この作品のレビュー
平均 3.5 (4件のレビュー)
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宮川淳『美術史とその言説』
『シミュレーショニズム』
『探偵小説と記号的人物』
音楽批評
・音の形容・修飾
・感動の表現
・資料的なバックアップ
三浦俊彦『環境音楽入悶』
大谷『貧しい音楽』
近藤…『線の音楽』
ケージ『サイレンス』
サイード『音楽のエラボレーション』
テオドール『不協和音 管理社会における音楽』
秋山『現代音楽をどう聴くか』続きを読む投稿日:2022.06.30
「どんな表現の仕方とかどんなシステムを通した形の表現行為なり創造行為なりであっても、それぞれのジャンルとかスタイルとかの個別性っていうものとは別の部分で『同じ何か』があるんだ」(12頁)
何気なく…閲覧していただけで財布の状況を逼迫させる“死の密林”ことAmazonから届いた本の序盤にこのような1文があって、「買って良かった(かもしれない、少なくとも現時点では)」と安堵した。
この著者の別の著作は講談社現代新書『ニッポンの思想』で読んでいたけれど、あれはガイドみたいなものだったから、この人の「節」はごく少量しか発揮されていなかったのではないだろうか。
このような文章を書いていることもその一貫なのかもしれないけれど、本書を一読して、「批評」というものに対して前々からいくらか思っていたことに関してのある程度の「応え」が文章化されていると感じた。それは例えば、
対象に対して何かの距離を導入することが批評なんだと思います(16頁)
批評は自己表現じゃないけれども自己表出は避け難い(23頁)
自分にとって良いと思うか悪いと思うかっていうことには、相対評価を支える量的な体験がなくてもまずあるんだと思う(25頁)
価値判断とか良い悪いっていうことの先に「批評」がある(30頁)
作り手が思ってもいない、だが言われてみると自分自身そうとしか思えないようなことを指摘出来るのが批評(33頁)
何かをはっきり定義するっていうことじゃないことが「批評」(46頁)
といったような言葉が散見されることに起因する。これらの文章を読んで「信頼に足る」という印象を受けたのは、おそらく著者が「批評という行為に対してある程度の距離を保ちながら「批評」している」からだと思う。矛盾するかもしれないが、このような「対象への愛を持ちつつ極力相対化して評価をする」という姿勢に共感したのだろう。
「批評」へのそのような姿勢を示したあとは、音楽、映画、文芸と各ジャンル毎の「批評」について述べている。
先ずは音楽批評。
著者は音楽に関して「ノイズ・ミュージック」や「インプロ(即興)」等の方面の豊富な知識をもっているようで、この章に出てくる日本人あるいは外国人の固有名詞はその畑の人たちが多い(たぶん)。
音楽はどうしても「物語」や「テーマ」には還元できないものであるとして、音楽をめぐる言葉について考察している。音楽とは「聴くもの」であるから、うだうだ言葉にする必要もなくて「聴けばいいじゃん」というある種の「真理」に対して、言葉をどのように生き延びさせるかということを問いながら批評をするのだと述べる。
単純に、この音楽は良いってことを言うだけじゃなくて、これが良いとはどういうことなんだろうと考えてみるのが音楽批評だと僕は思います。(71頁)
続いて映画批評。
この章は、著者の批評家としての原点が「音楽雑誌のなかで映画のことを書く」という話から始まる。
ここでは、映画批評というものに圧倒的な影響力を今なお持ち、著者も多大な影響を受けたとして蓮實重彦についてかなりの頁を費やしている。
蓮實重彦はもともとは文学者である。それゆえ映画批評だけでなく文芸批評もやるのだが、この本に限らず、日本における「批評」というものにとても大きな影響を及ぼした人物の一人として語られることが多い。
本文中にもでてくるが、その影響を受けて現在映画監督として活躍している人もいる(教え子には『Shall we ダンス?』の周防正行、黒沢清、青山真治など)。
蓮實重彦については、個人的にも前々から著作を読んでみたいと思っていたが、まだ作品に手をのばせていない。そのうちにここで取り上げるかもしれない。
われわれの今起きている現実っていうのは、何かわからないけれどベタにずっと続いているんですよ。それを無理矢理、有限の時間と空間の枠に当てはめるのが映画だと思うわけです。
次は文芸批評。
このパートで序盤に述べられるのは小林秀雄。この人も先の映画批評の蓮實のように大きな影響力をもった人物として紹介される。
その他、この章で面白かったのは小説家による小説論について言及していたところだ。
小説の作り手が批評を書くことに対して、「作り手の視点」と「読み手の視点」について考えるなかで、「批評≒小説」という図式の小説『残光』を書いた小島信夫を取り上げていた。
そのことに関連して、著者は
文芸批評は必ず何か文芸作品について書いているのだけれども、それ自体が文芸になってしまったらそれは批評なのかという問い(171頁)
が一貫してある。ということを述べていた。
この後のその他のジャンルの批評としては、マンガ、演劇/身体表現、オタク、美術など。
ザーっと大雑把に内容をみてきたけれど、総じて言えばこの本は知的な刺激に富む良い本であった。
主に先に示したような音楽、映画、文芸の日本の批評の歴史をひもときながら、「批評とは何か」について答えるという本書の作りはとても親切でもあるし、冒頭にも書いたけれど、著者佐々木氏の相対的な視点にも信頼を寄せることが出来る。
著者は本書でしきりに「ジャンルを貫通する批評」ということを記していた。「横断」ではなく「貫通」であることを強調していた。
このような言葉が序盤にあったからこそ、俺はこの1冊をガッツリ読み終えることが出来たのだろう。
その詳細は本文にゆずることにする。
「批評」そのものについて書かれた本を読むのは本書が初めてであったが、腹十二分くらいの内容だ。
ごちそうさまでした。続きを読む投稿日:2012.12.05
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