沖縄の不都合な真実(新潮新書)
大久保潤(著)
,篠原章(著)
/新潮新書
作品情報
こじれにこじれる沖縄の基地問題の本質はどこにあるのか。見据えるべきは「カネと利権」の構造である。巨額の振興予算を巡り、繰り返される日本政府と県の茶番劇。この構図が変わらない限り、問題は解決できない。公務員が君臨する階級社会、全国ワーストの暮しに喘ぐ人々、異論を封じ込める言論空間等々、隠された現実を炙り出す。党派を問わず、沖縄問題の「解」を考えていく上で必読の書。
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この作品のレビュー
平均 3.8 (24件のレビュー)
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納得しながら読んだ部分もあれば、反感を覚えながら読んだ部分もあった。どちらかといえば後者の部分が多かったが。沖縄問題をさまざまな角度から捉えようという試みはいいかもしれないが、随所で詭弁的レトリックが…用いられており、首尾一貫した主張が矛盾なく展開されているわけでもない。
【納得した部分】
・莫大な補助金の投入が招く、基地問題解決に対する政府・県双方のモチベーション低下。
・「全基地返還がもたらす経済効果は9155億5千万円」という数字の算出方法のずさんさ。
・基地問題の裏に隠れて隠蔽されている「貧困」や「極端な格差」といった山積する問題の存在。
・基地問題の解決を阻む「基地利権」を追求しない県内マスコミの弱さ。
【反感・疑問を覚えた部分】※「⇒」以下は私見
(辺野古移設を断念した場合)“政府は、次の移設先を見つけなければなりません~”(p12)
⇒なぜ「全面返還」ではなく「移設ありき」なのか。本書全体を通して言えることだが、普天間を含む多くの米軍基地が正当な手続きを経ずに、暴力的な方法で接収された土地の上につくられているという事実がないがしろにされている。
“反対派はあくまで「心」と「平和」にこだわります”(p15)
⇒「心」や「平和」はマスコミ受けがいいから喧伝されているが、基地問題の皮相に過ぎない。問題の本質は、戦後70年も経過している独立国家に外国の軍隊が常駐し続けていることの不正義や異常性、である(しかも端緒からして暴力的な土地接収という決して見過ごせない不正義がある)。皮相だけを批判して本質を隠蔽するような論じ方には誠実が感じられない。
“「振興策が欲しい」という本音のために「基地反対」という建前を~”(p46)
⇒マクロな現象としてはそのように見えるかもしれないが、純粋に基地に反対している県民が数多くいることを等閑視してはいけない。
“①在沖米軍の安定運用が抑止力として重要、②海兵隊が撤退して抑止力が不足した場合は自衛隊の強化を検討する、③自分の国は自分で守る これらは霞が関の役人にありがちな考え方です”(p50)
⇒霞が関の思考(に基づく行動)は①で止まっているのが実態では?
“私も集会と新聞以外で「基地反対」の声を聞いたことはほとんどありません”(p66)
⇒取材範囲が狭すぎる。積極的に集会等に参加するわけではないが基地には明確に反対だ、という沖縄県民は決して少なくない。
“一見「反戦」に見える沖縄の声の本質は「反日」です”(p70)
⇒同じ日本人の「反政府」的な態度を躊躇なく「反日」と言ってしまう軽薄さ!(怒)日本人に対して「反日」という言葉を使うのは、「非国民」というのと構造は同じだ。少なくとも知識人が使うべき言葉ではない。この「反日」の一語によって本書の品位がスポイルされてしまっている。
※「反日」の語はpp145-146にも登場する。
(米軍基地と自衛隊基地を合わせた)“軍事基地の83%は本土にある”(p70ff)
⇒自国の防衛が目的で、シビリアンコントロールが効く自衛隊と、(日本国民による)シビリアンコントロールが全く保障されておらず、かつ、外国の戦争に赴くこともある米軍を一緒くたにして扱うのはナンセンスである。
(それぞれ米軍基地を要する)“沖縄と神奈川と東京の面積はほぼ一緒ですが、人口密度は神奈川が沖縄の6倍、東京は10倍です。横田基地は普天間の1.5倍の面積があります。騒音レベルも1.5倍だとすると、東京には普天間15個分の騒音被害があることになり、墜落事故で死ぬ住民も15倍ということになります”(pp73-74)
