ハリガネムシ
吉村萬壱
ハリガネムシ
吉村萬壱
文藝春秋
おもしろうてやがて悲しき…
誰もが経験し見て知ってはいるが普段は書かれないことがある。説明できず日常生活に出してはいけないもの。それを晒したが最後、自分を支える秩序みたいなものが壊れてしまうような欲望。この作品はその類の禁忌がてんこ盛りである。なので(素晴らしい小説だが)自分だけの秘密にして人に薦めたくない。僕らはみんな生きている、という歌があるが、生き~ているから♪こその裏・生命讃歌だ。しかし破滅的な行為にいっとき恍惚となっても、結局は現実に引き戻される。その顛末がなぜかユーモラスで笑えるのは、珍道中なロードムービーゆえか。 作者は巧みな描写を駆使して、誰もが内に飼うハリガネムシを引きずり出してみせた。それを普遍的な生に昇華させるまでの深化は次作以降にある。そういう意味で本作はエンタメとしても面白く、おすすめできる作品です。
1投稿日: 2016.02.29すみれ
青山七恵
文春文庫
御免です
この作者の短編が激しく好きなので説明文にひかれて読んでみた。自分の将来を思い描く受験生の女の子と社会にあぶれた?居候の女性との同居生活。ずっと我慢して読んだけど、ごめんなさい。どの人物にも感情移入できなくて、自分にはまったくわかりませんでした。他人の日記を読んでいるようで、それはそれでいいんだけれど、それ以上は何も…。
0投稿日: 2016.02.09お別れの音
青山七恵
文春文庫
まっていた
本を読み続けてきた理由は、生きるとは何なのか知りたい、そのことにつきる。若い頃に出会い自分の内面を決定づけるほどの衝撃を受けたいくつかの詩や小説の体験から、もう長い時間が過ぎた。とにかくそれを求めて受賞物から話題の本まで読み漁ってきたが、なんだか違う。もはや自分の感受性は朽ちたと思っていた矢先。待ってたよ。大江健三郎以来の衝撃。読んでよかった。「うちの娘」秀逸。
1投稿日: 2015.09.09年の残り
丸谷才一
文春文庫
小説の醍醐味
うーん、いわゆる「小説」なんですね。政治や思想を題材にしながらユーモラスで笑えてしまったり(思想と~)、行き場のない重苦しいテーマを描ききる筆致もなかなかだし(川の~)、私自身これから迎えることになる老境を、見事にソコハカとなく活写(ていうのだろうか?)しちゃうし。上手いです。考えさせられる。でも、え、なに?あれ、終わり?みたいな。 病気で味覚をなくしたせいかな?なんの味かよくわからなくて。ごめんなさい。 好き嫌いがわかれると思います。
0投稿日: 2014.08.20四雁川流景
玄侑宗久
文春文庫
仏さまの視点で
びっくりするような事件がおこるでもなく、想像の世界に飛ぶでもない。とても日常な光景がひたすら流れるみたいに描かれる。向田邦子が日常にひそむ闇を描くのにたいし、こちらではそれさえ雲の上から眺めているみたい。なまなましい生も死も情もあるのだが、それとて特別ではない。あまりに現実的で読んでいるあいだはちょっと息苦しいが、読後に不思議な清涼感がある、まるで太●●散みたいな小説。日常生活に胃もたれしているあなたに。
0投稿日: 2014.08.03