田中角栄の昭和
保阪正康(著)
/朝日新書
作品情報
昭和の時代は3人の首相で総括できる。東条英機、吉田茂、そして田中角栄だ。田中とは、いったい何者だったのか? 時代によってつくられ、時代をつくりかえた政治家。大衆の欲望を充足させた、悲しき代弁者。死したのちにも強力な「遺伝子」を残した絶対権力者――。昭和史研究の第一人者が異能宰相の軌跡を検証し、歴史のなかに正しく刻印する!!
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商品情報
- シリーズ
- 田中角栄の昭和
- 著者
- 保阪正康
- 出版社
- 朝日新聞出版
- 掲載誌・レーベル
- 朝日新書
- 書籍発売日
- 2010.07.30
- Reader Store発売日
- 2013.01.25
- ファイルサイズ
- 2.8MB
- ページ数
- 408ページ
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この作品のレビュー
平均 4.1 (12件のレビュー)
-
田中さんは自分の軍隊体験を国名に話していないし、書いてもない。戦争なんかで死ねるか、と思っていた田中は決して日本を軍国主義にしない、それだけは断言できる。
日本の首相でもっとも対米貢献したのは田中角栄…。日本研究のためにアメリカの大学に奨学金を出した。いずれ彼らが田中を評価するだろう。
田中は大日本帝国が崩壊したという虚脱感もなければ、国家の行く末を案じるという思想的、鉄学的な悩みも持っていなかった。自らの利益に忠実であるという確固とした信念だけをもって、田中は生きていた。
田中ですら、最初の選挙では落選している。
田中の同期は中曽根、鈴木善幸。
田中は国を動かす要ともいえる大蔵省の人脈図を池田を通して、常に確認していたことになる。田中は官僚の不得手を理解していた。それは言葉の使い方が下手ということ。田中は10代半ばから社会に出て辛酸をなめていたがゆえに、田中が言葉を武器として用いていくのはそのことを自覚していたから。
田中は、権力よくに加えて金銭よくが人間そのものの弱点になるということをよく理解していた。
田中角栄という人はよくも悪くも、戦後日本を体現したシンボル的存在だった。田中の成金的成功は、戦後日本の成金的成功の反映であった。
国民の欲望そのものを田中は代弁していた。信念や理念より目に見え手にとることのできるカネやモノに新らを寄せる国民の心理的、文化的レベルを田中は正直に私たちに見せつけた。続きを読む投稿日:2010.08.13
今まで読んだ田中角栄についての本の中で、一番中立的な立場で書かれた本だったような気がする。身内の人が書いた本は当然のように角栄氏の政治家として人間としての素晴らしさを称賛する内容が多い。親族が書いた…本は時の人の親族になってしまったがゆえにものすごく大変な思いをしたことによる苦しみとか悔しさについて書かれていて、でもその裏にやっぱりなんだかんだ言ってもすごい人だったんだなあという畏敬の念みたいなものが透けて見えるように感じた。一方、田中の金脈問題を暴いた立花隆氏の本はこれまた当然のように全てを白昼の元に曝け出してやろうとうう強い意志や執念のようなものを感じて、まあその気持ちもわからなくもないけどあなたのその素晴らしい正義感が突っ走れば突っ走るほどなかなか困るというか悲しい思いをする人もいるわけでですね、という完全に身内贔屓な複雑な気分にもなった。
翻ってこの本は、巻末の解説で著者ご本人もおっしゃっているように、田中角栄に惚れ込むつもりも、完全に敵対視しているわけでもなく、ただ淡々と史実を詳らかにし、当時の関係者に話を聞き、それをニュートラルに分析しているという印象を持った。綺麗事を言うよりも物質的豊かさを求める国民の欲望に忠実に寄り添った政治家であったこと。そのために危ない橋を何度も渡り、中には危ないどころではない橋もあったかもしれなかったこと。でも田中自身はそれを終始一貫して真っ向から否定し続け、裁判で明らかになるかもしれなかった真実は田中の死によって迷宮入りしてしまったこと。数々の疑惑を否定し続けた田中の言葉は必ずしも全てが嘘だったわけではなく、莫大な権力と金を有したが故に敵対勢力や外国からの罠や策略にはめられてしまった結果だという見方をする人も実際に少なくはないということ。
わたしは、ロッキード事件の賄賂のことを「何も知らない」と言う田中の言葉は信じられない。んなこたぁないでしょうと思う。それでも、小卒から国会議員に成り上がり、想像を絶するような金脈を作り上げ、首相になって一時は歴代最高支持率を記録したり、突然毛沢東と会って日中の国交を正常化したり、当時各国から恐れられていたソ連と対等に渡り会ったり、なんかほんと規格外というか、そんなことできる人やっぱり他にいなくない?とも思う。政治家は、というか誰しもきっとクリーンに生きるべきなんだと思う。でもクリーンを貫いていたらいつまで経っても成し遂げられない大きなこともあって、田中はそこの境界を、国民の欲望を(そしてあるいは自分の欲望を)満たしてあげたいという思いがあまりに強かったから、踏み越えてしまったのかなあと思った。その結果やっぱりそれはダメでしょって言われて逮捕されてしまって、この本も最後の方は読んでいて本当に辛いというか切ない気持ちになったけれど、そういうエンディングになってしまった。でもその危ない橋を田中が渡ってくれたことこそが昭和後期の日本が新しい方向に向かって進む起爆剤になったんだとしたら、そんな頭ごなしに全否定することもできないよね、と思う。
支離滅裂。でもとにかく、会ってみたかったなあ。会って、どんな人だったのか話してみたかった。そしたらきっともっと好きになってたんだろうなあ。歴史をもっと冷静に見られなくなっていたかもしれない。なんにせよ、30年。30年遅かったんだよなあ。続きを読む投稿日:2022.11.25
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