
総合評価
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powered by ブクログ花やお香、和菓子、お酒など随所に散りばめられたモチーフが効いてて読書というより体験。 これは他作品のホラーや官能小説も読んでみたくなったぞ。 お話がすっと入ってくるのも、バスガイドさんとしてのご経歴の賜物なんだろうな。 現代よりもっと身分制度や男女の役割が固定化されてた時代に「人として対等に話せる」って天恵のような出逢いだと思う。 好みは分かれるかもしれないけど、私はマクドで読んで号泣した。
0投稿日: 2025.09.19
powered by ブクログ黒船来航の少し後、京都伏見の小さな旅籠「月待屋」の人の心を打つ手紙を書くと評判の懸想文売り。旅籠の女将由井、その娘の真魚、賢いだけじゃなく洞察力に優れている懸想文売りの琴、懸想文配達人(?)佐助。好きだったのは仇討ちに来たけど侍に見切りをつけて酒屋の婿になる「伏見の酒」。どの話も面白かった。真魚の父親の謎は引っ張るのね。
0投稿日: 2025.04.23
powered by ブクログ幕末の京都伏見が舞台の時代小説。伏見の宿屋「月待屋」の十四歳になる娘真魚は母親と二人暮らし。そこの離れに20代半ばと思われる素性のわからぬ女性の琴が住み始める。 そして彼女は、ひょんことから「懸想文売り」を始める。ようは、ラブレターなどの代筆屋である。 代筆屋というと、「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」を思い起こした。アニメは京都アニメーション制作だし、舞台は京都伏見。ひとの想いを手紙にしたためるというのは、やはりドラマになる。 本書は前6章からなる連作短編集であるが、最終章で琴の素性が明らかにされる。続編を期待したい。
45投稿日: 2025.01.28
powered by ブクログ幕末の京都、伏見の中書島にある宿「月待屋」、そこには人の心を動かす手紙を書く「懸想文売り」がいるという。 花房観音さん初の時代小説ということですが、時代設定が幕末でなければならない理由がよくわからなかったり、言葉の選び方がイマイチ雑な気がしました。 この中では「饅頭喰い」がよかったかな。落語の下敷になりそうです。 解説を落語家の桂米紫さんが寄せておられます。山本周五郎はほめ過ぎだと思います(笑)。
0投稿日: 2024.12.25
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
京都伏見 恋文の宿 著者:花房観音 発行:2024年12月15日 実業之日本社文庫 (書き下ろし) 官能小説家の著者が、時代小説の市井ものを書いた。6話からなる連作短編。舞台は幕末の京都・伏見、中書島遊郭と宇治川派流を隔てたところ、長健寺の川向こうとのことなので、今の月桂冠のはしっこあたり? 5部屋しかない小さな旅籠「月待屋」を経営するお由井、娘は14歳の真魚(まお)。真魚に父親はいない。真魚の視点で書かれている。ある日、お由井がお琴という20代半ばぐらいの女を連れて来た。今日から暫く住むことになった、と。離れに。彼女は読書家でずっと本を読んでいる。物知りで、真魚が質問をすると丁寧に解説してくれる。 半年ほどして、懸想(けそう)文売りを始めることになった。懸想文とは、平安時代からある、手紙の代筆のことで、大河ドラマ「光る君へ」でも紫式部が初期にしていた。琴は、高い身分の落胤だから顔が見せられないと覆面をし、男のフリをしていた。声を出すとばれるので、真魚が代わりに依頼者への質問や説明などをすることになった。 真魚(まお):14歳 お由井:母親、伏見の旅籠「月待屋」女将、 お琴:20代半ば、読書家、月待屋の離れにいついて半年 佐助:西陣の着物の端切れで作った小物を売り歩く、お由井に惚れているのではと真魚は思っている ****************** (読書メモ、ネタ割れ) 第一章 懸想文の男 お絹:長健寺でお由井が仲良くなった遊女 倉橋三之助:薩摩の武士、商人風、お絹と夫婦の誓い、妻は死んだという 三太郎:薬屋の放蕩息子、勘当されている、妻子がいる 中書島遊郭と川を隔てたところにある旅籠「月待屋」が舞台。