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中野京子と読み解く クリムトと黄昏のハプスブルク
中野京子と読み解く クリムトと黄昏のハプスブルク
中野京子/文藝春秋
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総合評価

21件)
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    ベルガモットさんのレビューを読んで、すぐに図書館へ。表紙の絵はクリムトの代表作『接吻』。寄りで見ると甘美で煌びやかな作品。けれど「引きで見ると危うい場であることが分かる」と中野氏。「帝国の死を目前にしたウィーンの視覚化であった」と言い切る潔さ。ハプスブルク家の盛衰と共に語られる画家・クリムトの生涯には、伝記を読んでいるような臨場感がありました。 目次のあとは、ハプスブルク家の略系図。注目すべき人物についてはカラー画像が入っていて魅力的。次のページは、ハプスブルク家の領地が一目でわかる地図、16世紀と19世紀のものそれぞれ一枚。そして、作品中の見開きページには、美しい絵画の数々。豪華な装丁に心を奪われます。 13世紀から700年にわたって栄えたハプスブルク家。神聖ローマ皇帝位を世襲するほどの勢力があった一族の終焉にいたる過程が描かれていて、映画を観ているようなドキドキ感がありました。実質的な最後の皇帝フランツ・ヨーゼフ一世は、86歳で亡くなるまで70年近く世を治めた人物。毎日の仕事を規律正しく行う古いタイプの君主だったようです。しかし、そんな彼の母親と妻の個性が強いのです。母親のゾフィーは、自分が生んだ息子、フランツを戴冠させ、実質的な政治的権力をしっかり握ります。そして、フランツが唯一 母親に反抗して妻にしたエリザベートは、窮屈な宮廷生活と威圧的な姑から上手に距離を置き、ちゃっかり自分の人生を楽しみます。ふたりとも、あっぱれ! 話をクリムトに移します。金が散りばめられたエロティックな作品という印象ですが、初期には市議会の依頼を受けて壮大な劇場の絵を描いていました。記録としての絵画だったため、150人以上の実在の人物をそっくりに描き入れたそうです。これが認められて賞金と評判を得たというのですから、恵まれた船出だったと言っていいのではないでしょうか。仕事の依頼が次々と入ってくるクリムトに転機が訪れたのは、ウィーン大学講堂の天井絵『医学』事件。想像を超えた表現に大学はこれを拒否。これ以降のクリムトは徹底的に自分の作風にこだわるようになります。ただ、ユダヤ人のパトロンの支援で、画家として困ることはなかったようです。そして、1900年のパリ万博では作品が金メダルを取得。ほぼ同時代のゴッホやゴーギャンに比べて日の当たる場所にいた画家だったのですね。 中野氏は、クリムトの絵に象徴されるような強烈なエロスを、時代が求めたと分析します。600年以上続くハプスブルク王朝の先細りが感じられる中、生き残ることに対する欲求のあらわれだったのではないかと。また、ハプスブルク家の頑なな因習が、第一次世界大戦勃発に繋がったのではないかという見方も。ここはとても興味深く読みました。 フランツ皇帝が亡くなった一年半後、後を追うかのようにクリムトがこの世を去ります。あとがきに「作品に惜しげもなく使用された金箔は、王朝の黄昏時の美しい金色の輝きそのものだった」とありました。そして、本文の最後に現在のオーストリアの地図が一枚。目次のあとにあった二枚の地図と比べると、700年の盛衰が感じられて、ため息がもれます。表紙は煌びやかな『接吻』だったけれど、裏表紙は、ただただ漆黒…。すとんと腑に落ちました。

    41
    投稿日: 2025.10.30
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    オーストリア・ウィーン、ハプスブルク王朝の熱狂と終焉を予感させるような黄金を散りばめたクリムトと、その時代背景と空気感をふんだんに語る中野京子さんの解説に、手に汗握る臨場感。 『旧ブルグ劇場の観客席』華やかさとざわめきの中観客の表情一人一人を眺める。実在の有名人を描いたらしいが150名以上の中からは探しきれない。 『シェイクスピア劇場』の自画像も、じっくり鑑賞。 家の経済状況を考え、職人養成機関といわれた博物館付属工芸美術学校にて奨学金を得、学生時代の17歳で弟と友人とで仕事を請け負うのちの「芸術家カンパニー」を立ち上げたプロ意識。 ウィーンのカフェ文化、社交クラブ的コーヒー文化にため息がでる。 『エミーリエ・フレーゲの肖像』クリムトの12歳下エミーリエの凛々しいこと。高級オートクチュールを開き成功した実業家、ファッションデザイナーとして自信がみなぎって堂々としている。 ゲルマン民族は耳のひとなので、ウィーンが今も音楽の都であるという指摘や、ハプスブルグ家の特殊な埋葬法の解説もある。 『アデーレ・プロッホ=バウアーの肖像Ⅰ』砂糖産業で莫大な富を築いたユダヤ人フェルディナント・プロッホ=バウアーの妻がモデル、製作に3年もかけたとのこと、平面描写及び黄金の渦巻模様が包み込む美しさ。 歴代万博の入場者数ベスト32010年上海万博 2位1970年大阪万博 3位が1900年パリ万博らしい。そのパリ万博に『パレス・アテナ』を出品。「女神の恐ろしさ、非人間的側面」を描いたとのこと。 『マフの貴婦人』オリエンタリズムに惹かれ「美しい黒を引き立てるカラフルな背景」 最後まで、感動を表せきれないくらいのクリムトの絵の素晴らしさを味わう贅沢な時間と同時期の画家や文化人世相を学ぶ盛りだくさんの内容。 最後のページの現在のオーストラリアを示す地図が小国に落ち着いた様子を静かに示している。世界史が苦手な私でもじっくり見てしまう年表も巻末にある。

