
総合評価
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powered by ブクログ悲劇的な事件も、語り手の妙によってユーモラスに描かれる短編集。不思議と物語に味わいがあります。表題作と「芍薬に孔雀」がおそらく2トップですが、亜シリーズから嵌った身としては「広重好み」も外せません。
0投稿日: 2025.02.25
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
解説 解説によれば、本作は泡坂妻夫のノンシリーズミステリとして、『煙の殺意』や『ゆきなだれ』という短編集と同時期に発表された作品が集められており、異なるカラーの作品をグラデーション的につなぎ、ロジックとトリックに彩られた作品群が収録されている。 雑誌の犯人当てとして発表された「ダイヤル7」は、犯人が警察官であるという意外性が特徴だが、ミステリとしてのロジックの完成度はそこそこといったところ。犯人を指摘する決め手は一応あるものの、他の可能性を完全に排除できるほどの論理性には欠ける。 他の作品も、緻密なロジックというよりは、チェスタートン的な論理のアクロバットや意外性に焦点が当てられている。ミステリ小説としてのエンターテインメント性の高さは、さすが泡坂妻夫といった印象である。平凡な材料でも、彼の手にかかれば、思ってもみなかった味に仕上がる。それでも、どこか癖になり、楽しめる短編集だ。★4を付けたい。 ● ダイヤル7 懸賞付き犯人当て企画として書かれた短編ミステリ。応募総数は2,419通で、正解率は約7.5%と、かなり難易度の高いミステリとなっている。 会場で犯人当てクイズとして出題されるという設定。塚谷という人物から依頼を受けた久能は、10年前に戸根警察署で共に働いていた仲だった。当時に実際に起きた事件をモデルに、犯人当てクイズを作成している。 元暴力団幹部の狭間清が出所する。狭間はかつて北浦組に属しており、大門組の幹部を殺害して自首していた。彼の出所を快く思わない者も多く、さらに復讐を誓う人物もいた。 事件が起きたのは夜8時頃の地震の1時間後。北浦組の組長・北浦達也が、心臓を一突きにされて殺害される。 鍵となるのは、地震に気づいていなかった塚谷。地震により動いた時計を元にして時刻を確認し、117番にダイヤルした痕跡。そこから、地震の事実を知らなかった塚谷が犯人と見抜かれる。 犯人が警察官という意外性や構成は見事。ただし、地震の不知が唯一の決め手というのは、やや論理性に欠け、公平性にも疑問が残る。本格としての完成度はそこそこだが、意外性と構成力は秀逸。★4 ● 芍薬に孔雀 アメリカでカードの扱いを覚えた老人・重円太郎が、ガールフレンドの駒さんとともに四国の金刀比羅宮へのツアーに参加する。ツアー中、刑事の武田夫妻、元教師の関口夫妻と親しくなる。 幻のカード「ビーコック(ピーコック)」が関口夫妻のトランプに含まれており、重円は強く欲しがるが、譲ってもらえない。 その後、関口が殺害され、口にはビーコックのカードが。犯人は重円かと思われたが、真犯人は武田刑事だった。ビーコックは、かつて交通事故で亡くなった武田の息子の遺品であり、加害者が関口だと疑っていたのだ。 決め手となるのはダイイングメッセージのカードの選択。もし重円が犯人なら「10円玉」をくわえていたはずという逆説的推理。そして、カード「ダイヤの4」=「ひし形」→「武田菱」の連想で真犯人に至る。 伏線回収の巧みさ、カードにまつわるうんちく、そして意外性ある刑事犯人という展開。泡坂らしさが光る完成度の高い短編。★4 ● 飛んでくる声 団地で同居する石浜と真島。向かいの棟から不思議と聞こえてくる夫婦の会話。やがて殺人事件が発生し、目撃者である石浜は、同居人の真島に事件の話を打ち明ける。 しかし、事件の真相を推理していたのは石浜だけではなく、彼が家庭教師をしている生徒・小佐藤もいた。小佐藤は真島が犯人だと見抜き、警察に通報する。 決め手となるのはカーテンの柄の形状。外から見ると「9」に見える模様を、真島は「p」と言った。つまり内側から見たことがある=部屋に入ったことがある=犯人、という論理。 