月の名所。女将はお由井で、娘は14歳の真魚。半年前から離れの四畳半にお琴という20代半ばで、年中本を読んでいる女がいついている。ある日、お由井が連れて来て住まわせている。琴は物知りで、真魚が聞けば何でも教えてくれた。 川を隔てた前に「長建寺」があり、由井はお参りに行っているが、そこでお絹という遊女と知り合って仲良くなった。薩摩の侍が絹に惚れて、夫婦になろう、身請けする金を作って迎えに来るからと言い残したまま、ちっとも来てくれないのでとても悲しいという話を聞いた。そこで、手紙を出せばいいと提案、絹ではまともに書けないので、話を聞いて琴が書くことに。平安時代に起源を発する懸想文売りである。琴は顔を隠して男のフリをし、声を出すとばれるので、間に入った真魚が話を聞くことに。 月待屋の離れで話を聞き始めた。男は倉橋三之助といい、薩摩の大切な役割をしているので商人風の格好に化けていつも京に来ているという。ただし、薩摩藩定宿の寺田屋には泊まっていない。妻は死んでいないという。絹は泣きながら三之助への思いを話した。なぜか琴は絹に冷たい視線を向けていることが、真魚には気になった。 その晩に早くも懸想(けそう)文は書き上がった。佐助に届けてもらうことにした。佐助は西陣の着物の端切れで作った小物を売り歩く商売をしていた。彼が薩摩から戻ったのは、一月ほど後、啓蟄を過ぎたころだった。 薩摩で倉橋三之助を探したが、誰も知らなかった。ただし、姿格好や年齢が似た三太郎という男を捜し当てた。薬屋の放蕩息子で、勘当されているという。彼の家に行くと、妻と3人の子供がいた。三太郎は最近死んだという。三太郎は侍にあこがれ、侍になりたいと思い、侍のフリをして遊び回り、女を口説きまくっていた。勘当された親から小遣いをせびりつつ。しかし、ついにお咎めを受けることになり、そんなに侍になりたいのなら切腹せよと言われると、あっさりと切腹してしまった。 妻は、とんでもない亭主が死んで、少しほっとした面も持っていた。佐助から渡された手紙を読み、お絹がとても真っ直ぐな強い思いで三太郎に惚れていたことが手紙で伝わり、嬉しく思ったという。そして、香典として三太郎の実家である薬屋からもらったお金を差し出し、これで絹の残っている年季分をまかなってやってくれと言った。 絹は中書島遊郭を出て行った。ところが、実は堺の60歳の商人に身請けされたのだった。絹は客をその気にさせるのがとてもうまく、三太郎とその商人の両方から身請けの話をされていたのだった。おそらく他にもそういう男はいたんだろうと、置屋の女将は言う。 お琴がお絹に冷たい視線を向けていた理由が、真魚にようやく理解できた。絹がそういう女であることを、お琴は見抜いていたのだった。しかし、その絹が懸想文の評判を広めてくれることになる。 第二章 母恋ひし人 お波:西院の乾物屋で働く女、16~17歳、丸顔で少しぽっちゃり 多江:上鳥羽に住む、繕い仕事、お波が自分を捨てた母親と思いこんでいた女 真魚が長健寺で雨宿りをしていて、弁天さんに熱心に手を合わせるお波という娘と知り合った。丸顔で体も少し丸い。16-17歳。お琴が傘を持って迎えに来てくれたので、月待屋での雨宿りに誘った。波は進められた茶をすすりながら、ここに懸想文売りがいるはずだと聞いてきた。堺に嫁にいったお絹による噂が広まっているらしい。たった1回の懸想文なのに。 波は母親に手紙を出したいという。母親は幼い頃に自分を捨てて行った。そう父親から聞いていた。父親は古着を商っていて、男手一つで波を育てた。そんな父親も私も捨てた母を恨んでいたが、恋しくもあった。手紙を出したいが、懸想文売りに払う費用など、西院の乾物屋に奉公する身分で払えるわけがないと言う。お琴とお由井は、礼は売り物にならない乾物があれば持ってきてくれたらいいからと、次回、懸想文売りとスケジュール調整しておくと約束した。 