    20
    投稿日: 2025.10.25
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    クリムトの絵はよく知っているけれど、画家本人のこと、そして画家の生きた社会のことはよく知らなかった。 ハプスブルグ家の歴史も、舞台や映画でなんとなくは知っていたし、世界史で第一次世界大戦のことは習ったけれど、それらが全てリンクしていたこと。 画家の登場と活躍が歴史の必然性であったことがよく理解できる本書。美麗な図版とその解説も楽しい。

    0
    投稿日: 2025.10.23
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    このレビューはネタバレを含みます。

    主役はクリムトなんだろう。前後するマカルトやシーレの話も盛りこまれ、特に前者は今まで知らなかったので勉強になった。 だが、最も興味を惹かれたのは、ハプスブルグ家の老王フランツ・ヨーゼフ1世の話だ。正直この人を題材にしたものをもっと読んでみたい。

    0
    投稿日: 2025.09.28
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    今年はウィーン旅行に行くので、少しでも歴史を勉強しようと手に取った本。世界史が苦手な私でもわかりやすく、面白かった。美術館にも行く予定なので、この絵あの本で読んだな…と思い出せるようにしたい…。

    0
    投稿日: 2025.09.16
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    ミュージカル『エリザベート』を観ていたのでハプスブルク家の理解はすんなりできた。逆にクリムトに対する知識がまだまだなので他の資料なども読んでみたい。

    0
    投稿日: 2025.05.04
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    ハプスブルク家の終焉とその時代に生きたクリムト、シーレ達の作品がなぜその時代に描かれたのが、どんな人生だったのかが詳しく書かれており、作品への解像度も数段上がる。作品もカラー写真で掲載されているのも良き。

    0
    投稿日: 2025.02.22
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    中野京子シリーズ、今作はクリムトに密接に関係するハプスブルク家である。 クリムトは豪華絢爛、どこか慈愛に満ちた作品というイメージだったが、その理由がわかるものだった。 崩壊して行くハプスブルクとその時代の流れ、絵画への影響が中野京子さんの言葉から溢れる。

    34
    投稿日: 2024.11.03
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    中野京子さんの本は久しぶり。クリムトの初期の作品も載っていて充実している。華やかなクリムトの作品とは対照的にフランツ・ヨーゼフが地味に暗く宮廷生活を過ごしている様子が影のようだった。

    0
    投稿日: 2024.10.28
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    このレビューはネタバレを含みます。

    クリムトが好きなので、中野さんがどう描くのか楽しみにして読む。クリムトが生きたハプスブルク家の歴史を読むという感じで、力点はどちらかというと、ハプスブルク家の終焉にあるように感じられる。クリムトに対する好意的と思える記述に対して、エゴン・シーレに対する辛辣な記述の対比は興味深く感じたが、個人的には全体的に物足りなさを感じた。

    0
    投稿日: 2024.10.17
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    クリムトについても、ハプスブルク家についてもそれなりに知っているので、今更読む必要あるかな、と思いつつ読んでみた。 が、ここまでクリムトの人生とハプスブルク家の終焉が同時期だったとは知らなかった。 そうか、クリムトって第一次世界大戦の頃の人なんだ。 と初めて実感した。 クリムト、というより、ハプスブルク家、フランツ=ヨーゼフ時代のオーストリアで華開いた芸術家たちの話。 と言った方がいいかもしれない。 それにしても、クリムトも、ハプスブルク家も黄昏という言葉がよく似合う。

    0
    投稿日: 2024.10.14
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    面白かった。スタバでコーヒーを飲みながら一気に読んだ。ハプスブルク帝国の終焉とクリムト、シーレ、そしてウィーン。

    0
    投稿日: 2024.09.19
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    おもしろかった。 音声ガイドを使って 「クリムトと黄昏のハプスブルク」展をみているようだった。時代の背景とかいろいろをわかってから見ると 深みがでる。冗談じゃなく ほんとうに同タイトルの 絵画展があったら 絶対に行く!

