何者かになりたい
熊代亨(著)
/イースト・プレス
作品情報
「自分」に満足できないのは、なぜ?
〈承認欲求〉〈所属欲求〉〈SNS〉〈学校・会社〉〈恋愛・結婚〉〈地方・東京〉〈親子関係〉〈老い〉
アイデンティティに悩める私たちの人生、その傾向と対策。
「何者かになりたい」
多くの人々がこの欲望を抱え、それになれたり、なれなかったりしている。
そして、モラトリアムの長期化に伴い、この問題は高齢化し、社会の様々な面に根を張るようになった。
私たちにつきまとう「何者問題」と、どうすればうまく付き合えるのか。
人と社会を見つめ続ける精神科医が読み解く。
【目次】
はじめに
第1章 承認されると「何者か」になれる?
第2章 つながりが「何者か」にしてくれる?
第3章 アイデンティティと何者問題
第4章 恋愛・結婚と何者問題
第5章 子ども時代の何者問題
第6章 大人になってからの何者問題
補論 何者問題への処方箋
おわりに
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この作品のレビュー
平均 3.5 (28件のレビュー)
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【感想】
2016年、朝井リョウ原作の「何者」が映画化された。
学生時代頑張ったこと、挫折した経験、会社に入って成し遂げたいこと……。就職活動を通して、面接官の好みに合うよう自分をカスタマイズしていく…ことで、本当の自分が分からなくなっていく。幾度となく繰り返される「個性」への質問に対して、5人の大学生たちが自分自身は「何者」であるのかを模索していく映画だ。
本書はそうした「何者かになりたい」という欲求は、つまるところ「アイデンティティが欲しい」ということだと述べている。
ただ、アイデンティティとはなんとも曖昧な概念だ。自分が勤め上げている仕事によって獲得できるのか、趣味を含めた私生活によって獲得できるのか。それとも目に見える成果ではなく、自分自身の「生きざま」がアイデンティティとして反映されるのか。きっと答えは出ないに違いない。
私個人としては、アイデンティティは自分の生涯をかけて形成されるもので、人生のステージごとに相対する人に応じて移ろいゆく、不定形なものだと思っている。その意味では、確固たるアイデンティティなぞは存在せず、人によって表情を変えるペルソナじみたステータスが備わっているだけだ。
ここで、「いやいや、一人きりでいるときの自分が見せる態度・性格が真の『アイデンティティ』なのでは?」という疑問が浮かぶかもしれない。
しかし、他人から距離を置いているときの自分でさえ、その人格は誰かしらから影響を受けている。忙しい部署に異動して性格が攻撃的になったり、子どもができて性格が穏やかになったりするように、仕事仲間・パートナー・友人など、さまざまな人と接するうちに、自らの核は移り変わっていく。その不安定な揺れの集合体が「私」を作る。
他人から言われる「君は〇〇な人だ」と、自分が認識している「わたしは〇〇だ」は、往々にしてズレているが、それは相手が私のアイデンティティの一部分しか認識していないからだろう。
だから、「私は何者か」という自問には、「定まっていません」だとか、「定まっていませんが、定まっていないのが私です」とでも自答すればいいんじゃないだろうか。循環論法のようで答えになっていない気もするが、そもそも最初から答えは出ない。ならば、そんな回答でいいのだと思う。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【まとめ】
1 本書の目的
どうして私たちは自分についてこんなに考えてしまうのか?どうして私たちは「何者かになりたい」と願い、「何者にもなれない」と悩むのか?
そうした「何者問題」についての解決策を考える。
2 承認されると何者かになれる?
一体どこまでアチーブメントすれば(どんな肩書を手に入れれば)「自分は何者かになった」という実感が得られるのか?
東大生、医者という華やかな肩書の中にいても、その集団の中で自分を他人と見比べれば、自分が無力な、何者でもない人間と思えてくるのは当たり前のことだ。
SNSのフォロワーやYouTubeのチャンネル登録数など、世間から人気者として認められることで「何者かになった」という実感を得ようとする人がいる。しかし、チヤホヤされているときは自分が何者かを忘れていられるものだが、それは客観的な何者かの足しにはなっても、自分自身が納得できる「主観的な何者か」の足しになってくれるとは限らない。
3 つながりが「何者か」にしてくれる?