後日、借りた傘と乾物を持って波が来た。乾物屋の女将に話したら世話になったお礼にとちゃんとした乾物をくれた。そして、波は事情を話した。母親は、上鳥羽で仕立ての仕事をしているらしい、とも。 出来上がった手紙を持ち、佐助と真魚は上鳥羽へ。道中、佐助はどうして結婚しないのかと真魚は尋ねた。佐助はお由井に思いを寄せているのではないかと真魚は思っていたからだった。すると佐助は、以前は結婚していたが、自分の母親と折が合わず出て行ってしまった。商売で留守がちなので、そこでどうしても2人切りになるとぶつかったというのだった。嫁には申し訳ないことをした、だから母親が死ぬまでは再婚はやめようと誓っていた、という。 多江を訪ねると、その時は留守だったが、すでに再婚して夫がおり、子供も3人いた。そして、確かに古物商の男とは夫婦だったが、子供は生んでいないという。ただ、そのお波という娘のことについては、心当たりがあるとも。元亭主は酒と博打に明け暮れ、悪所への出入りにも励んでいた。ある時、赤ん坊を連れて来て、ある女に生ませたが、その女が死んだので今日からうちで育てると言い出した。ここに及んでもう堪えられず、多江は家を出たのだった。 多江は手紙を読んだ。予想通り、多江に対する恨み節だったが、母恋しさがにじみ出ていた。多江は、正直な気持ちに打たれた。そして、手紙を返した。 母親は謝っていたと嘘をつくべきか、正直に話すべきか、波は悩んだ。しかし、琴は正直にいうほうがいいと諭した。人は、良い人でもあり、悪い人でもある。波の父親も、子育てをしていい人だが、一方で悪い人間でもあった。佐助も言う。自分の母親は女手ひとつで自分を育ててくれたが、嫁にはきつく当たっていた。大切な母親だが、嫁を苛めてもいた。両面もっている。 波が訪ねてきた。高級な乾物を手にしていた。そして、正直に話してくれと言った。洗いざらい話すと、すごく納得してくれた。これでスッキリすると。自分もこれから母親になるのに、母親への恨みをスッキリしておく必要があったという。 お琴は見抜いていた。彼女は妊娠している。実は、乾物屋の次男と結婚が決まっていて、すでに子も授かっているのであった。琴は安産の神さまである御香宮神社の御札を与えた。 第三章 血天井の城 橋本新之助:京都所司代に勤める若い侍、江戸→京都へ 京都所司代の与力が、神通力のある文を書くという噂を聞いて訪ねてきた。ある侍の文を書いて欲しいという。ただし、内密に。 神通力などという噂まで・・・ 日程を合わせて話を聞くことに、橋本新之助という20代、琴と同じぐらいの若い侍。京都所司代に勤める。妻子がいて、恋文ではないという。最初に、幽霊を信じるかと聞かれた懸想文売り(お琴)は、頷く。新之助も最初は信じていなかったが、今は、古今東西存在すると思っている。江戸から京都への赴任になり、二条城近くで勤めて暮らしているが、そこで毎晩、悪夢にうなされるという。大きな城に自分がいて、首がない、腕がない、鎧兜の亡者に取り囲まれるが、何一つ身動きが出来ない夢だという。どうやらそこは伏見城であることも分かってきた。 そしてそれは、自分の先祖の行いのせいだと分かってきた。家康公に仕えた三河時代からの橋本家は、役所になぜかつけなかったが、関ヶ原の際には、家康が伏見城に入っていたが、家康が東北へ上杉討伐のため空けた際、忠臣の鳥居元忠が守っていた。その元忠に仕えたのが先祖の橋本某だった。しかし、彼は自らの命をかける戦に納得できず、逃亡を図った。伏見城は石田三成に落とされ、元忠とその部下たちはみんな自害していった。さぞ、逃げた橋本某を恨んでいることだろう、だから悪夢にうなされるのだ、と。 翌朝、書き上げた文を携えて、琴と真魚はとりあえず伏見城跡へ行った。そして、文を出してかざした。この文を持っていくとしたら、あとは鳥居元忠の墓がある百万遍の知恩寺ぐらいかなあ、と琴。2人は月待屋に戻った。真魚は琴に訪ねた。侍に幽霊を信じるかと聞かれて頷いたのに、侍が帰ったら幽霊などいないときっぱり言ったのはなぜか?