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同調者
同調者
モラヴィア、関口英子/光文社
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総合評価

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    このレビューはネタバレを含みます。

    『軽蔑』『薔薇とハナムグリ』『視る男』『豹女』の次に読む。 面白かった。 むかし、映画化したのもわかる。映画化しそうなストーリーだから。ただ、映画とは異なるところもあるようだ。(映画は観てない) 自分が異常ではないかと悩み、普通であることを確かめる人生。 しかし、それは、結局のところ、リーノを殺していようがいまいが、同じ人生を歩んでしまうとわかる。純真さは誰だって失われる。 リーナとの関係が強引すぎる。 マルチェッロのやり方ってほとんどセクハラなんだけど。冷たくされて嫌がられてるのに、よくこんな行動できるなぁと。 ジュリアの愛人時代の体験もひどい。脅しとレイプである。 [プロローグ] マルチェッロは、トカゲを殺したことから、自分は普通ではないかもしれないと悩む。 ある日、いじめにあった時、リーノという元牧師に出会う。彼は子供への猥褻罪で捕まったことがある。 13歳のマルチェッロは、いじめから逃れるため、学校で一目置かれている生徒にピストルを手に入れられると約束してしまい、リーノにピストルがほしいと頼む。 リーノはピストルはやるが、代わりに何かしてくれと言う。 マルチェッロはリーノの部屋に連れて行かれ、代わりの何かをさせられそうにやるが、ピストルを手に取り、銃口をリーノに向ける。 リーノは殺してくれと言う。マルチェッロはリーノを撃ってしまう。 その事件でマルチェッロは疑われることはなかった。 [第一部] マルチェッロ30歳。 他の人と同じことをしているのを見るたびに自分は普通の一般的な人間であると確認して安心している。 20歳になったばかりの婚約者ジュリアがいる。 マルチェッロは諜報員の仕事が与えられる。 ジュリアとのハネムーンでパリにきている夫として、暗殺計画に関わることになる。 結婚する前にマルチェッロは告解する。初めて殺人の話を人にすることになる。 P.268 “彼のなかには悪意というものは微塵もなく、ただ己が生まれついた環境や、生きるよう定められた世界を素直に受け入れてきただけなのだ。” “彼は宗教から外れたところにいて、たとえ己を浄化して正常に戻るためだったとしても、宗教に戻ることはできないのだ。” 母親は痩せこけて、部屋の中はぐちゃぐちゃに。運転手の愛人もいる。 父親は病院に入っていて、マルチェッロは月に少なくとも一回は訪ねている。父親の錯乱は手の施しようがないと思っている。 母親が言うには、父親が狂い出したきっかけは、マルチェッロが愛人との間の子であると思い込んだからだと言う。 [第2部] マルチェッロはジュリアと結婚した。義母もジュリアもマルチェッロの人を殺した過去は知らないので、良い人と結婚できたと思っている。 マルチェッロは一般的なことを見つけると安心している。 ジュリアがある告白をする。15歳から6年間、弁護士の愛人だったと。レイプ、虐待に当たるが、母娘の生活を支えていたため、従っていた。 マルチェッロはそれを冷静に聞いていた。 P.285 “正常さというものは、ある種の体験を避けることによって決まるのではなく、そうした体験をいかに判断さするかによって決まるものなのだ” マルチェッロは仕事の話をするため、オルランドと待ち合わせする娼家へ行く。 そこで、指令の変更があったと。しかし、あらかじめ決められていただろう。はめられたと思う。 クアードリと接触して、場所を知らせるための仕事で、マルチェッロがわざわざやることはないものだったが、加担させることで、クアードリ殺害の連携責任を負わせるというものだ。 ジュリアとパリへ新婚旅行。 クアードリとリーナ夫妻と会う。 マルチェッロは、リーナに一目惚れするが、リーナはジュリアを気にいる。 強引にリーナを振り向かせようとするマルチェッロ。 リーナにしつこくされて嫌がるジュリア。 計画では、クアードリが先に旅に立ち、後でリーナとマルチェッロたちが到着する予定にし、クアードリが1人の時に殺される予定だった。 しかし、リーナは嘘を言っていて、クアードリと一緒だったため、2人とも殺される。 その後、オルランドから、この任務はキャンセルされていた。無駄なことをしたと伝えてくる。 キャンセルの伝達がミスって、クアードリ事件は起こってしまった。 しかし、マルチェッロは、自分たちはどうすることもできなかったと割り切り、ジュリアと帰国する。 [エピローグ] マルチェッロはジュリアと娘と普通に暮らしていた。しかし、ジュリアが心配し、やはりクアードリ事件にマルチェッロが関わっているのを本人から聞いて、マルチェッロが心配だと不安がる。 マルチェッロは公園でリーノに会う。彼は生きていた。 P.545 リーノの言葉 子供の頃は誰だって純真。 “形こそ異なれ、誰もがいつしかその純真さを失う。それが普通というものだろう” マルチェッロは、リーノを殺してようが、殺してまいが、結局は同じ道を歩むのだと思う。 マルチェッロは、リーノを殺してなかったことで、またリセットされ、新しい人生が始まるような気持ちになっていた。 これまで自分は普通にならなければと必死だったが、そんなことはしなくていいのだと思う。 そして、娘の将来のことも考える。良い人生になるように。 しかし、車で家族で移動中、戦闘機からの攻撃で死んでしまう。