何人かで集まって話題や飲食を共有しているときや、自分よりも「集まってる自分たち」や「おれら・わたしら」が意識として強まっている瞬間、わたしたちは「何者かになりたい」という悩みから遠ざかる。
この「集まり」による集団帰属意識は、SNSが発達した今、どこでも手軽にできる。
それだけに、「自分がどこでどうやって『何者かになりたい』という気持ちと折り合いをつけていくのか」、または「その気持ちをどう活かしていくのか」が個人に問われている。あなたが「何者かである」と実感できる手応えを本当に与えてくれる人や対象をどこまで見極められるのか、そしてそれに望ましい集団を見つけたとき、ちゃんとそれを掴んでいられるのか。
4 アイデンティティ
「何者かになりたい」と、「アイデンティティを獲得したい」はほとんどイコールである。
ただし、アイデンティティを獲得する難易度は人によって違う。例えば人気者の学生と不登校の学生では、アイデンティティの獲得のため着手できることに大きな差があるように。
①自分自身の構成要素が乏しい人
まず、今の自分でも手が届くものを大切にする。
その道中では、何者かになりたいと願っている人をターゲットとしてお金を巻き上げようとする人に注意する。
②構成要素が十分にあり、積極的に「何かを掴みたい」と思っている人
最初からなりたい自分を狭く想定するより、なりたい自分や目指したい自分、入りたいコミュニティや手に入れたい趣味や技能などを手広く構える。
「アイデンティティを確立した」というのはどのように判断するか?それは、あなたが好きでしょうがないものが定まっていくこと、あなたがどうしても手放したくない人や居場所が増えていくことが、おおむねアイデンティティの確立であり、あなたが「何者か」になっていくことかもしれない。
5 恋愛・結婚
何者かになりたいという願いの最重要課題として、パートナーシップを重視する人は多い。しかし、自分自身のアイデンティティをパートナー1人に頼れば頼るほど、そのパートナーとの恋愛関係や夫婦関係は制御が難しくなり、あなたのアイデンティティはパートナーの顔色や態度に大きく左右されるものになる。
恋愛を有意味なものとし、パートナーをパートナーたらしめているのは、交換不可能性、「相手を失いたくない」という気持ちや思い入れだ。
6 大人になってからの何者問題
仕事がだいたい安定してパートナーや家庭を持っている人でさえ、意外に「何者かになりたい」という思いがくすぶることはある。
思春期に比べると、中年期は人生の残り時間の短さと過ぎ去ってしまった時間の大きさを意識せずにいられない時期だ。健康が少しずつ損なわれ、社会的な立場や役割も変化していく中で、「自分が何かに挑戦できるチャンスがあと何回ぐらいあるのか、そもそもこれが最後のチャンスではないか」と意識させられる場面がたくさんある。
中年期はもう、自分自身の構成要素を探し求める時期というより、すでに何者かになった、なってしまったあとの時期。それだけに、せっかく手に入れ、十分に馴染んだアイデンティティの構成要素を失ってしまったときの再出発はなかなか大変だ。
何者にもなれないという悩みは、若い頃にも歳を重ねたころにも襲いかかってくる。しかし、願いや悩みがあるのも悪いことばかりではない。それらのおかげで大成した人、みんなと一緒にいられる人、社会についていける人もまた多いはずだ。「願ったとおりの何者か」にはなれなくても、「そうでない何者か」になったなら案外よかったと思える人は多い。「何者か」にはきっとなれるし、ならずにはいられないのだ。続きを読む投稿日:2021.07.18
自分自身を構成する要素を増やすと安定する。
歳をとると、環境や状況が変わることで構成要素がなくなったりするのでいくつかあると安心。
なるほど。
自分が思っていたこととは違う視点があり、理解が進んだこと…もあったので、再読し理解を深めようと思う。続きを読む投稿日:2024.05.08
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