構造上の偶然やご都合主義的な点も否めないが、ベランダ越しに声が聞こえるというユニークな設定を活かし、同居人が犯人という意外性を成立させている。★3 ● 可愛い動機 ある人物が「千衣子」という女性について語る短編である。語り手が何者なのかは、物語が進むにつれて少しずつ明かされていく。 千衣子はかつて、生命保険をかけた夫を殺害した容疑で逮捕され、裁判を受けるが、証拠不十分で無罪となった。 語り手は、千衣子の中学・高校の同級生。当時、千衣子は小柄で体操部で活躍していたが、母が若い男に夢中になって家を出ていったことをきっかけに、太り始める。 語り手が点滴を受けている描写から、現在は入院中であることが分かる。 千衣子は誠志という男と見合い結婚し、1年後にその夫が死亡。語り手が記者であることがここで明かされる。 裁判では、千衣子の浮気相手・力武の存在が発覚するが、彼女が隠していたのは、不倫そのものより、母への怒りと恥じらいによるものだった。 語り手は、裁判で無罪となった千衣子と再婚していた。物語のラストでは、彼女が語り手と共に車で港に向かい、海に飛び込む。動機は「痩せるため」。前回の勾留中に痩せた経験から、再び痩せようと考えていた。 語り手が千衣子の過去を語りつつ、彼女の内面や動機が見えてくる構成。痩せるために殺人を計画するというたわいもない真相だが、語りの巧みさと構成の妙で印象に残る。★3の上位。 ● 金津の切符 主人公・箱夫は、父の影響で蒐集趣味を持つようになる。子供時代から父の仲間たちと接するなかで、蒐集とは何かを考えるようになる。 「大量で美しいものを集めることが本質」と悟った箱夫は、国鉄の全乗車券収集に取り組む。幸福駅ブームの15年前の設定。 25年をかけて集めきった頃、テレビ取材も入る。その直後、小学校時代の友人・角山から連絡が入り、自分の方が完全なコレクションを持っていると見せつけられる。 角山が職権を利用して切符を手に入れていたこと、自分の収集を小馬鹿にする態度から、箱夫は殺意を抱く。道路工事の音に紛れ、殺害を決行。 1週間後、警察が訪れる。角山が「金津の切符」を盗んでいたことが判明。箱夫は角山と話したと嘘をつくが、角山は耳栓代わりにガムを耳に詰めていたため、会話は成立しなかった。 その矛盾が決定打となり、箱夫は容疑者とされる。倒叙ミステリとして構成は丁寧で、蒐集にまつわるうんちくも面白い。 ミスの描き方、決め手の小道具としてのガムもユニークで、泡坂らしさがある。完成度の高い倒叙ミステリ。★4 ● 広重好み 多希、靖子、珠美の3人の社長秘書が、旅行で旧東海道を歩く。珠美は「広重」という名前の人物に縁があるように語っており、小学生時代の初恋相手・杉山広重、大広重というミュージシャンのファンなど、様々な「広重」を語る。 同じ会社の人事課にいる内田広重と親しくなった珠美。多希は珠美の語る杉山広重が実在するのか調べるが、実際は全く好感の持てない人物で、珠美が書いた社内報のエピソードは誇張されたものだった。 結局、珠美は内田広重と結婚する。利夫は気づく。珠美は最初から内田広重に好意を持っており、「広重」という名前に縁があると思わせるように仕向けていた。 ミステリ的な意外性は強くないが、全体として構成が緻密で読み心地がよく、泡坂妻夫らしい技巧が光る。★3の上位。 ● 青泉さん 舞台は喫茶店「ピカール」。主人公と怜、彫金師・糸尾、画家志望のシーソーらが集う場所に、「青泉」と号する洒落た男が現れる。アトリエや画材、コスチューム、パイプなど、すべてを本格的に揃えた彼を皆が尊敬する。 ただし、シーソーは彼をライバル視していた。青泉が殺害され、疑われたのはシーソーだったが、雪の日に足跡を残した犯人が空き巣の常習犯と分かり、彼は無実と判明。 最大の謎は青泉の正体。彼は絵を描いたことがなく、実は製薬会社の宣伝部長。パッケージデザインに携わり、まず形から「画家らしさ」を極めていったという人物だった。 主人公は青泉から「学びたいという気持ちを大切にしろ」と教わり、だらけた生活から立ち直り、怜と結婚する。 ミステリというより、人生寓話的な一編。事件は起きるが、フーダニットではなく青泉さんは何者なのかという謎が中心。構成は巧みだが、ミステリとしての意外性には欠ける。★3