    18
    投稿日: 2024.08.26
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    面白すぎてほぼ一気読み。 ミュージカル『エリザベート』が大好物なのでフランツ・ヨーゼフ1世まわりのハプスブルク家は私もよく知るところ。 そんな自分にとって本書は「知ってること+α」の具合が大変ちょうど良かった。 本書で触れられていた映画『黄金のアデーレ 名画の帰還』やエゴン・シーレの伝記的映画は鑑賞済みだったので、より一層楽しく読めた。 それにしても、フランツ・ヨーゼフ1世を囲い込む怒涛の死たるや。 1867年 弟:マクシミリアン メキシコで銃殺刑 1886年 妻の従弟:バイエルン国王ルートヴィヒ2世 変死 1889年 息子:ルドルフ マイヤーリンクで心中(公には心臓発作) 1898年 妻:エリザベート スイスでアナキストによる刺殺 極め付けが1914年 皇位継承者の甥:フランツ・フェルディナンド 夫婦で暗殺 人呼んで『サラエボ事件』 改めて、凄まじい。 なお、エリザベートを襲ったルイジ・ルケーニは反体制派からも支持されず、世間からは卑劣漢扱い、スイス当局は政治犯としてすら認めなかったと。ミュージカルの中で狂言回しの良い役を与えられているのが申し訳なくなってきた。 それから、皇帝の愛人とされるカタリーナ・シュラットの存在は知らなかった。 皇帝自身は第一次世界大戦の最中に病死。 1916年11月 フランツ・ヨーゼフ1世 肺炎により86歳で崩御 1918年1月 グスタフ・クリムト 肺炎とインフルエンザで死去 同年10月 エゴン・シーレ スペイン風邪で死去 クリムトもシーレも、ハプスブルク家の最期の灯火のようだ。あるいは、旅路の共に連れて行ったのか。2人とも宮廷とはほとんど関わりはなかったようだが、時代を彩って時代と共にこの世を去ったところがそんな気にさせる。

    0
    投稿日: 2024.08.17
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    本のカバーに「19世紀末のウィーンは黄昏時の美しさに輝いていた。ハプスブルク大王朝崩壊の予兆に怯えながら、誰も彼もそれに目を背けてワルツに興じていた。」と書かれてあり、惹かれて買った。 読んでみて、19世紀末ヨーロッパ(特にハプスブルク)は、特異的な時代だったように感じられた。華やかながらも、不安定さが漂っているような感じが、何とも言えず興味深い。 ゾフィー、フランツ・ヨーゼフ一世、エリザベート、フランツ・フェルディナントなどの、ハプスブルク帝国末期の人物についても、程よく解説してくれていた。 絵画の解説が、もう少し多めでも良いかもとは思った。

    0
    投稿日: 2024.08.12
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    図書館の新着で見つけた、読み解くシリーズ第2弾。前作の『フェルメールとオランダ黄金時代』は図書館に蔵書がなくて未読である。あとがきによれば、「時代の必然のように登場した画家とその地の世相や事件を、できる限り多面的に捉えようとする試み」なんだそうだ。 本書では、19世紀から20世紀にかけて活躍したクリムトと、その時代のオーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフ1世を中心に、様々な出来事が語られている。 うーん、世界史も地理も苦手なので、興味深く読んだが面白くはなかった。もう少し美術寄りかと思ったのだが。

    1
    投稿日: 2024.08.10
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    何年か前に展覧会観に行ったことを思い出しながら読みました。クリムトは大好きです。美しい。『ヌーダ・ヴェリタス』(の絵葉書)部屋に飾ってます。中野京子さんの解説や時代考証と共に見るとまた一味違う。そしてフロイトと同時代と知るとまた深みが増しました。

    1
    投稿日: 2024.07.25
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    グスタフ・クリムトを主軸にして、オーストリア帝国フランツ・ヨーゼフ皇帝の人柄や家族関係を絡めて、わかりやすく書かれています。 中野京子さんのクリムト絵画の解説はもちろん魅力的で、絵画が作られた経緯やモデル、エゴン・シーレとの関係など読みやすくなってました。

    0
    投稿日: 2024.07.09
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    超新星爆発。星は寿命を終える直前に最もエキサイティングなイベントを起こす。第一次大戦後に消滅したハプスブルク家。19世紀末のウィーンは、黄昏時の美しさに輝いていた。…次々と後継者を亡くし在位が68年に及んだフランツ・ヨーゼフ。嫁ぐはずの姉に付いてきて自らが皇后になっってしまったエリザベート。ウィーン大学の天井画で物議を醸したクリムト。過激な表現で24日間拘留されたシーレ。カフェのコーヒーは包囲したトルコの置き土産。華やかさは運命の儚さを彩るためにあるのか。…カラーの単行本。絵が見開きでも十分見やすい。

    2
    投稿日: 2024.07.07
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    [図書館] 読了:2024/6/29 子だくさんの貧困家庭の長男、社交界は不得手、というのが意外だった。モデルとして集めた女性など、社会的立場の低い女性に対する道具扱いから、上流階級出身かと思っていた。

    0
    投稿日: 2024.06.29
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    【絢爛な中に漂う死の気配。歴史と名画がスリリングに交錯する!】大王朝の消滅前、ウィーンは黄昏時の美しさに輝いていた。クリムト、シーレ、ヴィンターハルターら42点の名画で怒濤の時代を読む。

    0
    投稿日: 2024.05.21