
総合評価
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powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
後半の隆之の言葉に全てが集約されてる気がする。 「〜 そんなのを当たり前と思ってるなんて、甘ちゃんもいいとこだよ。ほんとに好きなら、何でそうやって苦しめるんだよ。どんなことを言えば辛くさせるかなんて、もうイヤってほどわかってんだろ?お前はこの人を好きなんじゃない、この人に甘やかされるのが好きなだけなんだ。 〜略」 これを片想いの相手に言えるのすごいな。 物語は全体的に、痛々しいほど瑞々しい若さの話って感じだった。
0投稿日: 2025.10.15
powered by ブクログ浴槽に頭まで浸かる本 痛みや後悔、必要だけれど持っているのが辛くなる様な感情を赤裸々に表現してくれる。思い出を振り返る時、馳せる想いを連ねる時、一緒に進んでくれる物語。 私が後悔しているのは別れたことではなく、出会ったことだ。よくあるなんて言いたくないけど、よく思ってしまう。私と出会わなければこんなに苦しい思いをさせずに済んだとか、貴方と出会わなければ嫌いな自分を認めないで済んだとか。 幸福のつきあたりと嫉妬のどん底の両方を見せてくれた。 自己嫌悪なんてものに陥る人は、みんなナルシスト。自分で思い描く基準の高さ、不釣愛な自分の一面を飲み込まず拒むことで愛する。 今日はここまで、が出来ない。 カレーは飲み物という様に、村山由佳の文章は私に取って飲み物。温度や舌でのとろけ具合やはじけ具合は違っても、スルスルと私の中に入り込む。胃から戻して咀嚼する反芻動物同様、何度も味わい栄養にしたいのにあまりにも私の受容体との相性が良すぎる。
1投稿日: 2025.09.28
powered by ブクログ【おすすめポイント】 爽やかでみずみずしく最高に痛々しい小説。 1990年当時のみずみずしい、ひりつくような感じ。当時の、山田詠美とか好きな人には刺さるはず。 【残念ポイント】 特にないけど、村山由佳の初期作品だから、2025年現在と比べて多少荒削りではあるかも。
6投稿日: 2025.09.16
powered by ブクログ秘密は1人で大事に抱えているから重く大きなものになってしまう、という都の台詞があったけど、都や光輝、隆之みたいに考えられる人間の方が少数派なのも確かで、本人に関係のない周りの声の方が大きく聞こえるから、隆之のように自分の心の内で感情を処理しようとする気持ちに共感した。ただ1人好きになった人が同性だったり、年上だったりするだけなのに、多くの人は他人の心に土足で踏み込み、性別や年齢ばかりを指摘して、そこに至るまでの本人の心情や背景を理解しようとするようなことはしない。そういう世間からの目線に怯えることもなく、自己を抑圧することもない自由な光輝が2人のために、弾いたピアノが綺麗だと思った。
2投稿日: 2025.05.26
powered by ブクログ1994年か… このとき18歳なら2025年に49歳か… おっさんがキモい 悪阻の描写にリアリティがない…
0投稿日: 2025.03.06
powered by ブクログおぉー、切ない!! 都と隆之との関係がなんだか良い この2人がくっついたらー良いのに〜 そんな簡単に行かへんか とか思いながら一気読み
0投稿日: 2025.02.22
powered by ブクログ『男同士というものがどうやってそれを行うのか知らないままに、あいつの心も体も全部欲しいと思っていた』。 この世には男性と女性がおよそ半々の割合で暮らしています。生物のありようとして、その両者が交わることによって、私たちは未来に人間社会を繋いでもいきます。遠い将来、人間は工場で生産されるもの…そんな未来が来ないとも限りませんが、このレビューに集う私たちにとってそれはSFの世界以上でも以下でもないでしょう。 ただし、人が人を好きになる感情は必ずしも生殖行動を伴う必要もないとも言えます。ここ数年の間にそんな考え方が随分とこの国の中でも叫ばれるようになってきました。 