俘虜記
大岡昇平(著)
/新潮文庫
作品情報
著者の太平洋戦争従軍体験に基づく連作小説。冒頭の「捉まるまで」の、なぜ自分は米兵を殺さなかったかという感情の、異常に平静かつ精密な分析と、続編の俘虜収容所を戦後における日本社会の縮図とみた文明批評からなる。乾いた明晰さをもつ文体を用い、孤独という真空状態における人間のエゴティスムを凝視した点で、いわゆる戦争小説とは根本的に異なる作品である。横光利一賞受賞。
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この作品のレビュー
平均 3.9 (36件のレビュー)
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戦争に関する著書は、ノンフィクション、小説問わず数多くある。特に第二次世界大戦(太平洋戦争)に関する本は、星の数ほどあるだろう。その戦争の意義や勝敗の意味、その後の社会に与えた影響を分析する著作も枚挙…にいとまがない。では、それらの著作の中で、戦争の最中に敵軍の俘虜となり、虜囚として過ごした日々を克明に著したものがどれほどあるだろう。
戦いの記録は山ほどあり、我々はそれらによって日本も諸外国もいかに苛烈を極めた戦闘を繰り広げてきたかということを程度の差こそあれ知っている。だが、翻ってみると、戦争で捉われの身となった俘虜が収容所でどんな生活を送ったのか、ということについては意外なほど無知である。
著者がいうように、俘虜という身分はもはや「兵士」ではない。不謹慎を承知の上で戦争をゲームと例えるならば、俘虜はすでにゲームオーバーとなったプレーヤーが、ゲームそのものが終了するのを待つ身ということになるだろう。捉えられ、閑暇を貪る身となった者たちの日常を描く作品が極端に少ないのも、そう考えれば当然と言える。
俘虜となった者たちにも、しかしながら等しく日常は存在する。戦闘に明け暮れる兵士たちの日常がすなわち戦争であるが、俘虜となりもはや戦争への参加を許されない身分となった者たちが、ただひたすらに戦争が終わり、帰還できる日を待ちわびる日常もあるのだということを、『俘虜記』は教えてくれる。
俘虜の一人に大岡昇平という人物がいたことの幸運を、我々は喜ぶべきかもしれない。大岡氏は俘虜という閑暇に満ちた生活を、冷徹に観察し、つぶさに記憶し、静謐に描いたのだから。こうして内部に身を置いた者以外にはほとんど知り得ない俘虜の生活が、本作によって詳らかにされたのである。米軍以外の俘虜となったり、他の収容所に幽閉されたりすることでの違いはあっただろう。それでも、俘虜の生活という一見怠惰にも見える日常を生きいきと、克明に描き、その中から米軍と日本軍の、つまりは米国と日本の(当時の)考え方の違いは浮き彫りになる。
大岡氏はさらに、俘虜の生活を描く中に、自身の省察を挟み込む。例えば俘虜生活の観察を通して、日米の違いを感じ取り、日本軍の敗戦について確信に近い予感を得ていた。俘虜となった絶望、あるいは怠惰に流された生活を送っていただけでは、これらの洞察は得られない。虜囚の身となりながらも、自己を含めたあらゆるものを客観視して、分析できる冷静さを備えていた大岡昇平に対して、だから私は快哉を叫びたい。
抑制の効いた文章は、ドラマティックな展開を期待することなどできようはずもない俘虜の生活がテーマゆえ、時に退屈を感じる人もいるだろう。それでも、「俘虜」という戦争がある以上、おそらく永遠に残り続ける身分とその生活をつぶさに記録した作品として、『俘虜記』を読むことは貴重な経験となったと思う。続きを読む投稿日:2020.03.24
俘虜となる過程、俘虜としての収容所での生活が描かれている。俘虜として、責任も目的もなくなったことにより、人間の醜さ、エゴイズムが露呈する。
平和で生活が快適であるからそれぞれの穏健な性格を保つことがで…きているだけで、人間の本質は実際このようなものなのだと思う。
震災時の避難所等でもこのようなエゴイズムが露呈すると聞く。ある所から逸脱した時、人間はいくらでも醜くなるものなのだと思う。そんなことを見つめさせられる本だった。続きを読む投稿日:2024.04.23
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