乳母車・最後の女 石坂洋次郎傑作短編選
石坂洋次郎(著)
,三浦雅士(編)
/講談社文芸文庫
作品情報
戦後、一世を風靡した大流行作家・石坂洋次郎。小説『青い山脈』は映画化され、1949(昭和24)年に封切られると同時に大ヒットし、その主題歌とともにほとんど戦後民主主義の代名詞と見なされるにいたりました。以後、石坂原作の映画が封切られない年は、1960年代後半までありませんでした。それほどの流行作家だったのです。しかし、70年代に入るやいなや、その流行はあっという間に衰えてしまいました。かつて『青い山脈』を明朗健全であるがゆえに評価し、暗くなりがちな戦後に爽やかな風を送ったとして称賛した読者が、こんどはその明朗健全さに飽きてしまったのでしょうか? いずれにせよ、石坂は「忘れられた作家」のひとりとなりました。しかし、石坂には、明朗健全以上に重要な特徴があると編者の三浦雅士さんは言います。それは「女を主体として描く」という特徴です。主人公と言わずに主体と言うのは、女は主人公であるのみならず、必ず、主体的に男を選び主体的に行動する存在として描かれているからです。女は見られ選ばれる客体である以上に、自ら進んで男を選び、男に結婚を促し、自分自身の事業を展開する主体なのです。明朗健全な爽やかさはこの主体的な女性が結果的に醸し出すのであって、逆ではありません。この特徴に誰も気づかずにいたのは驚くべきこと、「明朗健全なるがゆえに売れっ子となり、またそれゆえに忘れられた作家」などというのがいかに浅薄な見方であったか、いまや思い知るべき時が来たと三浦さんは説きます。かくして選び出された「女性の主体的な生き方の最終的な姿を示してほとんど常識を覆す域に達している」短編9編。いまこそふたたび石坂作品の魅力を多くの読者に知ってほしいとの思いから選ばれた傑作です。
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商品情報
- シリーズ
- 乳母車・最後の女 石坂洋次郎傑作短編選
- 出版社
- 講談社
- 掲載誌・レーベル
- 講談社文芸文庫
- 書籍発売日
- 2020.01.14
- Reader Store発売日
- 2020.01.10
- ファイルサイズ
- 0.2MB
- ページ数
- 224ページ
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この作品のレビュー
平均 5.0 (2件のレビュー)
-
ここ一年ほど、昔よく読んでいた石坂洋次郎のことが気になり出して、全集はないかと探したりしていたのだけれど、全集は出ておらず、昔よく読んでいた新潮文庫のシリーズも入手が楽ではない状態になっていて、「あ、…石坂洋次郎って忘れられた作家になってたんだ」と気づかされた。
そんな折、三浦雅士氏が編集した短編集と、評論がここへきて続いて出版されていることを知った。
本短編集の表題作の乳母車」は、かつてーー30数年前ーー読んだ時も「続きが読みたい」と思わされた記憶が薄らとある作品だったけれど、そのほかの作品には馴染みがなかった。当時の僕は、長編好みで、短編には興味があまりなかったのだ。
今回、久しぶりに石坂作品を読んで、自分の記憶の中の石坂作品とのーー良い意味でのーー印象の違いに驚いた。「乳母車」に関しては、当時の自分の読後感が蘇ったが、他作品から受けたのは、どこか「都会的」「先進的」「民主的」な陽性のイメージだった石坂作品の土台にある、地域性、土着性、あるいは母系の情念の様なものの強さだった。
このところ改めて石坂洋次郎の作品に関心を持ったのは、戦後の作家と思っていた彼が戦前から、戦後に繋がる作品を描いていたことを偶然知ったことによるのだけれど、大ヒット作「青い山脈」に描かれた戦後の民主主義と女性の権利の主張のようなものの背後にある、大地に根付いたものに対する羨望や、それゆえの「ブレない」テーマに、気づかされた。もちろんそれは三浦氏の絶妙なセレクションのゆえとは思うが。
まだ、同時期に出版された彼の評論は読んでいないが、読むのが楽しみである。
これを機に石坂作品の再評価が行われ、全集が編まれたりすれば、僕としては嬉しい限りなのだが。続きを読む投稿日:2020.03.28
もっとも肌に合う青春小説。しっとりと、しかし激しく人の内面を感じられる狡賢い駆け引きではなく「無意識」にも似た直情的な愛が描かれている。
投稿日:2022.06.05
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