高校紛争 1969-1970 「闘争」の歴史と証言
小林哲夫(著)
/中公新書
作品情報
一九六〇年代後半から七〇年代初め、高校生が学校や社会に激しく異を唱えた。集会やデモを行うのみならず、卒業式を妨害し、学校をバリケード封鎖し、機動隊に火炎ビンを投じた。高校生は何を要求し、いかに闘ったのか。資料を渉猟し、多くの関係者の証言を集めることで浮かび上がる、紛争の実像。北海道から沖縄まで、紛争の源流から活動家たちのその後の人生までを一望する、高校紛争史の決定版。
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商品情報
- 著者
- 小林哲夫
- 出版社
- 中央公論新社
- 掲載誌・レーベル
- 中公新書
- 書籍発売日
- 2012.02.25
- Reader Store発売日
- 2020.02.14
- ファイルサイズ
- 12.4MB
- ページ数
- 320ページ
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この作品のレビュー
平均 3.6 (17件のレビュー)
-
本書の目的は,主に1969~70年に発生した高校紛争の原因や要求,その伝播や解決に至るまでの道を解明するとともに,その後高校はどう変わったのか,今日の高校教育制度にどんな影響を与えたのか,検討する点…にある。二次文献に留まらず,通説を覆す証言や,当事者から提供された資料(機関誌,ビラ,職員会議議事録)に基づいて書かれているため,生徒と教師両方の立場から当時の苦悩と葛藤を生々しく伝えている点で,非常に興味深い。
ただ,私が本書を読もうと思った動機は,上述の理由だけではない。私自身は,「自由放任で,受験向けの教育に力を入れなくなった」(273頁)都立高で3年間を謳歌してきた。(おかげで,さらに1年の受験期間を要した。)だが,九州に赴任してみると,同じ公立高校でも全く異なる教育システムの存在にカルチャーショックを隠しきれない。ゼミ生と懇談すると,「なんで都立高には制服や朝課外(0時間目の授業)が無いの?」という話題になるが,「無いものは無い」という回答しか出しようがなく,客観的な説明力に欠けていた。そうした公立高校の教育や生活における地域差の源流を見出したかった点に,講読動機があった。(ちなみに,「制服自由化」の地域差・学校差は,90-97頁を参照。)
本書に対してはさまざまな切り口で評価できようが,以下,いま述べた自分の関心に沿ってのみ記しておく。各都道府県の公立進学校における紛争状況は,明らかに東高西低だった(143頁)。「校内集会・デモ」,「授業妨害・ハンスト」,「卒業式妨害」,「封鎖・占拠」,「警官導入・校内逮捕」という5つの主要な紛争事項は,札幌南(北海道),県立千葉(千葉),日比谷(東京)の各高校で全て発生していた。我が母校も,日本共産党系の原水爆禁止高校生連絡協議会(原高連)が発足したり(36頁),反戦高連の拠点だった生徒会室を,他の高校生解放戦線(ML派)に襲撃されて印刷機が奪われたり(168頁)と,この手のエピソードに事欠かない。これに対し,修猷館(福岡),佐賀西(佐賀),大分上野丘(大分),鶴丸(鹿児島)では,上記の紛争事項がほとんど発生していない。九州島内の高校紛争で大規模に取り扱われているのは,作家・村上龍が生徒として関わった佐世保北(長崎)だけである。
以上のような事実は明らかになったものの,これほどの地域差がなぜ発生したのかは十分解明されたわけではない。「自民党の支持基盤が強かった地域では,反体制運動はもってのほかであり,地元の高校,しかも名門校で紛争が起こったり,活動家が生まれたりするのは容認できなかった」(118頁)という見解も指摘されるが,おそらくそれだけではなかろう。同時代の大学紛争や労働運動との関係,さらに遡って旧制中学時代との連続性や,藩校をルーツとする建学の精神などに注目すると,もっといろいろな解釈が生まれるのではないかと,期待してやまない。
いずれにしても重要なのは,高校の生徒と教師が深く対立しなければならなかった時代の存在を,我々「若い世代」が認識しておくことである。現在の高校教育は,良かれ悪しかれ,この高校紛争の経験と影響を大きく受けているだけに。続きを読む投稿日:2012.03.09
このレビューはネタバレを含みます
2012年刊。著者は教育ジャーナリスト。
レビューの続きを読む
過日読破した「安田講堂」や小熊英二著「1968」で叙述されるように、騒擾の時代であった1969年。それは、ベトナム戦争激化の中、世界各地での現象だが、この…時代の熱量が、大学生に増して親の脛齧りでしかない日本の高校生をも突き動かしたのだろうか。
本書は、高校での学生運動に関して、当時の記録・証言録あるいは個々の学校史、学生と対決する側の教師・校長らの証言、そしてバリケードを作る側にいた学生ら(小池真理子の如き著名人や活動家のみならず、足を洗った人達を含む)の証言。これらを複合させることで、高校生による学生運動の内実とそれが残したもの、変わらなかったものを解明しようとする書である。
本筋でないが、この約20年後に私の過ごした高校・大学の雰囲気が「騒擾の時代」と隔絶していることは、経験的に首肯できる。
なのに、本作から匂い立つノスタルジー感。それは、騒擾の時代に学生が目指した学びと、自らの学びの省察とに共通項を想起させるからだ。
そもそも「学び」とは天から情報を付与してもらうものでない。教師の言を即座に鵜吞みにするのでもなく、自分の頭で汗をかき、自らの力と工夫で切り開くこと。これが「学び」だということなのだ。
しかも、これを自覚させてくれたのが、私の自己形成期に教師であった者たち。あの騒擾の時代を自ら経てきた若手・中堅教師たちなのだ。
また、本書で僅かに言及される母校の空気感が、騒擾の時代の獲得財・遺産と見得る点もノスタルジーを感じる所以かもしれない。
例えば、頭髪規制なし、制服指定なし。文化祭やクラブ活動に対する学校側の干渉の少なさ。進学指導すら干渉と捉える風潮、大学送付の調査書の記載を学生と共同作業とする点、そして一風変わった卒業式。
勿論これら全てが遺産というわけではない。が、騒擾の時代の体験から生まれ出た雰囲気の中、自らの学生時代を過ごしたことも関わっていよう。
さて、①下宿を許可なく家宅捜索する教師、②官憲・機動隊に殴られているのを笑ってみている教師、③告知・聴聞・弁明の機会を与えることなく退学などの処分に付し、あるいは一方的な誓約書を書くことを退学処分回避・撤回の条件とする教師。
高校紛争に際して見られたかような教師は、流石に現代では許容されないだろう。これも「騒擾の時代」の貴重な遺産とも読める。
ところで、大阪府立市岡(東の九段,西の市岡)、同大手前高校(羽田闘争で死亡した京大生の母校)。同清水谷、天王寺や高津、四条畷や生野といった見聞きすることの多い各高校の状況のみならず、全国の高校での高校紛争の実情が挙げられる。
その中でも、愛知県立旭丘高校と東京の私立麻布高校の例が強く印象付けられる。
また、昨今、原発問題等に関して、様々な発言をし、あるいは具体的な行動に移す著名人がいるが、彼らが高校紛争の体現者であったという事実も同様に強く印象に残る。続きを読む投稿日:2016.12.04
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