人類はできそこないである 失敗の進化史
斎藤成也(著)
/SB新書
作品情報
人類は優れた高等生物かと思いきや、
実際は700万年もの長きにわたる歴史の中で、
他の生物が有している機能を失ったりしながら現在の姿になった側面もある。
日本の人類進化学、ゲノム進化学の権威が教える、
「出来そこない」の人類進化史!
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商品情報
- シリーズ
- 人類はできそこないである 失敗の進化史
- 著者
- 斎藤成也
- ジャンル
- サイエンス・テクノロジー - 生物・バイオテクノロジー
- 出版社
- SBクリエイティブ
- 掲載誌・レーベル
- SB新書
- 書籍発売日
- 2021.12.06
- Reader Store発売日
- 2021.12.06
- ファイルサイズ
- 3.3MB
- ページ数
- 256ページ
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この作品のレビュー
平均 4.3 (3件のレビュー)
-
「中立進化論」という考え方に初めて触れたかもしれない。目から鱗がバラバラ落ちた一冊。
上論は即ち、「突然変異が進化に寄与すると考えられています。突然変異はなんの脈絡もなく起こるため、進化に有利なもの…もあれば不利なものもあります。」(p19)「たまたま運よく生き残って受け継がれた結果」(p20)という論旨であります。
私の中学高校時分より’人類が直立二足歩行をなし得たのは何故か?それは〜’ともっともらしい説を聞いては’そうだな、そうだ’と一生懸命覚えてきたものですが、森を出て草原で暮らし始めたら二足歩行が有利、ってよく考えたら確かに果たして本当にそうなんだろうか?…と、懐疑主義的視点から教科書的一般論ひとつひとつをホロホロになるまで柔く解きほぐしてくれた、人類進化史の入門にぴったりな新書でした。
全部が全部を偶然と片付けてしまうのも何か寂しいなとは思いますが、かたや人類は常に最善の道を歩んできた、全てにおいてドラマティックだとする考え方も確かに違和感を覚えます。
『絶滅の人類史―なぜ「私たち」が生き延びたのか』(9784140885413)にも、人類はトントン拍子に進化してきた訳ではない事が書かれていましたが、また更に新しい視点をもたらしてくれたなぁ、という意味で非常に楽しく読めました。
1刷
2022.10.20続きを読む投稿日:2022.10.20
人類が優れているから生き残った訳ではない。環境に適応できたから生き残った。果たしてそれは本当なのか?
実は「そうでもない」というのが、著者の新説。これは本当に面白い。
著者の論は非常にシンプル。
結局…、人類が今生き残っているのは「単なる偶然」という説なのだ。
面白いのは、「進化」という考え方がそもそも無くて、あくまでも「変化」しているだけ。
進んでいる訳ではない。ただその場所で「変わって」いるだけ。
そして、変わっていく中でも、たまたま生き残れているだけ、という説明なのだ。
これはこれで、一定の説得力がある。
そもそも遺伝子の複製とは、ある一定の割合で「突然変異」が普通に起こるものなのである。
「環境に適応する」という前向きな意思をもって変異している訳では決してない。
変異とは、勝手に起こるものであって、その環境の中で、たまたま不利でなければ、それこそたまたま生き残っていけるという。
それ以上でもそれ以下でもないというのが、著者の論理展開だ。
この考え方は非常に面白い。
この思考を反芻してみると、意外にも納得感がある。
環境に適応するというポジティブな考え方ではなく、「たまたま不利でなかった」という控えめな理由だったというのは、よくよく考えてみるともっともらしく感じてしまう。
人類が最高の生物であり、素晴らしい進化を遂げたから今があるなんて、それこそおこがましいとは思わないか?
本当に、ただ単に「たまたま生き残っただけ」これが一番シンプルで正しいように感じてしまうのは、本書の影響を受けすぎか。
しかしながら、こういう考え方をしたことがなかった。
発想として、非常に面白い。
視点を変えるという意味では非常に有効であったと思う。
我々は進化の過程を考えると、ついつい「優勢だから生き残った」と思い込みから入ってしまう。
確かにこれだけ知能が発達した動物は、生物史上で人間(ホモ・サピエンス)だけであるから「人間こそ最も進化した生物ではないか」と思ってしまっても仕方がない。
しかし本当にそうなのだろうか?
