 各人民は自由かつ独立であり、その自由と独立は、他の人民からも尊重されなければならない[自由と独立の尊重]
② 各人民は条約や協定を遵守しなければならない [条約・協定の遵守]
③ 各人民は平等であり、拘束力をもつ取り決めの当事者となる [対等な地位の承認]
④ 各人民は不干渉の義務を遵守しなければならない [不干渉の義務]
⑤ 各人民は自衛権をもつが、自衛以外の理由のために戦争を開始するいかなる権利ももたない [開戦の正義]
⑥ 各人民は諸々の人権を尊重しなければならない [人権の尊重]
⑦ 各人民は戦争の遂行方法に関して、一定の制限事項を遵守しなければならない [交戦の正義]
⑧ 各人民は、正義にかなったないしはまともな政治・社会体制を営むことができないほどの、不利な条件のもとに暮らすほかの人民に対して、援助の手を差し伸べる義務を負う [援助の義務]
ロールズは、グローバルなリソースの再分配については積極的に推進するものではなかったようだ。国際的な正義の構想として、功利主義的な正義を前提としない。他の社会の福利厚生の向上のために自らの社会を犠牲にすることをよしとするような人民はいないであろうというのがその理由である。ロールズは国際社会においては経済的な不平等を是正するような分配原理は適用されないとする。
一方で、ロールズは脱成長を積極的に肯定しているようだ。人びとは必ずしも社会の経済成長を望んでいるわけではなく、「他者との自由なアソシエーションにおける意義のある仕事」をこそ望むものだと言うとき、デヴィッド・グレーバーの『ブルシット・ジョブ』を連想する。この辺りは、ネオリベ的な成長がすべてを解決するかのような主張が主流になった時代を経て、格差社会やサステナビリティがより問題として先鋭化された現代の議論を先取りしているのかもしれない。
■ 戦争について
ロールズは、「開戦の正義」と「交戦の正義」を次のように定義している。
① 正しい戦争の目標: 諸人民のあいだに成立すべき平和
② 敵国と認定しうる政情: 非民主的で侵略主義的な国家
③ 戦争責任の軽重: 指導者、軍人、民間人の三つの集団で区別がなされる
④ 人権の尊重: 相手国の兵士と民間人、双方の人権をできるかぎり尊重する
⑤ 戦争目標の公示: 自分たちが求める平和がいかなるものなのかを公示する
⑥目的と手段の選択: 右の五つの条件が満たされるかぎりで、目的は手段を正当化しうる
上記の正義に照らした場合、やはりウクライナ戦争はロシアに「正義」はないと言えるのではないか。
ひとつ改めて認識をしたのは、ロールズが戦争が絶対的に避けられなければならないものだという前提に立ってはいないところが、ある意味では意外だけれど、一方では戦争が外交の延長であるというクラウゼビッツの言に従っているとも言える。一方で戦争にも正義のそれがあるというのは一種の危険をはらんでいるようにも思える。この辺りはロールズもきっと深く読み込んでいたであろうカントの『永遠平和について』と比べてみるのも一興かもしれない。
■ 所感
このロールズの入門書は東大生協でとてもよく売れているという。確かに利益を追い求めることで社会の厚生が最大化し、社会構成員の全員が幸福になるという完全な功利主義的な考え方は格差の拡大につながり、必ずしも社会の幸福を最大化しないのではないかという空気が徐々に大勢を占めるようになってきたようにも思う。しかし、多くの東大生がこの本を手に取るのは意外でもあった。と思って、その理由を知るべく少し検索を掛けたところ次のような記事が見つかった。
https://www.mens-ex.jp/archives/1087291
「東大生が「幅広い教養を身につけるため」に読んでいる本BEST20をランキング化!」という2019年の記事だが、何とそのリストの1位が『正義論』だという。
改めて本書は、「ロールズの議論のもつアクチュアルな魅力をあらためて伝えたい」という著者らの思いから書かれたものである。確かに公正に関するロールズが提議した議論は、ポピュリズムの問題しかり、ウクライナ戦争の問題しかり、地球温暖化の問題しかり、ベーシックインカムの問題しかり、現代的課題にも当てはめて考えるフレームワークを提供することができ、いまだ一定の今日的意義は持っているのだと言えるのかもしれない。それこそが、もしかしたら東大生協で『正義論』が売れる理由にもなっているのかもしれない。続きを読む投稿日:2022.10.16
2023.04.17 予想通り、難しかった。一回で、一冊で理解できるような代物ではないので、色々とアプローチしたいと思う。
投稿日:2023.04.17
新刊自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
※新刊自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新号を含め、既刊の号は含まれません。ご契約はページ右の「新刊自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される「増刊号」「特別号」等も、自動購入の対象に含まれますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると新刊自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約・新刊自動購入設定」より、随時解約可能です続巻自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
- ・優待ポイントが2倍になるおトクなキャンペーン実施中!
※続巻自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新巻を含め、既刊の巻は含まれません。ご契約はページ右の「続巻自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される特別号等も自動購入の対象に含まれる場合がありますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると続巻自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約自動購入設定」より、随時解約可能ですReader Store BOOK GIFT とは
ご家族、ご友人などに電子書籍をギフトとしてプレゼントすることができる機能です。
贈りたい本を「プレゼントする」のボタンからご購入頂き、お受け取り用のリンクをメールなどでお知らせするだけでOK!
ぜひお誕生日のお祝いや、おすすめしたい本をプレゼントしてみてください。※ギフトのお受け取り期限はご購入後6ヶ月となります。お受け取りされないまま期限を過ぎた場合、お受け取りや払い戻しはできませんのでご注意ください。
※お受け取りになる方がすでに同じ本をお持ちの場合でも払い戻しはできません。
※ギフトのお受け取りにはサインアップ(無料)が必要です。
※ご自身の本棚の本を贈ることはできません。
※ポイント、クーポンの利用はできません。クーポンコード登録
Reader Storeをご利用のお客様へ
ご利用ありがとうございます!
エラー(エラーコード: )
ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。