この作品のレビュー
平均 4.7 (37件のレビュー)
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【読もうと思った理由】
飲茶氏の哲学入門書は、すでに2冊読了済みだ。史上最強の哲学入門にこう書いてある。西洋哲学は、時系列に沿って読んでいかないと理解しにくいと。なので、ギリシア、アテネ時代からプラト…ン、ソクラテスなどを読んでいたが、時系列に沿って読まなくても良いと、言ってくれる哲学YouTuberがいた。それが、ネオ高等遊民(哲学マスター)氏だ。ギリシア哲学の修士号(マスター)を持っている人なので、ある程度は哲学を勉強されているので信頼できるかなと。その方が「時系列なんて関係なく、哲学書なんて興味ある本からなんでも読んでいけばいいんだよ」と。なんともありがたい言葉だ。
誰から読んでもいいよと言われ、最優先に読みたい哲学者は?と聞かれると悩む。興味ある哲学者がいっぱいいるのだ。いま興味があるのは、アリストテレス、フーコー、ヘーゲル、カント、ハイデカー、ソシュール、サルトル、そして現在哲学界に最重要人物として君臨するレヴィ=ストロース。いきなりレヴィ=ストロースから挑んでも良いのだが、玉砕したら哲学が嫌いになってしまうかもしれないし、それは一番避けたいところ。なるべくなら理解しやすい人からが良いなぁと。色々考えた結果ここは有名どころで、ベタではあるがニーチェにしようと。多分哲学にまったく興味がない人でも、西洋哲学者として日本で一番知名度がある人じゃないかなと。「神は死んだ」「奴隷道徳」「超人思想」などなど。言葉のインパクトでいうと、ダントツで興味をそそられる。
【ニーチェってどんな人?】
[1844-1900]
プロイセン(現ドイツ)ザクセン州に生れる。ボン大学、ライプチヒ大学で古典文献学を学び、スイス・バーゼル大学の員外教授となる。著書『悲劇の誕生』(1872)『ツァラトストラかく語りき』(1883-1885)『善悪の彼岸』(1886)などでキリスト教道徳を攻撃、自己克服の象徴「超人」を理想とする哲学を展開した。晩年は精神錯乱に陥り、ワイマールで死去(55歳)。
【本書の構成】
構成としては、著者である飲茶氏と文庫本の表紙を飾っている女性が対話形式で話をすすめる形。10年ほど前に刊行された大ベストセラーの「嫌われる勇気」と似たような構成だ。
【ネタバレに対する個人的な考え方】
ネタバレに対する考え方ってすごく繊細で難しいと思うし、100人いれば100通りの考え方があると思う。それを重々承知の上で、僕の考え方は以下だ。
小説に関しては、個人的に好きな書評家の北上次郎氏(今年お亡くなりになられた)の考え方に準じていこうと思う。文庫本の裏表紙にある、あらすじと本の帯に書いてある以外の内容に関しては、可能であれば触れないようにという考え方だ。もちろん作品によっては触れないと感想を書けないものもあるので、ケースバイケースであることは言わずもがなということで。
次にエッセイだが、これまた難しい。エッセイはかなり幅広い。小説に近しいエッセイもあれば、日記のようなエッセイもある。なのでこれはケースバイケースとしか言いようがない。
それ以外の僕がよく読む書籍は、歴史書・哲学書・思想書であるが、この3種類の書籍に関しては、あくまでも基本的にと前置きさせてもらって、ネタバレしても問題ないと考えている。理由は史実に基づいて書いた歴史書(時代小説除く)は周知の事実であるし、思想書・哲学書に関しては、その著者の考え方の解答を先に分かったとしてもあまり意味がないというか、その考え方に至るプロセスを自分で考える(解釈する)ことがもっとも重要だと思っているからだ。
直近で感想を書いた「口訳 古事記」も古事記に基づいた歴史書のため、ネタバレありで書こうか結構悩んだ。ただネタバレに関する自分の考え方を事前に周知する前に書くのは、アンフェアな気がしたので、内容を書くのは控えた。
今回は入門書とはいえ哲学書なので、ネタバレを気にせずこの後は書いていくので、書籍を読む前に書籍の内容を知りたくないという方は、これ以降は読まないようにご注意下さいませ。