0投稿日: 2024.08.17
powered by ブクログ<目次> 略 <内容> 表題作ほか7作の短編集。殺人事件でも些細な描写が伏線となり、ドンデン返しが起こる仕掛け。そこを気にしながら読むと、懐かしさも染みわたる。手持ちの作品も読み返したいものだ。
0投稿日: 2024.06.28
powered by ブクログみんな違ってみんないい、面白い短篇集。可愛いけどヤバい動機の「可愛い動機」とその手があったか!?となる「広重好み」がお気に入り。
0投稿日: 2024.04.17
powered by ブクログ7編を収録した傑作短編集。 癖が強かったり、ド派手な展開こそないものの、泡坂ミステリらしい、いぶし銀なロジックを堪能出来ます。 短編集ってどれか一つや二つはあまり印象に残らない話とかあったりするけど、これは全ての話がハッキリと脳裏にこびり付いている、それだけ各話のクオリティが高いってことの裏付けになるのかなー。 特に面白いと思ったのは「芍薬に孔雀」「飛んでくる声」「青泉さん」
8投稿日: 2023.06.26
powered by ブクログ久しぶりの読書は復刊された泡坂妻夫の短編集。質の高い話ばかりで度肝をぬかれた。好みはダイヤル7、芍薬に孔雀、青泉さん。奇術師でもあった作者ならではの楽しさがつまっていた。とてもよかったので、「煙の殺意」と「ヨギガンジーの妖術」も読もう。
5投稿日: 2023.05.08
powered by ブクログ最初の1編である「ダイヤル7をまわす時」は 問題編と解決編に分かれていて誰が犯人なのか考えながら読むことが出来るのが面白かった。 絶対に当てたい!と思い、メモを取りながら読み進めたはいいものの、伏線の様な部分がふんだんに散りばめられているので、どこが事件に関係があるのか、どれが重要な部分かを取捨選択するのがとても難しかった。 最終的に犯人は分かったけれど細かいトリックを当てる事ができなかったのが凄く悔しかったが、それでも存分に楽しめたので良かった。
2投稿日: 2023.05.04
powered by ブクログずっとチャレンジしてみたくて、どこから手を出せばいいのかわからなかった泡坂妻夫。 ちょうど東京創元さんから復刊があったので、短編集のこちらを。 やっぱりとても面白いんだなぁ。 なんとなく犯人はわかるが、真相までは当たらない。 ダイヤル7も、あの人なんだろうな…とは思うが、そうすると今このシチュエーションはおかしいぞ…というところから、ラストでなるほど!と。 他の作品にも挑戦してみよう。
2投稿日: 2023.04.23
powered by ブクログ面白い。奇術師でもあった泡坂さんのトリッキーな仕掛けに騙される。ダイヤル七と芍薬に孔雀、広重好みは全然想像つかないラストでびっくり。金津の切符は自分にもコレクションの趣味があるので主人公の気持ちに共感できて、なんか悲しく寂しい気持ちになった。 青泉さんは面白かった。
2投稿日: 2023.03.28
powered by ブクログ東京創元社から二〇二三年に復刊された泡坂妻夫さん短編集で、解説が櫻田智也さん。収録作品は、一九七九〜一九八五年に発表されたものとのこと。アワツマ&櫻田ファンにとっては嬉しいコラボ。 本の紹介は櫻田さんによる解説以上に語ることはない!ので感想メモのみ。 【本編の感想】 ・ダイヤル7、芍薬に孔雀→優しさ。 ・芍薬に孔雀、飛んでくる声→ちょっと艶っぽさ。 ・可愛い動機→このオチが好きかどうかは意見が分かれそう。 ・金津の切符→蒐集家が出てくるミステリーは読んだことがあるが、その美学を味わえたのは初かも。変態性のほうへ傾かず、温かみある蒐集家を描き出したところがさすがアワツマ。私はこれが一番好きだった。 ・広重好み→がらがらっと風景の変わる後半がさすが。そしてこの軽さもいい。 ・青泉さん→伏線がそこだったか!とやられた感が心地よかった。 【解説の感想】 ・櫻田さんが亜愛一郎シリーズに手を伸ばしたきっかけが『〜狼狽』というタイトルを見ての直観というエピソードが好き。 ・松本清張との対比についての考察が面白かった。 ・実は私は「チェスタトン流の逆説」などと言われたときそれがどういう論理展開のことを指すのかいまいちわかっていない。そのせいで色々な解説を味わい損なっている気はずっとしていたが、今回は特にその勿体無さが身に沁みた。いつか体得したらまた読もう。 ・最後の一文に、思わず手を挙げたくなる。