『あいつはどこから見たって男だ、なのにあいつを見てると俺は、身震いがとまらないほど欲情する』。 そんな言葉の先に続く恋愛感情。人によってはギョッとされる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、これも一つの愛のかたちでもあるのです。 さてここに、『男同士というものがどうやってそれを行うのか知らないままに、あいつの心も体も全部欲しいと思っていた』と思う男子高校生が主人公の一人を務める物語があります。そんな彼を『被写体』と思う女子高校生がもう一人の主人公を務めるこの作品。”新装版”によってその作品世界が時代を超えて読者を魅了するこの作品。そしてそれは、村山由佳さんが綴られる『同性』を愛する者の心の内を見る物語です。 『目の前でスクラムが組まれる。肩と肩、骨と骨がぶつかりあう鈍い音が、ズン、とおなかの下の方に響く』と目の前の光景の中に『隆之を見つめ』るのは工藤都(くどう みやこ)。『文化祭に招待試合』を行うようになって三回目という中、『このまま行けば史上初の負け試合』になってしまう目の前の試合。そんな時、出されたパス『をキャッチした』『フルバックの鷺沢隆之(さぎさわ たかゆき)は、『いちかばちかの勝負に出』、結果『蹴ったボールはゴールポストの上を高々と通過』します。『笛が鳴りひびく。試合終了。逆転勝ちだ』という中、『真っ黒な顔に真っ白な歯並みをこぼして笑』う隆之でしたが、『ふいに彼の顔から表情がするすると抜け落ち』、『地面に崩れ』ます。『隆之!』と『スタンドオフの高坂宏樹(こうさか ひろき)が抱き起そうとするのを見て、『胸が痛い』と目を逸らす都。『このところ』『隆之の写真ばかり撮っている』都は『隆之のことを男として好きなのではな』く、『二つとない絶好の被写体』と考えています。『ゴールが鮮やかに決まったときと、失敗したとき…。あたしはどちらの表情も好きだった』という都。 視点が変わり、『試合はどうなったんだっけ?』と『記憶がゆっくりと戻ってくる』中に天井を見上げる隆之。そんな隆之は『気を失う直前にかすむ目で見た、宏樹の満面の笑み』を思い出します。『小学校時代からずっと』『いちばん親しい友達だった』と宏樹のことを思う隆之は、高校の『入学式が終わるなり、その足で迷わずラグビー部の部室を訪ね』ました。『そうして、三年の今も、僕と宏樹はラグビー部の主戦力として、三十人からの大所帯を引っぱってい』ます。『「司令塔」と呼ばれる冷静沈着な彼と、「攻撃こそは最大の防御」を地でいく』隆之は、二人の『バランスの良さはそのまま、チーム全体のバランスの良さともなっていた』、『少なくともこれまでは』と思うと『頭を抱え込』みます。『あいつのせいだ…』と『かつて兄貴の婚約者だった』葉山響子(はやま きょうこ)のことを思う隆之。 兄が父母に会わせるために家に連れて行くも、『猛然と反対』しだした父親。『水商売の女を連れてくるとは、この馬鹿が!』と怒る父親は、響子が『親父がたまに立ち寄るクラブ』でホステスをしていたことが原因でした。『響子と一緒になれないんなら、僕はこの家に未練はないよ』と言った兄ですが、一週間後、『建築現場の足場を踏みはずし』帰らぬ人となりました。そして、三年後、宏樹を介して響子に再会した隆之。そんなことを思っている時、ベッドに横たわる隆之の元に『女子生徒がひとり入ってき』ました。『見てたわ。さっきの試合』と言う彼女は『あたしのこと、知ってるみたいね』と続けます。『去年の文化祭に、教頭の不倫写真を展示して、停学食らっただろ?』と言う隆之は彼女が『この学校でも指折りの問題児』だと思います。『女子でありながら写真部の部長をつとめ、常に一眼レフを持ち歩いてい』る都に『今度はいったい、誰をすっぱ抜いたんだ?』と訊く隆之。そして、都が差し出した写真を見る隆之はそこに『男と女の情事の翌朝を撮った』写真を見ます。『女のほうは、これはどう見ても、誰が見ても、工藤都本人』というその写真を見て、『何でこの写真を、文化祭なんかに出したんだ?』と訊く隆之。 再度視点は変わり、『何でこの写真を、文化祭なんかに出したんだ?』