
怪盗ニック全仕事4
エドワード・D・ホック,木村二郎
東京創元社
全集も後半に
怪盗ニックシリーズ全集全6巻も後半の4巻目に突入です。シリーズ全87編のうち45~59の15編を収録。今回のポイントは、ニックのライバル?女怪盗サンドラ・パリスの登場と、初めて読める話が多いこと。 サンドラは冒頭の「白の女王のメニューを盗め」で初登場。この話を冒頭に持ってくるため前の第3巻を14話収録にしたんですね。彼女は4巻では全4編に出演して、ニックと張り合ったり協力したりします。 サンドラ登場作4編は、早川書房の「怪盗ニック対女怪盗サンドラ」(2017年5月時点で電子書籍なし)で読めるのですが、それ以外の11編は、初訳6編と雑誌に載っただけの5編で、多くの読者は初読のはず。かなりお買い得感があります。 注目作は、やはりサンドラ登場作。サンドラはどうやって盗むのかや、ニックとの関係がどうなるのか等の要素が盛り込まれるので、必然的に内容が豪華になります。それ以外だと、盗む物の面白さで「臭腺を持つスカンクを盗め」、ニックの人生の危機「枯れた鉢植えを盗め」、盗みの前に思わぬ事態が起きる「医師の中華箸を盗め」あたりが印象的でした。
0投稿日: 2017.05.20
怪盗ニック全仕事3
エドワード・D・ホック,木村二郎
東京創元社
ある意味ここからが本番
怪盗ニックシリーズ全集の第3弾です。これまでの「1」と「2」の計30編は早川書房版の短編集でほぼ読めるので、今まで読んだことがない作品を読みたいというファンにとってはこの「3」からが本番かも。収録14編中まったくの初訳は4編だけですが、雑誌やアンソロジーに載っただけの作品が数編あるので、かなりのファンでも半数くらいは初めて読む話のはずです。 一番気に入ったのは「ゴーストタウンの蜘蛛の巣を盗め」。蜘蛛の巣を盗むって…シリーズ屈指の「変なもの」を盗む話だと思いますが、ちゃんと理由があります。他には、ニックが日本を訪れる「駐日アメリカ大使の電話機を盗め」(ホテルオークラとか三越百貨店とか出てくると何となく嬉しい)や、ニックと恋人グロリアの関係にある変化が起こる「きのうの新聞を盗め」あたりが注目です。 ところで、「1」と「2」が15編ずつなのに「3」が14編収録の訳は「4」で分かります。
1投稿日: 2017.05.05
怪盗ニック全仕事2
エドワード・D・ホック,木村二郎
東京創元社
安定して楽しめる
怪盗ニックシリーズ全集の第2弾も安定して楽しめます。紹介にあるとおり、今回変化球エピソードが多いし、そういうチャレンジ精神は好きですが、一番のお気に入りは「海軍提督の雪を盗め」ですね。雪が足りないスキー場のため近くの雪の多い山から雪を盗むという話。大胆な盗みの手口とやや異色の結末が効果的です。盗みの手口としては、わずかなチャンスを活かす「マフィアの虎猫を盗め」や、盗みを繰り返すことで次第に条件がきつくなっていく「将軍のゴミを盗め」に感心しました。
1投稿日: 2017.05.05
領主館の花嫁たち
クリスチアナ・ブランド,猪俣美江子
東京創元社
本格ミステリではなく、あくまでゴシック小説
本格ミステリの名手の作品ですが、この作品はあらすじにも書かれているように「ゴシック小説」です。単行本が出たとき、そうは言っても本格ミステリ要素があるのではと期待して読んで、面白かったもののやや肩透かし感がありました。まあちょっとした仕掛けはあるのですが、そちらにはあまり期待せず、ゴシック小説としてヒロインたちがどうなるかドキドキしながら読むというのが適切だと思います。 同じ作者の「猫とねずみ」みたいに強烈に怖い話ではないので、「予測不能、美麗にして凄絶なるゴシック小説」というのはやや大げさだと思いますが、筆力の高い作者なので面白く読めます。
1投稿日: 2016.12.18
ユダの窓
カーター・ディクスン,高沢治
創元推理文庫
痛快な逆転劇が楽しめる傑作
本格ミステリの巨匠・ジョン・ディクスン・カーの代表作の一つ(というか、カーター・ディクスン名義ではたぶん一番有名な作品)が創元推理文庫で登場です。裁判で殺人事件の被告を弁護することになった名探偵ヘンリ・メリヴェール卿ですが、状況は圧倒的不利。プロローグの描写で読者には被告が犯人ではないはずと分かっていますが、裁判が進むにつれ、ますます被告以外に犯行は不可能なように見えてきます。もちろんこのまま裁判に負けては話にならないので、後半逆転劇があるのですが、不利な状況をひっくり返していく手腕が素晴らしい。痛快な気分が味わえる傑作です。 ただ、密室トリックが有名な作品ですが、それにはあまり期待しないほうがいいかも。昔ハヤカワ・ミステリ文庫版で読んだとき、正直肩すかし感がありました。いや、素晴らしいトリックだという意見もあると思いますが。 あと、ハヤカワ・ミステリ文庫で新訳するという話があるので、そちらで揃えたいという人は待ったほうがいいかもしれません。
1投稿日: 2015.09.06
薔薇の輪
クリスチアナ・ブランド,猪俣美江子
東京創元社
名手の未訳作がついに翻訳!その出来は?
