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AI・機械の手足となる労働者
AI・機械の手足となる労働者
モーリッツ・アルテンリート、小林啓倫/白揚社
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総合評価

6件)
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    「AIの奴隷」になるかのような煽り方だが、書かれている事はそこまで大袈裟ではない。『ゴーストワーク』という著書もあったが、ギグワークとも呼ばれる、AIやテック企業の補完要素として人間の労働市場が生まれている。例えば、音声文字起こしの校正、名刺OCRの誤記訂正、不正画像の検出や削除など。それらは今までみたいに工場に集まって行う作業ではなく、自宅の隙間時間でも可能。これは新時代のブルーワーカーであり、我々は機械の手足になるのだというが、そうかな。 ー 本書では、工場のように見えないかもしれないが、かつての工場に存在していた論理や労働が今なお存続し、さらにはそれが、デジタル技術の普及によって加速している現場を取り上げている。グーグルのカリフォルニア本社で働くスキャン作業員、ドイツやオーストラリアのクラウドワーカーや倉庫作業員、中国やフィリピンのゲーム労働者やコンテンツ・モデレーター、イギリスや香港のデリバルーのドライバーや検索エンジンのレイター(評価者)、ベルリンやナイロビのビデオゲームテスターやウーバーのドライバーなどーそれが今日の「デジタルエ場」の労働者たちなのである。その仕事は反復的でありながらストレスがたまり、退屈でありながら感情面で負担が多く、正式な資格はほとんど必要としないが、しばしば高度な技術と知識が求められ、アルゴリズム・アーキテクチャーに組み込まれていながら(少なくとも今のところは)自動化できていない。 スーパーでレジを打つ人も似たようなものだ。いや、この問題提起に寄せるなら、「セルフレジを監視する人」の方が近いか。焦点に違和感を感じるのは、労働なんてこうした必要な局所に発生するもので、テクノロジーの届かぬ所に昔からあるもの。だから、今が脅威だというなら昔から脅威だと言える。 だが、真に恐れなければいけないのは①ビッグテックの支配力は国家を操作するレベル②人間の投票行動や意思決定にも作用できる③テックのための労働は、将来その労働を不要化するための機械学習の養分となる という点のはずだ。 確かにマルクスの「疎外」を考えれば、つまらぬ仕事に人間の労働が堕ちていくことは悲劇だ。だが本書が煽るそれ以上に悲しむべき構図は、ギグワークは自分たちを支配するパノプティコンを増強するための搾取になっていて、それを変えられないという事だ。 ギグワークに関わらず、我々は資本家によるパノプティコンやピラミッドを作るために日々働いている部分もあるので、今更という意見もあるのだろうか。労働の切り売りがギグであり、人間をより無力化し、しかもそれが露骨であるという点がこれまでと異なる点か。 (経営者の報酬が労働者よりも高額である、という図式も極めて露骨だが、馴染んでしまった) テックを補完するワーカーだけではなく、プラットフォーム利用者もそこに含まれる。信じるか信じないか…だが。

    75
    投稿日: 2025.09.24
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    このレビューはネタバレを含みます。

    インターネットやAI関連、ゲーム、検索企業、アマゾンなどの企業で労働者がどのように働かされているかを説明した本である。もっと労働者の声を入れれば面白かったと思う。

    0
    投稿日: 2025.09.04
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    2025.8.21市立図書館 SNS(TwitterかBlueskyか覚えてないけど)でちょっとみかけて、予約を入れて待っていた本。ちょうど夏休みに順番が来てありがたい。 原題は「The Digital Factory: The Human Labor of Automation(デジタル工場―自動化の背後にある人間の労働)」で、著者はドイツの研究者。 デジタル技術の進歩でさまざまな作業や業務が自動化されたように見えるが、その裏には「人間による労働」が機械やアルゴリズムを中心とした仕組みに組み込まれている目に見えない「デジタル工場」と呼ぶべき世界があり、それが世界中に広がっていると問題提起し、その実態を考察する本。 これまでならさまざまな障害から賃労働がかなわなかった人々が隙間の時間で柔軟に「労働」に参加できる一方で、労働者たちは分断され、あるいは孤立しており、劣悪な条件で働かされていてもよりよい環境を求めて交渉する余地もほとんどないという大きな問題もあるとわかる。 アマゾンなどの配送センターやウーバーのようなラストワンマイル(ロジスティクス)、ゴールドファーマー(ゲーム)、デジタル内職(クラウドワーク)、コンテンツモデレーション(ソーシャルメディア)といった労働の実情はうっすら聞いて想像していた内容もあったが、それ以上のものもあっておどろいた。特にゲームの世界で仕事として24時間体制でゲーム内通貨を稼いで現実世界で転売するゴールドファーマーという存在ははじめて知った。オンラインゲームなどで記号のようなユーザー名をつかってルーチンのようにレベルを上げたりアイテムを集めたりする、ということがまさか組織的におこなわれていたとは。 ギグワーク、スポットワーク、スキマバイトなどの言葉が生まれ、いまやスマホさえあれば、世界のどこにいても老若男女や立場を問わず賃仕事にありつくチャンスがあり、また人手不足の現場がうまく回ったりインターンやマッチングの場として人と仕事をつなぐこともある一方で、その内容はときに思考停止してひたすら心身をすり減らすものであり、また出来高主義で雇用関係も一方的でつねに足元を見られている⋯安い人材を一所に集め監視しながら酷使し使い捨てる日本の特殊詐欺グループのようなスタイルがGAFAのような世界資本の底辺にも広がっていることに暗澹たる気持ちになる。 読んでいてときどき思い出したのは、川添愛「働きたくないイタチと言葉がわかるロボット」。この本は言葉がわかるロボット(=AI)をつくるのはかなり難しいことだとおしえてくれる快作だが、働きたくないイタチたちが楽できるロボットを実現するためにかえっていっしょうけんめい働いてしまうのがちょっと哀れにも思えたことを、思い出す。