琴は、幽霊などいない、今回の話も侍の夢の中にだけ存在するものであり、しかも江戸では現れず、京都に来て初めて現れたもの。侍は良さそうな人だが、まだなにか隠しているし、嘘を言っている。人間はそういうものだ、といつもの持論を展開した。 月待屋で、佐助が来たら離れに来させてくれとお琴。2度ほど、なにやら打ち合わせをしていた。 後日、橋本新之助が来た。早速文を届けてくれたありがとう、と礼を言うと、悪夢も少し落ち着いてきているという。 佐助が登場した。新之助は、堀川の長屋に住む佐木龍之介という浪人を知っているでしょう?と訪ねる。50歳ぐらいの。そいつは、元々三河の武士だの、母方が公家だの、嘘ばかりをつく。本当は小浜の武士だが、父親がなにかをしてくびになり、本人は京都の二条城で剣術を教えている。新之助はそこで、腕が鈍らないように龍之介と手合わせをしたことがある。若いせいか、相手が酔っていたせいか、最終的には新之助が勝った。しかし、飲みにいったらお互いが三河武士だとの共通点があり、龍之介の先祖は残って城を最後まで守ろうとしたことを聞かされる。新之助が悪夢を見始めたのは、その頃からだった。 新之助は罪の意識で悪夢にうなされるようになったのだが、龍之介に相談すると解決してやろうと金を要求された。それで悩みは深まり、自分で解決したいと思って懸想文売りに相談に来たのだった。龍之介は、とんでもない詐欺師のようなやつだった。 真相がわかり、血天井をお参りして、江戸に帰ることにしたと新之助。最初からある程度見抜いていたお琴。伏見城跡でかざした文は、実は白紙だった。 第四章 饅頭喰い 伊作:「伏見人形・稲なり屋」主人 時蔵:その職人、腕はいいが頑固、妻子に逃げられる、体が弱っている、依頼主 由助:その息子、清水寺の参道にある土人形店に弟子入りしている 5部屋しかない月待屋には、伏見人形が置かれているが、一つが酔った客(侍)により壊されてしまった。真魚と琴が「伏見人形・稲なり屋」へ行き、「饅頭喰い」人形を購入。その際、主人の伊作が言うには、腕利き職人が弱り、彼がもうできなくなったら店を畳もうと思うと。他の職人ではだめで、彼は頑固だがやはり腕は一番だった。 後日、伊作が訪ねて来た。職人の時蔵が懸想文をお願いしたいという。ただ、体が弱って寝込んでいるため、時蔵の長屋まで懸想文売りに来てほしいとも。近くで着替えさせてもらい、2人は出かける。話を聞いた。時蔵は若い頃から人形づくりしか頭になく、子供が生まれると子をモデルに人形づくり。饅頭喰いもその一つだった。息子が6歳の時、妻は息子を連れて出ていこうとしたが、時蔵は、出て行ってもいいが息子は置いていけと身勝手な言い方をした。 息子が立てるようになってからも息子をモデルにした人形づくりは続いた。ある時、便所に行こうとしたら描けないからと止められた。それで、お漏らしをしてしまった。その後、とうとう出て行ってしまったが、今は清水寺の参道に1軒だけある土人形店に弟子入りし、そこで焼いていることを知っている。一度、その人形を手に入れたが酷かった。魂が入っていなかった。自分はもう長くないので、その前にあって自分の人形づくりを伝えたい、だから文を書いて欲しいということだった。 真魚は、父親としての愛情をまるで感じなかった。昔のことを悔いてはいるが、それでもいまもって人形のことが優先。父親として会いたいという気持ちがない、と感じた。一方で、お琴は懸想文を受けた。息子を連れてくるのが我々の仕事だし、きっと来るはずだ、と。 2日後に書き上がり、佐助を含めた3人で訪ねた。店には人形が並んでいるが、やはり出来は悪い。店に入り、(息子の)由助さんに父親の時蔵さんから文を渡してくれと言われていると、出てきた女将に告げた。奥に入った女将は出てきて、もう父親とは関係がないので受けとれないと断ってきた。しかし、小声で自分から何とか読ませるようにしますので、とも言われたので、文を置いて帰った。 後日、夫婦揃って月待屋にやってきた。そして、由助の詳しい身の上について説明した。