荒木飛呂彦論 ――マンガ・アート入門
加藤幹郎(著)
/ちくま新書
作品情報
漫画史に傑出する長編作品『ジョジョの奇妙な冒険』。抒情的かつ異風的であるこの芸術作品を、四半世紀にわたって描きつづける創造力の源泉はどこにあるのか? 技法を精緻に分析し、作品を漫画の歴史のなかに位置づけ、理論にもとづいて荒木飛呂彦の作風と物語の独創性を読み解く。ファン待望の漫画評論!
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商品情報
- シリーズ
- 荒木飛呂彦論 ――マンガ・アート入門
- 著者
- 加藤幹郎
- 出版社
- 筑摩書房
- 掲載誌・レーベル
- ちくま新書
- 書籍発売日
- 2014.01.07
- Reader Store発売日
- 2015.04.27
- ファイルサイズ
- 9.9MB
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この作品のレビュー
平均 1.8 (6件のレビュー)
-
はやくも、今年ワースト候補が登場。
『荒木飛呂彦論』という名前に釣られて購入。副題に「アート・マンガ入門」なんて書かれていれば、これは買わざるをえないでしょう! というわけで。でも、実際は買うまで…に時間がかかりました。本屋で本書を見つけたときは、「おっ!」と思ったものの、ぱらぱらと読んでみると、とても「入門」な内容に思えなかったので。でも、やはりファンなので購入した。
中身は、漫画家荒木飛呂彦を論じるというよりも、『ジョジョの奇妙な冒険』について語るというスタンス。著者は映画研究を専門としている人のようで、ユリイカの荒木飛呂彦特集にも本書のような視点での文章を載せている。映画研究者の立場から荒木飛呂彦の作品について語るという内容。でも、映画なら作品から論を立てるというのは当たり前なのかもしれないが、しかし、それなら本書も『ジョジョの奇妙な冒険論』で良かったのでは? というように、この本には荒木飛呂彦を論じた部分がない。
それはともかくとして、荒木飛呂彦とジョジョの奇妙な冒険のファンとして言わせていただければ、この本は買う価値のない地雷だ。本書を書店で見かけて、興味を持って、パラパラと捲ってみれば気付くと思うけれども、この本の著者の書いている文章は、一読して「なに言ってるの?」と容易に理解できないものになっている。さすが、「マンガ・アート入門」と帯に書かれてあるくらいだから、読み手の素養も試されているのかと思いきや、実際、ここに書かれていることときたら、著者の「そう読める」という論(というのもどうかと思うが)が詰め込まれただけの、ただの私見にすぎないものだったりする。
僕は、この本に書かれているところの、「『ジョジョの奇妙な冒険』は世界的水準の傑作漫画」という評自体に異を唱えるつもりはないし、実際にファンとしてそう思っている。でも、「論」と言うからには、ロジックによって『ジョジョ』=「傑作漫画」という証明をしなければならないはずだ。そこが、どうしてかこの本には欠けている。『ジョジョの奇妙な冒険』についての、基本的なストーリーの事実関係も怪しければ、荒木飛呂彦がジョジョについて語っていることも引用がないし、勝手な解釈を長々読まされるという苦行に付き合わされるはめになる。ジョジョほどに人気のある漫画だと、ある程度の共通した読まれかたがあると思うのだが、この本では、それを無視して特殊な読み方に終始しているので、「この人は本当にジョジョを読んだのか?」と疑問に思う部分が少なくない。
また、著者の主観で語られても、納得のいかないものは納得がいかないし、納得するには文章が訳分からないし、論を補強する先行研究の紹介などもあまりされないし、これが『ジョジョの奇妙な冒険』についての評論だと言われても、ファンであればあるほど反発するのは必至だ。例えば、88Pに「DIO戦の前には暴力描写がほとんどなくなる」なんて書いているけれども、ヴァニラ・アイス戦を完全に無視しているし、73Pには「ジョジョにおける殺害描写は1部と7部を除けば、金銭欲や悪欲や政治的/宗教的理念とほぼ無縁」とあるが、いやいや、欲にかられた敵対キャラは沢山出てくる。
個人的には、著者の中心的な主張になっている「水の描写=波紋」論や、「二元論を超えた物語がある」論については、明確にそうではないと言いたいところがある。
前者については、こじつけもいいところで、主に第二章においてそれが語られるのだけれども、説得力が全くない。これなら、「人の描写=人間賛歌」論でもいいじゃないかと思うほどだ。各部に継承される隠された主題のようなものが、本当にあるのかについては、僕には評論のいろはがないので判断しかねるものがあるが、本書を読む限りでは、著者の「こう読める」という解釈に従って『ジョジョの奇妙な冒険』をパッチワーク的に引っ張りあげているようにしか思えなかった。代表的なところで言えば、「ホワイト・スネイクの瞳」と「空条丈太郎の手のひらマークの帽子飾り」が関連あるように書いているが、ホワイト・スネイクの瞳が手の形に観える絵というのは、著者が言うほど多くない(というか図版の絵だけ)。