    0
    投稿日: 2025.04.01
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    読書会課題本。内容は人物造形が丁寧でとても面白く読めた。ただ翻訳がいただけない。ところどころにキリスト教用語の用例の誤りやキリスト教史について明らかな事実誤認に基づいた注が付いていたのが非常に残念だ。

    0
    投稿日: 2025.02.28
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     原著1951年発表。  私が高校生の頃、アルベルト・モラヴィアの作品がハヤカワ文庫NVで何冊もラインナップされていたが、今は全部絶版で、邦訳は光文社古典新訳文庫の2冊以外は古書で入手するしかないようだ。1990年に物故するまでは20世紀の巨匠として賞賛されていたのに、死後は本国イタリアにおいてすらほとんど忘れられている作家。  本作もなかなかに重厚な小説である。人間の心の機微にぐっと入ってゆく描写は緻密で見事。描写がそのように濃厚であるため、ストーリーは波乱のある「面白い」話なのに、ゆっくりとずっしりとした時間が流れてゆくような小説「時間」が呈示される。そのため多忙な情報化社会の現在から見ると、「まったりしすぎている」と思われ忌避されてしまう傾向はあるのかもしれない。  三人称形式の小説だが、主人公マルチェッロの心の綾に非常に深く根ざしたまま描写が続き、彼が自分自身のことをいかに意識し、「規定する」かが重要な文学要素となっている。そのような自己意識によって、彼の人生の方向は定まってゆく。  そのような重いリアリズムが小説読みの快楽として提供される、優れた作品である。  ちなみに邦題の「同調者」というのは原語でIl Conformista、ムッソリーニのファシズム政権時代に、主人公自身が、思春期に殺人を犯した自己像として刻印する「異常性」からのがれるために「正常性」「ふつう」を求めた結果、当時の人びとの動向に「同調」してファシズム側に身を寄せていくという姿を意味しているようだ。

    1
    投稿日: 2024.10.14
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    イタリアの作家モラヴィアの長編。日本ではベルナルド・ベルトルッチの『暗殺の森』の原作といった方がああ、という方は多いのではないだろうか。 映画とは若干の異動はあるものの、骨格は同じでムッソリーニ政権下のイタリアにおいて秘密警察だったマルチェッロを主人公とした小説。 人と異なることを恐れて政権に同調すること、普通であることを求めてファシストとなったマルチェッロが亡命活動家の暗殺命令を受けてからのフランス・パリへの紀行、イタリアへの帰国、ファシズム政権の崩壊に至る中での彼の心の動き、変わらなさを主人公の内面を反映したような第三者の視点から描く。 淡々とした筆致でサスペンス的な展開もあるのでどんどん読めてしまうが、映像的でエロチックな評価などが目を見張る。数多くの映画監督が彼の小説を映画化していて、日本語訳がもはや手に入りにくいことが残念。今回を契機に色々と復刊されることを願う。特にゴダールが映画化した『軽蔑』は池澤夏樹編集のシリーズに入っているようなので、ぜひ読んでみたい。 映画監督のパゾリーニが友人だったというのも初めて知った。ますます興味深い作家である。

