
総合評価
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powered by ブクログイギリスの作家ネビル・シュートの長篇ミステリ作品『パイド・パイパー 自由への越境(原題:Pied Piper)』を読みました。 イギリスの作家の作品は、昨年12月に読了したアガサ・クリスティの『バートラム・ホテルにて』以来ですね。 -----story------------- ●米澤穂信氏推薦――「ひとしずくもたらされる善意。その尊さが、胸に迫る。」 ●宮部みゆき氏推薦――「気骨あるおじいちゃんと、健気で可愛い 子供たちの大冒険。たまりません。」 ●池澤夏樹氏推薦――「老いて無力な主人公が(…)危機にいかに対処して、子供たちを安全な国まで連れてゆくか。冒険小説というのは危難の設定が鍵だが、この話はそこのところがうまくできている。」(週刊文春2002年7月25日号より) フランスの田舎道でパンクのため立ち往生したバスは、ドイツ軍の編隊の機銃掃射を受けて動けなくなった。 これから先は歩くしかない。 老イギリス人は、やむなくむずかる子供たちの手を引いた。 故国を目差して! 戦火広がるフランスを、機知と人間の善意を頼りに、徒手空拳の身でひたすらイギリス目差して進む老人と子供たち。 英国冒険小説界の雄が贈る感動の1編。 訳者あとがき=池央耿/解説=北上次郎 ----------------------- 1942年(昭和17年)に刊行……第二次世界大戦下、1940年(昭和15年)のフランスを舞台にイギリス人老紳士と子供たちのイギリスへの逃亡劇を描く物語で、最初に邦訳された際のタイトルは『さすらいの旅路』だったようですね。 時は1940年夏、現役を退いた老弁護士ジョン・シドニー・ハワードは傷心を癒やすためジュラの山村へ釣り竿一本下げて出かけた……しかし、懸念されていた戦局がにわかに緊迫度を高め、突然の帰国を余儀なくされたばかりか、ジュネーヴの国際連盟に勤めるイギリス人キャヴァナー夫妻の子どもロナルド(ロニー)とシーラの2人を預かって帰る破目に陥った、、、 だが、ハワードの運命はそれだけにとどまらなかった……途中で世話になったホテルのメイドの姪・ローズ・テノワや二親を失った孤児ピエールなど、次々と同行者の数は増えていく。 戦火の中を、ひたすらイギリスを目差す老人と子供たち……英国冒険小説の雄ネヴィル・シュートの代表作。 イギリス人の元弁護士ジョン・シドニー・ハワードは、2人の子どもをイギリスに連れていくことになる……戦火の広がるフランスを進む途中で同行する子どもが少しずつ増え、さらにはドイツ軍にスパイ容疑をかけられながらも、子どもたちを救うためひたすらイギリスに向かう、、、 主人公が70歳の老人で同行者は子どもたちというロードノベルなので、派手なアクションはないのですが、苦難にみちた旅の途中での様々な困難を一つひとつ克服する展開は、それなりにスリリングで物語に惹き込まれましたね……フランスを占領したナチス・ドイツが最大の脅威になるのですが、それ以上に厄介なことが自分たちの中に潜んでいるんですよねー 高齢と幼少、病み上がりの幼女の虚弱、少年の無知とその裏返しである人一倍の好奇心、ナチス・ドイツに対するポーランド難民孤児の底知れぬ執念、喧嘩をしたりぐずったり、英語を話してしまったり 等々、老人と子どもの旅は気の遠くなるような困難の連続でしたね。 スパイ容疑でドイツ軍に捕らえられて万事休すと思われましたが……神は一行を見捨てていませんでしたね、、、 1942年(昭和17年)に映画化、1990年(平成2年)にはピーター・オトゥール主演でテレビ映画化され、同年日本でもNHK総合テレビにて『はるかなるドーバー』のタイトルで放送されたらしいです……観たかったな。 以下、主な登場人物です。 ジョン・シドニー・ハワード 70歳のイギリス人。弁護士業を営んでいた キャヴァナー夫妻 夫は国際連盟職員。2人の子供をハワードに預ける ロナルド(ロニー) キャヴァナー夫妻の8歳の息子 シーラ キャヴァナー夫妻の5歳の娘 ニコル・ルージェロン ハワードの知人の娘。フランス人女性 ローズ・テノワ ハワードが滞在したホテルのメイドの姪 ピエール フランス人少年 ヴィレム・アイベ オランダ人少年 マリアン・エストライヒャー ポーランド系ユダヤ人 アンナ ドイツ人少女
0投稿日: 2025.02.16
powered by ブクログ1942年の第二次世界大戦中に書かれた冒険フィクション。 舞台はドイツ軍進軍直前のフランス。 元弁護士として隠居生活を送っていた英国老紳士であるハワードは祖国イギリスで戦局のニュースを聞きながら何もできない自分に塞ぎこんでいたが、気分転換するためにフランスのアルプス付近へ釣りをするために慰安旅行にでかける。 無事目的地で身心を休めていた彼だったが、そのフランスの奥地へも戦争の影は忍び寄り、当地で知り合った人から幼い子供を預けられてイギリスまで連れ帰ってほしいという依頼を受ける。 老いた体で、混乱するフランス国内を、自由気ままに暴れまわる子供たちを連れて、果たして彼は無事にイギリスまで戻ることができるのか。 というお話。 訳が良いのかもしれないが、80年以上前に書かれたとは思えないどんどん引き込まれる話の展開の上手さ。 そして老紳士や登場人物の言葉が品位と謙虚さとユーモアにあふれており、今現在このような人物に会う事は稀有な事であろう。 そして小さい子供たちの気まぐれとやんちゃっぷり、そしてそれに振り回される大人たちは今も昔も変わらないと思った。 10代、20代で読むと話が面白いで済むと思うが、30代以降の子どもを育てる側に回る世代には別の面白さがある本だと思う。 今まで知らなかったのを後悔するほどの名作だと思う。
