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天使も踏むを畏れるところ 上
天使も踏むを畏れるところ 上
松家仁之/新潮社
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総合評価

12件)
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    名前は変えているが実物の登場人物をもとに戦後の新宮殿造営計画の史実を淡々とフィクションとして描く小説。 建築好きとしては堪らないし、上巻は確かに螺旋階段のように登場人物の生まれや育ちにまで立ち戻って描いているが、読み進むとそれが必要不可欠な要素だったとわかる。 早く階段を駆け降りる下巻が読みたい。 恒例の著者インタビューは、建築家堀部安嗣さんとの対談 松家仁之『天使も踏むを畏れるところ』刊行記念 住宅、そして宮殿――吉村順三ののこしたもの (以下抜粋) 以前、橋本治さんと対談したときに、橋本さんが、小説とはつまるところ鎮魂なんだとおっしゃっていたんですね。過去に生きた人たちがどのような人生を送り、何を感じて去っていったのか、これを丹念にたどって描くことでその人を鎮魂する──それが小説の役割なんだとおっしゃっていたことを思い出しました。 建築というのは向こう三軒両隣を意識しないとダメだとおっしゃったことです。 つまり吉村さんの設計は人間のスケール、合理性と切り離せないものになっているわけです。 つまり、広場に面する建物のスケール感はそれ以上足すことも引くこともできない絶妙な寸法でできている。そしていい意味できわめて機能的で即物的にできている。船って恣意性のない機能的で即物的なフォルムが基本となっていますがそれゆえに船を感じさせるのでしょう。 かなり抑制された文章で書かれているように感じました。 同時に、村井俊輔の建築思想と松家さんの文体が見事に重なっている感じもしました。作中で村井が「オリジナリティなんていうものは、ないんだよ」と言いますが、これは松家さんご自身の言葉でもあるんでしょうね。 大江健三郎さんはアンビギュアス(両義性)という言葉を大事にした小説家でした。私もできれば、人間をめぐるあらゆる出来事や物語を両義的に考えたいんですね。私たち日本人は天皇制という問題設定を前にすると、肯定か否定かの二項対立でとらえてしまいがちなんですが、そのあわいに立つことで見えてくるものがあるのではないか、そここそを書きたいと思ったんです。

    0
    投稿日: 2025.11.24
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    このレビューはネタバレを含みます。

    焼け落ちた明治宮殿に代わる新宮殿を建てるという大仕事、宮内庁の杉浦と建築家村井を中心として、様々な人々が書かれる重厚な群像劇。「火山のふもとで」の前日譚ということで、村井の生い立ちや登場人物たちの若かりし頃の話が読める。村井と衣子との不倫がなんの罪悪感もなく気軽におしゃれに描かれている(下巻の紹介「恋人」じゃないだろ、愛人か不倫相手と書けよ)のがイラッとするが、いかにも松家さんの作品という感じでもあるな。衒学的なところもまた、いかにもって感じ。 建築は全然わからないし、天皇や日本現代史は全く興味がなくて小学生レベルの知識すらない始末なのだが、それでも面白く読み進められるのはさすがだ。このボリュームで物語に没頭できるのは嬉しい。物語自体の感想は下巻を読んでからにしたいと思うが、読むのが素直に楽しみ。

    0
    投稿日: 2025.11.22
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    宮殿は戦争で焼け落ちた。 焼失した宮殿の再建計画が動き始める。 杉浦は建設省から宮内庁へ出向し 国家的一大事業としての宮殿造営に携わる。 P424 〈開かれた皇室ー しかし「ここまで」という一線は残っている〉 チーフアーキテクトの建築家・村井は 宮内庁の牧野と対立することが多くなっていく。 1巡目は他の本を挟みながらサラッと読み終える。 新宮殿の建設、開かれた皇室 現場にいる人たちはどのような考えで取り組んだのか。 それぞれの思いをしっかり受け止めたいと思った。 そして2巡目へ。 松家さんはインタビューで 〈プロジェクトの推移を人物の視点を変えながら見ていくことで、 できるだけすみずみまで描いてみたい――そう考えたんです〉と話す。 今回はしっかり読み込んだ(つもり)。 下巻2巡目へ。

    0
    投稿日: 2025.10.14
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    『火山のふもとで』がとてもよかったので、登場人物が被る分どうしても比較してしまう。皇室のことなど史実的な記述が多く、また新宮殿の建設がメインにある以上、建築の専門的な内容も多く、あまり興味が持てなかった。 下巻、最後まで読み通せず。

    12
    投稿日: 2025.10.13
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    皇居の新宮殿建築を柱に、建築設計、絵画制作、皇室、祭祀、欧州の王族、侍従職、中央官庁、軽井沢の別荘の住人等を題材に、現在の日本社会を理解する上での重要な事柄が扱われている。先に前に上梓された「火山のふもと」(初版は2012年、文庫本は2025年2月刊)も合わせて読むと作品をより理解することができる。主人公の一人は、戦後の早い時期にアスプルンド設計のストックホルム市立図書館(360度の壁面書架が有名。)を視察している場面があり印象に残った。

    0
    投稿日: 2025.10.10
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    このレビューはネタバレを含みます。