【感想】
飲茶氏という作家は、哲学の入門書を書かせたら右に出るものはいないなと改めて思った。こういう難解な書籍の入門書の意義って、たとえば、興味はそこまで無いけど必要があってその本を読まざるを得ない状況の人とか、あるいは過去読んだけど途中で断念した人などを、もう一度その本にチャレンジさせることだと思う。そういう意味ではこの本含めて3冊とも、「その本を読みたい!」という気に嫌がうえでもさせてしまう。この著者の書く本は、哲学初心者でも理解できるように、凄く丁寧で分かりやすく書かれていて、また著者の哲学が本当に好きなんだという熱意が溢れており、それをひしひしと肌感覚で感じられるのだ。だから最も人気がないであろう哲学というジャンルの本なのに、以前読んだ2冊が異例のスマッシュヒットした理由もそこにあるのだろう。
【そもそも哲学を学ぶ意味って?】
哲学を学ぶと、まず、いま自分が信じている常識が打ち砕かれ絶望する。でもその次に、だからこそ常識にとらわれず自分の頭で考えて、積極的に前向きに生きていこう、そう思えるようになる。特にニーチェの哲学を学ぶと、そういう前向きな生き方が身につくし、そういう効果があるからこそ、ニーチェは歴史に埋もれずに現代でも受け継がれている。
(自分の考え)
ここすごい重要なポイントだと思っていて、哲学を学んでも「生きてる意味」や「幸福になるための答え」なんかは、残念ながら見つからない。ただそれを分からないなりに、自分一人の力で深く考える思考力が、どの学問よりも身につきやすいと思う。それが哲学を学ぶ最大のメリットだと個人的に思っている。
以前、「読書について」の感想でも書いたが、ただ読書をしているだけだと、作者の考えをなぞっているだけで、自分で考えていることにはならない。しかし哲学の場合には、嫌が上にも、自分で考えざるを得ない質問を作者からドンドン投げつけられる。そこで与えられた問いに対して、自問自答する。基本的には正解なんてない質問ばかりなので、ずっと思考していることになる。その思考時間が自然と思考力をアップさせていることになるんじゃないかなと。今後AIがどんどん進んでいくことは間違い無いと思う。単純作業などはAIに取って代わられる時代になっていくだろう。深く考えられる柔軟な思考力は、AI時代にこそ大きな武器になると個人的には思っている。
【哲学ってどんな学問?】
モノの性質や動きとか物質的なものについて考えるのが「科学」だとしたら、哲学とは「物質を超えたもの」、たとえば「価値」とか「意味」とか「善」とか「愛」とか、「見たり触れたりできないもの」について考える学問。
【哲学には白哲学と黒哲学がある】
白哲学は本質哲学と言われ、物事の本質について考える学問。黒哲学(実存哲学)は「本質についてばかり考える既存の哲学(白哲学)」を批判するために生み出された反逆の学問と言われる。
白哲学がスタンダードな哲学の王道で、黒哲学はどちらかといえば邪道な哲学。
ニーチェはその邪道と言われる黒哲学側の人だ。
【人生に意味はないって本当?】
仕事こそ生きがいだ、恋愛は素晴らしいと信じられる時期があった。→しかし時間が進むにつれ退屈になりそれらにたいした意味はないことを知る。→意味がないのだから、すべてが虚しくなり、人生の充実感や情熱を失う。→毎日忙しく働いてひたすら暇を潰して生きるだけの人間(末人)になってしまう。
ニーチェとか実存哲学(黒哲学)が主張しているのは目に見えない価値観(宗教・仕事・恋愛など)は遅かれ早かれいつか壊れるものなんだということ。そして、その結果、人は虚しくなって時間を潰すだけの人生になりがちだ。
【道徳なんて弱者のたわごと?】
奴隷にされている弱い民族(ユダヤ人)がいた。その民族は弱いため、強いものに復讐できなかった。そこでその弱い民族は、空想上で復讐を果たすため「強いのが悪い、弱いのが善い」という価値観を作り出し、この架空の価値観が宗教を通して広まってしまった。これが道徳の起源である。