1投稿日: 2024.11.04
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
読み進めていくにつれてスリリングな展開にどんどん引き込まれていった。 老人がまたニコルと再会できるといいな。
1投稿日: 2024.10.31
powered by ブクログハワードおじいちゃんの忍耐力と親切心に脱帽。と同時に、暴力で捩じ伏せたり、自分のことしか考えなかったりするより、結局は彼のように行動した方が、めぐりめくって満足のいく人生が送れるような気もする。 ドイツ民話の〈ハーメルンの笛吹き男〉は子どもたちを誘拐してしまうけれど、本書の〈パイド・パイパー〉は、笛を作るのが上手で、やさしく、そして子どもたちを安全な場所まで送り届ける。
2投稿日: 2024.09.19
powered by ブクログネヴィル・シュートの 「パイドパイパー」が復刊されました。 ネヴィル・シュートといえば、日本では世界が核戦争で滅亡し、たまたま潜っていた潜水艦だけが生き延び、信号を受信して救助に行く、という「渚にて」しか知られていず、いまとなってはそれも怪しくなっているので、この2冊が並んで平積みになっているのを見て、おお、と思いました。 これが書かれたのは1942年……。 もう90年前の作品です。 ドイツに爆撃され、子どもたちと乗っていたバスが破壊され、一人の老人が子どもたちを守り、必死になってイギリスまで生還する物語です。 名作なので、物語が好きで、まだ読んでない、という人がいたら読んでくだされ。 2024/06/26 更新
0投稿日: 2024.06.25
powered by ブクログおじいさんが小さい子供達を引き連れて母国を目指す冒険物語。時代背景は戦時中なので緊迫感のある場面もあるけれど、基本いつもおじいちゃんが子供に手を焼いている苦労が滲んでいてなんだかかわいい…子守り系冒険物語。「彼は老人特有の忍耐強さでなんとか堪えた」みたいな描写が何回も出てきてクスリとしました。ニコルの登場後、物語の主軸が少し変わった感じ。ニコル幸せになってね!
1投稿日: 2024.03.28
powered by ブクログ老紳士と子供たち(他人)の冒険小説。 第二次世界大戦下、スイス?フランス?からイギリスへの国境を越える旅の様子を、ドキドキハラハラしながら見守りました。 人生でトップスリーに入る作品です。
32投稿日: 2024.02.05
powered by ブクログとても良い本。かなり古い本の復刻版だが、今読んでも面白かった。第二次世界大戦が始まったばかりのフランスでお爺さんと子供達がイギリスまで逃亡する話だが、悲壮感はほとんどない。最後の最後に進退極まった所を、どう切り抜けるかは見もの。映画で見たいと思った。
2投稿日: 2023.09.18
powered by ブクログ100冊ビブリオバトル@オンライン第7ゲームで紹介された本です。オンライン開催。チャンプ本。 2020.08.22〜23
0投稿日: 2023.05.04
powered by ブクログ1942年に書かれたイギリスの冒険小説。 あらすじとしては、第二次世界大戦初期にドイツ軍がヨーロッパ各地に電撃的に展開した1940年の夏のフランスが舞台。 戦況がこれほど悪化するとは思わず、フランスの田舎で静養していたイギリス人元弁護士の老人が祖国イギリスへ帰るまでの苦難の道のりのお話。 最初に国連職員の二人の幼子を託され、その後もドイツ軍の侵攻の中の混乱した状況でイギリスを目指して進む間にどんどん預かる子供が増えてくる。 この老人は寛容な心と忍耐力でその子供を受け入れ道中の困難度はますます上がる。 さて、老人と子供達は無事イギリスへ渡れるのでしょうか?? と言うお話。 "パイド・パイパー"とはドイツ民話の「ハメルンの笛吹き」の意。 旅をしていく中で子供達が集まってくる様を表したと思われます。 特に派手なドンパチがある訳でも、脱出の奇策がある訳でも無いが、この老人の実直さと老人、女性、子供の無力さ、純粋さを描きながら戦争の悲惨さが淡々と描かれている。 悲惨な状況を描きながらもイギリス独特のユーモアも忘れない感じの良い文章。 イギリスに渡る直前の難関の解決仕方が少々不自然であり少し残念。 全体としては、なかなか面白い小説でした。
0投稿日: 2023.02.18
powered by ブクログ創元推理文庫だったのでてっきり推理物かと思いどんな内容か事前知識なしに読み進めたら、意外にも感動系ロードストーリー。回想型なので結末は予想できるものの、旅の展開からドキドキハラハラ、途中からどんどんハマっていって感動しました。
0投稿日: 2022.06.26
powered by ブクログ表紙は 中央はハワードことジョン・シドニー・ハワード 左はロニー ことロナルド・キャヴァナー 右はシーラ・キャヴァナー
0投稿日: 2022.06.01
powered by ブクログ戦争中の冒険小説。 タフで誠実なおじいさんがこども達を引き連れてイギリスに渡る。 愚痴も言わず、尋問にも負けずに正直に答えてく姿はすばらしい。
0投稿日: 2022.05.03
