BAR追分
伊吹有喜(著者)
/ハルキ文庫
作品情報
新宿三丁目の交差点近く――かつて新宿追分と呼ばれた街の「ねこみち横丁」の奥に、その店はある。そこは、道が左右に分かれる、まさに追分だ。BAR追分。昼は「バール追分」でコーヒーやカレーなどの定食を、夜は「バー追分」で本格的なカクテル、ハンバーグサンドなど魅力的なおつまみを供する。人生の分岐点で、人々が立ち止まる場所。昼は笑顔がかわいらしい女店主が、夜は白髪のバーテンダーがもてなす新店、二つの名前と顔でいよいよオープン!
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商品情報
- シリーズ
- BAR追分
- 著者
- 伊吹有喜
- 出版社
- 角川春樹事務所
- 掲載誌・レーベル
- ハルキ文庫
- 書籍発売日
- 2015.07.18
- Reader Store発売日
- 2022.09.01
- ファイルサイズ
- 2.2MB
- ページ数
- 213ページ
- シリーズ情報
- 既刊3巻
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この作品のレビュー
平均 3.8 (146件のレビュー)
-
あなたは、人生の中で右と左にその先が分かれる分岐点に行きあたった経験がありますか?
進学先に悩み、就職先に悩み、そしてありえないと思うような人事異動の発令に思い悩む。生きるとは悩むことだ、と言ってい…いくらいに私たちには悩み事が降りかかってきます。そんな中では、二者択一を迫られることも多いと思います。A社に就職するか、B社にするかという選択で恐らくその先の人生は全く別物になることでしょう。それは、その先に出会う人を選ぶことにも繋がるからです。今の世の中、かつてのこの国とは違い必ずしも望まぬ人事異動に付き従うという時代でもなくなりました。転職という道を選ぶ方も増えてきています。選択肢というものがあり、また、ネット社会の隆盛により、それらの選択肢を選んだ先に見える世界も以前に比べれば見えやすくもなりました。しかし、人はそんな場面に行きあたると、思った以上に動けなくなるものです。『右も左も決められないのは自分も同じだ』と決めなければならないのに決められないもどかしさを感じる瞬間。焦れば焦るほどにどんどん見えなくなっていく分岐点の先に立つ自身の姿。そんな時に大切なことは何でしょうか?
『将来どころか、何を楽しみにして、明日から生きていけばいいのかわからない。でもとりあえず、カレーはうまい…カレーを食べたら、少しだけ幸せな気持ちになってきた』。
そう、人生の選択という場面が大切であれば大切であるほどに、その場面にあっては束の間であっても幸せな瞬間に身を置くことは大切です。それは、人の心を落ち着かせ、冷静な判断力をもたらすからです。
『夢を追うのか、あきらめるのか』。
その答えを出すにはどうしたらいいでしょうか?焦らず、ゆっくりと、落ち着く、そんな風に気持ちを安らかにしてくれる美味しい料理とお酒の数々。
この作品は、そんな分岐点の先に進む”きっかけ”を掴む瞬間を見る物語。美味しく食す笑顔のその先に、次の人生へと踏み出そうと前を向く、そんな瞬間を垣間見る物語です。
『羽田空港で飛行機の搭乗時刻を待ちながら』窓の外を眺めるのは相沢武雄。『発達した低気圧の影響で』発着が遅れている今夜。『いよいよ、この日が来た。あと少しの時間でこの街を離れる。不安はあるけれど、迷いはもうない』と思う相沢はそう思えるきっかけとなった『新宿三丁目の交差点付近、古くは新宿追分と呼ばれた街の細い道に入って曲がった先』にある店を訪れた時のことを思い出します。『帰りたくない。帰ったところで家には誰もいない』と、『雨に打たれて』歩き続けたあの夜。四国に本社がある会社に勤め、『東京に単身赴任をして今年で六年目』という相沢は『中国の奥地にある工場勤務』を上司から打診されました。『帰国するときは五十歳。四十代のすべてを家族と離れて暮らす』ことを戸惑う相沢。『海外勤務を拒否』することは、淘汰されることを意味するという現実。そんな時、『足元に黒い猫が飛び出して』、それにつられて『ねこみち横丁』とネオンサインの光る通りへと足を踏み入れた相沢。『昭和の飲み屋街のようだ』と思う相沢の前に『黒っぽい重厚な木の扉が現れ』ました。『横丁はそこで行き止まり』という場にあるそのお店。『真鍮の看板に書かれた文字』は『BAR追分』。『どうやらバーのようだ』と思う相沢の前に『青白い顔をした青年と、ごま塩頭の年配の男が店の脇から現れ』ます。『降り続くなあ』と言うごま塩頭の男は、『お客さん、ずぶ濡れじゃねえか。