10投稿日: 2023.03.27
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
戸根市で対立する暴力団・北浦組と大門組は、事あるごとにいがみ合っていた。そんなある日、北浦組の組長が殺害された。しかも殺害現場で、犯人が電話を使った痕跡が見つかる。犯人はなぜすぐに立ち去らなかったのか、どこに電話を掛けたのか? 「読者への挑戦」付きの、正統派犯人当て「ダイヤル7」。船上で起きた殺人事件。犯人はなぜ死体をトランプで装飾したのか? トランプの名品〈ピーコック〉をめぐる謎を描く「芍薬に孔雀」など7編。貴方は必ず騙される! 奇術師としても名高い著者が贈る、ミステリの楽しみに満ちた傑作短編集。 「ダイヤル7をまわす時」は、まさかの犯人だった。なんで、早く逃げればいいのに犯人は電話をかけたのか。なるほどねぇと思った。そして、今のこの時代ではたぶんこんなことは起きなかったのかなと思った。 「芍薬に孔雀」は、なんだか悲しい話だった。そして、こちらもまさかの犯人。でも、犯人の気持ちは分かってしまう。ちょっと金田一少年の事件簿の犯人の動機みたいだったなぁ。 「飛んでくる声」は、たまたま知った他人の生活を好奇心にかまけて覗いてしまう気持ちが分からんでもなかった。そして、バイト先の高校生の推理力。きみは一体何者なんだい。 「可愛い動機」は、全然可愛くないよね?って最後なった。サイコパスじゃん。一度知ってしまった蜜の味を再び味わいたいサイコパスですよね?怖い。 「金津の切符」は、自分が1番と思っていても、上には上がいて、そして財力のあるものがそれを手にするんだなぁと。ちょっと可哀想だった。 「広重好み」は、そういうことだったのかぁと。好きな人の名前だから好きになる。だけど、中身はよく知らない。唯一、今回の短編集で人が死ななかった。 「青泉さん」は、大人になってから挑戦しても遅くはないのかなと最後思った。謎に包まれた人物、青泉さん。だけど、なんだか悲しいというかこれからってときに…無念だっただろうなぁ。 2023.3.18 読了
0投稿日: 2023.03.18
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
初版は1985年に刊行された、故泡坂妻夫氏の短編集である。生誕90年記念出版の第1弾として、創元推理文庫から刊行され、第2弾、第3弾も予定されている。 表題作か「ダイヤル7」。暴力団の組長が自宅で殺害された。犯人はなぜすぐに現場を離れなかったのか? 若い読者にはピンとこない理由かもしれないが、自分は使ったことがある世代なので納得。ノスタルジックな1編。 「芍薬に孔雀」。容疑者らしき人物が、事情聴取中に刑事に語ったこととは。泡坂氏は奇術の愛好家だったそうなので、こんなネタを思いついたのだろうか。マニアックであり定番ジャンルでもある、ピリリと洒落が効いた1編。 「飛んでくる声」。なぜか向かいの建物の部屋から声が聞こえる。その内容とは。構成面でもよく練られているのだが、真相よりも、声が飛んでくる現象の説明がないのが気になった。ガリレオシリーズではないけども。 短い「可愛い動機」。動機はともかく結果はまったく可愛くない。他の手段がいくらでもあるだろうがっ!泡坂流ブラックジョークか? 「金津の切符」。嗚呼、コレクターの悲哀か。「芍薬に孔雀」に負けず劣らずマニアックだが、解せないのは犯行が露見した理由。「………」に込められた、犯人の気持ちやいかに。○○をこのために使うのは現代目線でも斬新だ。 キュート路線だろうか「広重好み」。回りくどいというか何というか。ダシにされた彼の立場は…。最後に「青泉さん」。アトリエで殺害された青泉さん。彼のようなタイプはいるが、殺された上に暴かれてしまうとは、気の毒すぎる…。 全7編、バリエーションもあり楽しめた。第2弾以降も読んでみよう。
0投稿日: 2023.03.12