powered by ブクログ「パイドパイパー」とは「ハーメルンの笛吹き男」のこと スイス国境近くのディジョンで釣りをしようとしていた70歳のイギリス人ハワードは、ドイツ軍のフランス進撃とイギリス軍のダンケルク撤退を知って、イギリスへ帰国しようとする。 ところがドイツ軍がスイスに侵略する噂に心配した国連に勤めるイギリス人夫婦から、2人の子供を連れてってほしいと頼まれる。 ゆく先々で子供は増え、最終的に7人それもイギリス人、フランス人、オランダ人、ポーランド系ユダヤ人、ドイツ人と、縁もゆかりもない子供たちを連れてイギリスを目指す。 戦争で交通手段もままならない中、乳母車とともに大勢の子供を連れて「ほとんど歩いて」イギリスを目指す姿は、ハーメルンの笛吹き男そのもの。 作られたのは1942年、第2次大戦真っ只中で戦争の行く末はまだ混沌としているとき。 作者はハワードを必要以上に「戦時の英雄」として語っていない。 むしろ、故郷イギリスで突然の不幸から孤独となり、生きる希望を失った老人の再生物語として描き、読者の共感を呼びよせている。 ロンドン空襲のさなか主人公ハワードが「私」に語る帰国までの道のりは、誰かに必要とされる喜びとそれにこたえようとする充実感にあふれている。 現代にも通じる主題を持ち、読む手を止めさせない「ロードムービー」でした。
1投稿日: 2021.09.06
powered by ブクログこんなに面白い本に出会えるとは。。。 だから読書はやめられないと思います。 パイド・パイパーとは「ハーメルンの笛吹き」のこと。 あるきっかけから、子供二人を連れてフランスからイギリスへ第二次世界大戦中に逃げることに。 また様々で出来事から三人・四人と増えていく。 無事、逃れることが出来るのか。 もちろん、悪役はナチスドイツであるけれど、 この小説のもっとも良いところは悪役が一人もいないこと。 一読するべき。 追伸…この本は出版されたその年に映画化されたそうです。 それも戦時中の1942年。戦時中に出版されたのもびっくりだし、映画化されたのもびっくり。
0投稿日: 2021.05.12
powered by ブクログ英国冒険小説の雄ネヴィルシュートの代表作は「渚にて」よりこっちだと聞き、表紙の絵を見てうっそーと思ったが読んで納得した。表紙に騙されてはいけない。こんなほのぼのとした話ではない。パイドパイパーはハメルンの笛吹きのことだがそれは何を意味するのか。第二次大戦下の戦火強まるフランスで、70歳の元弁護士イギリス人のハワードはイギリスに帰るにあたり世話になったホテルのメイドに2人の子供を連れて行って欲しいと頼まれる。心よく引き受けたもののドイツの侵攻激しくパリ陥落も間近、行く先々で人に助けられながらも託された子供は6人まで増える。100人の敵と戦うわけではない、未知なる世界を旅するわけでもない。戦時下に一人の老人が大人として男として父として子供たちの保護者として、どう振る舞い、どう生きるか、どう帰り着くのかという老人冒険小説である。それがむしろ現実に生きる我々にはリアル過ぎて多分子供にはわからない面白さなのだ。その生き様はジョンバカンと同じくイギリス紳士の矜持であり、戦争の緊迫感の中で各国の登場人物が交わす友情や信頼が身に沁みる。そしてこの話が1942年パリ解放前、大戦ど真ん中に出版されていることに驚く。つまりネヴィルシュートはこれをー現実の中で書いたのだ。ニコルとジョンの恋はおそらく当時多くの恋人たちを引き裂いた戦争の現実であり、親を失った子供たちも同様である。有難う、戦争が終わったら必ず会おうという別れの挨拶。一期一会で出会い、命を賭けて助け合う人たちの生き方そのものに胸が熱くなる。善意というよりも生きるか死ぬかという時に人は何かに縋る、必死で互いに縋るから互いに助け合う結果になる。人生ってそういうものじゃないかと思う。
0投稿日: 2020.12.24
powered by ブクログ隠居生活の元弁護士ハワードは、第二次大戦の戦火が広がる中、イギリスからフランスのジュラの山村へ釣りに出かける。戦局に関心をはらっていなかったハワードは、フランスがドイツに攻め込まれ危機的な状況になりつつあるのを理解していなかった。ジュラではゆっくりと釣りを楽しんでいたが、スイスもドイツの手に落ちるのではないかという噂の中、帰国を決める。同じ宿に泊まっていた国際連盟職員の妻から、子ども二人をいっしょにイギリスまで連れ帰ってほしいと頼まれる。列車を乗り継いで帰れると引き受けたハワードだったが、ドイツ軍の侵攻で交通機関は寸断され食料も泊まるところも無くなっていく。バスに乗り換え、最後は歩いてイギリスを目指す。子ども二人でも大変なのに、戦争孤児やユダヤ人の子どもや次々と子どもを託される。英仏海峡を望む町までたどり着いたとき、とうとうゲシュタポに見つかりスパイの容疑をかけられてしまう。 面白かった。何度か映画化・テレビ化されているそうだが、そうしたくなる展開だと思う。出版されたのが1942年だが、まだ戦争が終わっていないではないか。 「渚にて」の著者でもある。 余談だが、ジュラ地方はジュラ山脈に由来し地質年代のジュラ紀もこの地域に多く見られる地層だからだとか。豆知識が増えた。
0投稿日: 2020.09.16
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
予備知識なしに買ってみたが,いやあ,面白かった. フランスで釣りのための休暇を過ごしていた70歳のイギリス人が,ドイツ軍の侵攻のために帰国を試みるのだが,なぜだか次から次へと子どもを引き受ける羽目になり,ドイツ軍占領下のフランスを孤軍奮闘しながら横断して帰国するまでの話. 読み終わってから驚いたのは1942年の出版であることで,じゃあ,ほぼリアルタイムじゃん.古典的名作ということになるが,読んでて全く古くささを感じなかった. 主人公のハワード老人がロンドンのクラブで回想するという形を取っているため,帰国に成功していることは分かっているのだが,必ずしもハッピーエンドとは言えない結末まで一気に読み終わってしまった.