と隆之に訊かれて答に詰まる都でしたが、『たぶん…区切りをつけたかったからだと思うわ』と説明します。そして、『バッグの中から何枚かの写真を取り出し』た都は一枚を隆之に差し出します。それは、『夏の練習試合のときの隆之』でした。『あたし、あなたにとっても興味があった』と語る都。 三度場面は変わり、『都の撮った写真を見た瞬間に僕が感じた恥ずかしさは、過去十七年のなかでも最悪のものだった』と思う隆之。そんな隆之は『はじめに不純物を持ち込んだのは宏樹だった』と、半年前のことを思い出します。釣りに出かけた二人、そんな時『今度ここへ連れてきてもかまわないかな?』と切り出した宏樹は『女なんだ』と説明します。『そうして引きあわされたのが、葉山響子』でした。『もうホステスをしては』おらず『私立図書館の司書だった』という響子。しかし、隆之は『宏樹と響子の恋を喜んでやれ』ません。『僕へと向かう彼の視線をさえぎる者がいるなんて、許せなかった』、『僕は、高坂宏樹を自分の、自分だけのものにしておきたかったのだ』という隆之。そんな都と隆之のそれからが描かれていきます。 “気がついたら好きだった。ただ、それだけ―。20歳も年上の写真家に振り回され苦悩する、高校写真部の部長・都。彼女が新たな被写体に選んだラグビー部の同級生・隆之は、同性のチームメイトに密かな恋心を抱き、葛藤していた。傷ついた心をいたわり合うふたり。やがて、それぞれに決断の時が訪れ…”と内容紹介にうたわれるこの作品。1990年に「いのちのうた」で作家としてデビューされた村山由佳さんが1994年7月に発表された作品です。そんな作品は村山さんとしてはかなり初期の作品であり、私の中でも取り立てて意識の中にあったわけではありません。そんな中に今回この作品を手にしたのは一にも二にも作品の表紙にあります。そうです。私はこの作品を”ジャケ買い”したのです。実はこの作品、2022年10月に新たな表紙に変更されて刊行された”新装版”になります。表紙も作品にとってとても重要なものです。その印象は作品自体の印象を引っぱってもいきます。私が読んできた作品の中では近藤史恵さん「ホテル・ピーベリー」も”新装版”によって別物に生まれ変わった作品ですが、表紙の印象は読者にとって第一印象を与えるものでありとても大切だと思います。そして、この作品で言えば、この作品が1994年発表の作品という情報を知らなければ2022年に発表された村山由佳さんの新作と言われても全然違和感がないほどです。また、内容的にも時代感を感じさせる表現がほとんど登場しないこと、そして、それ以上に全体として瑞々しさに満ち溢れている、そんな印象を受けるのがこの作品の何よりもの特徴です。 そんな作品をまず印象付けていくのは冒頭に描かれる主人公・隆之のラグビー選手としての描写でしょうか。この作品の冒頭はこんな風に始まります。 『制限時間は、とっくに過ぎている。ロスタイムがあとどれくらい残されているのか、知っているのは審判だけだ。いつ笛が鳴らされてもおかしくない。うちの高校は二点差で負けている』。 これだけだと、サッカーなど他の競技のことも思い浮かびます。一方でこれが高校生を描く作品であることも分かります。いずれにしても緊迫した場面であり読者を物語世界に一気に引き込んでいきます。 『あたしは隆之を見つめた。目の前でスクラムが組まれる。肩と肩、骨と骨がぶつかりあう鈍い音が、ズン、とおなかの下のほうに響く。敵味方あわせて十六人の泥だらけの足が、互いに牽制しあいながら動いて、楕円形のボールを転がす』。 主人公の視点が登場するとともに、激しく展開する競技の内容が描写されていきます。『ラグビー』という言葉はずっと先に出てくるのですが、このような抽象的な表現だけで試合の映像を目の前に浮かび上がらせていくのは流石の村山由佳さんです。 ・『相手方のタックルに押しつぶされる寸前にパスを出した。受け取ったのは背番号10番、スタンドオフの高坂宏樹だった。ボールをがっちりと抱えたまま、猛然とダッシュする』。 ・『すかさずこれをキャッチしたのがフルバックの鷺沢隆之、一人のタックルを強引にかわすと奇跡的に一瞬ノーマークになった、でも行く手にはあと二人いる、トライはとても無理』。 