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powered by ブクログhttps://www.nikkei.com/article/DGKKZO82049450S4A710C2MY6000/
0投稿日: 2024.07.13
powered by ブクログフィリピン:日本ときわめて緊密な関係 タイ:東アジアで日本の投資最多・日本人最も多く住む カンボジア:中国の影響力大 パラオ:もっとも親日的な国の1つ 台湾:国際政治上の最大の注目点 パキスタン:中国の一帯一路の重要な一部 モーリシャス:日本のパートナーになりうる国 コンゴ:アフリカで事実上一番広い・人口1億人超・天然資源 スーダン:イスラム・非スラム、農耕・遊牧民の対立 南ア:ボツワナ・エスワティニとの関係微妙 ナイジェリア:アフリカ一の人口と経済規模 パラグアイ:世界屈指の親日国 チリ:安定・OECDの一員 アルゼンチン:インフレ・クーデター・デフォルト ボリビア:先住民族の発言権 北岡伸一氏の『覇権なき時代の世界地図』は、JICA理事長としての4年間の経験を基に、2019年に刊行された地政学的分析書です。本書の核心は「覇権なき時代」における国際秩序の変容を観察し、日本のような先進国が果たすべき役割を探求することにあります。著者は自由民主主義の普及が世界平和につながるという信念の下、従来の「大国」中心の国際関係論を超えて、多様な規模と発展段階にある国々との関係構築の重要性を強調しています。特にJICAの開発協力を通じて培われた信頼関係が、新たな国際秩序構築の基盤となり得ることを論じています。 第1章から第3章では、地政学的に重要な地域における日本の具体的な貢献事例が詳細に分析されています。東南アジア・太平洋地域では、フィリピンのミンダナオ和平プロセスにおける日本の国際監視団としての役割、パラオとの歴史的文化的絆に基づく「日本・パラオ連合」構想、台湾との非公式な関係深化の重要性が論じられています。南アジア・中東・インド洋地域では、パレスチナ問題に対する「平和と繁栄の回廊」構想、インド洋諸国との戦略的連携、パキスタンという地域大国との複雑な関係管理の必要性が検討されています。アフリカでは、コンゴ民主共和国の平和構築、ルワンダの「奇跡」的復興、スーダン・南スーダンでの困難な協力条件下での支援継続といった事例を通じて、長期的コミットメントの重要性が示されています。 第4章と第5章では、移民の歴史と地政学的変動がもたらす新たな協力の可能性が探られています。南米諸国、特にパラグアイにおける日系移民の活動は、植民地支配の経験がなくても築かれる強固な親日感情の例として注目されています。ヨーロッパにおいては、ロシア・ウクライナ紛争の影響下で、ポーランドのような歴史的親日国との安全保障協力の可能性や、東欧諸国(ジョージア、モルドヴァ)との関係強化の戦略的意義が論じられています。アイルランドの事例からは、分断された社会の統合と独立達成のプロセスから、日本の近代化や国内多様性に関する教訓を抽出する試みも示されています。 第6章では、「覇権なき時代」における新たな国際秩序構築に向けた日本の戦略的アプローチが提示されています。JICAチェア・プログラムを通じた日本の非西欧型近代化経験の共有は、開発途上国の次世代リーダー育成と知日派ネットワーク構築を目指す重要な取り組みとして位置づけられています。グローバルサウスとの関係では、これらの国々の多様性を認識しつつ、長年の信頼に基づいた開発協力を通じて中国やロシアとは異なる日本独自の強みを活かす戦略が提唱されています。特に、インド太平洋におけるQUAD(日米豪印戦略対話)のような枠組みを通じて、有力国との連携を深めることの重要性が強調されています。 ウクライナ戦争がもたらした国際秩序の変容について、著者は既存の国際機関や国際法だけでは紛争解決が困難な現状を指摘し、多極的アプローチの必要性を論じています。日本は経済大国としての力に加えて、自由、民主主義、法の支配という普遍的価値を国際社会で推進する役割を担うべきだとされています。特に、唯一の被爆国として平和的解決手段を追求し、軍事力以外の方法での問題解決を重視することが日本の責任であると強調されています。著者は、日本が国際社会において「世界地図を書き換え、新たな秩序を構築する」主体的かつ能動的な役割を果たすことの重要性を訴えています。 本書の結論として、著者は世界各地で同時進行する多様な危機(ミャンマー、アフガニスタン、スーダン、パレスチナ、中国の強権化、北朝鮮問題など)に対して、日本が平和国家としての歩みと開発協力で培った信頼を基盤に、自由と繁栄を重視する新たな国際秩序構築に向けてより能動的に貢献すべきだと主張しています。この「覇権なき時代」において、日本の役割は単なる経済協力を超えて、思想や価値観の共有を通じた国際社会の安定化に寄与することにあると位置づけられています。本書は、日本外交の新たな方向性を示す重要な政策提言書として、地政学的変動期における日本の国際的責任と機会を包括的に論じた作品といえます。
0投稿日: 2024.06.17
