
株価暴落
池井戸潤
文春文庫
さすが!池井戸作品。ハズレなし!
企業小説の巨匠、池井戸潤氏の代表作の一つになるものだろう。従来の企業と銀行だけではなく、死者も出る爆弾犯の脅迫事件も絡め、スリリングに展開しぐいぐい引き込まれた。 銀行と大手スーパー、そして爆弾犯と警察。それぞれの関係者の心理描写が実に丹念に描かれ、その切迫感を助長する。 見事なストーリー展開だ。ドラマもいいけど、まずは読んでほしい作品だ。
0投稿日: 2014.11.21
私の男
桜庭一樹
文春文庫
人間の業と性の奥深さを痛感させられる作品。再読してこそわかる深い味わい
この小説は、40年以上もの読書歴の中でもひときわ衝撃的ものだった。その構成法、扱われているテーマ、そして登場人物。汲めどもつきない深いものだった。 まず、その構成は斬新だ。現在から過去へ15年間(ヒロインは24才から9才へ)遡る。主人公二人はある事情から逃避生活を送る。現在だけでは二人の関係、意識そして行動は、常識では疑問符のつく事ばかり。しかし、章を一つ一つ進める(時間が過去にもどっていく)ことにより、そうした疑問が解き明かされ得心させられる。 また、そのテーマもかなりショッキングだ。人間の業と性の奥深さを痛感させられる。大人の男と少女の、しかも養父と養女の禁断の関係。それは濃密で社会通念上許されざるものだ。登場人物いわく「獣の行為」だ。 しかし、それもこの男の少年時代の過酷な体験による愛の渇望感。そして少女の身に降りかかった自然の猛威による想像を絶する喪失感。このお互いの心にポッカリと空いた空洞は、形のない精神的なものだけではだめで、互いに確実に触りあえる肉体でしか埋められないほど深いものだったのだろう。 できるだけ早く映像化されたものが見たい。モスクワ国際映画祭で最優秀作品賞をとったとのことだが、この衝撃的な小説がど う脚本化され、北海道のあの冬の情景のもとどう映像化されたのか、とても興味深く楽しみだ。
3投稿日: 2014.09.06
