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powered by ブクログ第1部 クラシック・コンサートのこれまでと現在 クラシック音楽の日本における発展は、ソフト(演奏家、演奏団体)がハード(劇場)から分離した状態で、草の根的な成長を遂げてきたという特殊な状況にある。「日本にクラシックの文化を根付かせたい」というプレイヤーたちの熱意がその礎となっている。戦後の荒廃した土壌から、若いプレイヤーたちの熱意によって日本のオーケストラやオペラ業界は生まれ、守られ、培われてきた。彼らの活動拠点は、日比谷公会堂のような多目的ホールだった。 第3部 クラシック・コンサートにかかわる人と知識 この章では、クラシック・コンサート制作に関わる様々な役割と知識について詳述されている。 第1章 アーティスト・マネジメント アーティスト・マネジメントは、アーティストの活動を多岐にわたってサポートする役割を担う。「3つの顔を持つ「黒子」の心得」と表現されており、スケジュール管理、事務手続きの代行(契約、報酬の受け取り、支払いなど)、そして広報・宣伝活動が含まれる。マネージャーは、アーティストの活動を取り巻く多くの関係者と連携し、常に最適なバランスを目指す必要がある。アーティストのイメージ作りや広報活動は、インターネットの普及によりアーティスト自身による発信が増えたが、マネージャーの役割は失われていない。 第2章 オーケストラの企画プロデュース オーケストラの企画プロデュースは、オーケストラのあり方を決定すると言っても過言ではない重要な役割を担う。企画においては、スケジュール、出演者、プログラムが柱となる。これらの要素を有機的に組み合わせることで、オーケストラの潜在的な可能性を引き出すことができる。企画に唯一無二の正解はなく、企画者自身が日々反省を繰り返し、ベストな選択肢を模索し続ける必要がある。「即断と忍耐~常に最適のバランスを目指して」というサブタイトルが示すように、ソリストや指揮者のブッキングにおいては、即断力が求められる一方、ギリギリまで待つ忍耐力も必要となる。 第3章 オーケストラの経営 オーケストラの経営は、「数字は実態を正直に表す」という原則に基づいている。良質な音楽芸術を長期にわたり提供するためには、財政基盤の安定が前提となる。演奏家は楽団の宝であり、個々の演奏能力・モチベーションを高める努力が日々行われている。経営側と楽団員による経営協議会等の場を通じて、現場の生の声を聴くことが推奨されている。また、企画・制作、ライブラリアン、ステージ・マネージャーなど音楽的に高い専門性が必須となる人材に加え、広報、マーケティング、IT、経理・総務等の人材も必要とされ、彼らの自己実現、能力向上をサポートする機会を常に用意する必要がある。 第4章 オペラ公演の企画 オペラ公演の企画は、「英知を結集する舞台創造のために」というテーマのもと、多くの人々の英知を結集して行われる。公演の核となる要素は、演目、会場、オーケストラ、指揮・演出・歌手の決定である。これらの決定は、観客のニーズと主催者の意図の一致が重要となる。歌手の決定においては、各団体の意向が強く反映される。 第5章 オペラ公演の制作 オペラ公演の制作は、「多くの役割を担う人と人をつないでいく仕事」である。企画が予算とともに成立したあと、公演が実現するまで予算を管理しながら多岐にわたる実務全般を取り仕切る。これには、出演契約の締結、会場、必要なスタッフや楽器などの手配、ツアー公演であれば各主催者との契約、関係者の移動・宿泊の手配、そして公演当日のリハーサルから本番に至る進行管理が含まれる。制作業務と同時に進行するのはチケット販売営業やそのための広報宣伝、ツアー公演の均等な営業活動などである。多くのキャスト・スタッフがそれぞれの役割を十分に果たし、協力して一つのオペラ作品を作り上げるまとめ役がオペラ制作の仕事である。「人と人とをつないでいく仕事」という表現は、その役割を的確に示している。 【コラム】市民オペラ 市民オペラは、地域におけるクラシック音楽の普及や文化振興に貢献する活動として紹介されている。各地の文化会館や市民会館の建設、自治体による市民オペラの主催などが、その発展を後押しした。市民オペラは、プロの音楽家や指導者と市民が協働して一つの作品を作り上げる過程に特徴がある。 第4部 クラシック・コンサートの現在とこれから この章では、クラシック・コンサートを取り巻く現在の状況と今後の展望について論じられている。 文化政策と舞台芸術 文化政策と舞台芸術は、「根拠とストーリーから読み解く相互関係」にあるとされている。クラシック音楽の発展の現場には「劇場」という要素が欠かせない。日本のクラシック音楽はソフトがハードと分離したまま成長してきた特殊な状況にあるが、今後は劇場から地域文化を創造する可能性を探る必要がある。地域社会との連携や、各地方自治体の文化的ビジョンがこれまで以上に問われることになる。また、専門家育成や寄付控除の仕組みなど、人材や設備を整えるための議論が置き去りにされている現状も指摘されている。 ホールの生命線、それが主催公演だ! ホールの企画プロデュースにおいて最も重要なのは、「ホールのミッションを独自に再構築する」ことである。多くのホールは抽象的な設立趣旨に基づいて建設されているため、それに具体的な形と生命を吹き込む作業が不可欠となる。貸ホール主体での運営は経済的なリスクは生じないが、ホールの「個性」を見失わせる弊害がある。「主張も志もないただの箱に、耳の肥えた聴衆は魅力を感じない。主催公演を打ち出すことができなくなったコンサートホールは、静かに水の中に沈められるがごとく、ゆっくりと窒息してゆくほかないのだ。」と述べられているように、主催公演はホールの存在意義や個性を表現する場である。