国民主権と天皇制
尾高朝雄(著)
/講談社学術文庫
作品情報
惜しまれながら急逝した不世出の法哲学者・尾高朝雄(1899-1956年)、初の文庫版。本書の原本は、1947(昭和22)年10月に国立書院から出版されました。その5ヵ月前には日本国憲法が施行されています。大日本帝国憲法から日本国憲法への移行は、前者の改正手続きに基づいてなされました。そうして「天皇主権」から「国民主権」への大転換を遂げた新しい戦後日本には「象徴天皇」が残されました。国民主権と天皇制ははたして両立可能なのか? もしそこに矛盾があるのなら、戦前から戦後の移行はいかにして根拠づけられるのか? これらの疑問は、単に憲法学の問題であるだけでなく、戦後の繁栄を支えた日本の新しい形は正当な根拠をもつものか、というすべての日本国民に関わる問題でもあります。本書は、この問題を解きほぐしてくれるものです。改正手続きの具体的な経緯をたどり、その過程で起きた「国体」をめぐる論争に触れつつ、「主権」とは何なのか、という問いを追求します。誰にでも理解できるよう、ていねいにたどられていった考察の末、「国民主権」と「天皇制」を両立させる「ノモス主権」が提示されます。本書が発表されたあと、憲法学者・宮沢俊義(1899-1976年)が異論を唱え、二人のあいだに論争が繰り広げられました。本書は、宮沢の批判に対する応答として書かれた二篇を増補して1954(昭和29)年に青林書院から刊行された版を底本とし、その内容を追えるようにしました。「ノモス主権」の概念は、長らく忘れられてきました。しかし、ここには今こそ考えるべき問いがあります。学術文庫『立憲非立憲』に続き、唯一無二の憲法学者・石川健治氏による渾身の「解説」を収録した本書は、新しい時代の日本にとって必須の一冊となることでしょう。[本書の内容]序 言/はしがき/第一章 新憲法をめぐる国体論議/第二章 主権概念の批判/第三章 国民主権の原理/第四章 天皇統治の伝統/第五章 新憲法における国民主権と天皇制/第六章 ノモスの主権について/第七章 事実としての主権と当為としての主権/解説(石川健治)
もっとみる
商品情報
- シリーズ
- 国民主権と天皇制
- 著者
- 尾高朝雄
- 出版社
- 講談社
- 掲載誌・レーベル
- 講談社学術文庫
- 書籍発売日
- 2019.06.12
- Reader Store発売日
- 2019.06.11
- ファイルサイズ
- 0.3MB
- ページ数
- 288ページ
以下の製品には非対応です
この作品のレビュー
平均 4.0 (3件のレビュー)
-
戦後、日本国憲法制定により生起した国体論争の一つが、法哲学者尾高朝雄と憲法学者宮沢俊義との間で議論されたノモス主権論争である。本書は、論争のきっかけとなった『国民主権と天皇制』(昭和22年)に、宮沢へ…の反批判論文2本を追加した改訂版(昭和29年)となる。ポツダム宣言の受諾によって天皇統治から国民主権に転換し、法的意味での「革命」が成就したとするのが宮沢の「八月革命説」である。これに対して尾高は、政治に内在する法的正義たる「ノモス」こそが主権の内実であり、その実現を目指す点において天皇統治と国民主権に径庭はないとする。確かにこれだけなら、主権の主体が天皇か国民かという問いにノモスだと答えるのは問題回避だと指摘することもできよう。しかし、尾高のノモス主権論の眼目は主権概念そのものの批判にある。そもそも近代国家の主権は、中世的な教皇権や領邦主権に対して、近代的統一国家における君主の絶対権を確立するために唱えられたものだ。主権が法をも超越しいかなる意思決定もなし得る絶対的な権力であるなら、君主の暴政と同様に国民による暴政も許すことになるだろう。それ故に尾高は、「ノモス」によって主権を制限しその行使に責任を負わせることで、主権を「実力概念」から「責任概念」に転換しようとした。そして、主権者たる国民が象徴天皇制を残置したことの意味を、「ノモス」を実現するという観点から闡明したのである。令和の時代を迎え天皇制の在り方が改めて問われる中で、本書が復刊された意義は大きい。続きを読む
投稿日:2020.04.12
国民主権とは何か?天皇制とは?一見相容れないこの二つはどう両立するのか?この疑問をこれほど理路整然と、しかも極めて平易な言葉で説明した書物を知らない。敗戦とともに統治権の総攬者としての天皇の地位は失わ…れた。その意味では政体は君主制から民主制に転換した。これをもって国体が変わったと考える人もいる。佐々木惣一がそうだった。だが統治の主体が君主であれ国民であれ、それが国民の信託に基くなら、政治権力の正当性の源泉は国民にある。その意味に於いて歴史を通じて日本は国民主権であったと尾高は考える。天皇は形式的には国民が選んだ訳ではないが、天皇制がかくも長きにわたって存続したのは国民の支持があったからだ。
翻って主権というものが何にも制約されない絶対的な権力だとすれば、かかる権力は国民にもない。統治主体が従うべき究極の意思、それは実在する国民の意思ではなく、良き政治、正しき政治という理念でなければならない。あえて言えばこの理念(=ノモス)が主権だと尾高は言う。これが近代的な主権概念を換骨奪胎した「ノモス主権論」である。そして象徴としての天皇は、目に見えない理念的存在としての日本、及び日本国民を目に見える姿で指し示す。内閣総理大臣の任命を始めとする天皇の国事行為は、現実に行われる政治を国民の総意に基づくものとして意味づける形式である。かように純然たる象徴天皇は国民主権と何ら矛盾せず、むしろそれを表現し、可視化するものなのだ。
