
隠れていた宇宙(上)
ブライアン・グリーン,竹内薫,大田直子
ハヤカワ文庫NF
「わからない」ということに思わずニヤニヤできる、最先端物理学という名のエンターテインメント
書かれている言葉はわかる。できるだけ平易な言葉でわかりやすく説明してくれていることもわかる。それでも、そこで描き出されたもの、自分が見たものが何だったのかを全く説明できない、という体験ができる本です。 最先端物理学が描き出す「もしかすると宇宙というのはたくさんあるかもしれない」という現実を、超ひも理論の第一人者の1人が懇切丁寧に解説してくれます。そこでは、インフレーション理論、量子論、超ひも理論などの様々な理論が、それぞれ別の多宇宙の存在を示唆していることが順序よく示されます。 描き出される「リアリティ」に圧倒され、ワクワクし、楽しめるのは確かです。それでも理解はついてきません。誰かに「で、何を見たの?」と言われたところで、「いや・・・なんか凄いモノを見たんだよ」としか言いようのない、捕まえそこなった何かにもどかしくなる読後感です。 万人受けする本ではありませんが、「ヒッグス粒子発見」といったニュースに興味を持った方ならばニヤつきながら読めるのではないでしょうか。最先端物理学の周りをかすめ飛ぶような旅をしてみませんか?
4投稿日: 2014.06.29
土の科学
久馬一剛
PHPサイエンス・ワールド新書
思わずぞっとする、「土の希少性」について教えてくれる本
土、とくに生物圏の一部である、「土壌」についての本です。 単なる岩石としての「土」と、生きた資源である「土壌」との差から始まり、その成立過程や自然の中での位置づけ、農業を通しての人との関わり、現代文明が与えている影響と、順を追って話を展開してくれます。 話の中で見えてくるのが、「土の希少性」です。土壌というものが自然の中で長期間かけて造られてきた、複雑で巧緻なものであること。人類はそれを造るどころか、保全する技術すら完全には持たないことなどが示されます。 現代の人口増が食料増産の要求になり、それが土壌からの過剰な収奪につながっているという現実。そして、古代文明の多くが土壌荒廃により滅んでいるという事実。これらを示されると、現代文明は生き残れるのかと薄ら寒い思いがしてきます。 ジャレド・ダイアモンドの「文明崩壊」あたりと併せて読むと、いっそう考えさせられること間違い無しの本です。おすすめ。
1投稿日: 2014.03.31
夜来たる
アイザック・アシモフ,川村哲郎,仁賀克雄
グーテンベルク21
宇宙船もサイバー技術も出てこない、まさにハードSFといえる短編
舞台はとある天文台。どこかルネサンス期を思わせるような雰囲気です。しかし、人々の会話が、行動が、どこか「変」なのです。「アタリマエ」とか「ジョーシキ」とか「ヒツゼン」なんて言葉は、所詮は特定の文化や文明の産物に過ぎない(それが人類全体の常識であっても!)ということを、がつんと叩きつけてくれる本です。 読んでいて引きずり込まれる「パニックもの」として楽しむもよし、アシモフならではの皮肉にニヤニヤするもよし。SFの楽しさを存分に味わってみてください。
4投稿日: 2013.12.01
渚にて 人類最後の日
ネヴィル・シュート,佐藤龍雄
創元SF文庫
とても平穏な日々を描きつつ、怖さと寂しさを感じさせてくれる本
1950年代、終末戦争の危険性が最も高まっていた時期に書かれた、「終末戦争後」を描いた古典的名作です。 南半球にわずかに残された「人がまだ住める地」で、人々は最期の時が数ヶ月後に迫っていることを知ります。あるものはそれまで通りの生活を続け、あるものはあきらめていた趣味に没頭し、来年の夢を語り、新しい挑戦を始め・・・・。絶対に助からないという諦観と、口には出さない楽観がないまぜになり、静かなのに、にじみ出てくるような怖さと寂しさを体感させてくれます。良書。
3投稿日: 2013.12.01
「ものづくり」の科学史 世界を変えた《標準革命》
橋本毅彦
講談社学術文庫
ものづくりの「はてしない物語」を感じさせてくれる本。
「互換性と標準化」という、裏方な技術(思考?)を題材としている本です。そのためか、世界大戦やT型フォードの登場といった表側のイベントの、新たなつながりが見えてくるような本でした。 本書には、互換性・標準化が求められることになった背景や、それを人々に痛感させることになったエピソードが数多く登場します。また、互換性や標準化が進んだからこそ可能になった、後のエピソードの存在も語られます。 読んでいて、「このエピソードはどんなだったのだろう?」「この技術の詳細はどうなんだろう?」と、本書の周辺が次々と気になってくる、そんな本でした。
3投稿日: 2013.10.20
渇きの海
アーサー・C・クラーク,深町眞理子
ハヤカワ文庫SF
「今からでも映像化して欲しい」と思わせてくれる1960年代のSF
初版は1961年。ジョン・F・ケネディ大統領が月への到達を公約した年に書かれた月世界旅行の本です。これからアポロ計画が始まる、って時ですね。この手の本は時代が進んでベースとした仮説が間違いだとわかると一気に魅力を失うものですが、そんなことが全くないあたり、さすがはクラーク、といったところです。 さて、本書の舞台は「月面遊覧船」です。とても細かくて軽い月の砂が重力作用によって集まった水無き海。あまりの流動性に重い物を支えることができず、そこには専用の「船」でなければ入れません。ここで起きてしまった事故に対応する人々の活躍。それが本書のメインプロットです。 で、それは読んで楽しんでもらうとして。ここに出てくる描写がとても美しいのです。放物線を描いて音も無く舞い散る砂。白と黒にくっきりと色分けされたクレーター。稜線にかかる地球。などなど。「この人、実際に見てきたんじゃなかろうか」と思わせる書きっぷりに魅了されます。 「現実ではあり得ない」なんて瑣末事はひとまずおいて、月世界旅行を堪能してみてはいかがでしょうか?
4投稿日: 2013.10.14
リーダーの本当の仕事とは何か
ダグラス・コナン,メッテ・ノルガード,有賀裕子
ダイヤモンド社
「周りがうまく動いてくれない・・・」そんな悩みを持つ方におすすめの一冊
日々の仕事に割り込んでくる、部下や上司、顧客とのちょっとしたやりとりー「タッチポイント」こそが、リーダーが本当に注力すべき仕事だと説く本です。タイトル通り、リーダーを対象とした本ですが、平社員だろうが、相方にうまく動いて欲しい専業主婦・主夫だろうが、役立つと感じる本でした。 タッチポイントでは、何よりも「相手が自分に何をして欲しいのか」を知ることが最重要で、それを受けて「誰が何をするべきか」を明確にし、「その後どうなったか」をフォローアップすることが重要とします。 こうした日々のつながりを真剣に繰り返すことで皆の信頼を得ることができ、周りの問題が自然と集まるようになり、早期に解決に当たれるようになる、というのが筆者の主張です。本書ではこういった考え方を、「タッチポイント」という概念を中心に、筆者(大企業CEO経験者)の経験談を踏まえて、面白く解説してくれます。
1投稿日: 2013.10.14