ホールのファン、つまり「ホールのお客様づくり」が重要であり、これは貸ホール主体の運営の結果、見逃されがちだった大きな課題である。 最高の聴衆こそが、アーティストへの最高のもてなしである。本番のステージで、アーティストの可能性と能力を最大限に引き出す最後の鍵は「すばらしい聴衆」である。優れたアーティストほど、聴衆の反応を鋭敏に察知している。ライブはアーティストと聴衆のキャッチボールで成立する。 企画の発想方法としては、できる限り多くアーティストの生演奏を聴き、特徴をつかむことが必須となる。発想の特徴として、「このアーティストに出演してほしい」と考えるよりも、「このアーティストにこういうプログラムを弾いてもらいたい」という具体的なアイデアから出演依頼をすることが挙げられている。興味を持ったアーティストについては、あらゆる音源、映像、情報などを集め研究し、新たな魅力を紹介できるようなイメージを描いてから交渉に入る。 「ホールは生きもの、時とともに変わって行く」と表現されており、ホールの雰囲気はそこで行われてきた催しの歴史によって醸し出される。よいホールは、足を踏み入れた瞬間に何かが起きそうな予感がし、アイデアが湧いてくる場所である。 クラシック・コンサートの制作業務は、アーティストやコンサートの現場の傍らにいながら、実務の地道な積み重ねである。クリエイティブな現場にあって、一見対極ともとれる仕事の数々だが、企画そのものやアーティストの営みを深く理解していれば、一つひとつの作業にどんな創意工夫が必要かが見えてくる。コンサートはアーティストを中心とし、それに周りを取り巻く多くの関係者の営為によって実現する。本番当日を迎え、客席が沸き返る瞬間は「企画実現」の重みを感じるひとときである。 音楽事務所が実践する営業活動 音楽事務所の仕事は多岐にわたるが、中でもアーティストの営業は重要な業務である。アーティストや公演の魅力を伝え、関心を持ってもらえるよう努める。日本の音楽業界は、基本的にアーティストのファン、アーツカンパニーのファンで構成されてきた。 現在の音楽市場における日本は、来日アーティスト抜きには語れない状況にある。年間多くの海外アーティストが日本で公演を行っている。 SNSの活用は、ファン獲得のために非常に重要である。特にLINEはその特性上、日常性を意識した投稿が効果的である。 地方ホールのマーケティング 地方ホールのマーケティングにおいては、「探せば見つかる、地方の潜在マーケットの最大化」がテーマとなっている。都市への一極集中が進む中、地方のホール運営やマーケティングは大きな転換期を迎えている。アーツ・フリー(住んでいる場所・地域にかかわらず、文化・芸術にアクセスできることの大切さ)の観点からも、地方のホール運営は重要である。ホールの運営は事務、経営、人事、施設・設備、利用、渉外部、広報・情報発信など、多岐にわたる業務から成り立つ。 地方都市では、ホールの空き日が多い状況があり、観客誘致や支援獲得が重要となる。特に行政支援の少ない街においては、独自のアイデアでの来場者確保が求められる。イノベーション、アイデア、コミュニケーションなどを通じて、現状からの脱却と新しいチャレンジが必要となる。 事例として、プロジェクションマッピング用機材の常設導入が挙げられている。これにより、新しい形のコンサートが誕生し、大きな成果をあげている。 コンサート制作実務 コンサート制作の実務は、企画立案、予算案作成、制作業務、チケット販売営業、広報宣伝・営業活動、公演プログラム、入場券、会場費、人件費、広報費、制作費、雑費、助成金などの項目が含まれる。 企画が予算とともに成立したあと、公演が実現するまで予算を管理しながら多岐にわたる実務全般を取り仕切るのが制作の主な仕事内容である。これには、出演契約の締結、会場、必要なスタッフや楽器などの手配、ツアー公演であれば各主催者との契約、関係者の移動・宿泊の手配、そして公演当日のリハーサルから本番に至る進行管理が含まれる。 出演契約交渉においては、出演料がアーティストにとってのキャリア、価値を示す指標の一つであるため、納得のいく合意がその後の関係においても重要となる。招聘アーティストの場合、為替変動が予算に大きく影響することもあるため、想定為替レートの慎重な検討が必要である。 著作権処理は、演奏される作品の著作権について権利者からの許諾を得る必要がある。一般的にオーケストラの自主公演では、著作権管理団体であるJASRACに使用料を支払うことが多い。 コンサート制作における進行管理は、「表」と「裏」の連携が重要である。開場から閉門まで、主催者側とホール側が連携し、緊密に情報を共有しながら、一体感ある運営を進めていくことが肝要である。 インクルーシブなコンサート制作 インクルーシブなコンサート制作は、障害のある人を含む多様な人々がクラシック音楽に親しむことができる機会を提供する取り組みである。重要なのは、「想像力」と「寛容さ」である。障害当事者との交流を通じて、「障害から学ぶ」ことが推奨されている。 コンサート会場における合理的配慮の具体的な例として、段差へのスロープ設置、点字プログラム、手話通訳者の配備、車椅子席の確保などが挙げられている。多種多様な障害に対応するため、合理的配慮を準備した上で、常に次の場面への想像力を働かせながら現場対応することが大切である。また、制作者側と観客側がお互いに歩み寄る「余白の部分」を広めに残しておくことが、多くの問題解決や緩和につながる。 情報アクセシビリティ(情報保障)は、障害のある人を含む全ての人々が必要な情報にアクセスできるようにするための配慮である。具体的な取り組みとして、筆談対応、補助犬同伴用のスペース、音声コード付きのチラシ、磁気ループ席、字幕タブレット貸し出し、フリーエリアの確保、触図などが挙げられている。チケットについては、障害者手帳等を持っている方への割引や、障害者を「一人前の観客」として扱う姿勢が重要である。
0投稿日: 2025.05.11
