傭兵ピエール 上
佐藤賢一(著)
/集英社文庫
作品情報
十五世紀、百年戦争下のフランス。王家の威信は失墜、世には混沌と暴力が充ち、人々は恐怖と絶望の淵に沈んでいた。そんな戦乱の時代の申し子、傭兵隊を率いる無頼漢ピエールは、略奪の途中で不思議な少女に出会い、心奪われる。その名は――ジャンヌ・ダルク。この聖女に導かれ、ピエールは天下分け目の戦場へと赴く。かくして一四二九年五月六日、オルレアン決戦の火蓋は切られた・・・・・・。
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商品情報
- シリーズ
- 傭兵ピエール
- 著者
- 佐藤賢一
- 出版社
- 集英社
- 掲載誌・レーベル
- 集英社文庫
- 書籍発売日
- 1999.02.19
- Reader Store発売日
- 2012.06.15
- ファイルサイズ
- 0.4MB
- ページ数
- 512ページ
- シリーズ情報
- 既刊2巻
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この作品のレビュー
平均 4.0 (44件のレビュー)
-
凄惨な過程があるからこそ心に沁みる純愛物語
際どいな、といつも思うのだ。佐藤賢一の小説における性描写。
とにかく、出だしの陵辱シーンから衝撃的だ。しかもそれをやっているのが主人公の部下で、憤るでもなんでもなくそれが日常であるように描いているのだ…。
普通に女性なら吐き気がする場面だ。正直、好きじゃない。だが、本作品においては、必要性があって描いているのだと感じた。
というのは私、そうした毒気を抜き取った宝塚版の『傭兵ピエール』を見たら、何が言いたいかわからないお話になっていると思ったから(←宝塚ファンでキャストも好きだったのだが・・・)
歴史小説は、現代人が読むためにあるものであるから、現代人の価値基準とかけ離れすぎてはいけない。
が、同時にあまりにも現代的でありすぎれば、それは「歴史」小説ではない。
佐藤賢一はいつもその際どい綱渡りをしているように思う。
粗野で身勝手で人権意識のかけらもない(当たり前)傭兵たち。
現代人からみたらとんでもない光景が続くが、その中に、我々も抱く普遍的なものが見えたときに、歴史小説が歴史小説として輝くのだろう。
中世ヨーロッパの傭兵というものがどんなものであるかは、ある程度は知られているのだろうか。
略奪、放火、強姦・・・。西洋中世史を専門とする佐藤氏は、本当に容赦なく傭兵たちの「悪行」を描く。
たとえ、それが主人公であっても。
主人公ピエールは傭兵であり、物語冒頭からいわばBC級戦犯のような存在だ。
が、そんな彼も恋をする。
相手は救世主ラ・ピュセル―ジャンヌ・ダルクだ。
大まかなストーリーとしては宝塚で上演できるような純愛ものなのだが、
その過程は文章にすることもはばかられるほど凄惨なものだ。
戦争で最もつらい思いをするのは民である、といろいろな歴史物で語られているけれど、
この物語で胸に突き刺さるのは、「民」であるピエールのような存在もまた、加害者になるのだということ。
始めはエキセントリックな少女にしか見えなかったジャンヌが、
どんなときに「聖女」に見えたのか。罪とは、許しとは・・・
核心とも言える部分、凄絶な暴力を削ってしまってはよくわからなくなってしまう。
不思議なことだが、そんな凄惨なシーンを経て、
最後に感じるのは、何とも言えないすがすがしさと、一抹の皮肉さ。
ちょっと強引なハッピーエンドではあるけれど、根底のところにある人間性への信頼というか、肯定があるのだと思う。
でも、全肯定はしない、笑顔とため息で締める。そこが良い。
本質的な重さと、テンポとしての軽さが両立するところが佐藤賢一のすごいところ。
続きを読む投稿日:2014.11.19
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美女と「殺す野獣」
舞台は百年戦争時代のフランス。傭兵隊長の主人公が救世主ジャンヌ・ダルクと出会い…とあれば、重厚な合戦シーンや政治劇を期待される向きもあるでしょう。しかし、それならば、同じ作者の「双頭の鷲」をお読みくだ…さい。
本作品は、主としてピエールという一個人の人生についてのお話です。
以下、ピエールとジャネット(ジャンヌ)の人物像をまとめますので、何か惹かれるものを感じた方は、本作品を開いてみてください。
(1)村を襲う本当の「野獣」
ボーモン夫人の「美女と野獣」という寓話はご存知でしょうか。あの「野獣」は、恐ろしいのは見た目だけ。「愛される」という条件に縛られ、お姫様のように城で恋しいベルの帰りを待つ、いわば草食系の獣なのです。
「傭兵ピエール」の主人公は、百年戦争時代の傭兵隊長(シェフ)です。見た目は騎士のように格好よいのですが、その実体はフランスの豊かな田園を荒らす悪鬼のような存在です。襲われた村人からすれば、こちらが本当の野獣。しかし、このピエールは優しい男でもあります。仲間が増えるほど、甘くなってゆく。かといって、仲間との絆が第一という世界には収まりません。重大な局面では単独行動、仲間もぞっと凍りつかせる「シェフ殺し」に変貌します。
(2)救世主は「あるべき女」
ピエールが出会い、引かれ合う相手がジャンヌ・ダルク。こちらは目の前の現実より「こうあるべき」を見る女です。思い込んだら即突撃!その熱意で、野獣のような傭兵隊を愛国の勇士に変えてしまいます。
しかし救世主の「中の人」であるジャネットは、戦う方法も知らない田舎娘にすぎません。戦争の現実に触れて怯えています。内心の怯えを隠すため好戦的になり、さらに傷つきます。ピエールにも「助けて」と声に出しては言えません。
せっかく側にいたのに、健気に各々の職分を尽くす二人。無言で気持ちを通わせながらも、結局、頑張って別々の道を選んでしまい、上巻は終わります。
そんなに頑張るな、欲しいものは素直に欲しいと言いなさい!と他人は言いたくなります。でも当事者としては、こうなるのもわかる。わかるだけに、辛い別れも、下巻の無茶苦茶な大暴れも、飲み込めると思うのです。
いかがでしょうか。この人たちの物語を読んでみたいと思っていただけると嬉しいです。
(おまけ)下巻、ピエールの選択の是非
私は長年、この作品のラスト、ピエールが「会心の笑み」を浮かべるシーンが大好きでした。
しかし改めて読み返すと、疑問もあります。ジャネットに黙ってそうあることは、果たしてベストといえるのか。バレたら、怒られるでは済まない気がします。
最後まで読み終えた方は、ぜひ考えてみてください。続きを読む投稿日:2017.06.22
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