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右翼と左翼の源流 近代日本の地下水脈II
右翼と左翼の源流 近代日本の地下水脈II
保阪正康/文藝春秋
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総合評価

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    難しかったけど勉強になった。 右翼と左翼という思想ができる前から丁寧に近代日本史が書かれていた。 現在の日本で起こっていることも書かれていて歴史は繰り返していて、過去に起こった過ちを繰り返さないためにも個人のできる範囲の事をしようと思った(安倍晋三暗殺事件&岸田文雄暗殺未遂事件から)。 排外主義についても書かれていて、攘夷志士の頃から見えないだけで存在していて時に顔を出すもので 私自身の無意識の中にもそういうのがあるのかもしれないと恐ろしく思った。

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    投稿日: 2025.10.18
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    主要テーマと重要概念 「同時代」から「歴史」への転換点: 本書の出発点であり、最も重要な概念の一つ。単なる年月の節目ではなく、私たちが歴史上の出来事や人物の「感情」や「情念」、そしてその根底にある思想や意識を、現在の視点から再認識し、歴史的事実がどのように形成され、後世に理解されるかを問い直すことを意味する。特に近代日本の地下水脈を理解する上で、過去の出来事を単なる事実の羅列としてではなく、「同時代」の感情や情念を追体験することで、その本質に迫ろうとする姿勢が示されている。 「「同時代」から「歴史」ヘー。」それは具体的にはどういうことなのか。第一に、さまざまな戦争や事件を同時代の出来事として体験してきた人々の「感情」や「情念」が消滅し、それらの出来事が「歴史」のなかに位置づけられるということである。私たち自身が日々の体験を、皮膚感覚と感情によって生々しく記憶している。しかし、それらを体験した世代がいなくなれば、歴史的事実だけが残ることになる。(p.3) 反体制運動の「地下水脈」: 本書の核心的な視点。近代日本の反体制運動は、表面的な政治運動だけでなく、深層にある思想や情念、歴史的な流れとして存在しており、それが時代を超えて影響を与え続けていることを示唆している。特に自由民権運動、社会主義運動、国家主義、アナーキズムなど、多様な思想潮流が互いに影響を与え合い、時には合流・分岐しながら、近代日本の歴史の深層を流れてきた様子が描かれている。 はじめに 反体制運動を「地下水脈」で読み解く (p.2) 左翼と右翼という単純な二項対立だけでなく、さらに複雑な思想の地下水脈が近代日本を形作ってきたことを示唆している。 思想の合流と分岐: 「老壮会」や「猶存社」などを例に、近代日本では多様な思想的背景を持つ人々が一時的に集まり、議論を交わす場が存在したことが指摘されている。しかし、これらの思想は最終的に合流しきれずに分岐し、それぞれ独自の「地下水脈」を形成していった様子が描かれている。特に国家主義、社会主義、アナーキズムといった思想が、それぞれ異なる形で近代化や天皇制、資本主義などに対抗しようとしたことが分析されている。 「老壮会」という水脈分岐点/反体制運動の「四つの類型」/反体制派が左翼と右翼に分裂する(p.58) 「老壮会」という結社ができたのか。その時代背景を検証し、老壮会に集まった人たちは、いかに多様な思想的距離があり、同じカテゴリーに入れられるのは適当ではないだろう。(p.64) 近代化に対する多様な視点: 近代化そのものを肯定・否定する視点、天皇を中心とする国家像、そしてアナーキズムなど、多様な反体制運動が近代化や資本主義に対して異なる立場をとっていたことが示されている。特にA(体制側と一体化した近代化)、B(近代化の枠組みの中での反体制)、C(近代化そのものの否定と天皇中心の国家像)、D(近代化の否定とアナーキズム)という四つの類型を用いて、反体制運動の多様性を整理している。 反体制運動を左翼や右翼といった単純な二分法ではなく、このような四つの類型で整理して見ると、新たな視野が開けてくる。(p.62-63) 暴力とテロリズムの連鎖: 近代日本の歴史において、テロや暗殺といった暴力が反体制運動や政治に深く関わっていたことが繰り返し指摘されている。桜田門外の変、大久保利通暗殺事件、足尾銅山鉱毒事件における田中正造の抵抗、幸徳秋水らの大逆事件、そして血盟団事件、五・一五事件、二・二六事件といった昭和初期のクーデター未遂事件など、様々な事例を通して、暴力がどのように政治を動かし、あるいは抑圧の口実とされたのかが描かれている。 大日本帝国の成立は、武力を行使することで達成されたのである。(p.26) テロは連鎖するとともに、殺害方法も残虐さを増してゆく。(p.140) 天皇と国民、国家の関係: 天皇制が反体制運動において重要な位置を占めていたことが強調されている。特に天皇がどのように反体制派に利用され、あるいは反体制派が天皇をどのように捉えていたのかが分析されている。