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あいまいさに耐える ネガティブ・リテラシーのすすめ
あいまいさに耐える ネガティブ・リテラシーのすすめ
佐藤卓己/岩波書店
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総合評価

13件)
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    このレビューはネタバレを含みます。

    目の前に溢れるあらゆる情報に対して、「リテラシーを身につけよう」という姿勢で立ち向かうことの限界を感じて、この本を手に取りました。 「耐えを忍ぶ」ネガティブ・リテラシーの大切さはその通りだと思いますが、アテンションエコノミー全盛のSNSがある中で、答えに飛びつかないことの難しさも感じました。

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    投稿日: 2025.10.13
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    このレビューはネタバレを含みます。

    2025.07.23-2025.10.04 この本を読み切るのにかなり苦労した。というのも、「ネガティブ・ケイパビリティ」を連想するタイトルに惹かれ心理学的な内容かと思い購入したところ、しっかりとデモクラシーやメディア論から取り上げて考える内容となっており、理解が追いつかない部分が多かったのである。これは私の基礎的な知識が十分ではなかったためで、メディア論や政治学などの知識があればすんなり読めると思われる。 そんな難しい本ではあったが、この夏東京国立近代美術館で見た『コレクションを中心とした特集 記録をひらく 記憶をつむぐ』において、この本の内容を読んでいたからこそ、展示品の背景に躓くことなく、楽しむことができたと思っている。読んである本と、たまたま行った美術展がリンクする経験というのは初めてだったが、戦前戦中戦後という時間軸、前線と銃後という階級と環境、日本と世界という場所など多面的な軸での情報発信やその意図を、三章まで読んでいたことで、学術的視点と共に実物に触れ、体験することができた。 p191-l8 そもそも、サイバーシティズン(電脳市民)がどれほどクリティカルシンキング(吟味思考)をマスターしたところで、情報の真偽がそう簡単に見分けられられると考えるべきではない。私たちが何かの専門家になるということは、別の何かの専門家ではないということを意味する。あらゆる領域で情報を見分ける能力など、たとえ情報分析のプロフェッショナルであっても個人的には持ち合わせていない。 p195-l5 イエス/ノーの世論調査、すなわちON/OFF、白/黒のデジタル思考への抵抗力を高めること、あいまい情報の中で事態に耐える人間力こそが、AI時代に求められるリテラシーだからである。 多くのハッとさせられる文章があったが、中でもこの二つはとてもじっとりと張り付いた。私には心当たりがあった。 それは、コロナ禍において、外出自粛の際に外出している人への疑心暗鬼や不満(当時は怒りだと感じていたが、あれは我慢を強いられているのにずるい、という気持ちだったに違いない)を、IGの個人の鍵アカウントのストーリーで流したことである。 内容を端的に言えば、「身勝手な行動一つで、基礎疾患や既往症のある誰かの家族を薬のない病気に罹患させることになるのだから、遊ぶ、などの行動は控えるべき」ということを長文でお気持ち表明していた。当時それを見た友人たちはドン引きしたに違いない。 これはあいまいさに耐えられなかった結果である。死者や罹患者の数字だけが跳ね上がり、日常生活が制限され、緊急事態宣言という今まで体験したことのない緊張感に、私は恐怖し、耐えられず、結果私の行動によって誰かの不安を揺さぶったのだ。本当に恥ずかしい限りである。 この本を読んで、そんな自身のあいまいさに耐える人間力のなさに心が重たくなった。あの頃より、今は「耐えるを忍ぶ」力が時間経過と共についた、と思いたいが、たくさんの情報に溢れている今日で、あいまいさに耐えることはひどく苦しい。 けれど、未熟な人間なりに、速さやセンセーショナルさに飲まれず、その勢いを飲み込み、ぐっと腹に溜める力を鍛えたいと思った。

    1
    投稿日: 2025.10.04
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    東日本大震災後の論考なども含めて今の、ファスト世論への視点に富んでいる。ちょっと上から目線ではある。

