はじめて読む聖書
田川建三(著)
/新潮新書
作品情報
「史上最大のベストセラー」には、何が書かれているのか――。旧約と新約の比較やその成立背景、「新約聖書の個人全訳」という偉業に挑む聖書学者の格闘の歴史、作家や批評家がひもとく文学や思想との関係など、さまざまな読み手の導きを頼りに聖書に近づけば、二千年以上にわたって生きながらえてきた、力強い言葉の数々に出会うことができる。「なんとなく苦手」という人にこそ読んでほしい、ぜいたくな聖書入門。※池澤夏樹氏執筆の「II 読み終えることのない本」は電子版には収録しておりません。
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この作品のレビュー
平均 3.4 (14件のレビュー)
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このレビューはネタバレを含みます
[聖書を読む人を読む]名前はもちろん知っていても、実際にはその膨大な量からなかなか手が出ない人も多いであろう旧約・新約聖書。ユダヤ文化論等で知られる内田樹、新約聖書の個人全訳を手がける田川建三といった聖書のエキスパートたちが、今日においてもなお多大な影響力を様々に与えているこの両書について語った作品です。
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聖書そのものの解説となると、それ自体が自身から遠いものであったり難しいものと感じられるのですが、本書は聖書を読む人の関心や問題意識が主に記されているため、とっつきづらさがまったくない一冊でした。さらに関心を深めるためのブックリストも充実しており、題名にあるとおり、聖書が「はじめて」の人にぜひオススメです。
〜二千年たっているんだから、いろいろあって当然なんです。そのことを知っていただきたいんです。単に崇めたてまつりたい人にとっては、いろいろあっては聖典ではなくなるから困るでしょう。しかしそういう人には、御自分で御勝手に一つお決めになって崇めてください、と申し上げるしかない。しかし私は崇めたてまつる行為につきあうつもりはない、ということです。〜
これはめっけもんでした☆5つ投稿日:2017.06.07
このレビューはネタバレを含みます
聖書をどう読むか、作家や批評家が語る。
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作家の池澤夏樹は文学によく引用される箇所を中心に紹介する。クリスチャンでない者には「イエス・キリストというのはたいへん優れたスピーチライターであり、コピー…ライター」(p.33)と見ることもできるという。
旧約聖書研究者の秋吉輝雄は、「清く正しい」新約聖書に対して旧約聖書は矛盾の塊であると指摘する。それは、旧約聖書が時制のないヘブライ語で書かれているからであり、過去に起きたことを記述したというよりも「いままさに眼前で行われている」(p.56)ことを文書に重ねているからだという。「まだ結末が確定していない現在の話」(p.56)である以上、矛盾が内包されていても気にしない。これは、時制を区別するギリシャ語で書かれた新約聖書との大きな違いであるという。
哲学研究者の内田樹は、レヴィナス研究から聖書を読むようになったと語る。ホロコーストを生きのびたレヴィナスは、神の不在を説くようになる。これは単にユダヤ教を否定し無神論に走ったというわけではなく、彼はユダヤ教とはそのようなものだと解釈したのであった。つまり、「人が困っている時には助け、善行すれば報奨を与え、邪な行いをすれば罰を与える」というような神が存在するのだとすれば、それはもはや人が神をコントロールしていることになる。そうではなく、「神は地上の出来事には介入してこない」(p.76)のだと説いた。
そのほか、橋本治や吉本隆明も論考を載せているが、最も面白いのはやはり田川建三のインタヴューであろう。
新約聖書を研究していく上で彼はさまざまな読み方の可能性を提示する。それは、今現在の聖書の文面を絶対視する教会の考えとは相容れないものだ。田川によれば、当時の地中海世界ではギリシャ語が国際語として用いられており、したがって新約聖書もギリシャ語で書かれたが、しかし書いた本人にとってギリシャ語は母語ではなく第二言語であったりするため、ギリシャ語の文法や語法の誤ちが含まれているのだという。また後に西方教会がラテン語訳した際にも誤訳が発生した。こうした文法や語法の誤ちを指摘できるのは、彼がギリシャ語をはじめ様々な言語に長けているからだ。聖書の内容を唯一絶対とせず、古文書として批判的に読み込む彼の姿勢には共感を覚える。
インタビューの中では彼の人生もつづられている。彼の学生時代に始まりフランスやドイツでの研究生活、国際基督教大学(ICU)での学生運動、そしてザイール国立大学での生活など、すべてが興味深い。ザイール(現コンゴ民主共和国)では、白人の宣教師が語ろうとしなかった貧困についてあえて取り組んだという。学生に対して「幸いなるかな、貧しい者」と説いても、実際に貧困に苦しむ黒人の学生にとっては貧しさが幸いであるわけがなく、到底受け入れられるものではない。田川はこうした学生との対話を通じて、この言葉をどう理解して読んでいくべきかを語る。
「神を信じないクリスチャン」と書かれているが、彼は無神論者ではなく不可知論者であるため、正しくは「神を信じるとはいえないクリスチャン」というほうが正確かもしれない。神の存在を積極的に認めることはしない彼の考えが、このインタヴューから明らかになる。そして、それでは「クリスチャンになる」「クリスチャンである」ということはどういうことなのか、についても考えさせられる。続きを読む投稿日:2023.11.17
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