クリスチアナ・ブランドといえば、本格ミステリの歴史上屈指の謎解きの名手です。彼女の長編ミステリはほとんど翻訳されていますが、まだ残っていた未訳作品が待望の翻訳です。 まず、以前からのファンむけにレビューしておくと、これまで訳されなかったし、なにせ作者70歳ごろの作品なのでつまらないのではと心配かもしれませんが、二転三転する推理や、巧妙に仕組まれた伏線といった彼女の得意技がちゃんと楽しめます。チャッキー警部のなにげない行動が、後で思わぬ役に立つあたりなど、ついにやりとしてしまいます。さすがに「緑は危険」「ジェゼベルの死」「疑惑の霧」などの最盛期の傑作には及びませんが、十分読む価値はある佳作だと思います。 ブランドをあまり知らない人向けにもレビューしておくと、作者は本格ミステリとしての出来を別にしてもとても面白い物語を書ける人です。本書でも、巧みな人物描写、皮肉とユーモア、何が起きたかをぼかして読者の興味を引くストーリー展開の上手さなどがあって、面白く読めました。第三章なんかアメリカギャングのイギリス珍道中という感じで楽しかったし。手軽に読めるブランド作品があまりない現状、手に入れやすい本書は入門編にちょうど良いかも知れません。
0投稿日: 2015.07.13
怪盗ニック全仕事1
エドワード・D・ホック,木村二郎
東京創元社
怪盗の常識をくつがえす
怪盗といえば、ルパンやらルパン三世やらキッドやら色々いますが、彼らが盗むのは王家の秘宝とか美術館の名画とか金庫の金塊とかいった貴重なもの、高価なものです。ところが彼らにおとらぬ有能なプロフェッショナル、怪盗ニックは、変わったもの、価値がないもの等、普通なら泥棒が盗もうとはしないものだけを盗むという、怪盗の常識をくつがえすような存在です。短編の名手ホックの生み出した人気キャラクター、怪盗ニックのが東京創元社版で登場です。 このシリーズの面白いところは、「価値のないもの、もしくは誰も盗もうとは思わないもの」を盗むというこの設定です。ニックは依頼を受けて仕事をしますが、依頼人は何でこんなものを盗ませようとするのか?、ニックはこんなものをどうやって盗むのか?、という2つの謎が出来るわけです。大まかに言うと、盗むものが価値がないものならなぜ盗ませようとするか?の面が強く、変わったものならどうやって盗むのか?の面が強いでしょうか。、各話のタイトルが「○○を盗め」となっていて盗むものが分かりますが、タイトルを見るだけでもなんだそりゃと思うようなものが色々並んでいて楽しいです。表紙絵にも盗むものがのっていますよ。 その上、「盗ませる理由」の手掛かりをきちんと仕込んでいるし、時には警察や他の悪党との対決もあったり、1編1編は短いながら盛りだくさんの内容です。まあ人間心理を繊細に描きだすとか、社会の矛盾をえぐり出すみたいなのを期待してはいけませんがおすすめの傑作シリーズです。 ただし、怪盗ニックシリーズは早川書房でも4冊の短編集が出ており、計44編が載っているのでそちらでもかなり読めますが、残念ながら(2015年7月現在)新刊で手に入りにくい状況のようですし、まだ電子書籍化もされていません。ですから創元版は、探し回らずに読みたい人とか、電子書籍のほうが良い人とか、早川版は全部読んだけど発表順に全部読みたいというマニア(はい、僕です)等におすすめです。 ※第2弾は2015年8月発売予定(紙の本)
0投稿日: 2015.07.01
だれがコマドリを殺したのか?
イーデン・フィルポッツ,武藤崇恵
東京創元社
欠点もありますが、クラシック本格ミステリのファンなら一読の価値はあります。
1924年にイギリスで出版され、創元推理文庫創刊当時に「誰が駒鳥を殺したか?」のタイトルで刊行されたものの新訳版です。なにせ昔の作品なので、現代の目から見れば本格ミステリとしては問題がありますし、イギリスの階級意識が背景にある登場人物の考え方に多くの日本人は今一つなじめないと思うので、「ミステリ史に残る名編」という紹介文は大げさだと思います。しかし、大胆な真相や強烈な犯人像は、クラシック本格ミステリのファンなら一読の価値はあるかと思います。
1投稿日: 2015.04.16
その女アレックス
ピエール・ルメートル,橘明美
文春文庫
こんな話です
主人公のアレックスは、路上で誘拐され、檻に幽閉される。 事件を捜査する警察は凶悪犯罪の影に気付く。 卑劣な犯罪者に正義の裁きを下せるのか?
1投稿日: 2015.02.18
