月夜の記憶
吉村昭(著)
/講談社文芸文庫
作品情報
人間の根柢へ、文学の原理へ、深まりゆく作家精神の軌跡!
死を賭して受けた胸部手術、病室から見た月、隣室の線香の匂い、そして人間の業……。終戦からほどない、21歳の夏の一夜を描いた表題作をはじめ、人間の生と死を見据え、事実に肉迫する吉村昭の文学の原点を鮮やかに示す随筆集。自らの戦争体験、肉親の死、文学修業時代と愛する文学作品、旅と酒について、そして家族のことなど、ときに厳しく、ときにユーモラスに綴る。
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商品情報
- シリーズ
- 月夜の記憶
- 著者
- 吉村昭
- 出版社
- 講談社
- 掲載誌・レーベル
- 講談社文芸文庫
- 書籍発売日
- 2011.03.12
- Reader Store発売日
- 2019.12.20
- ファイルサイズ
- 0.2MB
- ページ数
- 352ページ
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この作品のレビュー
平均 5.0 (2件のレビュー)
-
大変面白く、興味深い随筆でした。
この随筆集は5つに分かれています。巻末の秋山駿氏の解説によると、「一章が人間の原型などを探る原理編、二章がその視線を歴史に投げての実験編、三章が戦争と敗戦、日本のこと…を考える編、四章が歩道橋など社会問題編、五章が日常の中の自分、いわば私小説編である」そう。
これを読めば本当に吉村昭と言う人の人となり、考え方が手にとるように解ってきます。そして誠に勝手ながら、吉村昭氏に親近感を抱くようになります。
一章では、「作家」(あえてここでは作家という言葉を使う。笑)としての吉村昭氏の姿がありありと見えてきて、普段ヴェールに包まれている (と私は勝手に思っている)作家という仕事の姿が見えて実に興味深いです。同じように、五章でもちょっとそういった部分が含まれていて、作家の実の姿というのが垣間見えて面白いです。
そして何と言っても三章。「二つの精神的季節」。こういうのを待っていた。
吉村氏はすぐれた戦争文学をいくつも書かれていますが、その根底にあるものが一体何だったのかというのを知ることができます。
戦争に関する小説や見聞禄、回想録を読んでも、しっくり来るものと、来ないものがあるなか、吉村昭氏のそれはいつも「しっくり来る」。
その理由がこれでわかったような気がしました。読みながら、私はまったく経験も体験もないのに、共感できるなあとしみじみ思いました。
何と言うか、私たちの世代にとって戦争とは「恐ろしい、怖いもの」「二度と引き起こしてはいけないもの」という点のみが強調されすぎていて、それだけにスポットが当てられている感じがして、国民がみんな被害者のように語られているのだけれど・・・
実際は政治・経済・産業など日常生活に深く染みこんだものであり、戦争は日常そのものであったはず。そういった点があまり語られないのがとても残念で、本当の戦争の姿を知りたいとずっと感じていました。それが私の中で澱のように溜まっていたのだけれど、それを解消する手段を持ちませんでした。
吉村氏の「精神的季節」は、そんな私の澱を一掃してくれるような力を持っていました。実に清清しい気持ちで読みました。読み終えて、清清しい気持ちと、おかしな23歳だな。という二つの気持ちが沸きました。笑
でも、実に良い随筆に出会えたと思います。
やっぱり吉村氏は生まれが戦前で、この随筆の一つ一つ時代が少し昔に書かれたものなので、現代の考え方とは少し合わないようなものもありますが、やっぱり作家。言葉の大切さや、価値について語る随筆には、吉村氏の言葉への思いが感じ取れました。
社会問題に対する随筆も実に興味深く、共感できることが多かったです。
とても面白い随筆集でした。良書でした。続きを読む投稿日:2011.10.23
著者初の随筆集『二つの精神的季節』を改題したもの。日清日露戦争を経験した人々にとって、戦争の終りとは勝利を意味していた。
だから先の大戦時、銃後の国内は連日長く続くお祭りのような日々だったという。
そ…れが敗戦によって転換する。
何より変わったのは、人の意識だった。それまで戦争をきらびやかな光として考えられていたのが、敗戦の日から罪悪となった。
終戦の日を境にしてまったく異なった二つの精神的季節を生きた著者は、その隔絶感を二十年の長きに渡り保持し、やがて鬱屈した気分を感じ続けることを堪えがたいとして、自身が見たことを正直に述べようとする。
著者が何を背負って戦争を題材とした小説を書いたのかが見える、「二つの精神的季節」はとても重大な意味を持つ一作だと思う。
表題作は、肺浸潤により肋骨を数本取り去る手術を待つ著者の隣室に、手術が怖いといって泣く女性の患者がいた時の話。
著者の術後、隣室の彼女が死んだことを知る。その時著者の胸に去来したのは優越感だった。
また、麻酔が足りない時代であったため術中の痛みが激しかったにも関わらず、笑いを止められなかったこと。
母親が他界したのを聞き、頬が緩んだこと。
どれも変わった反応のように思え、著者もそれを自覚してその理由を自らの内の求める。生死の極点まで行くと、人の反応などわからないという。
こういった深刻な話から、お酒や食べ物のこだわりといった軽い話まで幅広く所収。
電話の受け方、切り方にも著者固有の頑なさが見え、それに合わなかったらもう掛けないといった話は面白かった。続きを読む投稿日:2021.03.29
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