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世界終末戦争(下)
世界終末戦争(下)
バルガス=リョサ、旦敬介/岩波書店
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総合評価

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    もともとボリュームはあるけども、割と仕事を忙しくしていたこともあり結局上下読み終わるのに2ヶ月かかった。 私にとっての初バルガス=リョサ。ラテン文学好きで、ノーベル賞作家なのに、初でした。 ブラジルが帝政から共和国制に切り替わった19世紀末、時代の流れに取り残されたブラジルの内陸部地方エリアで勃発した通称「コンセリェイロ」率いるキリスト狂信者集団(作中ジャグンソと呼ばれる)の反乱と、それを鎮圧すべく向かうブラジル共和国との戦い。史実をベースに、細部がセミフィクション化された物語。 史実の通り最終的には鎮圧される。鎮圧されるまでの両サイドの思想なり人間模様なりが、群像劇のように視点を変え語られる。 傍から見たら狂信者と思われる集団なのだけれども、細部を見ると実はその集団ができる非常に合理的な理由がある。 貧困だったり抑圧だったり。貧しさが当然で地形的にも孤立している社会では、コンセリェイロが説く思想が綿のように身体に染み込む。狂信者になろうとして狂信者になるのではなく、その思想を救いとする以外、対抗する思想などどこにもないのだ。受け入れる以外の選択肢はなく、結果その人々が狂信者と呼ばれるようになる。 しかしその彼らは篤信で清貧、信仰が厚いがゆえに規律ができておりコミュニティ内でのトラブルもない。そしてコンセリェイロのおかげで、悪事の限りを尽くしてきた荒くれ者たちすらルールに則った正しい生活を送っている。 ただ一つ、共和制というルールを認めることができず、戦争に巻き込まれていく。 物語の中に何人かキーとなる人物が出てくるのであるが、その中でも最重要人物だと思われるのが、近眼の記者。彼は当初共和国軍側の記者として同行し、その後ジャグンソとの戦いで敗走する中、紆余曲折を経てジャグンソ側に身を寄せる。彼のある意味中立の立場から両者を眺める場面が幾度となく現れ、この戦争の輪郭がはっきりしていく。はっきりしていく一方、何が正しいのかがわからなくなっていくのも彼の視点を通じてである。 両軍ともに困憊しボロボロの状態、そしてその絶望的な状況でなお信念に従い使命を持って動き続ける様、本当に痛々しくも圧倒される生のほとばしりをそのまま文章に落とし込む技術。素晴らしい。群像劇のように視点が変えられると書いたが、終盤はすこし時系列も前後する。ただ、この時系列の前後も物語に大きな印象を付け加えることに一役買っている。この語り口はバルガス=リョサの得意とする技法らしいのだが、これが実に効果的である。上下で1100ページくらいあるのだが、長く続く戦争を読み手に飽きさせることなく語り尽くす。 ブラジルの地形、地名、独特の名前。慣れないと読みにくいところはたくさんある。 ラテン文学の中では抜群に読みやすい方だとは思うが、それでもするすると読めるようなものではない。 それでも少しずつでも、この物語の登場人物それぞれの生のほとばしりに触れる価値はあると思う。傑作。

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    投稿日: 2025.11.08
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    日本大学図書館生物資源科学部分館OPAC https://brslib.nihon-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/1000347938

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    投稿日: 2025.10.29
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    ▼東京外国語大学附属図書館の所蔵状況(TUFS Library OPAC)https://www-lib.tufs.ac.jp/opac/recordID/catalog.bib/BD1293463X

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    投稿日: 2025.10.01
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    このレビューはネタバレを含みます。

    内容についてのレビューではなくなってるので注意 ■上げて上げて上げて落とす カヌードスの反乱を討つべく第三回遠征の指揮官となったモレイラ・セザル大佐。彼への期待はその華々しい登場で描写されている。多くの民衆が駅に駆け付け歓声を上げる、大佐は小柄だが他の有象無象とは違う雰囲気を醸し出し、ただ一人強者の風格を漂わせている。その隊は「常勝連隊」であり、大佐の愛馬である白馬がおろされる。極めつけは第一回遠征と第二回遠征の「敗者」カストロ大尉とフェヘイラ中尉との会話だ。大佐は補佐として連隊に加われという命令を受けた二人をどう扱ったか。ひと握りの盗賊にすら勝てなかった恥晒しなどに用はないと冷たく言い放つ。これらを今風に言うと「負けフラグを構築している」。数々の反乱を鉄拳で叩き潰し、陸軍を侮辱した新聞記者を容赦なく射殺した大佐は半ば神格化されていた。これでもかというくらいモレイラ・セザル大佐は持ち上げられている。まだ3章の始まりだというのに。ここから第三回遠征隊がカヌードスに到着し戦闘になるまでが長い。その間ずっと勝ったも同然の大佐の連隊の行軍となる。大佐が唯一恐れるのはアントニオ・コンセリェイロ及び復古派反徒が既にカヌードスから逃亡してる可能性だけだという。大佐はアントニオ・コンセリェイロの背後にこの狂信者達を操って、王政復古を企む黒幕がいると確信している。散々持ち上げられる大佐だが、彼もガリレオ・ガルと同じく不確定な情報に踊らされる哀れな道化役だと仄めかされているように思う(私にはガルに何か積極的なものを見出すことはできなかった)。気を張り詰めた代償か大佐は倒れてしまう。そこで大佐が敵視する男爵に命を救われるが、ここでも己の信念は曲げない。男爵からは狂人だと看破される。若干雲行きが怪しくなったが、カヌードスに着く。3章はずっと大佐のターンだったが、3-Ⅶでようやくカヌードスの反乱者との戦闘になる。さぞや一進一退の攻防をじっくり見せてくれると思いきや、あっさりと決着がついてしまう。大佐戦死!はやっ!今までの持ち上げと引っ張りは何だったのか。そう、すべてはこのための溜めだったのだ。上げて上げて上げて一気に落とす――

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    投稿日: 2025.09.18
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    小池博史ブックフェア選書より 「世界終末戦争」 リョサは実に巧妙な書き手である。この長大な小説を飽きさせることなく、読者をカヌードス世界に一気に引き摺り込んでいく。これは「火の鳥プロジェクト」第三弾でブラジルで創作した。リョサの小説はどれを読んでも面白い。「緑の家」や「密林の語り部たち」もぜひ。(小池博史)

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    投稿日: 2025.08.26