『スタンドオフ』と『フルバック』というそれぞれのポジションを務める高坂宏樹と鷺沢隆之が主人公視点の中に登場します。なかなかに印象的な登場のさせ方であると共に、登場人物がラグビー選手であるという印象がこの物語の先のイメージを絶妙に作り上げてもいきます。いずれにしてもこの作品冒頭の描かれ方はとても好きです。 その一方で、この『ラグビー』という激しいスポーツと絶妙に対比させるかのように描かれるのが『あたしの父親は、かなり名の通った指揮者だ』という都の父親と、『彼、篠原光輝さん。幼なじみでね、天才ピアニストなの』と登場する人物に象徴されるクラシック音楽の世界の描写です。この印象もとても強いインパクトを与えるものがあります。父親がテレビ番組で指揮する場面を見る都というシーンを見てみましょう。 『数知れない弦楽器の弓が、風に吹かれた葦のようにいっせいになびく。上目づかいの管楽器たち、青い瞳のホルンのふくらんだ頰、主旋律を奏でるピアノと官能的にからみ合うバイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバス』。 躍動感溢れるオーケストラの演奏場面が描写されていきます。そこに、 『オーケストラ全体を完全に掌握している父の、あらゆる角度からのアップがはさみ込まれる。自分の紡ぎ出す音の織物を自在に束ね、また広げ、うっとりと酔いしれる横顔は、とくに額から鼻にかけての線があたしとよく似ている』。 指揮者である父親の姿をテレビの画面を通して第三者的に見る都。スポーツの試合と音楽の演奏会と、分野は全く異なっても躍動感に満ち溢れる場面を一冊の小説の中に収めて描く村山さん。このあたりの描写もとても印象深く感じました。 そして、この作品の中心となっていくテーマが主人公の一人である鷺沢隆之のこんな思いの先に見るものです。 『僕は、自分と宏樹との間に、ほかの何者をも侵入させたくなかったのだ。あの静謐な時間をかき乱されたくなかった。誰にも気を遣いたくなかった。邪魔されたくなかった。僕へと向かう彼の視線をさえぎる者がいるなんて、許せなかった。そして何よりも僕は ー 僕は、高坂宏樹を自分の、自分だけのものにしておきたかったのだ』。 上記で触れたようにこの作品の冒頭では、ラグビーという競技において『スタンドオフ』と『フルバック』というそれぞれのポジションで激しく動き回る宏樹と隆之の姿が描かれていきます。そこにはチームメイトとして活躍する二人の男性の姿しか見えません。一方で、そのうちの一人、隆之の内面に視点を移すとこんな感情が見えてくるという衝撃。上記した通りこの作品は”新装版”によって2022年10月に表紙が生まれ変わりました。しかし、その内側の作品は1994年という今から30年も前の時代に発表されたものです。ここ数年、本当にここ数年、”多様性”という言葉が強く叫ばれるようになり、同性間の恋愛についてもそれを許容する流れが見えつつあります。もちろん、この辺りはまだまだ人それぞれに考え方は異なるとは思いますが、少なくとも公の場であからさまに全否定する方はいないと思います。しかし、30年前という時代にあってはそれは極めて特殊とも言える状況下にあったのではないかと思います。そんな時代背景にあってこの作品ではもう一人の主人公である都が隆之の思いを否定するどころか積極的に肯定する立ち位置を取ります。 『男と女でなきゃ間違ってるなんて、いったい誰が決めたの?』 一刀両断とも言える言葉の先に都は悩める隆之を具体的に諭してもいきます。 『自分がゲイだったら困るとか、変態じゃないかとか、そんなふうに考えるのよしなさい。男だったら女を好きになるのが当たり前だなんて、そんなの噓っぱちもいいところだわ。あたしたちは、動物のオスやメスとは違うのよ?本能の導くままに交尾するわけじゃない。まず相手に恋をして、その結果結ばれるのよ?』 どこまでもハッキリ、スッキリと自らの考え方を語る都。30年前という時代に”多様性”を前面に押し出すこの作品において、都の誰にも負けず、誰にも臆さない性格は必須だったのかもしれません。