したがって、我々のいう道徳の正体とは、実は「奴隷(弱者)を善いとする歪んだ価値観」に基づくものであり、「奴隷道徳」だということができる。この道徳観は、「嫌なこと、惨めなことに文句を言わず受け入れる人が善い」という不自然なものであるため、道徳に囚われている人間は、「人間本来の生き方」ができなくなってしまう。(ニーチェ個人の考え)
ニーチェ哲学の要点は、「人間は現実の存在である」「見たり触れたりできない非現実的なもの」に振り回されて生きるのはやめよう、だ。この非現実的なものの中には「社会から押し付けられた価値観」や「道徳」も入るわけだ。ここで大事なのは、ニーチェは何も「道徳の起源が弱者の負け惜しみだから、道徳なんて捨ててしまえ」と言っているのではなく、「道徳という自然ではない架空の価値観」によって真っ直ぐに本来の人生を生きられないのなら、それにとらわれるのはやめよう」と言っているということ。ここを見誤ると、ニーチェが単なる反道徳者で反社会的なことを言っているだけの人になってしまう。
(ここで自分で思ったこと)
西洋哲学を学ぶ上で避けては通れない、キリスト教の思想。そのキリスト教は、ユダヤ教から分派したものだし、同一の神を信仰しているという意味では、イスラム教も無視できない。そう、なのでユダヤ教を知るために旧約聖書、キリスト教を知るために新約聖書、イスラム教を知るためにコーランを読むことは避けては通れないし、西洋哲学を深く知るためには、絶対必要不可欠な要素だ。近々読まなければいけない本がまた増えた。
【それでも哲学を学べば生き方が変わる】
3冊目のこの章で初めて、飲茶氏が自身のことについて赤裸々に語っている。この時初めて知ったのだが、飲茶氏はかなり重度の吃音障害を持っているという。日によっては、どもってしまって、まともに人と会話ができないレベルの日もあるんだそうだ。そのため学生時代は、かなりしんどかったんだそう。一番辛いときは、本当に死んでしまいたいくらいに落ち込んだんだそうだ。
そんな折、気になっていた女の子が読んでいた本がニーチェだったんだそう。その女の子と共通の話題を得るためにニーチェを読み始めたんだとか。最初は女の子に気に入られようと読み始めた飲茶氏だったが次第に、ニーチェにのめり込んでいったんだそう。飲茶氏にとってニーチェはまるで、日常に突如舞い降りたロックスターのようだったんだそうだ。社会やみんなが善いと押し付けてくるものの正体を暴き、それらを徹底的に破壊するニーチェの過激な言葉が、飲茶氏の中で固まっていた常識を壊してくれたんだそうだ。言い換えると常識を疑う目を養ってくれたとも言い換えられると発言。そんな中飲茶氏が、ニーチェの言葉の中で一番感銘を受けたという言葉が以下だ。
「事実というものは存在しない、存在するのは解釈だけである」と。
(この言葉を聞いて僕が思ったこと)
これって、僕がよく使っていた、まさしく「パラダイムシフト」だと思った。どんな辛い出来事があっても、それをどう解釈するかは本人次第で、ポジティブな解釈をしてもまったく問題ないし、そうすることによって、前向きに生きれるのであれば、是非そうするべきだ。ヴィクトール・E・フランクルの「夜と霧」の中で、こんなことが書いてあった。明日ガス室送りになるかもしれない、そんな絶望の毎日にいる中でも、頭の中までは、誰にも犯すことはできない。なので、そんな人生の絶望にいた4年間も、どんなネガティブな事象もポジティブに解釈することによって、希望を失うことなく前向きに生き抜いたフランクルの生き方と、ニーチェの思想を重ねて読めた。だからこの言葉がより胸に沁みた。
【雑感】
キリスト教を知る上で必要不可欠な新約聖書もまだ未読のままだが、このあと一旦「ツァラトゥストラ」を読もうと思います。読んでみて理解力が圧倒的に足りないと感じたら、そのときには新約聖書を読もうと思います。続きを読む投稿日:2023.05.18
ルサンチマン 弱者の嫉妬
キルケゴール 絶望は死に至る病だ。
実存哲学(黒哲学)
本質哲学(白哲学)
ニーチェおもろいな。
末人
永劫回帰
なんか、今までの人生をなぞってきているようだ。。。投稿日:2024.03.18
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