Reader Store
能十番―新しい能の読み方―
能十番―新しい能の読み方―
いとうせいこう、ジェイ・ルービン/新潮社
作品詳細ページへ戻る

総合評価

4件)
4.7
2
1
0
0
0
  • powered by ブクログのアイコン
    powered by ブクログ

    ラッパー、タレント、小説家、作詞家、俳優などとしてマルチに活躍する、いとうせいこうと、村上春樹や、芥川龍之介、夏目漱石らの英訳で知られるジェイ・ルービンによる能の本。 いずれも、「読むもの」として能の謡に慣れ親しんだ2人。本書では、2人が選んだ十曲を、まず、いとうが現代語訳し、それを元にルービンが英訳している。 いとうの現代語訳は、掛け言葉などがあれば丁寧にほぐしながら訳している。そのため、そのまま戯曲になるというより、読み物としてじっくり読む形になっている。ルービンの英訳は(精読はしていないのだが)時にはその掛け言葉も拾い、時にはあっさりと流し、こちらもそのまま戯曲というよりは「お話」として読める。全体に英語の方が淡白な描写に感じる。英語版には演題の要約ともなる副題がついていて、これがなかなか味わい深い。 2人とも音楽に才があるそうで、そんなこんなで気が合うらしい。 各演目とも、原文と現代語訳は上下に並べた形で、英訳はそのあとに収録する形。 巻末にはこの2人に柴田元幸を加えた鼎談、ゴスペラーズの酒井雄二といとうの対談もある。 分厚い本で、読み切れるのか?と一瞬たじろぐが、ページ数は250程度と、さほどのボリュームではない。和綴の謡本を模した「全頁小口袋綴造本」という装幀技術を使用しているのだそうで、文字が印刷された紙を山折りにして束ねた形である。通常の製本のほぼ倍の厚さになると思えばよかろうか。 収録作は 高砂(The Song of the Earth) 忠度(Wasted Talent) 経政<経正>(The Ghost in the Lamplight) 井筒(Waters of the Heart) 羽衣(Longing for Trust) 邯鄲(Life in an Instant) 善知鳥(Hell on Earth) 藤戸(Victims of War) 海人<海士>(A Mother's Power) 山姥(The Majesty of the Mountains) *()内は英訳副題。 印象に残ったのは3作目「経政」。琵琶の名手であったが、合戦で命を落としてしまう。彼を寵愛した法親王の命で、供養のために琵琶の名器を奏でて法要が営まれる。そこに経政の亡霊が現れる。ところがその姿は燈火の明かりの中にかすかに揺らぐのみ。 (原文)あるかと見れば、/また見えもせで、/あるか、/なきかに、/かげろふの、/まぼろしの、 (現代語訳)あるかと見ると/次には見えず/あるか/ないか/まるでかげろう/あるいはまぼろし。 (英訳)The Figure that surely appeared only moments ago…/…seems to be there, but…/…next is lost from sight./There?/Or not?/Like a mirage…/…or phantom. 経政は管弦に魅かれ、彷徨い出てくるのである。けれども、妄執が捨てきれない自身を恥じてもいる。その姿は露には見えない。あるか、なきか。揺らぐ心のように、姿も見え隠れする。最後には風で燈火を吹き消し、亡霊としての自身の姿も消してしまう。 あの世とこの世のあわいのような演目である。

    5
    投稿日: 2025.10.06
  • powered by ブクログのアイコン
    powered by ブクログ

    連載してたもので、いとうせいこうの現代語訳の能を英語に翻訳して、その両方を掲載している。 英語に訳すというのも面白いけど、現代語にまず訳すというところが大事なのかなと思う。舞台演劇としての能ではなく文学としての能という捉え方も、能の楽しみの1つだな。

    5
    投稿日: 2025.05.31
  • powered by ブクログのアイコン
    powered by ブクログ

    能楽は舞台芸術だが そのテキストである謡曲の 文学としての魅力を わかりやすく紹介してくれる。 源氏物語、平家物語、和歌、漢詩 豊かな前時代の文化遺産を下敷きに書かれた謡曲を理解できる教養を持ちたい。AIに放り込めば解説してくれる時代なんだろうけど、自分の頭の中で作者が思い浮かべた桜や紅葉、夕景を共有したい。

    0
    投稿日: 2025.05.11
  • powered by ブクログのアイコン
    powered by ブクログ

    不思議な本だ。もともと古典芸能全般に縁遠く、中でも能は最も敷居が高いと感じていたから著者がこのふたりでなければ、この本を読む機会はきっとなかったはず。けれど、なんだろう?本を手に取った瞬間から感じる懐かしさと、脳内で微かに聞こえてくる声とリズム、そういうことかー!の納得感は!とにかく本の作りが素敵で、表紙の手触りや重みを確かめながら、現代語訳をひととおり読んだところだけれど‥。語り継がれる物語、「言葉」にはやはりそれなりのパワーがあるのだなと、つくづく。

    6
    投稿日: 2025.03.18