女性ホームレスとして生きる〔増補新装版〕――貧困と排除の社会学
丸山里美(著)
/世界思想社
この作品のレビュー
平均 4.5 (3件のレビュー)
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大好きな岸政彦さんが、本書に寄せた解説でこんなことを言っていた。
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社会学は何をしているのか。質的調査は何をしているのか。私はそれを、ひとことで乱暴に言えば、「一概に言えなくしている」とい…うことだと思う。(p.311)
そしてさらに、もうひとつの目的がある。(中略)社会学の、質的調査のもうひとつの目的とは、「理由を書くこと」である。たくましいでもかわいそうでもなくただ、人びとの行為には、そして人生には「理由がある」のだ。(p.319-320)
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女性ホームレスが安定した住居生活を送れるようにするため、福祉団体や個人が何度手を差し伸べても、いつのまにか野宿生活に戻っていってしまう女性たち。理由を聞いてもどれもみなちぐはぐで、要領を得ない。長年一緒に暮らしていた男性ホームレスを見捨てられないとか、野宿生活の方が他人との触れ合いがあって孤独を感じずに済むとか。女性ホームレスの数が少ないことから夜間などに身の危険があったり、高齢だったり知的障害を抱えていたり、側から見ればどう考えても野宿生活をこのまま続けていく方がリスクが大きいのに、彼女たちは用意されたアパートや施設を抜け出して、元いた公園へ何度も、何度も、舞い戻っていく。
本書の第五章以降に収録された、数名の女性ホームレスたちとの会話の記録を読んで、わたしはやっと、ほんの少しだけ、彼女たちの行動の理由が理解できたような気がした。というより、彼女たちが置かれた状況下なら、きっとそうせざるを得なかったのだろう、と納得させられた。私が生きてきた世界線では、野宿生活なんてありえない。でも、彼女たちが生きてきた世界線では、少なくとも今この瞬間においては、野宿生活が一番理にかなった生活スタイルなのかもしれない、と読者に思わせるだけの説得力があった。
支援っていったいなんだろう。女性ホームレスのために良かれと思って差し伸べた手が実は全然的外れで、彼女たちははなからそんなことは求めていなかったとしたら。
駅や公園にホームレスがたくさんいたら、近隣住民は嫌だと感じるかもしれない。少なくとも私は、自宅の最寄駅や目の前の公園にホームレスが住むようになったら、申し訳ないけれど、嫌だ。どこかに通報したりするかもしれない。でもホームレスって、そもそも住宅街の公園にはいない。新宿とかそういう繁華街。だからそもそも「近隣住民」というのがほとんど存在しないのかも。いやいるか。代々木公園の周りに住んでいる人だっているか。でも、だとしても、近隣住民と同じ人権がホームレスたちにもある。であれば近隣住民の声だけを拾って、ホームレスたちを一掃するという動きもまた違うのかもしれない。でもホームレスは住民税を払わずに公園に「住んで」いるわけだから、そういうところに行政的な問題があるのかもしれない。そもそも公園って何?、、、
NetflixのDark Touristというドキュメンタリー番組で見たんだけど、アメリカには、麻薬常習者が合法的に麻薬をやれる公園というのがあって、そこのテントの中であれば、どんな違法な、どんな強いドラッグでもやっていい、ということになっているらしい。だからあちこちから薬物依存の人たちが言い方は悪いけどゾンビみたいにゾロゾロ集まってきて、医療スタッフが常駐しているテントの中でクスリをやってぐでんぐでんのどろんどろんになっていた。恐ろしい光景ではあった。でも、薬物依存者をゼロにするのは無理だからせめて死人が出ないように、他の人に迷惑をかけないように、そういう手段を取ったというのは斬新すぎて、ああ、アメリカだなあ、と思った。だから何っていう話。でもこれ倣えば、ホームレスも、ホームレスがホームレスのまま、今の状態がいいならそのまま、生活し続けられる公園みたいなのをどっかに作っちゃってもいいのかなあとは思う。棲み分け的な感じで。家に住みたいホームレスは救済したらいい。でもやっぱ野宿生活がいいわっていう人もやっぱり一定数いるみたいだし、じゃあそういう人たちがそのまま生きられる場所を作る、というのも一つの手のような気がした。
そういえば先日、小2の息子が学校の宿題でSDGsの貧困問題について調べていて、ホームレス支援についてまとめた最後に「でも好きでホームレスをやっている人もいると思う」と書いていた。なかなかやるよね。続きを読む投稿日:2021.09.24
女性差別は差別と認識されず社会の中で長年に渡って根付いてきた。
女性というマイノリティグループの中でももっとも弱い立場にある、貧困や障害、病気や高齢などのいくつもの不利な条件を抱える人がどのように生き…る術を奪われてきたか、そしてその上でどのように自分に備わるものを生きるために生かしてきたかが描かれている。
正直言って、読んでいて恐ろしかった。生きるとはなんと恐ろしく、手に負えないものなんだろう。この本はままならない生をせめて理解しようというひとつの抵抗の形だ。続きを読む投稿日:2022.02.17
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