早く入って、あったまりなよ』と相沢に勧めます。『どうぞ、奥へ』と言う女に、やむなく『バーに足を踏み入れた』相沢は『大丈夫だろうか。高くないだろうか』と不安がります。しかし『バーテンダーにすすめられた席に座』った相沢は『スーツを脱いだら気が楽になってきた』と落ち着きます。『いっそ、辞めてしまおうか。やめようか、スーツを着る毎日を』と再び思いを巡らす相沢は『会社を辞めたら単身赴任の生活も終わる。家族の元へ帰りたい。でも…会社を辞めて帰ったところで、地元に職はあるのだろうか』と現実を考えます。『注文を聞かれて、ハイボールを頼む』相沢の横で『BAR追分という名前の由来』が話題になりました。『りんご追分って歌、たまにお祖母ちゃんが歌ってたけど、歌のことですか?』という質問に『そうだよ』とうなずく ごま塩は、『新宿追分。追分ってのは、道が二手に分かれてる場所をいうのさ』と説明します。『荷物を積んできた牛馬が、ここで左右に「追いたてられて、分かれて」いった』というその由来を聞き『右も左も決められないのは自分も同じだ』と考える相沢。『会社を辞めるか、辞めないか。それはすなわち海外へ行くか、家族の元に帰るかだ』と思う相沢。そして『目が覚めたら、見たこともない天井が目に入ってきた』と店の奥の部屋に寝かしつけられていた相沢。そんな時、カウンターから出てきたモモという店員に声をかけられた相沢は勧めに従って朝食を食べます。『お客様は関西の人?』、『いや、四国。でも大学は大阪』と返す相沢は『言葉に出したら、里心がついてきた』のを感じます。『帰ろうか、東から西に』と思う相沢。そして、店を出るとすっかり晴れ上がった空。そんな空を見上げながら『道が右と左に分かれる場。きっと今が人生の分岐点』と考え『どちらに行こうと、追われるのではなく、自分の意思で選びたい』と歩き出します。『転職先や収入について一人で思いつめず、一度、家族と話をしてみよう』と思いたった相沢はその足で四国へと帰り妻と息子の夢を聞きました。そして今、冒頭の場面の通り、羽田空港で搭乗の時を待つ相沢は『ゆっくりと目を開け』『ソファから身を起こ』し、搭乗口へと向かいます。そんな、人生の『道が右と左に分かれる場』に、人が前を向くための”きっかけ”を与えていく『BAR追分』を舞台にした物語が始まりました。
『新宿伊勢丹近くの路地に入って、道を曲がると「ねこみち横丁」と呼ばれる小さな通りがある』という横丁の行き止まりにある『BAR追分』。そんなお店を舞台に四つの物語が連作短編のように構成されたこの作品。続編も登場している伊吹有喜さんの人気シリーズです。そんなこの作品の舞台となるのが『BAR追分』です。『新宿伊勢丹近く』という土地柄の一方で『まるで昭和の飲み屋街』という『ねこみち横丁』は『道が複雑すぎて、知っている人は少ない』、『たどりつける人はもっと少ない』というなんとも秘密めいた横丁の『行き止まり』にあります。『昼間はバールで、夜はバー』と昼夜で違う顔を見せるそのお店はまさに二つの顔を持っています。そんなお店では、訪れる人を楽しませるお酒や料理の数々がとても魅力的に描かれていきます。中でも『カレーライス』にはたまらないものがありました。自販機の缶の補充をする『ルートマン』として働く江口隆が主人公となる第三話。『自販機を置いている蕎麦屋の換気扇から』流れ出したカレーの匂いに大好きなカレーを思い出す江口。『金曜の夜はその週を乗り切った褒美として、ビーフカレーに卵かソーセージをトッピング』するという江口。そんな江口が路地の奥で『牛スジカレー 温玉のせ』と黒板に書かれた『BAR追分』に入ります。そんな江口の前に『半円の黒いお盆に緑の深皿とスプーンと箸が載った』定食が運ばれてきました。『皿には白いご飯とカレーが半分ずつ、たっぷりと盛られ』、『小鉢には温玉が、半月型の鉢には付け合わせのキャベツとキュウリ、ミョウガの塩もみ』という光景を見て『あの、醤油もらえますか?』と言う江口。『温玉に少しだけ醤油をたらし』、『白いご飯に軽くくぼみをつくって、そこに温玉をのせ』る江口は『スプーンでそっと白身を突き崩し、とろりとした黄味をご飯に広げ』小さな卵かけご飯としていただきます。『食べたら顔がやわらぎ、笑みがこぼれた』という食の風景。『今度はカレールーをひとさじすくって、卵がかかったご飯にかけてみる』江口。『カレー、黄味、白飯の三層になった』そのカレーを頬をゆるめながら食す江口は『一口分の超豪華・卵かけカレーご飯だ』と至福の時を過ごします。『いい店だなあ…』と思う江口の食の風景が描かれるこのシーンは、最後に『実はこの店、白いご飯もかなりうまい』と締め括られます。もうこの後、カレーライスを食べるしかない!しかも温玉のせ!と、食欲をそそられまくる見事な食のシーンがたまりません。そして、他にも『生姜焼き』や『ハンバーグサンド』など、誰もが思い浮かべることのできる極めて庶民的な内容で食のシーンが繰り広げられます。イメージがしやすい分、その丁寧な描写が効果的に効いてくるこの食のシーン。美味しそうな食べ物とそれを食す人の姿が目の前にリアルに浮かび上がるような伊吹さんの食の描写にすっかり魅せられました。