0投稿日: 2019.11.01
powered by ブクログ戦時下の極限状況のなかで進む物語は、すべて人間の善意で成り立っている。行く先々で子供たちを託され、または自ら保護してともにイギリスへ帰ろうとする70歳の老紳士ハワードはもちろんのこと、恋人を亡くし失意のなか自ら同行しそれを助けるニコルも、(この小説のなかでは)敵国ドイツの少佐でありながら姪のことを想いハワードに託すディーゼンも、みんな誰かの幸せを願っている。戦争の真っただなか、当然血は流れ人は死ぬけれど、全編に渡りなんとも言えない優しさに満ち溢れている。人間の美しさを感じられる小説だった。
1投稿日: 2019.10.23
powered by ブクログ第二次大戦初期1940年、空軍パイロットの息子を亡くしたハワードは寂しい心を紛らわすため、前にも訪れたフランスの片田舎に釣りの旅に出かけた。 しかし戦局は風雲急を告げ、そんな時、国際連盟に勤めるイギリス人夫婦から二人の子供をイギリスに住む親類の家まで連れて帰ってほしいと頼まれる。 不安を覚えながらも、引き受けることにし、老人と幼い少年少女の三人旅が始まったが、戦局の悪化とともにアテにしていた列車は思うように動いてくれない。行く先々で人の親切に助けられながら危機を脱出するものの、色々な事情からイギリスに連れて行く子どもの数も増えていく… 果たしてハワードと子どもたちは無事にイギリスに帰れるのか? 1942年、ナチス・ドイツによるロンドン空襲が激しかった頃に書かれた冒険小説。
0投稿日: 2018.10.15
powered by ブクログジワジワと染み入る小説。第二次大戦、独軍のポーランド侵入を機にヨーロッパに広がる恐怖。迫りくる危険を感じ独占領下の仏から本国英国へ帰ろうとする老人ハワード。しかも自分の子供、孫でもない小さな子供二人を連れて。英国への道のりは迷走しながらも一緒に行く子供の数が増えていく。戦争の恐怖と緊張感、そしてハワードが背負う命の重さと責任を一緒に感じ取りながら息をひそめるようにページをめくる。独兵を悪魔のように書くこともできるが良い面も見せている。国の未来を信じ戦っているのは同じ人間なのだ。戦争終結前の1942年作品。
2投稿日: 2018.08.14
powered by ブクログネビル・シュートはSFの名作「渚にて」の著者でもあります。書店で「買おうか?」悩んでいる時、解説を読んでその事を知り買うことにしました。また、表題の「パイド・パイパー」は、退治した謝礼を支払わない村人の怒って、子供達を笛で釣り出してしまう童話「ハーメルンの笛吹き男」のことです。まあ、子供が次々と集まるところは同じなのですが。 シチュエーションは何もかも違うのですが、同じように老イギリス紳士が主人公であるせいでしょう、カズオ・イシグロの「日の名残り」を思い出しました。どちらとも「主人公のキャラクター=小説の主題」という気がします。 「日の名残り」は表題の如く、斜陽のイギリスを背景にしています。しかし、この本では戦争の暗さはあるもののイギリスはまだ世界の主人公の一つです。その所為でしょうか、こちらの主人公の方が毅然とした感じが強く出ています。内心では不安をもちながら沈着冷静、そして子供達に対する強い責任感。老人が主役だけに派手なシーンは無く、淡々と物語りは進みますが「信念の強さ」のような物を感じさせる物語です。
0投稿日: 2017.11.16
powered by ブクログ名作! フランスへ釣りに来た老人が、戦禍を逃れてイギリスへ帰る道すがら、子供をどんどこ連れ歩く「パイド・パイパー」になってしまう不思議な話、とでも。この辺はちょっとファンタジーっぽいけれど。 しかし著者の目線が素晴らしい!子供の心理描写・些細な仕草の描写が本当に自然で、何より優しい。ゲシュタポがちらつく背景でありながら、老人の余裕だとか、最愛の人を失った女性の強さだとか、どれも無理なくストンと落ちる作り。話は至ってシンプルでありながら、読了後のしみじみとした残り香が非常に良かった。 「今から三十年もすると、きっと世界はこの子たのだれかを必要とする世界になる」…子供たちを平和な未来に届けるためにジョンと出会ったんだと云うニコルに泣けました。
3投稿日: 2017.07.26
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
息子を失った傷心の老人が戦火のフランスで子供達を託され、イギリスへ向けての逃避行を始める。道中にはびこる死、そして困難。その中で連れ帰ればならない子供の数はどんどん増えて行く… 主人公の老ハワードは持ち前の正義感と枯淡のウィットを武器に、その旅へ果敢に挑戦するのだ。 助けてくれる者、助け合う心。 憎むべきヴィーゼル少佐ですら、戦争の前では親類の少女の身を案ずる一人の叔父でしかない。 敵味方、国籍の別なく子供達を守り通そうと奮闘するハワードの姿に、読者は強い勇気と人間の気高さを感じるだろう。