    1
    投稿日: 2025.08.21
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    ●2025年5月26日、東京大学・書籍部にあった。セッションで寄った日。 面出しで陳列。帯に、「Amazon、Google、Uberなどが発明した労働形態はなぜこれほど普及しているのか?」

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    投稿日: 2025.05.26
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    デジタル工場と労働の変容 - デジタル工場の定義: - グーグルプレックスに隣接する目立たない建物で、伝統的な工場の特徴を持つ労働関係が存在する。 - デジタル時代における労働の特徴を示す新たな視点を提供。 - 労働者の多様性: - グーグルの社員からコールセンター勤務者、クラウドワーカー、ゲーム労働者まで、さまざまな職種の労働者が存在。 - 労働者は見えない形で、アルゴリズムによって管理され、デジタル経済において重要な役割を果たす。 - 労働の反復性とストレス: - 現代のデジタル労働は、反復的でストレスを伴い、感情的な負担が多いが、正式な資格はあまり必要としない。 - 高度な技術や知識が求められる場合もあり、アルゴリズムに組み込まれている。 デジタル・テイラー主義 - テイラー主義との違い: - デジタル工場は、労働者の均質化を行わず、多様な労働者を統合する。 - アルゴリズムによる管理と監視を用いて、労働プロセスを組織する。 - 「労働の多数化」: - サンドロ・メッザードラとプレット・ニールソンの研究に基づく概念で、労働と生活の柔軟性が増し、グローバリゼーションが進行する中での労働力の不均一性を表す。 - デジタル技術によって、異なる経歴や経験を持つ労働者の管理が可能になる。 クラウドワークとギグエコノミー - クラウドワークの特徴: - 労働の標準化、分解、監視がデジタル技術によって新たに行われる。 - 労働者は独立した請負業者として契約し、極端な柔軟性を持つ。 - ギグエコノミーの歴史的背景: - ロジスティクス分野では、ギグエコノミーに特徴的な労働関係が以前から存在していた。 - トラック運送業界の「オーナー・オペレーター」や「インディペンデント・コントラクター」の事例が、現在のプラットフォーム労働の前身を示す。 デジタルプラットフォームと労働の新たな形態 - 労働の見えない側面: - クラウドワーカーの労働は、プライベートな空間で行われ、可視性が低い。 - 労働規制の範囲外で行われることが多く、アルゴリズムによって隠されることがある。 - デジタルプラットフォームの役割: - 労働者の間を仲介するだけでなく、労働プロセスを構造化し、管理する役割を果たす。 - アルゴリズムによる労働の管理は、従来の工場やオフィスとは異なる新たな協力と制御の形態を生み出す。 結論 - 本書は、デジタル時代における労働の変容についての新たな視点を提供し、古典的なテイラー主義の要素がデジタル技術によって新しい方法で動員され、刷新される様子を描写している。 - デジタル・テイラー主義は、テイラー主義の復活ではなく、現代の労働環境における新たな課題や動向を反映している。

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    投稿日: 2025.03.12
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    このレビューはネタバレを含みます。

    要旨 デジタル技術の発展により、物理的な工場という空間を超えて、作業者を工場のような管理の下に置くことが可能となった。その結果、労働力として期待できる潜在的なマンパワーは世界中に広がり、多種多様なバックグラウンドを持つ人々を同じ作業に従事させられるようになっている。また、その労働の参加者も1つの仕事に縛られるのではなく、さまざまな(単純かつ短期的な)労働を掛け持ちして稼ぐことが可能になった。 デジタル技術の発展により、デジタル技術を通じたアルゴリズムで作業者、労働を組織化し、分配、分割、管理をしている。この標準化された規律は、フォーディズムと類似しており、「デジタルフォーディズム」呼べる。これは、フォーディズムという名称の通り、単純な作業や苦痛をもたらす作業を低賃金、長時間労働などの過酷な環境で行わせるもの(貧しい地域、移民など、低賃金労働者を労働市場ターゲットのメインとしている)であり、フォーディズムと異なる点は、労働者の多様性である。デジタル技術により、多様な労働市場から労働者の確保が可能となり、柔軟な働き方も可能である。(ただし、低賃金であるため、結果的に長時間労働を強いることなどは起こり得る。) この多様性を持っていながらも規律を保つために、評価、成果報酬という形や、正社員登用があること、解雇をちらつかせることで労働者の秩序を保っている。また、労働者の多様性ゆえに、労働運動を行うことが難しい環境下におかれている。 出産休暇、失業手当などの正社員が享受する福利厚生はなく、前時代的な賃金制度となっており、これは、移民などの低賃金労働者との階層性を強化するものである。 機械化を通じて人間の労働がなくなると言われているが、機械化の裏方として人間の労働は必要であり、そう簡単に人間の労働がなくなるものではない。 デジタル技術の発展により、階層性がより強まっている。

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    投稿日: 2024.12.31