未完の肖像
アガサ・クリスティー(著)
,中村妙子(訳)
/クリスティー文庫
作品情報
愛に破れた女は幸せに背を向けて生きるすべをおぼえるのか??何不自由なく育ったシーリアは、結婚に破れ、絶望の淵に沈み込んだ。幼い娘を抱えて生きなければならなくなった彼女は、なにゆえ愛を避け、ひとりで歩もうとするのか? 女の愛の哀しさを絶妙に描く、クリスティーの「愛の小説」。
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商品情報
- シリーズ
- 未完の肖像
- 著者
- アガサ・クリスティー, 中村妙子
- 出版社
- 早川書房
- 掲載誌・レーベル
- クリスティー文庫
- 書籍発売日
- 2004.01.15
- Reader Store発売日
- 2012.01.13
- ファイルサイズ
- 0.5MB
- ページ数
- 560ページ
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この作品のレビュー
平均 3.8 (14件のレビュー)
-
ノンシリーズ(メアリ・ウェストマコット編)。
想像力が豊かで内気なシーリアは、優しい母親・ミリアムや、周囲の人々に温かく見守られて不自由のない少女時代を過ごします。
やがて、美しく成長したシーリアは…、穏やかで堅実なピーターと婚約していたのにも関わらず、突如現れたダーモットから猛アプローチを受けるうちに、彼に惹かれていき・・。
本書はメアリ・ウェストマコット名義で描かれたロマンス小説(ミステリでない方のクリスティー)シリーズの一つで、クリスティーの自伝的な内容といわれているようですね。
冒頭では、とある肖像画家が、今にも自殺してしまいそうな女性(シーリア)と知り合い、その彼女から聞いた半生を“知人の作家・メアリー”に物語にしてほしいと依頼する、というところから入っていて、そこからシーリアの長い物語が幕を開けるという構成です。
シーリアの子ども時代にかなりのページが割かれていて、そこがちょっと冗長に思われがちですが、ここで彼女のバックボーンがしっかりと描かれていることによって、その後の展開におけるシーリアの価値観への理解に繋がるのかな・・と思いました。
そして、問題の(?)ダーモットが登場してからはもう危惧した通りの展開というか、無駄だとわかっていても、シーリアの母・ミリアムと同じような気持ちで“ダーモットはやめておけ!”と思いながら読みました。
ダーモットの“やめておけポイント”は無数にあるのですが、個人的に最も“コイツはアカン!”と思ったドン引きポイントは以下の場面です。
↓↓
ダーモット「・・約束してくれたまえ、いつまでも美しいままでいるって」(←は・・?)
シーリア「でも、もしあたしが美しくなくなっても、愛してくださるでしょう?」(←頑張れ、シーリア!)
ダーモット「そうはいかないよ。同じというわけにはね・・以下略」(←おいおい!お前もオッサンになるだろうが!そこは棚上げかい!)
・・と、このような身勝手なダーモットと夢見がちなシーリアとの結婚生活は、お互いが未熟だったということもあると思いますが、最初から危なっかしくて見てられない感じでした。
さらに、最高の理解者だった母・ミリアムの死で消沈していたところに、ダーモットから離婚を切り出されるというダブルパンチですっかり病んでしまったシーリアが痛々しくて、読んでてしんどかったです。
因みにこの辺りは、クリスティーの“失踪騒動”の原因となった事情とも重なりますよね。
そんな訳で、後半は結構しんどいシーリアの半生でしたが、クリスティーの巧みな人間描写で綴られているのもあって、なかなかの読み応えでございました。
あと、冒頭に登場した謎の肖像画家と、本文中に度々シーリアの妄想(?)に出てきた“切り株のような腕”という暗示が終盤で繋がってきたのもゾクっとさせられましたね。
ミステリとはまた違った味わいの、メアリ・ウェストマコット名義で描かれたロマンス小説(?)シリーズは、この作品の他に五作(全六作品)あるとのことなので、また追々読んでいきたいと思っております~。続きを読む投稿日:2024.04.25
このレビューはネタバレを含みます
シーリアという女性の半生が描かれている。
レビューの続きを読む
優しい両親や、前時代的だがよき理解者である祖母に愛され、シーリアは満ち足りた幼少期を送る。父の死で一家は傾くものの、美しく成長したシーリアには数多の男たちが言…い寄ってくる。そんな中でシーリアは、のんびりして包容力のあるピーターの求婚を受ける。シーリアには慎重に結婚相手を決めてほしいピーターは、外地勤務の終わる2年後まで結婚を待つように言って旅立つが、その間にダーモットが現れる。結局シーリアは、ピーターとの婚約を破棄してダーモットを選ぶことに。
優しくて魅力的なダーモットとの間に娘も生まれ、シーリアは幸せだった。だが、幸福に思われた結婚生活にも次第に翳りが見え始める。シーリアの中に積み重なっていくダーモットへの小さな不満が、現代的な感覚から見ても非常にリアル。また、娘のジュディーとの不和も胸を締め付ける。このあたりは『春にして君を離れ』にも見られるクリスティの母娘観に通ずるものがある。
どんな時でも味方でいてくれた母ミリアムの死を契機にシーリアの人生は瞬く間に暗転し、ついに破局を迎える。
1年を「長過ぎる」と言って待つことができないダーモットが、選ばなかったピーターとの対比になっている。
選ばなかった後悔や人生の悲哀、虚しさが凝縮されており、シーリアの、繊細で優しいが故の苦しさが読者にダイレクトに伝わるところもこの作品の大きな特徴である。
愛さえあれば、という幻想を真正面から打ち砕く冷徹さ。500ページを超える長編なので、時間をかけてゆっくり読み進めることでより一層シーリアの人生を垣間見ている感覚を味わえる。ダーモットがシーリアに言った「いつまでも美しくいてほしい」という呪いの言葉にゾッとした。続きを読む投稿日:2024.06.18
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