0投稿日: 2017.02.11
powered by ブクログ世界大戦下のイギリスのとあるクラブ。遠くから空襲の砲弾の音が聞こえる長い夜に、わたしはジョン・ハワードという老人と意気投合する。フランスからイギリスまで、あらかた歩いて帰ったというハワード。わたしはその話に興味を持ち、さらに話をうながす。そしてハワードは、幼い子供たちをつれてフランスからイギリスは渡った話を語り始める。 戦争の影響で電車やバスの路線は乱れ、さらに侵攻してきたドイツ軍は、イギリス人を捕らえようとしています。 また子供たちの描写のリアルさも、物語を盛り上げます。道中で熱を出してしまったりぐずったり、あるいは無邪気に戦車を見たがったり、ドイツ兵の前で英語で話そうとしたりと、状況を理解しきれない子供を連れていくからこその困難も、待ち受けます。 しかし、そんな中でもハワードは忍耐強く子供たちを叱ることなく、先に進んでいきます。その我慢強さが心強く、そのおかげで読んでいる側も、子供たちにイライラすることなく、読み進められます。 そして、ハワードの責任感の強さは、初めに預かった子供たちだけでなく、道中で出会う知らない子供たちにも発揮されるのです。 旅先のホテルでお世話になった女中の娘。ドイツ兵に家族を奪われたユダヤ系の少年。怪我をしている、英語もフランス語も通じない少年。 旅をする中では、足手まといになるであろう子供たちも、引き連れハワードはイギリスへ向かいます。そうしたハワードのやさしさや強さも、読んでいてさわやかですが、道中で出会う人たちもいい人が多く、ドイツ兵ですら 憎みきれない人たちが多いのが、いいです。 しかしその一方で、子供たちの環境や路線の混乱、道中の町や村の描写、スパイを警戒し、捕虜に対し厳しい仕打ちをするドイツ兵の将校など、戦争の悲惨さも描かれます。こうした状況をしっかりと挟まれます。 旅先でトラブルが起こり、それを一つずつ乗り越えていくという、シンプルな展開ながら読ませます。読んでいてなんとなく連想したのが、田川さんと蛭子さんがやっていたテレビ番組「ローカル路線バスの旅」 ローカルバスだけを乗り継いで、期限内に目的地に向かうというシンプルな番組なのですが、バスが通ってなくて、徒歩で移動したり、少しでもバスが通じている可能性を信じ先へ進んだり、とそうしたトラブルと、それをどう乗り越えるか、という選択が見どころの一つだと思うのですが、この小説もその面白さが根底にあるような気がします。 そして終盤、ハワードはかつて付き合いのあった大佐を頼り、その娘のニコルと出会い行動を共にします。 このニコルも実はハワードと浅からぬ縁があることが、分かります。そしてニコルとの別れが近づく場面。その縁をとても美しく感じさせる、ロマンチックなやり取りが最後に描かれるのです。これはかなりの名場面! 読みどころの多い、素敵な小説でした。
1投稿日: 2017.02.05
powered by ブクログ細いところが丁寧に書かれていて、ほんとにあったこと?と思うくらいです。 子どもたちへの愛情と責任感が、ひしひしと伝わってきます。
0投稿日: 2016.02.24
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
映画のサウンドオブミュージックを思い出した。 (戦争で子供を連れて逃げるあたり) 主人公ハワードが子供たちと戦火の中、 フランスからイギリスに向けて旅をする話。 自分の面倒を見るだけでも大変なのに、徐々に増えていく 子供たち。ハワードは優しいね。 戦争で子供と離れ離れになる親の気持ちはいかばかりかと 思わされる。
0投稿日: 2014.02.04
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
評判が良かったので、いつか購読しようと思っていたのですがやっと古本屋で見つけ講読。 本当に一気読みしました。 激しいアクション、殺伐としたシーンがない。70歳のおじいさんが主人公の異例な冒険小説。 唯一の武器は、弁護士であった資金力、交渉能力、フランスの土地勘のみ。 本当にこれでもか!と、難題が降りかかるが、タフなイギリス紳士が切り抜ける。こんな状況でも未来に溢れた子どもとはいえ、他人の子どもを自らの犠牲を厭わずに守れるのか。 敵であるドイツ軍に捕まりそうなスリリングな状況下に子ども達の無邪気なのが癒される。 第二次世界大戦のフランスの情景を生かしながら、主題は、未来を担う子ども達に自らの犠牲を厭わない大人の責務であろう。
1投稿日: 2013.11.21
powered by ブクログだまされた・・・! かわいらしい表紙にだまされました。かるい読み物をと思って手にしたこれは、途中で寝ることもゆるされない、ハードな読み物でした。おもしろく、重い、話。普通の人がもつ、奇跡を引きだす力についてのレポートとでもいいましょうか。オススメです!