大逆事件や昭和初期のクーデター未遂事件、そして戦後の天皇の「人間宣言」など、天皇と国民、そして国家の関係性の変化が反体制運動に与えた影響が考察されている。 天皇の恐怖心を利用する (p.56) 天皇制のイデオロギーとは遠いようで近い。(p.121) 昭和天皇の「自己変革」(p.248) ロシア革命と社会主義: ロシア革命が日本の反体制派に与えた影響は大きく、特に社会主義思想の普及と労働運動の盛り上がりに繋がったことが指摘されている。コミンテルンの影響や日本共産党の設立、そして福本和夫の思想など、ソ連との関係が日本の社会主義運動の性格を規定した様子が描かれている。 ロシア革命が日本の反体制派に与えた「希望」。(p.70) コミンテルンの指示を受けていた共産党が「外観だけ革命的にして実践上は内村静六に劣る」と指摘する。(p.188) 「転向」と「自己変革」: 戦後の社会主義者たちの「転向」を単なる思想の放棄としてではなく、「自己変革」という視点から捉え直している。多様な転向の形態や、その背景にある苦悩、そして転向後も残った思想の痕跡などが分析されている。特に左翼内部での転向者に対するレッテル貼りや序列化といった問題も指摘されている。 「転向」から「自己変向」ヘ (p.214) 歴史の闇に埋もれた転向者 (p.215) 重要なアイデア・事実 足尾銅山鉱毒事件と田中正造: 明治時代の重大な公害問題であり、田中正造が犠牲者のために政府に抗議した運動は、民衆を殺すことは国家を殺すことであるという彼の思想を象徴している。(p.21-26) 自由民権運動の源流: 土佐藩や長州藩といった、藩政改革や海外交流を通じて近代思想に触れた藩が自由民権運動の指導者を輩出したこと、そしてその思想が社会主義や国家主義といった後の地下水脈に影響を与えたこと。(p.29-33) 日露戦争と「地下水脈」の変質: 日露戦争を契機に、反戦運動が可能だった時代から、反体制派が国権派に転じたり、ロシアへの警戒を強めたりするなど、地下水脈が大きく変質していったこと。(p.37-46) 「老壮会」の特異性: 多様な思想的背景を持つ人々が一時的に集まり、自由な議論を交わした「老壮会」は、近代日本においては特異な存在であり、その思想の多様性がその後の地下水脈の分岐点となったこと。(p.64-66, 80-81) 「猶存社」と国家主義: 北一輝や大川周明といった国家主義者の思想的拠点となった猶存社は、「日本帝国の改造とアジア民族の解放」を掲げ、革新派軍人との連携を強めていったこと。(p.90-93) 「統帥権干犯問題」と陸軍の政治介入: 陸軍が「統帥権干犯問題」を提起することで政治に介入し、内閣を揺さぶるなど、陸軍の政治的影響力が強まっていったこと。(p.94-95) 皇道派と統制派: 陸軍内部の対立軸であり、皇道派が青年将校を中心とした暴力による維新を志向し、統制派が合法的な組織的活動を重視したこと。この対立が二・二六事件へと繋がっていったこと。(p.98-101) 日蓮原理主義の「地下水脈」: 日蓮の思想が明治以降、神道と結びつき、国家主義的な思想潮流の中に位置づけられていったこと。特に国家主義者たちの淵源に日蓮主義が見られるという指摘。(p.114-119) 「攘夷」思想の地下水脈: 幕末の攘夷思想が近代化を経てもなお地下水脈として残り、昭和初期のテロリズムや国家主義的思想と結びついていったこと。(p.136-141) 「越中女一揆」と米騒動: 米価高騰に対する民衆の不満が爆発した米騒動は、労働運動の原始的な姿であり、社会主義思想の浸透を促したこと。(p.70-72) 治安定持法と特高警察: 治安維持法による共産主義思想の取り締まり強化と、特高警察による弾圧が、反体制運動を地下に潜らせる一因となったこと。(p.174-176) 戦後の社会党と「五五年体制」: 戦後の政治状況における二大政党制と見なされた「五五年体制」において、社会党が一定の勢力を維持した背景に労働組合の支援や、社会主義の総本山であったソ連への憧憬があったこと。(p.238-239) まとめ 本書は、近代日本の反体制運動を「地下水脈」という独自の視点から捉え、その多様な思想潮流、歴史的な変遷、そして暴力との関わりを詳細に分析している。特に「同時代」の感情や情念を重視する姿勢、多様な思想の合流と分岐の分析、そして戦後の「転向」を「自己変革」と捉え直す視点は、近代日本の歴史を多角的に理解する上で重要な示唆を与えている。また、天皇制、ロシア革命、そして暴力といった要素が、反体制運動の「地下水脈」にどのように影響を与えてきたのかを具体例を通して解説しており、読み応えのある内容となっている。

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    投稿日: 2025.05.09
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    【戦後80年に読みたいベストオブベスト!】なぜ共産主義は日本に根づかなかったか? なぜ陸軍青年将校は国家主義に傾倒したか? 水脈史観が冴える保阪昭和史の金字塔第2弾。

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    投稿日: 2025.02.26