    〘皇室〙の話も、建築家の生い立ちからの仕事の話も、ずっと対岸から見てきた事だけどこうやって上下巻の一冊目を手にしたら、しかも昭和の東京中心部の地図なりストーリーなりにふれてしまったらもう、引き返せないという覚悟で読み始めた。 もう引き返せない、下巻が楽しみ。 それにしてもお濠の内に住まう方々はいつの世も普遍的なイメージです。 こう言うことは不敬罪なのでしょうが。

    9
    投稿日: 2025.09.30
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    皇居や御所について、この本を通して知ることができた。建築を学んだことはないが、中国やアメリカ、欧州の建築の考察も興味深い。 終戦後で、ものすごいスピードで世の中が変わる中、皇室のあり方は、どんな形になるのか皆が模索しながらという背景。そんな時の御所建設が、一筋縄で進む訳がないが、気負うことなく機能的、実用的な建築を目指す建築家の姿勢が印象的。 1950年、明仁親王(平成天皇)の成年式と立太子の礼は、宮内庁内の仮宮殿で行われた。明治の皇居宮殿は木造で、東京の空襲で、飛び火によって焼失していた。独立が回復し、天皇陛下が退位しないことも決まり、宮殿の再建計画が動き始めた。これが吹上御所。 当時の天皇陛下の住まいは御文庫、耐爆建築で日当たりも悪く、湿気もひどい。地下道でつながる附属庫は、終戦の御前会議が開かれたところで、附属庫よりさらに頑丈。 吹上御所の計画が進む中、先に東宮御所の建設が進む。成年になった皇太子は、美智子妃とのご成婚を迎え、東宮御所に暮らすことに。そこは新しい皇室のあり方、ご家族の暮らしを実現する場となった。 上巻のラストでは、吹上御所の実施設計が進む。

    8
    投稿日: 2025.09.06
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    建築家や建築史などほぼ何も知らないが、「この人は誰がモデルなんだ?」といちいち調べて「ふむふむ」となっている。 その章の中心人物を間違いながら読んでしまって(杉浦と村井が混ざる)途中で気づくこともあった。

    1
    投稿日: 2025.09.03
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    面白かった! 様々な学びも。 後ほどゆっくり追記。 早く図書館に返却して、次の方にお回しせねば! 購入は、文庫になってからにするか、直ぐにするか、本棚の空きスペースと相談… 「火山のふもとで」はもう読んだので、先ず次は、文庫になっている購入済みの他の本を全て。 付箋を貼って、調べたくなく事柄続出。 登場人物たちの「言葉」も書き留めておきたいものばかり。 衣子の魅力や村井との関係は、女性としては複雑なものもあるが、昭和の「仕事をする男」を仕事の部分だけを切り取ったノンフィクションとは異なる魅力に。 生涯を仕事にかけていた時代の男たちが、それぞれのゴールに近づいていく下巻は、仕事さながら 楽しく読み進められるばかりではない。 何が残るか、何を残せるか、に対するそれぞれの思いが異なるのが人生。 忍耐強く続く交渉から伝わってくるそれぞれの人柄や品格が何より印象的だった。 仕事とはこんな風に、と若い人たちにも伝えたいような。

    1
    投稿日: 2025.07.30
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    戦後10年ほどを経てようやく社会が軌道に乗り、戦災で焼け落ちた皇居の新宮殿を造成する話。天皇皇后、皇太子、皇族、宮内庁、建設省、大蔵省、通産省、文部省、東京都などの職員、ゼネコン(と大工さん)、建築デザイン事務所など、非常に複雑な思惑が絡み合う。それだけなら、ああみんな勝手なことを言うし、ポジショントークだし、我田引水だし、そんななかで情熱を持った主人公が頑張って素晴らしい宮殿を建てましたとさ、めでたしめでたし。と言う陳腐な小説になるところ。本作は、複数の主人公の生い立ちから青年期に経験した数々の出来事(空襲体験、留学、メダカを買うことなど)、浮気も含めた日常生活、食の好みまで描いていことで、それぞれに人物に対すて強い思い入れを持つことができる。まるで大河ドラマで、全体の主人公はいるのだが、一話一話の主人公もいて、緻密に重なっていく感じ。史実に基づいたフィクションではあるが、本当にその一幕を見ているような臨場感。

    1
    投稿日: 2025.05.12
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    空襲で焼けた宮殿を新しく建て直すことになった。それにかかわった人たちを通して、戦後日本の皇室を中心とした復興の過程を、建造物が造られていく事に主軸を置いて描くフィクション。 上巻の初めは、宮内庁の技官として宮殿再建に関わる杉浦と、建築家村井の若い頃の姿を描く。中盤からは、時の政治家や宮内庁職員、侍従などが登場し、ほとんど昭和戦後史の様になっている。 「火山のふもとで」を彷彿とさせる浅間山山麓の別荘なども登場する。東京オリンピック開催が決まり日本は高度成長期へと向かっていく

    5
    投稿日: 2025.04.30
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    p27 そのような時代を迎えようとする時、全てが合理で動いている、というのではなく、意味のわからないもの、目には見えないもの、誰にもそれがそれだと指さすことができないもの、謂わば理不尽なものを美しいかたちで残しておくことが、思わぬ働きをするかもしれない。小生はそう考えるうようになりました。

    2
    投稿日: 2025.04.16