0投稿日: 2013.06.28
powered by ブクログイギリス老紳士が、ドイツ軍が侵攻するフランスから子供を連れてイギリスに帰るまでの小説。古い小説ではあっても、主人公や子供たちの描写、複線の回収などが見事で楽しく読める。 英国紳士とは、この老人のようなことをいうのかと納得。
0投稿日: 2013.04.20
powered by ブクログ第二次世界大戦のさなか、老弁護士は滞在先のスイスに近いフランスの片田舎からイギリスに帰郷する。ドイツ軍の進軍を聞き、滞在先で同郷の家族から子どもの同行を依頼され、老人と子どもたちのイギリスへの旅が始まるのだ・・。 老郷の身なのに、小さな兄妹の世話は大変・・、しかるにさらにホテルのメイドの子どもを預かり、次には被災して孤児になった男の子も・・・、そんな風にどんどん一緒に逃れる旅の道連れが多くなる。約束したことを守りぬく老人は本当に紳氏なのだ。 ちょっと翻訳臭が気になるけれど、一気に読めるロードサイドストーリー。
0投稿日: 2013.02.05
powered by ブクログ第二次大戦中、引退し休養のためフランスを訪れていたイギリス人弁護士。戦局の悪化を憂い急遽帰国を決意した彼は同宿した一家の子供二人を預かることに……。 派手なアクションも謀略もなく、老人と子供たちの旅を淡々と描くだけ……ながらも手に汗握る極上の冒険小説。様々な苦難に出会いながらも決して折れないハワード老の矜持が素晴らしい。静かで、そして力強さにあふれた物語。
1投稿日: 2012.08.17
powered by ブクログフランスとイギリスでこんなにも習わしが違うのかと驚いた。 気性や習慣、フランス人らしい服装、イギリス人らしい服装。 この作品はぜひ映画で見てみたい。
0投稿日: 2012.07.29
powered by ブクログ何度か読み返してる。 誠実に生きて行動することが当たり前のように外野で叫ぶことはできるし、 そうすることがいかに困難か私たちにはとてもよくわかる(と想像する)。 けれど、1940年代の戦火の中、誠実と謙虚さで 使命と呼ぶまでも無い人間としての当たり前に生きることが いかに何物にも侵されない強さを持つものかに気がつかされると、 物語とわかっていても主人公の老紳士に泣ける。 さりげなくも美しい人生だと思う。
0投稿日: 2012.06.12
powered by ブクログこの前本屋で見かけて面白そうだったので図書館で借りて読みました。実話ではないのでしょうがそこかしこにもしかしたら?と思わせる描写があり、面白かったです。 それにしても70過ぎの男性がたくさんの子供を率いて戦禍の外国から帰国の途に着くとは。正直自分一人でも持て余す感がある外国でそりゃあもう大変なことだったろうと読んでいるだけでこちらもつかれました(笑)ただ、こういう作品を読むとヨーロッパは広くて狭いと言うか…外国が身近なんだろうな、と言うことが良くわかります。私にあわせると関東の人間が湯治で東北か九州に行く位の感覚でイギリス人がフランスに行くんだなあとびっくりしました。 道中も子供が熱を出したり、余計なおしゃべりをしたりと本当に子供らしい。素晴らしい忍耐と辛抱強さで主人公はこの責務を果たしますが短気な男性だったらまず無理だったでしょうねえ。 子供や女性、老人と言う戦争に置いて(普通の生活でもしばしばそうですが)弱者の立場が人間らしい思いやりを忘れず助け合い、現状の問題を乗り越えていく様を読んでいて冒険小説のようだと思いました。それにしても不自由なく育てられた子供たちの方が奔放で問題を起こしてばかりな辺りが子供をよく知っているなあと何となくほほえましく思いました。 そう言えばスケールは違いますが大震災の後、都心から家路へと向かう人々が家にたどり着いた時の気分は主人公が最後イギリスの婦人の言葉を聞いて思った気持と一緒だったのかな、と思いました。面白かったです。
0投稿日: 2012.05.10
powered by ブクログかわいらしい表紙につられて買ったものの、約1年積読状態。やっと読んだら、これがまた非常によかった。やっぱ本は積んどかないでさっさと読んだほうがいいな。 読み終わって解説を読むまで気づかなかったけど、作者は『渚にて』のネヴィル・シュート。納得。緊迫した状況を描いているにも関わらず、淡々と品良く綴られるから変にドキドキしないで落ち着いて読めたのも、大切な人と過ごす平和な日常の中のなんでもない出来事がどれだけ価値あるものかを教えてくれたのも『渚にて』とおんなじ。 解説によるとピーター・オトゥールでテレビ映画化されているとか。うー、観たい。
0投稿日: 2012.01.18
powered by ブクログドイツ軍が不穏な動きをみせる第2次大戦直前の南フランス。 旅行中のイギリスの老人ドノバンは、国連職員の夫婦から、 彼らの二人の子供をイギリスまで送り届けて欲しいと頼まれる。 しかたなしに引き受けた彼は三人で、イギリスに向かうが、 ついにドイツ軍の電撃作戦がはじまる… 戦火のフランス中を子供をつれて逃げるドノバン… 途中で行く先をなくした子供たちを連れてさらに旅は困難になっていく… SF好きにはおなじみの「渚にて」と同じ作者ですが、こちらはSFではないです。 でも作品の底辺を流れる反戦思想は共通かな。 古いお話でもあるのでちょっとあっさりしすぎかな。 でも、いい話っすよ。 タイトルのパイドパイパーはハーメルンの笛吹きのこと。 キングラットといい最近笛吹きづいてるな… あちらでは悪者でしたが… 表紙がすてき
0投稿日: 2011.09.24
