この作品のレビュー
平均 3.5 (5件のレビュー)
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このレビューはネタバレを含みます
貝類の採取は、春から夏に集中する傾向があり、現在の潮干狩の時期と一致する。量は少ないが、他の季節にも採取していたことが分かっており、食糧不足などがおこった時にでも採取することのできる大切な食料資源だったことが理解できる。
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東京湾には遠浅の海が多く、そこへ流れ込む大小さまざまの河川が川上の森から、貝の栄養となる有機物を運んできて、貝類の大繁殖に役立ったのである。(p.22)
たば氏は貝塚の密集地隊で、その中のひとつが加曽利貝塚だ。
山にしろ、海にしろ、再生産力が豊かな自然に囲まれて暮らす縄文人にストレスはあまりなかった。幸せホルモンのセロトニンがたくさん出る生活である。セロトニンの原料は、魚に多い必須循環脂肪酸のトリプトファンである。魚の好きな縄文人は、セロトニンの原料をコンスタントにとっており、豊かな森がもたらす安心感と相乗りして、安らぎを持って生涯現役生活を楽しんでいたのだろう。
縄文人が弥生時代のように水田を造成するような規模の大きな農耕に向かわなかったのは、その技術がなかったからではなく、自然の恩恵だけで満足のいく食生活が維持できたからである。だから一万年間も、縄文時代が続いたのである。(p.41)
奈良時代、カブは食用価値の極めて高い万能野菜だった。葉は幅が広くて大きく、他の野菜に負けない食べごたえがあった。
肥大した白い球根は、多肉多汁であり、大きくて煮ると甘みがあり、満腹感を得やすい。このため、葉も茎も球根も、よく漬物の材料として親しまれていた。(p.99)
仏教の伝来は、当時の人たちはもちろん、その後の日本人の生活文化に、さまざまな影響を与えることとなった。もっとも大きな変化は、肉食を忌避する風潮が高まってきたことだ。(中略)極端なことをいえば、日本人の食膳の上から、動物の肉が消えてしまったのである。逆にいえば、魚で動物性のタンパク質をとり、ダイズと米で植物性のタンパク質を補給するという、世界に類のない健康で長寿効果の高い食文化を形成するきっかけとなったというプラス面に注目したい。肉食禁止令が発布された時が、実は世界中から脚光をあびることになる「和食文化」の出発点となったのである。(pp.102-103)
花に逢えばみぞつゆばかり推しからぬ 飽かで春にもかおりにしかば(p.129、和泉式部)
甲斐の国は、山国である。
標高の高い土地が多く、水利が不便だから水田が少ない。米の飯よりも、粉を主体とした食事にならざるをえない。
(中略)炊かなければならない米に比べ、ほうとうの原料となる小麦粉は、比重が軽く、水で練って、切ったり、延ばしたりして鍋で煮込めばすぐに食べられる。
味付けは味噌で、現地調達した山菜やキノコ、イノシシや山鳥の肉を入れて煮れば栄養満点だ。つまり、小麦粉、味噌、鍋さえあれば、合戦場ですぐに用いることができるし、米にくらべて軽量であることも、迅速に行動する上で役に立つ。(p.210)
利休は茶の湯を通し、和食の大原則ともいうべき、一汁三菜をもアピールしたのである。素材の持ち味を損なうことなく、旬を大切にし、料理の季節感を何よりも大切にするのが、利休の食事感であり、現代の和食文化にも引き継がれている。(p.212)
煮売屋は、好みのものを必要な量だけ売ってくれるので無駄がなく、自炊を嫌う独身の男性に重宝された。煮売屋で人気ナンバーワンだったのが煮豆である。煮豆を家庭で作ると、大変に手間がかかる。戻し、煮かげん、調味など、半日はかかってしまう。しかし、江戸っ子は、この煮豆を好んだ。
現在でも、デパート地下の惣菜売り場に行くと、大皿や大丼鉢に、煮豆をはじめ、煮魚や根菜類などの煮しめなどが並んでいるが、構造的には全く同じである。(p.246)
米と麹でつくっった酒種で発酵させたパンは、日本人になじみのある饅頭の風味を感じさせて、西洋のパンとは味も香りもちがっていた。そこへ、さらに饅頭を参考にして、小豆あんを入れて包み、焼いたのである。
こうして、西洋のパンと和風の甘い小豆あんを融合させた、和洋折衷の画期的な「あんパン」を創作した。(p.299)
あんパンの人気に続いてクリームパンやジャムパンなども登場し、明治後半になるとあんパンは日持ちがよくて、美味で安価なところから駅弁としても人気を呼んだ。明治の初期の流行語となった「文明開化の七つの道具」に、あんパンは、郵便や瓦斯灯、岡蒸気などと共にあげられており、新時代の象徴と感じられていたのである。(p.300)投稿日:2017.11.13
このレビューはネタバレを含みます
事実と主観の書き分けが曖昧だったり、古文の訳が怪しかったり、プロっぽくない日本語の紡ぎ方などが見受けられたりするのが少し気にはなるけれど、そういったものに対する自分の中のリテラシーさえしっかり保ってお…けば、縄文時代から現代に至るまでの日本の食にまつわる色々な知識や見解を知ることができ、大変興味深く読める一冊である。
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冒頭から"ジビエの縄文クッキー"などというパワーワードに好奇心と食欲を刺激されるではないか。
稲作と日本文化の関係についての考察や、箸の使用と工業技術の発展を結びつける発想などもなかなかユニーク。
長きに渡って肉食がタブーであったことが長寿につながったとする見方には説得力を感じたし、肥満体が少ないのは米食中心のおかげ、という意見については私も首肯する。
西洋文化由来の低糖質ダイエットからは何かと目の敵にされる米だが、特に玄米は非常に優れた総合栄養食であり、決して健康的な体と見た目作りを阻害するものなどではないはず。
ちゃぶ台が意外と新しいものだった、というのは意外な豆知識だった。続きを読む投稿日:2020.09.09
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