⇒いくつ指摘すればいいのかわからないくらいの詭弁のオンパレード……。とりあえず、基地周辺地域や飛行ルート直下地域の人口密度ではなく、県全体の人口密度を比較しても何の意味もない、ということだけを指摘しておく。
“軍事飛行場に隣接して小学校を立てた例は、世界でも沖縄だけ”(p76)
⇒飛行場を建設する際に緩衝地帯を設けなかった米軍にも非があるのではないか。地主から不正に接収した土地に無理やり飛行場を建設したのだから、緩衝地帯の設けようがなかったのだろうけど。また、普天間第二小学校が作られた1969年には、「沖縄が本土復帰すれば米軍基地はなくなる」と多くの県民が当然のように信じていた、ということも忘れてはいけない。
“私が辺野古に生まれ、仕事がないため基地関係の仕事を担う父親の土木会社で働いていたとします。基地は嫌いですが生きていくためには仕方ありません。そして、「ジュゴン大好き会」といった動物保護団体に所属する東京あたりから休日だけ「運動」をしに来る意識の高い若者から「子供たちの未来のために、この美しい海を守りたいと思わないんですか」と説教されたとしましょう(実際にこれを地元の人に向かってやる本土人がいるのです)。私はその若者に殺意を覚えるだろうと思います”(pp102-103)
⇒第1章で槍玉にあげられた、利権争いを展開する土建業界の言い訳にそのまま使えそうな理屈だ。このたとえ話に登場する「土木会社で働く地元民」のような私的利害のしがらみが基地問題の早期解決を阻んでいる、というのが第1章の指摘するところではなかったか。「殺意」という言葉も軽々しく使うものではない。
※「反日」「殺意」といった乱暴な言葉づかいは、第2章、第4章、第6章に出てくる。いずれも共著者のうち大久保氏が執筆を担当している。
“「このまま基地が減っていけば基地反対運動も消滅してしまうのではないか」と真顔で心配する労組の幹部もいました。(中略)先の労組幹部は「反戦平和は沖縄のアイデンティティそのもの。基地がなくなれば沖縄の存在意義もなくなる」とまで言い放ちました”(p160)
⇒こういったごく一部のアホの極端に歪んだ言説を、反基地運動の中軸の意思であるかのように紹介するのはいかがなものか。
“以上のような政治的計算の末に、翁長市長は、「基地反対」「沖縄差別」が叫ばれる集会に積極的に参加してきたのではないでしょうか。(中略)一方、集会を企画する平和センターは、こうした思惑を承知しつつ、自らの運動が「県民総意」であると証明するために保守系政治家を利用してきたのではないでしょうか”(p172)
⇒そうだとしても、より重要なのは「なぜ翁長氏は革新に転向せず(保守のままで)基地反対を主張できたのか」「なぜ翁長氏が保革を超えた支持を集めて知事選を圧勝したのか」といった問題のほうでは?「政治的思惑」というダーティな文言で実際に翁長氏が広い支持を集めたという事実を隠蔽してはいけない。
(「県民総意」という演出によって)“守られているのは、オール沖縄の「県民益」ではなく、「公務員益」であり、「組合益」であり、一部の「企業益」であり、「政治家益」ではないでしょうか”(p173)
⇒基地反対が(正義実現のためではなく)誰かの利益のためであるという功利主義的発想がそもそも貧困である。
“「日本」による沖縄差別を問うのであれば、沖縄(本島)による奄美・宮古・八重山地方に対する差別と収奪の歴史にも、「落とし前」をつけなければなりません。(p205)
⇒正論ではあるが、米軍基地の偏在という構造的差別をいま現実に是正すべきという文脈にあっては、論点ずらしのスケープゴートにしか聞こえない。米軍基地偏在の問題は「沖縄本島と奄美・宮古・八重山の関係」とほとんど文脈を共有しない。続きを読む投稿日:2015.03.10
基地の巨額な振興資金、基地被害としての格差と貧困、米国による沖縄ナショナリズムの醸成、全基地返還による経済効果試算の非合理さなど、不都合な事実たち。一番怖かったのは、沖縄の政治家が容易に「県民の総意」…と発言すること。実際、普天間基地の辺野古移設に関しては、容認派・反対派はほぼ真っ二つ。民主主義の対極にある異論は認めない風潮、更にはヘイトスピーチ現象に見られた沖縄と日本間のナショナリズム衝突が、事の本質をどんどんボヤかしていきそう。今、百田尚樹氏の発言も話題ですし、これを機に沖縄問題を知りたい方に是非。続きを読む
投稿日:2020.12.20
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