powered by ブクログ面白かった。 書店員のお奨め文を読んで購入しましたが、 期待を裏切らず、でした。 イギリスの老紳士が子供達を引き連れてナチ占領下のフランスを脱出しようとする話。 あっ、それでパイド・パイパー(ハーメルンの笛吹き)ね。 何しろご老人が主人公なのでテンポはゆっくりなんだけど、 読者は無事脱出できるのかヒヤヒヤしながら読み進める訳です。 いや読み応えありました。
0投稿日: 2011.08.14
powered by ブクログ厄介ごとを呼び込む子供の無邪気さが憎い! 熱を出したり、戦車を見に行ったり、言いつけを破ったり あれ?全部あの兄妹・・・ 道中でひとり増え、ふたり増え、お願いされなくても 拾っちゃうあたり戦争という荒んだ世界で 新しい時代を築く可能性の種を争いの無い世界に運ぶため 憎しみも戦争も無い未来へつなぐため、もしかすると 見ることも抱くことも叶わなかった孫の姿をうつしながら 老人は子供たちと歩く。 戦時の交通事情だとか異国という困難から始まり 徐々に戦争、侵攻してきたドイツの影が濃くなるなか ニコルのラブストーリーをからませて 人の善をなそうという意思の姿が、ラストまで一気に読ませる。
0投稿日: 2011.06.06
powered by ブクログ面白かったです。次から次へとトラブルに見舞われる一向はハラハラドキドキです。そんな中子供たちはお気楽で、しかも数は増える一方。迫りくるドイツ軍。情勢は次第に過酷になり、でも何だかんだで切り抜けていく。後半では『もう本当に駄目なんじゃ……』と思わせられましたが、いいラストでした。自信を持っておススメできる一冊。
0投稿日: 2011.03.23
powered by ブクログ帯には宮部みゆきが「気骨あるおじいちゃんと、健気で可愛い子供たちの大冒険。たまりません。」と推薦文を寄せているが、とんでもない。子供たちは厄介でわがままで、中には言葉も通じないのさえいたりする。老人にとって彼らは旅のお荷物でしかない。ではなぜ放り出さないのか、子供たちの中にいったい何があるのか、というのがこの作品の読みどころだと思う。まさに戦争のさなかに書かれた小説として、著者の祈りを見た気がした。
0投稿日: 2011.02.12
powered by ブクログただおじいさんが子供を連れて故郷に帰るだけのお話だけど戦時中という状況が困難を呼ぶ。子供たちと老人がどうなるのか気になって一気に読んでしまった。おじいさんバンザイ!
0投稿日: 2010.09.26
powered by ブクログ老紳士の労を考えるとこちらまでどっと疲れた。彼は頑張った!道連れニコルの台詞の端々にホロリとさせられた。あとドイツ軍の書き方が、怖い中にも面白かった。「ドイツ軍の接収したした建物だから多分清潔」みたいな見方が。
0投稿日: 2009.11.23
powered by ブクログ1942年に書かれたイギリスの冒険小説。 あらすじとしては、第二次世界大戦初期にドイツ軍がヨーロッパ各地に電撃的に展開した1940年の夏のフランスが舞台。 戦況がこれほど悪化するとは思わず、フランスの田舎で静養していたイギリス人元弁護士の老人が祖国イギリスへ帰るまでの苦難の道のりのお話。 最初に国連職員の二人の幼子を託され、その後もドイツ軍の侵攻の中の混乱した状況でイギリスを目指して進む間にどんどん預かる子供が増えてくる。 この老人は寛容な心と忍耐力でその子供を受け入れ道中の困難度はますます上がる。 さて、老人と子供達は無事イギリスへ渡れるのでしょうか?? と言うお話。 "パイド・パイパー"とはドイツ民話の「ハメルンの笛吹き」の意。 旅をしていく中で子供達が集まってくる様を表したと思われます。 特に派手なドンパチがある訳でも、脱出の奇策がある訳でも無いが、この老人の実直さと老人、女性、子供の無力さ、純粋さを描きながら戦争の悲惨さが淡々と描かれている。 悲惨な状況を描きながらもイギリス独特のユーモアも忘れない感じの良い文章。 イギリスに渡る直前の難関の解決仕方が少々不自然であり少し残念。 全体としては、なかなか面白い小説でした。
1投稿日: 2009.11.18
powered by ブクログ核戦争後の世界の姿を描き、SFの古典となった「渚にて」。その著者、ネビル・シュートが第二次世界大戦下のヨーロッパ、フランスを舞台にした小説。 ドイツ占領下のフランス。元弁護士の老イギリス人ジョン・ハワードは、息子の戦死や、戦争で役立たず扱いされた心の傷を癒すため、フランスの山村で釣りを楽しんでいた。ドイツ軍のフランス侵攻を知り、イギリスに戻ろうとした彼は、ひょんなことからスイスにいるイギリス人の国際連合職員の幼い2人の子供を預かることになる。 さらに、ホテルのメイドの姪、空爆で両親を失ったオランダ人の少年、両親をドイツ人に連れ去られたユダヤ人の少年、さらにはゲシュタポの少佐の姪っ子までが、ハワードの逃避行に加わるのだ。 占領下の他国の不便さに加え、状況に関わりなくわがままを通そうとする幼い子供たちの振る舞いにくたびれ果てながらも、義務感と責任感で自分を支えるハワード。 「渚にて」の核戦争後の滅びを粛々と受け入れる世界の姿とは違う、淡々としながらも苦境を打破しようと立ち向かう本作。描かれた時代の差なのだろうか。 ちなみに「渚にて」は核の不安が世界を覆い始める前、ソ連のスターリン死去で東西冷戦が「雪解け」したとされる1957年の著作。 一方の本作は1940年にパリがドイツ軍により陥落し、イギリスにドイツ軍が激しい空襲を繰り返していた1942年に出版されている。