    2
    投稿日: 2024.02.28
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    4K版「暗殺の森」が公開された。残念ながら劇場へは足を運べないが、原作を読み返したうえで改めてDVDを鑑賞することにした >>>>>>> マルチェッロは少年の頃から自分のなかに潜む異常性に恐れ慄いていた。そして13歳の時に決定的な出来事が起きる。彼に性的な興味を抱き誘いをかけてきた男を銃で撃ち殺したのだ。以降、周りと同化することで普通になれると固く信じ、そうなるよう努めながら大人へと成長したマルチェッロにとって、当時のイタリアを席巻していたファシスト党の政治要員として働くのはある意味必然だった。そんな彼に向けて、党の上層部よりひとつの指令が下される >>>>>>> ベルトルッチが細部に至るまでこだわりぬいた「暗殺の森」の美しさは誰もが認めるところだが、この物語の本質を理解するには、映画だけでは十分でなく、三人称を用いて主人公マルチェッロの心理を丹念に記した小説に目を通さねばなるまい。特に少年期を描いたプロローグと彼が不惑間近の年齢になったエピローグ(それぞれ三章構成)はマルチェッロの人物像を把握するに当たり重要だ 己の犯した大罪によってピュアな魂は穢されたと思い込み、背負わされた重荷から自らを解放するべく必死に普通さを追い求めてきたマルチェッロが、人は誰しもいつしか純真さを失うものであり、それが普通なんだと悟らされる終盤の描写は「同調者」のストーリーを象徴するシーンと言え、非常に印象深い 何をもって普通とし、何をもって正常とするかの判断基準には曖昧さが伴う。マルチェッロは長いものへ巻かれることがその答えだと信じて疑わなかったが、ではもし大きな勢力の方向性自体が間違っていた場合、唯々諾々とそれらに染まる行為は果たしてノーマルと呼べるのか。決して難解な筋書きではないが、主人公の思考を通して作者の意図を汲む必要がある 映画のハイライトとなる暗殺の場面だが、小説ではマルチェッロはその現場に居合わせておらず、概要を新聞記事と諜報員オルランドの話で知るに過ぎない。またラストについてもベルトルッチの意向で大きく改変されている。従って、本作における映画と小説の関係性は謂わば「二卵性双生児」的な間柄と捉えるのが適切だろう。ただ個人的には小説のエンディングの方が腑に落ちるし、全体の流れを見ても結びとしてはこちらが相応しく感じられる 巻末の解説によれば、この話を執筆したモラヴィアに対し、ファシズムを否定していないとの理由で一部の評論家たちは批判を浴びせたそうだ。だがこれはファシズムを直接的に扱ったポリティカルな作品ではなく、日和見主義の男の生きザマを描いたドラマであり、あくまでもファシズム自体はその背景と考えれば、モラヴィアの筆こそが正しかった、そういう気がする

    0
    投稿日: 2023.11.15
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    幼少期に殺人を犯してしまい「普通」であることに取り憑かれた男の話。 サイコパスな人になり暗殺任務をこなす話みたいな頭で読んだのですが、そうではなかった。 見知らぬ男から性的な悪戯を受けそうになり殺してしまったことをきっかけに人生の全てを「普通」になろうと意識をして全てを決めるようになったマルチェッロ 「真の愛を求めている」のに、婚約者からの愛には応えずただ冷静に分析し続ける。婚約者の愛を肯定したり打ち消したり波があるまま暗殺対象の調査任務も新婚旅行の裏で進めていく。 やっと救いを見つけたかと思いきや、旅行中の暗殺対象の妻への恋…彼女に一目惚れだった人物を重ねて嫌悪されながらも「愛して欲しい」と思いをぶつけていく(最低) 本人は気づいてないがその様が自分を苦しめている過去の小児性愛者の求愛の姿にも重なり、側から見ると「信じているもの」も「救い」も可哀想なくらい滑稽に見えてしまう。 「普通」と言うものがあると信じて、ずっと合わさることのない座標を探している。 やがて信じていたものが崩れ去り、自分を呪っていたものも幻想だと解ったときに全てが間違っていて全てが正しくありのままで良くて、滑稽に見えてても真剣で信じたものを貫いたり。(真剣なほどそう見えるものなのかも)呪っているものも幻想と思えれば幸福なのかなと考えさせられた。 タイトルの意味 主人公の中では野心のない農夫のように何も考えずに日々を過ごすことは許せないのに、自身は体制の中で思想を持たずに暗殺の仕事に関わり"意味のあること"と言い聞かせて"流されていく"姿のことと理解した。(解説を読む前)

    29
    投稿日: 2023.06.28
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    このレビューはネタバレを含みます。

    ベルトリッチの映画「暗殺の森」の原作だとは知らなかった。この映画は見ていない…くやしいけど…。 でも先入観なしに読めて良かった。 最初はサイコパスの話かと思ってハラハラしたのだけど、1つの大きなあやまちを犯したことからそれが人生の基準になってしまい、間違った方向へどんどん堕ちていく。 あの時代の「普通」がもっと違うものだったら、だいたい「正しい」は本当に正しいことなのか、本当に愛するべき人は誰だったのか、なんでもっとよく考えなかったんだと、これもまたイライラするのだが「同調者」という、ふりだしに戻るみたいな題名に、自分はどうなの?と落ち着かなくなってくる。

    1
    投稿日: 2023.03.25