家を出て、母の父親がしている料理店で働いていた由助。17歳の時に、その主人が店で雇っている女性をはらませてしまい、安産祈願のため清水寺奥にある子安観音へ行くことに。付き添いを言われた由助だが、その女性に誘われて人形店に入った。その時に対応した娘が、今の妻だった。妻の父親に頼まれ、人形店を継いでくれと言われた。料理店の主人が新しくなり、折り合いが悪くなったために、人形職人として新たに修行することに。そして、妻の父が亡くなり、今は一応、独り立ちして店を構えている。母親は5年前に世を去った。 自分には、父親(時蔵)のような人形づくりの才能はないことはわかっている。しかし、文を読んだが、どうしても会う気にはなれない、と言って、帰っていった。 時蔵が死んだ。葬式には息子夫婦も来たという。そして、伏見に戻って、伏見人形づくりを修行することになったという。 お琴はいう。文には変に父親の愛情のようなものをにじませない、時蔵の言った通りに書いたという。生きている内は許せないが、死んだら許せることも人間には往々にしてあるものだ。饅頭喰いの人形は、子供にお父さんとお母さんのどちらが好きかと聞かれた子供が、饅頭を二つに割って、どっちが美味しいのかと聞き返したものと言われている。父にも母にも、どちらにも愛情を感じているのが子供だ、と。そこには、お琴の個人的な事情がなにかしら絡んでいるように感じる真魚だった。 *稲荷は稲が成ること。雀は稲を食べてしまうので、その前に、串に刺して食べる。 第五章 伏見の酒 金井十兵衛:大和郡山から来た浪人、柳沢家家臣だった、父親が2年前に堀に落ちて死亡、母親から仇討ちを言われている 小夜:月待屋が酒を買っている近所の酒屋「みどり屋」の養女、体が弱かった、 近くの酒屋「みどり屋」へ仕事用の酒をお由井が買いに行くと、祝い事があると酒をくれた。体が弱いから婿取りも難しいと思われていた一人娘の小夜の縁談でもまとまったんだろうか、と言いながらお琴と飲んだ。そこへ、急な客。大和郡山から来た十兵衛という浪人だった。泊まりたいが、懸想文売りにも頼みたいことがあると言った。 翌日、話を聞くと、父親は大和郡山の柳沢家に仕えていたが、酒好き、夜中に酔って、些細なことから夫婦連れともめ、堀に落ちて死んでしまった。母親から相手(夫の方)への仇討ちを言われた十兵衛は、厭々ながら夫婦を捜し当て、山科に訪ねた。すると、妻が話を聞かせてくれた。その夫は死んだという。あの後、夫は捕まり、暫く牢屋へ。こちらも酒なしでは居られないたちで、酒がない牢屋で衰えて死亡した。妻は内心、ほっとした。しかし、娘が一人いて、自分では育てられないので、死んだ夫の兄夫婦へ養子に出すことにした。そこには子供がいない。大きな酒屋を営む。それがみどり屋だった。 十兵衛は、仇が死亡しているので帰るに帰れないまま、みどり屋のある伏見へ。近くの弁天さんを祀るお寺で雨宿りをしていると、愛らしい娘がいた。可哀想なので自分の羽織を貸す。傘をさして家の者が迎えに来た。羽織は洗濯して必ず返すと言って去っていった。 後日、返してくれた。そして、その娘は少し前まで体が弱かったので、あの羽織が随分助かった。恩人だということで、家に呼ばれて一献することに。話を聞いて判明した。なんと、その愛らしい娘はみどり屋の小夜だった。体が弱かった小夜は、実の父が死んだと同時に元気になっていたので、結婚もできる体になった。そして、十兵衛に縁談話を持ちかけた。十兵衛こそ好いているのでOKだったが、母親をどう説得するか。子供の頃から、お前は侍の子だと、常に「武士の体面」にこだわって口うるさくしてきた母親が、そう簡単に許してくれるはずがない。 懸想文売りにお願いすることにした。 文を書き上げ、佐助に届けてもらう。佐助は半月後に大和郡山から戻った。みどり屋で半ば婿のように仕事の手伝いをしていた十兵衛を呼び出し、報告をした。佐助が母親に文を渡すと、翌日に佐助が泊まっていた宿に母親が怒鳴り込んで来た。まさか仇の娘と結婚するとは。カンカンに怒っている。 