そして、それが女性視点での主張ということもポイントだと思います。上記した通りこの作品には時代感のある表現がほとんど使われていません。それどころか、30年後の現代に新刊として発表されていてもおかしくないテーマをストレートに描いていくものでもあります。このあたりが、いまだに瑞々しさを醸し出すこの作品の魅力なのだと思いました。 そんなこの作品は、三つの章から構成されています。物語の主人公は作品冒頭でラグビーの『フルバック』で活躍する場面が描かれた鷺沢隆之と、そんな隆之のことを写真に撮り続けている工藤都のダブルキャストという位置付けです。この二人の関係性は都の次の言葉に語られます。 『あたしは隆之のことを男として好きなのではなかった。あたしにとって彼は、二つとない絶好の被写体なのだ』。 なんとも不思議な関係性です。しかし、実際のところ都の視点はあくまで『被写体』として隆之を見る視線に溢れています。 『隆之の体には、これっぽっちの無駄もなかった。骨格も筋肉のつきかたも全体のバランスも、どれをとってもほんとうに野性味にあふれていて美しかった』。 父親が『かなり名の通った指揮者』であり、娘は写真に情熱を注ぐという芸術家の感覚で物事を見ていく都。そんな都は上記した通り、『被写体』としての隆之が宏樹という同性に思いを募らせていることを認識するだけでなく、それを肯定し肩を押していく姿を見せます。物語の構成としてはそんな都と隆之に章内ランダムに視点をどんどんきりかえながら展開していきます。この切り替えの鮮やかさも見事です。作品中ではその切り替えで読者が混乱しないように、隆之視点に切り替わる時には『♠』、都視点に切り替わる時には『◆』がその直前に付されています。その内の一箇所、この切り替えの鮮やかさを見てみたいと思います。隆之から都に視点が切り替わります。 『「何でこの写真を、文化祭なんかに出したんだ?」 そんな質問は予想していなかったのだろうか。都は僕を見つめて、ぎゅっと口を引き結んだ』。 ◆ 『「何でこの写真を、文化祭なんかに出したんだ?」と隆之が言ったとき、あたしは一瞬、答に詰まった。それと同時に、ちょっとした感動を味わってもいた』。 隆之のセリフを視点の切り替えと共に都の脳内に引き渡していくという技ありの描写です。これから読まれる方にはこういった村山さんの上手さにも是非酔っていただければと思います。 そして、物語は、都と隆之それぞれの日常が描写されていく中に、二人の繋がりが巧みに織り交ぜられていきます。上記した通り、あくまで二人は『カメラマン』と『被写体』という関係性にありますがそれぞれの内面を理解してもいく大切な友人同士として繋がってもいきます。そんな物語は都の身の上に起こったある事象への対応に光を当てながら、せつない感情をあくまで瑞々しく描いていきます。大人の感覚から見ると、そこには屈折した感情を抱く都と隆之の姿が見えます。しかし、巧みに切り替えられ描写されていく二人の内面に目をやればやるほどに、そこにはどこまでも清らかで、どこまでもまっすぐな二人の高校生の姿が浮かび上がります。そんな物語が至る結末、高校生の青春の中で傷つけ傷つけられていく二人の赤裸々な姿を見る物語。そこには、時代を超えて普遍的な青春の情熱を静かに紡ぐ物語が描かれていました。 『宏樹へのこの感情だけはプラトニックなものではないのだ。もし叶うことなら、僕は宏樹を自分のものにしたいと思っていた』。 1994年という時代に『同性愛』を一つのテーマに描かれたこの作品。そこには、今の時代に発表されていても違和感のない鋭い切り口で紡がれた物語の姿がありました。時代感を全く感じさせない作品のありように驚くこの作品。スポーツ、音楽の躍動感ある描写に村山さんの上手さを見るこの作品。 どこまでも瑞々しさに満ち溢れた物語の中に、村山さんの熱量を感じさせる青春の物語でした。
238投稿日: 2025.01.15
powered by ブクログふとした言葉の鮮やかさ 村山さんの小説は恋愛に対しての考え方が鋭くてハッとすることが結構ある。 都や隆之のような人生は送っていないけれど、高校生の時に自分が悩んでいたことの答えを教えてくれた。