戦争のさなかだからこそ、こんな勇気が湧いてくる小説を書いたのだろうか。 本作はまた、老いの姿を切なく描いた作品でもある。 たとえば、こどもたちが楽しく遊ぶ姿を見たハワードのこんな感懐。 「子供たちともっと深く接したいと思ったが、年齢を考えると気後れがして、たいていは庭の松の木の下で遊ぶ二人を遠くから眺めるばかりだった。子供たちが馴染みのない変わった遊びをしているのを見ると、自分も仲間に加わりたかった。幼い二人は、ハワードの遠く霞んだ記憶の弦をそっと掻き鳴らした」 ああそうだなあ。自分も息子や娘と遊んだ日々を、「遠く霞んだ記憶」として思い出す日がくるんだよなあ。ハワードの年まであと30年。またしても老いた自分をイメージしてしまうのだった。 解説の北上次郎も、同じ感想を記している。 20年前には、この感想はなかったなあ。
0投稿日: 2009.08.05
powered by ブクログ7年前に文庫が出たとき、書評で絶賛されていたのですぐに購入したものの、この暢気な表紙が気に入らなくて読む気になれませんでした。 相変わらず評価が高いので思い切って読み始めたら、みんなの評価通りの傑作でした。古き良きイギリスの香り高いはじまり方もさりげない終わり方も、紳士ですね、粋だなぁ。でもやっぱりこのカバーデザインは選択ミスでは・・・(ちなみに杉田比呂美さんのイラストは昔から好きです)
0投稿日: 2009.04.15
powered by ブクログ1940年代に書かれた小説。舞台はナチス・ドイツが攻め込んできたフランスの片田舎。 主人公は70代のイギリス人の老人男性。 旅の行きかがり上、イギリス人、フランス人、オランダ人、ポーランドのユダヤ人、ドイツ人の子供を連れてイギリスに脱出する話。 ロードノベルであり、脱出ものでもある。恋愛ストーリーも絡む。秀作。 ちなみに「パイド・パイパー」とは、寓話ハメルンの笛吹きで、町中の子ども達を引き連れていってしまう笛吹きのこと。
0投稿日: 2009.01.08
powered by ブクログ大戦中、老齢の英国紳士がフランスからイギリスへ帰る。あらすじはたったこれだけのロードムービー(ノベル)。でもそこに「子連れ」という要素が加わることで緊張感のあるノンフィクションのような味わいになる(しかも縁も所縁もない子供がどんどん増える〜)。後からじんわり心に沁みてきそうな気がする。シンプルで良質な本。蛇足だが、物語の進行中、「お金持ちでよかった〜」と何度思ったことか…。
0投稿日: 2009.01.03
powered by ブクログ戦火の中、子供達の手を引いてフランスからイギリスへと向かう引退した老弁護士。お手製の笛で子供達の心をひきつけていくところは、まさにパイド・パイパーです。決して御人好しだからとか、なし崩し的にというわけではないんです。頼られて引き受けた以上はなんとしても子供達をおくり届ける。優しさに裏打ちされた強さにひきつけられます。そしてニコルの真摯な愛情とたくましさ。最後の夜のセリフには思わず涙が零れました。帯の「酒飲み書店員さんたち」にはこれからもこんな作品を紹介してほしいです。
0投稿日: 2008.02.25
powered by ブクログ生々しい部分とファンタジー風味の割合が絶妙〜で読み飽きなかった。というか、国に帰り着いてしまうのが惜しいくらい。しかしそんな状況でもお金って必要なのね・・
0投稿日: 2008.02.19
powered by ブクログこれぞイギリス紳士!! というハワード老のたたずまいにしびれます。物語の流れは単純だけれど、緊迫感が漂います。ところどころくすりと笑えるのもいい。
0投稿日: 2008.01.03
powered by ブクログその場にいたからこそであろう現実感。 ご都合主義と思えるほど自然に感じられる、そこまで緻密に作りこまれた物語。
0投稿日: 2006.02.17
powered by ブクログこの設定で単純なお涙ちょうだいものになっていない所がまず、予想を良い感じに裏切られました。 子供複数と老人一人という非力な集団で、南下してくるナチスドイツ軍をきりぬけながら、フランスを抜けイギリスへと向かおうとする、その過程が面白いです。 それから子供を引き取るときのハワードのくたびれ具合がいい。 正義感に高揚してるわけでもなく、嫌々というわけでもなく、諦観にちかい佇まいなのが好きです。子供も、決してききわけが良いわけじゃない所がリアルで面白かったです。 読後感が心地よく、再読したくなる本。
0投稿日: 2006.01.18
powered by ブクログ戦争のお話で、おじいちゃんと子供とゆうくみあわせにもかかわらず、お涙ちょうだいの話しになってない。じっくり読んで、しばらくすると忘れて、また1年くらいたつと読みたくなるお話。新刊発売以降もいろんな書店で平積みされているので、結構うれていると思われる良書。
0投稿日: 2005.04.27
powered by ブクログ大人として子どもを守る責任を、愚痴を言うことなく 果たしていく主人公に泣ける。 人として、すげぇよじぃちゃん!そんなに頑張ったら、 じぃちゃんが死んじゃうよ!
0投稿日: 2004.12.27
powered by ブクログ第二次世界大戦中、ナチスドイツが進攻してくるフランスを脱出して、イギリスへ向かうために。 爺さんと子供達(合計5,6人?)が行く! ロンドン大空襲の中で、酒を飲みつつ老人が語りだすプロローグや、途中で出会う人々の、何気ない描写が印象的。
0投稿日: 2004.11.07