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    投稿日: 2025.09.14
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    書かれた時期がバラバラなこういった評論集は、通常好んで読まない。系統立った論理展開とは限らず、体系的な知識を得るには非効率な可能性があるから。 でも今回選んだのは、「はじめに」にある以下の一文と同じことを常々考えており、深く共感したからに他ならない。 SNSなどにあふれる情報を必要以上に読み込まず(やり過ごし)、不用意に書き込まない(反応しない)だけの忍耐力と言ってもよい。 また同じく「はじめに」で気になったのは、現在「よろん」「せろん」のどちらにも読む「世論」が、もともとは「せろん」であり、「よろん」と読む「輿論」は異なる概念だったという話。その「輿論」の概念を復活させるべきという主張は首肯できた。論壇が衰退し、共感と攻撃ばかりが溢れるSNSだけが残るようでは、冷静な議論の環境はもはや期待できない。 一方で、民主党による政権交代の数年間を指して「こうした世論の急速な加熱と冷却が、これ以後の日本政治を『世論調査政治』へと大きく変えていったといっても過言ではない」(第1章の1末尾)という点については検証が必要だと思う。世論調査自体は昔から行われている中、それ通して政権が変わることは珍しかったのか。総選挙に至らずとも、総裁選の実施判断なども少なかったのか。 終盤を読みながら思い起こしたウェブ記事がある。 https://omocoro.jp/kiji/462699/2/ 読書経験がほとんどゼロのまま大人になったみくのしん氏が、かまど氏の助けを借りながら「山月記」を読むという記事。その中でみくのしん氏が、読書のハードルを面白い表現で説明していた。 「こういう難しい文章を読むときって、洞窟の中の水たまりに潜ってるような感覚なんだよ」 「どれだけ長いか、どこまで理解できるかすら分からない。読み始めたはいいけど、それがどれだけ続くのか分からないままだったら、すげー怖いじゃん」 「でも、「。」までいけば、そこに空気があるからさ。文章の意味が分からなかったとしても、ここまでくれば息継ぎはできるんだよ」 「結局意味は分からなくても、一息ついてから「で? 何が言いたかったんだっけ?」って向き直る時間を作れる感じなんだよな」 「落ち着いて全体を見直すとなんとな〜く分かるんだよな」 個人的に、これは難しい英文を読む時などと感覚が似ていてよく分かった。一語一句の正確な意味は分からなくても、文ごとのざっくりした意味合いをつかむことで意外と読み進めていける。ただそのためには一度、「洞窟の中の水たまりに潜って」「どれだけ続くのか分からないまま」「息継ぎ」できる場所まで辿り着かなくてはならない。そうしないと文全体を見渡せない。 「あいまいさに耐える」ためには、この難しい文に耐えながらどうにか本を読み進めていくことと同じ力が必要な気がしてならない。分からないものを、いつか分かるかもしれないと耐えてやり過ごし、前に進んでいくこと。気になる物事全てが解説されなくても、とりあえず前に進み、落ち着いて物事を判断できる環境に身を置くこと。 畢竟、論壇誌のような難解なテキストに身を晒すことによってこそ、その力が鍛えられるのだとすれば、本書の論旨に逆回りで付合したような気がして、なかなか面白く思った。

    7
    投稿日: 2025.09.12
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    流し読み。 公的意見としての輿論と、大衆感情としての世論をキーに、これまでのような情報の受け手としてだけではなく、発信者となり得る今、性急な判断をせず、どうでも良いものをスルーする、本当に考えるべきことを熟慮する。 内容としては前書き後書きにあるその程度だが、輿論、情報という語への注意喚起には注目。

    0
    投稿日: 2025.07.31
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    このレビューはネタバレを含みます。

    デモクラシーの訳として以前は様々なものがあり、尾崎行雄は輿論主義、という言葉を使った。 輿論と世論は違うもの。今はセロンと書いて、ヨロンと読む。 世論はファスト政治、メディアるげん、デモ、情動社会に結びつきやすい。 輿論は公議輿論というように公的意見、世論はポピュリズム。 ネガティブリテラシーとは、不用意に反応しない(書き込まない)忍耐力。曖昧な情報を安易な結論に結びつけず、そのまま留め置いて不確実性に耐える力。ネガティブケーパビリティ。 メディアの予測は、予言の自己成就を狙ったものが多い。 ニュースに何を求めるか。快楽原理による即時報酬と現実原理による遅延報酬。スポーツ、芸能、スキャンダルなどと政治・経済、文化関連の記事の違い。スポーツ新聞と日経新聞の違い。 人気タレントの立候補、給付金は前者。 小泉内閣以降、熱しやすく冷めやすい世論を反映しやすい。世論の反映によって、人々の期待感は常に引き上げられる。実際に期待通りのレベルに達することはない。そのため結果は常に裏切られる。 ローマ皇帝が支持を得たのも、道路と安全ではなく、パンとサーカスによるものだった。 失望を回避しようとすると、公約はパンとサーカスに集中しやすい。即時的快楽を優先する。マニフェスト選挙は有権者の消費者化をリードして、議会制民主主義の空洞化を招く。パンとサーカスの政治に陥りやすい。 メディアとは、もともと広告媒体の意味。 世論調査民主主義は、議会制民主主義と相容れないものではないか。世論調査は無難な世間の声に集約しやすい。それは民意といえるのか。しかも、マスコミが操作することは容易い。 ネット世論は、ネット小言、に等しい。マスメディアの世論調査に対する不信感。 輿論は公議輿論、世論は曲学阿世=世論に慮ること。 新聞のラジオ化=死刑としての世論、両画質を支配する=世論調査につながる。書籍のラジオ化=円本。 多数派の高齢者が、若者世代の意見を代弁することは、2重の意味で危険。本来のニーズからズレている可能性、若い人を思いやったという気持ちからそれに気づきにくい点。高齢者が世論の輿論化を目指しても、快楽原理に左右されている可能性がある。 クリティカルシンキンはどうか。批判的思考ではなく、批判するだけでなく時間耐性を要求する思考、という評価。多くの問題は時間によって解決される。熱しやすくさめやすい世論から距離を置いて反応に耐える態度が必要。 時間を必要とする輿論政治は大衆社会では困難になることは100年前から指摘されていた。「パブリックオピニオン」ウォールターリップマン。公共前に奉仕する知的な専門家に委ねられるべき、とした。大衆民主主義に対するペシズム、悲観論。 市民教育のレベルが上がれば公的な問題に正しく対処できる、というのは幻想。大衆という集団になると、クリティカルシンキングは批判ではなく非難になりがち。非難ではない吟味できる能力は、どのくらいの割合だろうか。 耐える力はAIが不得意とするもの。あいまいな情報に対してネガティブに反応することで、情報をやり過ごし安易な発言をしないことに結びつく。 脳はわかりたがる。読むことは考えることまで腐敗させる。(ニーチェ)。ショーペンハウアーと同じ。 リテラシーの向上に努力してきたのは情報が少なかった時代だからこそ。成熟した民主主義には、世論を輿論にまとめあげることが必要。 安倍政権がメディアに高圧的だったのも高い支持率を背景にしている。 放送禁止は放送局の自主的なもの。フロムの「自由からの逃走」の論理と同じ。メディアは戦前には陸軍から圧迫ではなく饗応されていた。権力への迎合は心地良い。 締切がある幸せ。卒業論文。締切がなければ、いつかやる、は到来しない。あとで学べばよい、というゆとりは社会階層の固定化をもたらしている。 読書術は読み飛ばし術であるように、見過ごすべきものを見極める技術が大事。締切がある人生も見過ごすものを見極める技術の応用でもある。 戦争は不安から始まる。征服欲や闘争心ではない。ウクライナ事変は満州事変と同じ。

