混浴と日本史
下川耿史(著)
/ちくま文庫
この作品のレビュー
平均 3.0 (1件のレビュー)
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このレビューはネタバレを含みます
・下川耿史「混浴と日本史」(ちくま文庫)によれば、上代の風土記の時代、「混浴にも現代と同様の意味の混浴と、性的な関係を目的としたものの二つのタイプが併存していた」(27頁)といふ。後者は 水浴を伴ふ歌垣の類であり、前者は自然発生ともいふべき混浴である。縄文時代、弥生時代に既に多くの温泉があり、人々がそれを楽しんでゐたと思はれるこの国で、最初から別浴であつたなどとは考へられない。そもそも最初は皆裸で生活してゐたではないか、それがそのまま混浴になつた、ただそれだけのこと、難しいことは何もないのだといふわけである。しかし、古来、例へば奈良仏教界の混乱による前者の問題もあつたりして、風紀上の問題として、庶民は権力から混浴禁止を命ぜられ続けてきた。ところが、それはなかなか守られなかつた。これが近世以降は大きな問題となる。特に明治以降は大問題である。海外の目を気にしたのである。本書は中古以降に何か釈然としない記述が増えてゐたのに、近世を過ぎ、このあたりに来ると著者下川耿史の面目躍如といふところ、俄然おもしろくなる。「混浴禁止令は明治の新政府の最初の大仕事となった」(194頁)。実際、禁令矢継ぎ早である。ところが、その頃の「東京の銭湯の状況を見ると、 この法律がほとんど守られてゐなかったことが分かる。」(197頁)この先も似たやうなもの、禁令あれど守られずである。「政府の施策を馬耳東風と聞き流していた庶民」(203~204頁)である。つまり、「国民は国家によって規定されるという常識は、混浴という習俗には当てはまらなかった」(204 頁)。換言すれば、「混浴禁止に対する政府の熱意はことごとく庶民によって無視された」(207頁)といふことである。かういふ混浴に対する民意がそのまま以後も続いたかといふと実は必ずしもさうではなかつた。それが「画学生の裸体蔑視」(212頁)である。混浴に対する民意は私にも想像できるのだが、この画学生の問題は、絵には無縁の私には考へられないことであつた。画家はモデルを必要とする。そのモデルが混浴に及ぶのである。「日本女性の裸体は見られたものではない。」(215頁)だから裸を見せるな、混浴禁止となるのである。常識的には短絡的で無茶苦茶な論であらうが、当時はかう言はれたさうである。洋画を学ぶ画学生の西洋崇拝の一例である。夏目漱石「草枕」の湯煙風呂の場面も、これに対するアンチであるといふ。そんな側面もあつたのか、そんな時代だつたのだと思ふ。混浴が広く行はれる一方、そんな西洋からの問題もあつた。明治政府も西洋の目を気にして禁令を頻発したのだから、かういふ見方が出てきてもをかしくない。ただし、西洋人の一部は「日本の混浴を通して、ヨーロッパ的な裸体観に疑問を呈したといってもよい。」(203頁)つまり、日本と欧米の「文化の違い」(199頁)に理解を示してゐた人々もゐたのである。だからこそであらうか、最後に下川氏自身の中学生時代の思ひ出がある。隣の集落と我が集落の差異、混浴に対する思ひ、これも「文化の違い」であらう、はかくも異なると知るのであつた。「混浴を下品と見なすようになったのは、案外、私達 が少年時代だった昭和二十年代だったのではないか。」(「あとがき」250頁)といふやうに、上代から現代まで、混浴事情は変遷したのであつた。
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・この下川氏、反権力的な状況になると元気になる。さすが風俗史家である。庶民風俗に権力はいらぬ。盆踊りも混浴、いや入浴も庶民のものである。明治以降の記述にそんな思ひが強く見える。このうへで中古から近世初期までの改訂があればと思ふ。投稿日:2017.07.09
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