謎の漢字 由来と変遷を調べてみれば
笹原宏之(著)
/中公新書
作品情報
スマホやパソコンでは、嬲、娚、娵、啌、鯲、蟶、妛といった不思議な文字を打つことができる。しかし、いったいどう読むのか、何に使うのか――。これらの漢字の由来を徹底調査。また、江戸時代の五代目市川團十郎が先代「海老蔵」を憚って自分はザコエビだから「鰕蔵」と称したという説を検証する。さらに「止めるかはねるか」等、テストの採点基準を科挙にさかのぼって大探索。漢字の不思議をめぐる楽しいエッセイ。
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商品情報
- シリーズ
- 謎の漢字 由来と変遷を調べてみれば
- 著者
- 笹原宏之
- 出版社
- 中央公論新社
- 掲載誌・レーベル
- 中公新書
- 書籍発売日
- 2017.04.25
- Reader Store発売日
- 2019.05.17
- ファイルサイズ
- 12.6MB
- ページ数
- 240ページ
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この作品のレビュー
平均 3.9 (10件のレビュー)
-
このレビューはネタバレを含みます
笹原宏之『謎の漢字』(中公新書、2017年4月)読了。
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漢字の由来と変遷を調査した重厚なエッセイ。
全体が3部構成で、「日本の地名・人名と謎のJIS漢字」「海老蔵は蝦蔵か」「科挙と字体の謎」からなる。
個人的趣味からいえば、第1部の「日本の地名・人名と謎のJIS漢字」が一番面白かった。
まずもって驚いたのが、JIS漢字が第4水準まであるということだった。これだけで小生の知見が広がった。
ところで、ワープロを買ったのは1985年か86年頃だったろうか。そのときに、JIS漢字という言葉を覚えた。いわば日本語をワープロで打つためのコード付きの文字列で、2台目のワープロで第2水準まで打てることに驚いた記憶がある。
最初のワープロでは「恣意性」の「恣」、「乖離」の「乖」、「曖昧」の「曖」も打てなかった。すべて第2水準だったからである。
では、第1水準にしても第2水準にしてもJIS漢字がどのようにして決められたのか。これは『国土行政区画総覧』という、全国の地名を調べ上げた資料に基づくものであったという。
つまり、日本のどこかの地名に使われている漢字は、それがたった一ヵ所だけであったとしても、JIS漢字として採用されたという。これが二番目の驚き。
たとえば、本書の最初で採り上げられた漢字は、嫐(どう、のう、なぶる)である。第2水準に入っている。これは熊本県宇城市にある地名だったという。ついでに嬲(じょう、なぶる)も第2水準である。これまた地名で使われていたことから採用された。女男女も、男女男も「なぶる」と読むが、その字面から「なぶる」と読むようになったが(日本人の感覚ってステキ)、そもそもはなぶることが一般的慣習だから選ばれたのではなく(当たり前だ)、ちゃんと地名にあったから選ばれたわけである。
このように、その土地の人でなければ読めない漢字が、ワープロで打つことができるという目的でJISの第2水準に多数含まれている。
他にも娚(ナン、ダン、ネン、めおと)、娵(シュ、よめ)、啌(コウ)、鯲(どじょう)、蟶(テイ)、妛(シ)などもすべて第2水準である。いずれも日本のどこかの地名で使われていたから採用されたという。
第2水準にこのような文字があったとしても日常生活では使わないので、お目にかかることはないし、使わないので知らなくても問題はない。
しかし、我々が使っているPCで、あるいはスマホで、日本語が日本語として入力できるのは、JIS漢字が定められているからであることを知ると、俄然、漢字が面白くなる。
第2部の海老蔵の話は歌舞伎の話で、これはこれで面白かったが、時が時だけに割愛。
第3部の「科挙と字体の謎」は難しかったが、それでも言葉と同じように、漢字も時代とともに変化してきたことを思い知らされた。
点を打つとかはねるとか、漢字を勉強するときにはいろいろ注文が多く、小学校などでは点がひとつないだけで減点されたりしたが、長い時間をかけて同じ間違いをし続けると、それが正しい字になってしまうこともある。
そういえば、かつて漢字を使う国(中国、日本)では漢字があまりに数が多く難しいものも多いので簡単にしてしまおうという動きがあった(高島俊男『漢字と日本人』文春新書、2001年)。その結果として、中国ではピンイン付き簡体字ができた。一方、日本では「かな派」と「ローマ字派」が争ったらしい。その結果として、漢字(常用漢字)、ひらがな、カタカナが混在することになったらしい。何事も中途半端は良くない。
今では音声入力の精度も上がっているようだから漢字を書けなくてもいいし、今後は文章を短くするためだけに漢字が残るのかもしれないなあ。投稿日:2017.07.05
良書。論文めいた言い回しも散見されるが、内容がよく整理されているため読みやすい。仕事柄「謎の漢字」に触れる機会が多いため、取り上げられる漢字のあれもこれも身近に感じられて大変面白く読めた。
投稿日:2023.01.09
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