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    投稿日: 2025.06.27
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    「フェイク」「ファスト」な時代には能動的なメディアリテラシーよりもまずネガティブリテラシーが必要ではと。その通りだと思うし世論(popular sentiments)と輿論(public opinion)の違いや支持率調査が再帰的な影響を与えていることなどもなるほどという部分はあったが著者の過去の政治批評の再掲が続く前半は冗長で、より包括的なネガティブケイパビリティを他書で学ぶ方が良い。書名を見た時点でなぜわざわざネガティブケイパビリティではない言い方をしたのか疑問だったが、いわゆるメディアリテラシーの文脈に特化した言葉遣いでありネガティブケイパビリティの中に包含されるものと理解するのが良さそうという理解が得られたのは良かった。ただ、著者は輿論のことを「理念型」としてと書いていたが、それが現実のメディア環境においていかなるものなのかやSNS世論のようなものを総体としてどう理解すると良いのか(ミクロに個人としてどう受け止めるか、も「あいまいさに耐えよ」だけでは心許ない気がするが)は疑問が残る。

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    投稿日: 2025.04.29
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    タイトルからネガティブ・ケイパビリティに関する内容を想像していたが、メディア情報を受け取る際にネガティブリテラシーを発揮すべきという内容だった。多くの頁は輿論と世論に関する議題に割かれている。

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    投稿日: 2025.04.26
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    「本当に求めるものは吸収し、どうでもいいものは成り行きにまかせる能力は忍耐強く古典に沈潜して思考することでも得られるからである。それが不確かな日々のニュースを適当に読み飛ばし、わかりやすいデマや陰謀論の誘惑から身を遠ざけることを可能にする。」 p203

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    投稿日: 2025.04.08
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    作者の過去に新聞社などに寄稿した文章のまとめ。 前提となる知識が少なすぎ、途中で意味が分からなくなってしまったため、読むのをやめてしまいました。

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    投稿日: 2025.01.02
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    時間をかけることの重要性を説いているが、メディアやその受け取り手にこの本は届くのであろうか。届かないのであれば意識作りだけでなく、合意形成の仕組み作りが大切となる。そのようなことを考えた

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    投稿日: 2024.10.03
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    配架場所・貸出状況はこちらからご確認ください。 https://www.cku.ac.jp/CARIN/CARINOPACLINK.HTM?AL=01433127

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    投稿日: 2024.10.02
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    『輿論と世論』刊行後の新聞雑誌等へ掲載された論考をまとめたもの。テーマは引き続きメディア・社会を対象としたもの。「報道の自由度ランキング」や「デモ化する社会」を巡る論説には著者ならではの角度と距離感を感じる。SNSをはじめファスト化する社会環境に対しては「やり過ごす力」としてネガティブ・リテラシーを提唱している。

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    投稿日: 2024.08.31