憲法で読むアメリカ史(全)
阿川尚之(著)
/ちくま学芸文庫
作品情報
建国から二百数十年、自由と民主主義の理念を体現し、唯一の超大国として世界に関与しつづけるアメリカ合衆国。その歴史をひもとくと、各時代の危機を常に「憲法問題」として乗り越えてきた、この国の特異性が見て取れる。憲法という視点を抜きに、アメリカの真の姿を理解するのは難しい。建国当初の連邦と州の権限争い、南北戦争と奴隷解放、二度の世界大戦、大恐慌とニューディール、冷戦と言論の自由、公民権運動――。アメリカは、最高裁の判決を通じて、こうした困難にどう対峙してきたのか。その歩みを、憲法を糸口にしてあざやかに物語る。第6回読売・吉野作造賞受賞作の完全版!
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商品情報
- シリーズ
- 憲法で読むアメリカ史(全)
- 著者
- 阿川尚之
- 出版社
- 筑摩書房
- 掲載誌・レーベル
- ちくま学芸文庫
- 書籍発売日
- 2013.11.06
- Reader Store発売日
- 2015.07.31
- ファイルサイズ
- 3.8MB
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この作品のレビュー
平均 4.2 (10件のレビュー)
-
アメリカ合衆国の歴史を憲法とその解釈(判例)を中心にして紐解く。
国家の生い立ちからも、アメリカという国を知るためには憲法の内容、背景、その判例を知ることが極めて重要であることを改めて感じた。
時に判…断に迷う時には建国の精神まで遡る、即ち憲法の精神に立ち返る、ということは今現在でも活発に行われている。
一方で時代の要請に応じて、その解釈を柔軟に変えている事実も興味深い。
ユニークともいえる三権分立の仕組み、その実態等も学ぶことができる。
何れにしても、アメリカの国家の仕組みを理解するのに一読すべき一冊。続きを読む投稿日:2016.04.25
本書を読むきっかけは、米連邦最高裁が06/24に1973年の「ロー対ウェード判決」を覆した背景を知りたいと思ったから。
トランプが中絶禁止、同性婚禁止をすべく保守派の判事を最高裁に送り込んでいたのは…知っていたが、日経の以下の記事を読んで、アメリカの司法制度について学ぶ必要があると考えた。
ーーーー
オバマ政権下で民主党は2013年、上院(定数100)で第二審にあたる控訴裁の判事承認に必要な賛成票を60票から51票に引き下げた。共和党からの賛成が得られず、判事の承認が滞ったからだ。60票が必要な従来の手続きは承認に超党派の合意がいるため、判事に大きな偏りが出ない制度として機能してきた。賛成票の引き下げは禁じ手とされていた。
ーーーー
本書を読んで自分がいかにモノを知らないかを痛感した。知っているようで知らないアメリカを知るために必読の一冊と言える。アメリカという国がいかにして形作られてきたのかを憲法解釈(憲法制定後の連邦政府と州政府の権限と両社の関係を含む)の推移を通じて知ることができる。
「モノを知らない」一例を挙げれば、私は、リンカーン大統領は奴隷を開放した偉大な人物と認識していたが(ほとんどの人がそうではないだろうか?)、南北戦争の目的は連邦統一の維持にあって、リンカーンは南部が連邦にとどまるのであれば、憲法を改正して南部における奴隷制度の不可侵を保証しても良いとさえ考えていた、という(しかし、戦争開始後1年で現実的な理由から奴隷解放を錦の御旗とした)。
本書で学んだこと:最高裁判事の構成や判決が政治状況に左右されるのはリンカーン登場前からあった:①奴隷制度にかかる国論の分裂を深めた「スコット事件判決」(1857年)はブキャナン大統領と首席判事の間に密約があった、と疑われた。②ローズヴェルト大統領はニューディール立法に違憲判決を出されても無視、最高裁対策として「判事押しこみ計画(court packing)」を進めたが失敗に終わった(多くの国民がニューディール政策を支持し、最高裁の判決に対しては各方面から批判を浴びていたが、いざ大統領が最高裁を意のままにしようとすると、独立した司法権の存在を大切にした)。③ウォレン・コートのウォレン首席判事はニクソンが大統領になると確実に保守的な判事を指名することを踏まえて、民主党大統領在任中に辞任して、自分と同じく進歩的な人物に後を託そうとしたが上手くいかなかった(経緯はかなり複雑)。ニクソン・フォード時代に最高裁判事は保守派が5人となり、進歩派が優勢であったウォレン・コートは様変わりした。しかし、保守派が優勢なバーガー・コートはニクソン大統領の思惑とは逆に進歩的な判決(大胆な憲法解釈)を出して世を驚かせた。バーガー・コートが下した判決の中で最大の議論を呼んだのが、現在話題になっている「ロー対ウェード事件判決」(1973年)で、妊娠中絶を犯罪として取り締まっていたテキサス州の制定法を女性のプライバシーに関する憲法上の権利を侵害するものとして違憲と判断した(7対2)。中絶に関する関心は、判決以前よりかえって高まり、「ブラウン事件判決」(1954年、公立学校における人種別学は違憲)の後、南部が黒人の隔離についてむしろ態度を硬化させたのと似ている、と阿川氏は指摘する。そして、スコット判決の時と同様に、共和党は「ロー対ウェード事件判決」を覆すことを政治目標として掲げ、そのため大統領選で勝ち、新しい判事を最高裁に送り込む。最高裁判事を巡る政治闘争はこうして始まった。
トランプ大統領によって米国の『分断』が深まったと言われるが、本書を読んで、根深い『分断』は「スコット事件判決」以来の長い歴史を持ち、今アメリカを揺るがしている中絶に関する『分断』の芽は半世紀も前にはらんでいたのである。
阿川氏は本書をこう締めくくっている。
最高裁判事の人事が全国民の関心を呼ぶ政治的事件となりうるなどとは、誰も思わなかった。しかし現在でもフィラデルフィアで起草したのと基本的には同じ憲法の規定に従い、大統領の指名による最高裁判事を承認するかどうかを上院議員が投票で決定する。その手続きは一つも変わっていない。そのこと自体、この憲法の長い命と有用性を示しているように思われる。
ローズヴェルト大統領の「判事押しこみ計画(court packing)」が廃案に追い込まれたように、現在のアメリカは独立した司法権の存在を守ることができるのだろうか。続きを読む投稿日:2022.08.09
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