「二元論を超えた物語がある」という論については、代表的なところでは3部終盤のポルナレフのモノローグ(ジョースターが「白」でDIOは「黒」)で明確に二元論が示されているし、荒木飛呂彦自身、インタビューで少年ジャンプで連載する以上、二元論は崩せなかったと語っている。そこを無視しての論はありえないはず。善悪二元論を、明確にそのように描かなくなったのは7部に入ってからで、それはヴァレンタイン大統領が最後「説得」という手段を使ったところに見い出せる。それまでの悪役(特にラスボス級のキャラ)は、「信頼のおける仲間」はいるにはいるが、基本的には自分一人が頂点(頂点の位置づけは個々で異なるものの)に立てば他はどうでもいいという孤高の存在だ。5部のディアボロや、2部のカーズ、3部のDIOにおいてもエンヤ婆をボロ雑巾のように見捨てている。さらに、DIOには肉の芽という洗脳手段があるし。
というわけで、「論」としては言葉が乱暴にして、支離滅裂、基本的なストーリーの事実誤認(4部を語るところで、億泰を「最初の敵」と書いてあったりする)もあって、到底納得するレベルには及ばない。もしくは、映画評論としての文脈によって、納得できる方法があるのかもしれないが、そもそも作者がどんな漫画評論の立場で『ジョジョの奇妙な冒険』を語っているのかも解らないので、本書を読んで『ジョジョの奇妙な冒険』についての理解が深まるとも、本書の内容に知的好奇心を刺激されることもないだろう。ただ、絵画表現としてジョジョを語る部分に入ると、あまり引っ掛かる部分はなくなる(私の絵画的素養がないという問題もあって)。やはり荒木飛呂彦論といってもジョジョ3部以降が主眼になっていて、特に2部がほぼ無視されているのはどうかと思った。世評的に名高い2部を語らなくて、ジョジョを論じることができるのだろうか? マニエリズム的表現に関して言えば、2部の柱の男を超えるものはないはずなのに。
これについては、おそらく1部2部が『北斗の拳』的表現の影響があるから、語りづらいということがあったのだと思う。また、著者は映画研究家であるのに、ジョジョのエピソードにおける映画(やスティーブン・キング)の影響について、なぜか語っていないのも残念だった。そういうオマージュやパロディ的なものは、週間連載をする上で仕方のないものだっただろうし、それを含めてもなお、『ジョジョの奇妙な冒険』という漫画は傑作であるはずで、革新性ばかり注目して、革新的でないものに目を背けては、ものの本質が見えてこないと思う。
また、やはり漫画家荒木飛呂彦に言及なくして、『ジョジョの奇妙な冒険』を語ることはありえないと思った。さらに言えば、『ジョジョの奇妙な冒険』が少年ジャンプでどのような読まれかたをして、どのように世評を獲得していったのかについても言及がない。それなくして、「傑作漫画」の証明なんてできないと思う。ジョジョは漫画として優れてはいるが、他にも優れた漫画は山のようにあって、そのなかで、なぜジョジョだけが美術的にも高い評価を得られたのか。そこは、漫画だけ読んでいては出てこない論だが、そこにこそ、本質があるのでは?
本書の価値は、まがりなりにも漫画研究本として、こういうものが出てきたという1点だけにあると思う。これを足がかり(サンドバッグ)にして、様々な研究評論が増えればいいよねぇ……
【おまけ】
ちなみに、この文章の読みづらさは、おそらくは口述筆記の拙さが原因でないかと思う。ところどころ、喋りの文章っぽい取り留めのなさがあるので、口述筆記をして校正するところが(どこかで)上手く行かずに、そのまま出版されたのかも。だからといって、フォローにはならないけれど!
あと、こんな本が出たおかげで、漫画評論や漫画研究の地位が墜ちるのが心配だったりする。真面目な研究者は、コツコツとやっているんだけれどね。著者の人もユリイカの荒木飛呂彦特集に寄稿するくらいの人だから、そんなに変ではないと思うのだが、どうしてこんなにトンチンカンになってしまったのだろうね??続きを読む投稿日:2014.01.14
ジョジョ好きなので、タイトルだけみて図書館で借りました。
他の方のレビューにもありますが、本の出来がとにかく酷い。
「ジョジョの奇妙な冒険」というタイトルを、文章の中でいちいち画期的な、とか超長編漫画…などという形容詞を付けるので、読者として疲れてしまいます。
論述にしても、話にまとまりがなく、論旨があちこちへ飛び、全体として何がいいたいのか意味が分かりません。
著者がジョジョ好きなことだけはわかりますが、自分の文章に酔っている感じで、かなり残念な本でした。続きを読む投稿日:2017.09.20
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