そんな美味しそうな料理とお酒を提供する『BAR追分』。美味しいものを食べたり、飲んだりすると、人には笑顔が生まれます。思えば家族や友達とケンカをするような場面は、大抵お腹が空いていることが多いようにも思います。人が生き物である以上、お腹が空いているという状態は気持ちも落ち着かないものです。そしてそんなお腹を満たすという行為においても、それが日常であればあるほどに、その内容を充実させたいと思うものです。美味しいものを食べたい!これは万人の基本的な欲求であり、これを否定する人などいないでしょう。だからこそ、そんな欲求が満たされた時、人は落ち着きを取り戻します。何かに思い悩んでいる時、そのことばかりを考えていても答えは見つかりません。答えは、ふとした瞬間に閃きのように人の心の中に浮かび上がってくるものだと思います。それが”きっかけ”です。人は”きっかけ”を大切にする生き物です。”きっかけ”がなければ何も始まりませんし、どんなに準備ができていても前に進むことだってできません。そんな”きっかけ”を食の場に求めるのがこの作品。同じように食の場に”きっかけ”を求める作品としては、古内一絵さん「マカン・マラン」、近藤史恵さん「タルト・タタンの夢」など多数あります。いずれもシリーズ化されるほどに人気の作品です。そんな中でこの伊吹さんの作品は、店名である『BAR追分』の『追分』という言葉にこだわりをみせていきます。『荷物を積んできた牛馬が、ここで左右に「追いたてられて、分かれて」いったから』という店名の由来にある『分岐点』に焦点が当たります。上記した相沢は、まさしく『きっと今が人生の分岐点』という立場に置かれていました。もちろんそんな『分岐点』に出会うのは相沢に限ったことではありません。人は誰だって同じような選択を迫られます。『右も左も決められないのは自分も同じだ』というように迷いの中で何も見えなくなってしまうという経験をしたことのない人などいないのではないでしょうか?この物語では、そんな相沢同様に人生をどうしていくか、そんな『分岐点』に立つ人物の姿が描かれていきます。そして彼らは『BAR追分』で食す中で落ち着きを取り戻し、ふっと答えを得ていきます。『BAR追分』というお店自体は答えを教えてくれるものではありません。『BAR追分』は”きっかけ”を与えてくれる場です。人は落ち着くことさえできれば、その心の中には、実は答えを持っているものです。そんな人々にいっ時の安らぎを与えることで、結果的に最後の一押しをしてくれる、そんな場が『BAR追分』なんだと思いました。
『何かを得たら、何かを失う。しかしそこからまた新しい何かを得られるかもしれない。その繰り返し』という私たちの人生。社会の現実はシビアです。慌ただしく時は流れ、社会がグローバル化の波に飲まれてからというもの、その社会の中で生きる私たちはなかなかに立ち止まることも許されない日々を生きています。しかし、そんな風に心が張り詰めた状態にあっては、逆に色んなことが見えなくなっていきます。そんな日常の中に、ふっと心を落ち着ける場を提供してくれるお店が『BAR追分』でした。『新宿伊勢丹近くの路地』の奥にあるというそのお店。それは、慌ただしい日常に背中合わせに持つ心の安らぎ、慌ただしいからこそ持つべき心の安らぎを象徴する場所でもありました。
『昼はバールで、夜はバー』、忙しい日常だからこそ訪れてみたくなる『BAR追分』と、そこに集う人々が生命力を取り戻すような様が描かれたこの作品。伊吹さんらしく、とても優しく丁寧に描かれる物語の中に美味しそうな食の描写がたまらない魅力を醸し出す、そんな作品でした。続きを読む投稿日:2021.07.14
なんとも惹かれる場所、東京大都会の路地裏に美味しいご飯とお酒を出してくれるお店、昼間はバール、夜は本格的なバー追分。
そして個性的なねこみち横丁の面々。
追分とは分かれ道。
人生に迷い分かれ道に立った…お客様が美味しそうな匂いや、猫に案内されて訪れるお店。
心温まるお話だった。続きを読む投稿日:2024.03.25
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