この考え方に異を唱えたのが、「適者生存」の考え方だった。
優勢だから生き残った訳では決してない。
「環境に適応出来たから生き残ったのだ」
我々は確かにこのように教えられてきた。
この考えも、前述とは意味すら異なるが、どうも「優位」という点は払拭出来ていない。
「環境に適応して生き残れたのは、優れていたから」という理屈だ。
恐竜が繁栄していた時代、地球には大きな環境変化が起きた。
その際に、巨大化していた恐竜は、環境変化に対応が出来なくなり、絶滅してしまった。
小動物だった哺乳類は、その中でも厳しい環境を耐え忍んで生き延びたのだ。
今我々人類が栄華を誇っているのは、その時に生き残れた哺乳類のお陰なのだと言える。
彼らこそが、厳しい環境に適応した我々の誇るべき祖先なのだと。
しかし著者は、この定説すらも容赦なく覆してくる。
「人類が今存在しているのは、たまたまである」
そもそも著者は「進化」という考え方を否定している。
存在するのは「変化」のみであって、何かが前に進んでいる訳ではないということ。
あくまでも、生物は突然変異によって、ある一定の割合で勝手に変化をする。
これが環境の中で特別に劣っていなければ、そのまま生き残るというだけのこと。
生き残った生物はやがて子を産み、変異した遺伝子はその子孫に引き継がれていく。
著者の論理展開は、単純にこれだけなのである。
この控えめというか、後ろ向きの姿勢にむしろ共感を抱いてしまった。
これは十分にありえる話だと腹落ちしてしまったからだ。
人間が優れているなんて、何の証拠があってそう思うのだろうか?
人間が環境に適応できたから生き残れたなんて、なぜそう言えるのだろうか?
普通に考えて、今の生物の多様性を考えると、「優れているから生き残っている」とはどう考えても言い難い。
決して優れた能力を持っていなくても、現実的に存在している生物がいるのだ。
その理由を考えると、「たまたま」という偶然性に妙に納得してしまう。
もしも厳しい環境をくぐり抜けて生き残ったのであれば、人間を含めた高次の能力を保有した生物のみが生き残っているはずである。
しかしながら、なぜ今現在でも弱弱しい生物すら生き残っているのか?
これだけ見ても、とても「環境に適応出来たから生き残れた」とは言い難いのではないだろうか。
仮に人間社会のみを見た場合でも、優れている人のみが生殖上有利だとした場合、なぜイケメンや美女だけが生き残っている訳ではないのか?
もし仮に知能が高い人間だけが生き残るのであれば、高知能の遺伝子のみが受け継がれ、低知能の遺伝子は受け継がれずに絶滅するはずではないのか?
今でもある一定の割合で、ブサイクな人や、頭の悪い人や、スタイルの悪い人が生み出され続けている。
このことだけを考えただけでも、結論は見えてくる。
「ブサイクでも、頭が悪くても、スタイルがイマイチでも、生きていけるから存在する」のである。
この考え方が正しいかどうかは別として、個人的には非常に好ましく感じてしまう。
「あなたという存在はそのままでいいのだよ」と優しく言われているようで、決して「優れていなければ、劣っている」という呪縛から解き放ってくれる考え方のような気がするのだ。
「多様性」とは、まさに「その存在を認めること」と本質的にイコールなのではないだろうか。
人間は生まれたときから競争の連続である。
優れていなければ、自分の存在価値がないかのような気持ちを持ってしまう。
受験勉強、就職活動、出世競争。
本当に人生とは、勝たなければ、負けてしまうという戦いの繰り返しである。
しかし、進化(変化)の本質はそうではなかった。
変化した、あるがままの姿を受け入れてくれたのが、自然だったのである。
これだけ考えても、タイトルの「人類とは出来損ないである」は、かなり合点がいく。
人類がアフリカを出発したのは「二足歩行を手に入れたから」というポジティブな理由なのだろうか?
著者の言う通り「追い出されたから」とも言えるのではないだろうか?
最初は手とも言えない前足で何かを掴んでいたのかもしれない。
そんな時に縄張りを追い出され、木々がない平原のサバンナを、荷物を持ちながらさ迷う内に、勝手に二足歩行になっていったのかもしれない。
つまり、人類はいつもたまたまその能力を手に入れただけ。
現在の知能を持っているのも、単に変化を繰り返し、環境にマイナスにならなかっただけ。
本当にこれらの学説の証拠があるのかどうかは分からないが、ある一定の説得力があることは否めない。
こう考えると、人間だって大した生物とは言えないと思えるから、余計にこの説に共感してしまう。
所詮、人間は出来損ないだと思えば、自分のことも愛おしくならないだろうか。
自己肯定感が低い人も、気にする必要はない。
所詮、人間とはその程度なのである。
そう考えると、他人にも優しくなれる。
だからこそ「それでいいのだ」と思えるのだ。
(2023/4/28)続きを読む投稿日:2023.05.26
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