【感想】俘虜記(新潮文庫)

大岡昇平 / 新潮文庫
(36件のレビュー)

総合評価:

平均 3.9
10
11
7
1
1

ブクログレビュー

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  • Chanrisa

    Chanrisa

    俘虜となる過程、俘虜としての収容所での生活が描かれている。俘虜として、責任も目的もなくなったことにより、人間の醜さ、エゴイズムが露呈する。
    平和で生活が快適であるからそれぞれの穏健な性格を保つことができているだけで、人間の本質は実際このようなものなのだと思う。
    震災時の避難所等でもこのようなエゴイズムが露呈すると聞く。ある所から逸脱した時、人間はいくらでも醜くなるものなのだと思う。そんなことを見つめさせられる本だった。
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    投稿日:2024.04.23

  • szk134

    szk134

    第二次世界大戦中にフィリピンで戦い俘虜になった作者が、自身の経験を綴った体験記

    大まかな構成としては、俘虜として捕まるまでと捕まった後に大きく分けられ、俯瞰的な視点から、教養に溢れた文体で自身が観た光景とそこから作者が得た解釈を記載してます。私の視点からすると差別的な表現が一部入っているのは気になりましたが、当時としては、これが一般的な感覚だったのでしょう。
    ネットで見た情報では、大戦中の日本兵俘虜の死亡率は10%程度と書かれていましたが、とてもそんな過酷な感じはしませんでした。俘虜になった場所で待遇が違ったのか、それとも通訳を行っていた作者が恵まれた場所に移送されたのか分かりませんが、想像するに、これより遥かに過酷な収容所もあったでしょうし、これが一般的な対戦中の俘虜の状況かは疑ってもよいかもしれません。
    何にせよ、作者の筆の力は凄く、その文体だけでも引き込まれるものがあります。作者は特別に才能があったのでしょうが、戦前•戦中のインテリ層の教養の高さを思い知らされました。
    個人的には俘虜になる前の描写が、最も印象的で、些細な判断が自他の命運を分ける場面や、死を確信した後に撃てる敵を撃たないと決めたときの心情描写などが、読後も心に残りました。
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    投稿日:2024.04.17

  • 鈴華書記

    鈴華書記

    敗北がもたらす堕落を端的に示した作品で,まさに戦後文学を代表するものと言える。これぞ去勢だなと。後半になるにつれてユーモアが増して弛緩していくにつれ,前半の不殺のテーマが張り詰めるといった構成を感じた続きを読む

    投稿日:2023.08.31

  • Paody Right

    Paody Right

    太平洋戦争。フィリピンのミンドロ島へ出兵した筆者。そこで米軍に捉えられ捕虜となる。その体験を記した本書。殺せたはずのアメリカ兵をなぜ撃たなかったのか?なぜ自殺ができなかったのか?その問いをつぶさに、自分自身にぶつける誠実な手記。続きを読む

    投稿日:2023.07.11

  • bon appetit

    bon appetit

    戦争文学の傑作。
    戦争の最中に起きた筆者自身の心情や自分の行動を緻密に分析、客観視している。
     本書の特徴は筆者の冷静さである。感情的な言葉で表せられることが多い戦争の事実や心情を彼は冷静に見つめ直し、表現している。
     私のような戦争未経験者が戦争に触れるとき、"必ずしも"激しい怒りや悲しみを感じるわけではない。「直接経験していない」ことが常に我々に一定の冷静さを与える。本書における筆者の態度は戦争の悲惨さに対してある程度冷静にならざるおえない私の心情に近く、それが本書を読みやすくしている。激情や悲しみ、怒りを伴わずとも我々は置いてけぼりを食らわなくて済む。
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    投稿日:2022.12.10

  • 1519342番目の読書家

    1519342番目の読書家

    なかなか難解な小説である。泥水を啜り、人肉を食しながら生存した兵士の戦争体験物語を想像するなら、全く見当違いである。
    作者は会社員を経て、京大卒のスタンダールやドストエフスキーの研究者であり、批評家でもあった。
    本作品は、氏の鋭敏な感性で自己の戦争体験を細密に分析した戦争文学である。
    大岡昇平は、昭和19年7月に応召し、フィリピンのミンドロ島で暗号手となり、その後前線要員となった。
    戦闘中マラリアにかかり朦朧としてジャングルを彷徨う中で米兵と遭遇した際、「米兵を撃てなかったことに対する緻密かつ誠実な省察」は名高い。
    戦争と言う異常な体験記が、しばしば誇張に陥りがちな中で、大岡の眼は事実を客観的に捉えており、批判的に考察する姿勢を失っていない。
    米兵に捕らえられ、その後の病院そして収容所における生活は日本軍で受けた教育とは異なり民主的な扱いで、ニューギニア方面で玉砕した多くの日本兵と比べれば幸運であった。
    しかし、収容所のなかでの俘虜同士の関係や支配者である米兵との関係は、大岡の眼には「米軍占領下に虚脱した日本の縮図」として映る。大岡は収容所で英語力を活かして通訳も買って出ていたので、米兵に阿諛せざるを得ない相剋を感じていたようである。
    本書は、生々しい戦闘場面よりも、戦場や俘虜収容所における兵士の心情に力点が置かれている。そういう意味では、極めて哲学的な文学作品と言え、やや難解な部分が随所に見られる所以である。
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    投稿日:2022.09.09

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