佐助はそれから、暫く母親を観察した。すると、夜中に男が入って行くのが分かった。話を聞いた十兵衛はそれがどんな男かピンときた。八次郎という盗みや博打をする前科者で、実は母親とは昔から男女の仲だったという。おそらく自分はその八次郎の子だろう、だから武士の血筋ではない十兵衛に「武士の体面」を押しつけてきたのだろう、と考えていた。 佐助は、連日やってくる八次郎と母親のことを探るため、屋敷に侵入して聞き耳を立てた。すると、みどり屋から金をむしり取る計画を立てていた。金が取れるなら、婿入りでもいいだろう、と。 十兵衛は、これで決心がついた。きっぱりと武士を捨てて酒屋に婿入りしようと。 お琴は、今回も見抜いていた。体面を保とうとする者は、裏になにか必ずある、と。文には、十兵衛が心中にあることをストレートに書いた。「酒屋の婿になりますから、金輪際親子の縁をお切りください。明日からは親でも子でもありませんし、私は侍でもありません」。 第六章 恋文の女 折原進五郎:江戸深川で道具屋、お琴の兄 折原辰之進:父親、元御家人、浪人になり、私塾と文書づくりで扶持 お種:死んだ母親と縁続きの女中 真魚が長健寺で参拝をしていると、若くも年でもない男が声をかけてきた。月待屋に泊まりたいけど案内して欲しい、と。真魚は案内しながら誰かに似ていると思っていた。お琴もその顔をじっと見ている。進さん?若い頃に会ったことがある2人だった。男は江戸の深川で道具屋を営む進五郎だった。真魚は気づいた。お琴に似ている!そして、進五郎はお琴の兄だった。 進五郎は、懸想文売りに文を書いてもらいたいと言った。出ていった妹に渡す文だった。お由井と真魚は思わず見合ってしまったが、話を聞くことになった。しかし、いくら顔を隠していても、自分の妹であることは気づくはず。そう思いながら、当日へ。ここで、妹が出ていった経緯や生い立ちなどが兄の口から明かされていく。 父親は幕府に仕える御家人だったが、出世に興味がなく、開港などを訴え、昔ながらの武家社会を批判し、くびになって浪人になっていた。学問好きで聡明なため、武家の子息に学問を教えたり、文書を頼まれてつくったりして扶持を得ていた。進五郎は学問を好まなかったが、妹は父親に似て学問を好み、書が大好き、そして剣術も好きだった。一方で家事はなにもできず、嫁に行くこと、子供を産み育てることなど全く興味がなく、自分はそんなことをしないと思っていた。一方、進五郎は道具屋の娘と縁談がまとまり、若い頃から1軒、店を持たせてもらっていた。 ところが、お琴は通っていた蘭学塾で同じ年の侍に生涯ただ一度の恋に落ちた。その男は、父親を除いて唯一、お琴が学問をすることを評価し、男女対等に扱ってくれたのだった。琴はこの人ならと結婚を望んだが、妻子がいた。心中をすることになったが、男は来なかった。お琴は一人で飛び込んだが目撃者がいてすぐに救われた。父は女にも学問は必要、琴が男だったら活躍できた、と言い続け、そのように育ててきたことを後悔し、切腹した。なお、母は進五郎10歳、琴が7歳の時に死んでいる。 琴は絶望していたが、京都へ行くことに合意し、月待屋へ。 そんな話を進五郎がしていると、琴は覆いを外して顔を見せた。そして、進五郎がずっと琴を嫌っていたことを知っていたと言った。心中に失敗したときもいい気味だと思っていた、と。進五郎はそれを認め、謝罪した。そして、江戸へと引き揚げた。 お由井は、琴と進五郎の父親には、真魚の父親が世話になった、と言った。詳しいことはまた話すから、とも。
1投稿日: 2024.12.23
powered by ブクログ京都伏見の旅籠・月待屋に、訳ありで離れに暮らすようになったお琴。 素性や顔を隠したまま懸想文売りをすることに。 月待屋の女主人・お由井と娘・真魚のの協力もあり、懸想文で依頼人の思いを伝え問題を解決していく時代小説。 依頼を受けるときに、離れの床の間に飾られる花の花言葉とリンクするようなお話で心に沁みます。 お琴さんの活躍はまだまだ続きそう。続編を期待します。
0投稿日: 2024.12.23