ポツダム宣言の受諾によって一種の革命が起こり、主権は天皇から国民へと移行したとする宮沢俊義は本書を厳しく批判した。宮沢の八月革命説は、国民を担い手とする憲法制定権力論とともに学界の通説となったが、尾高は戦前の天皇制を温存しようとする反動と見做された。尾高が主権のあり方を問題にしたのに対し、宮沢は主権の所在を問題にしており、論争はすれ違いに終わったが、宮沢の後継者芦部信喜も樋口陽一も宮沢のように憲法制定権者たる全能の国民を想定していたわけではない。芦部は憲法制定権力とて内在的制約に服すと考えたし、樋口は国民による憲法制定権力の行使を凍結すべきと言った。いずれも国民主権に立脚しつつ、宮沢のあまりにナイーブな国民への信頼を括弧に入れる。ノモスという理念によって裸の政治権力を統制しようとした尾高の問題意識と重なり合うのだ。戦後の憲法学は宮沢の八月革命説を「顕教」として奉じながら、実は尾高のノモス主権論を「密教」として受け継いだのではないか。
特筆すべきは石川健治による解説だ。解説というより尾高法哲学の生成・確立・進化を縦横に論じた独立した論文であり、圧倒的な密度と強度に言葉を失う。京大での若き日の原始信仰研究、デュルケムを経由したカントの先験哲学批判、フッサール、シュッツらウィーン現象学サークルとの知的交流、フィヒテの民族論への接近と植民地政策へのコミット、ノモス主権の着想を得たシュミットの具体的秩序論、京城学派の畏友清宮四郎による象徴天皇論の継承など、途方もなく豊かな学問世界に引き込まれる。尾高の現象学的法哲学は、良くも悪くも東大法学部の伝統である市民的リベラリズムとは異質だ。ケルゼン=宮沢俊義=横田喜三郎=長尾龍一的な価値相対主義にはない「毒」がある。戦前の京都学派や晩年の廣松渉が仰いだのと同じ「毒」だ。尾高が現象学に学び自己の哲学の基軸に据えたのは特殊を通じた普遍、乃至内在的超越と言えようが、それは特殊と普遍、内在と超越の無媒介的等置と紙一重でもある。石川は市民的リベラリズムの立場から尾高の「毒」を薄めようとしているのか、或いはその「毒」で市民的リベラリズムを内側から食い破ろうとしているのか。石川の今後に注目したい。続きを読む投稿日:2023.12.30
新刊自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
※新刊自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新号を含め、既刊の号は含まれません。ご契約はページ右の「新刊自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される「増刊号」「特別号」等も、自動購入の対象に含まれますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると新刊自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約・新刊自動購入設定」より、随時解約可能です続巻自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
- ・優待ポイントが2倍になるおトクなキャンペーン実施中!
※続巻自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新巻を含め、既刊の巻は含まれません。ご契約はページ右の「続巻自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される特別号等も自動購入の対象に含まれる場合がありますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると続巻自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約自動購入設定」より、随時解約可能ですReader Store BOOK GIFT とは
ご家族、ご友人などに電子書籍をギフトとしてプレゼントすることができる機能です。
贈りたい本を「プレゼントする」のボタンからご購入頂き、お受け取り用のリンクをメールなどでお知らせするだけでOK!
ぜひお誕生日のお祝いや、おすすめしたい本をプレゼントしてみてください。※ギフトのお受け取り期限はご購入後6ヶ月となります。お受け取りされないまま期限を過ぎた場合、お受け取りや払い戻しはできませんのでご注意ください。
※お受け取りになる方がすでに同じ本をお持ちの場合でも払い戻しはできません。
※ギフトのお受け取りにはサインアップ(無料)が必要です。
※ご自身の本棚の本を贈ることはできません。
※ポイント、クーポンの利用はできません。クーポンコード登録
Reader Storeをご利用のお客様へ
ご利用ありがとうございます!
エラー(エラーコード: )
ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。