0投稿日: 2024.06.11
powered by ブクログ新装版ということで、これは再読しなければ!と思い読みました。高校生の頃読んだ時より、今読んだ方が第1章がセンセーショナルに感じました。青春小説という言葉は不似合いな感じがします。
0投稿日: 2024.01.26
powered by ブクログ「放蕩記」「夜明けまで1マイル」に続き、著者の作品を読むのは三冊目。 三度目の正直じゃないが、これら三冊を読んで、遅ればせながらようやく分かった。 著者の本とオレとは、どうやらあまり相性が良くないらしい。 特に、前回読んだ「夜明けまで1マイル」と今回読んだ本作の2作は、読み終えた後の印象が非常に似通っていた。一言で云うなら「物語としては破綻なく上手く書けているようだが、なんかひどく薄っぺらい」。別の言い方をするなら「映画化やドラマ化を前提に手堅く書かれた習作」。そしてめでたく著者の企図通りに映画化、ドラマ化された暁には、オレ自身はちっとも観たいと思わないストーリー。そんな感じ。 中には時々「はっ」とするほど鋭く美しい表現や描写もある。確かに文章も巧い。 しかし、そうした技巧が、必ずしも物語そのものの説得力や魅力を際立たせていない。何処かちぐはぐな印象が否めない。 でもまあこれは、あくまで一読者との相性もしくは好き嫌いの問題であって、著者の小説家としての力量や価値を云々するものでは決してあり得ないのだが。
0投稿日: 2023.12.17
powered by ブクログどことなく爽やかで、でも艶めかしくて。 主人公2人というか、出てくる人物全てが魅力的だった。面白かった。
0投稿日: 2023.08.26
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
確かに瑞々しい!ピアノの曲全部調べちゃったし、なんなら聴きながら読んで捗ったな。どうなる北崎。柔らかくて、穏やかな愛情みたいなのを感じられる関係性でよかったな。
0投稿日: 2023.06.22
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
ふわふわ浮遊するみたいな不思議な読後感だった。 それは多分結末めいた結末が描かれていないからだと思う。 これから都のお腹の中の子はどうなるのか北崎は帰ってくるのか、隆之と宏樹の関係はどう変わっていくのかわからないけれど、都と隆之の間にある穏やかな空気がたまらなく愛しかった。 当人以外の人々には愛だ恋だと揶揄されてしまう2人の関係は本当に綺麗だと思う。 私も誰かと一つのアメーバになりたい。ただそれだけ。
0投稿日: 2023.05.26
powered by ブクログこの本を読み終わった今、学生時代を思い出して胸がチクチク痛んでいる。特別華やかな思い出がある訳じゃないけど、なんだかんだで楽しかったな。 自分の気持ちを抑えてまで、相手の為に動くって言うのは相当な愛と思いやりだよなー。
1投稿日: 2023.05.10
powered by ブクログみっともなくて、バカバカしくて、それでも儚く美しい大人への反抗。 ふたりの関係を友ではなく愛と表現するところにすべてが詰まっている気がする。 鋭いことばとやさしさに息が苦しくなる。
0投稿日: 2023.04.16
powered by ブクログ「海を抱く」に続いて読了した。 この小説が書かれたのが30年近くも前であることが信じられないくらい、今この時代に出会っても瑞々しさと、青春の苦しさと寂しさを感じる。 読み返して一文一文をじっくりと味わい直したい。都の部屋で、都と隆之がお互いの寂しさを埋め合うようにいたわり合い抱き合うシーンは、本当に心を打たれた。
0投稿日: 2023.03.05
powered by ブクログ登場人物の恋愛や性に対して、弱冠、高校生ながらも戸惑いながらも前と進もうとする描写が繊細に描かれている。
0投稿日: 2023.02.14
powered by ブクログ今回の主人公の一人である高校三年生の隆之は、幼馴染である宏樹に魅入られ続け、気持ちを告白できない心の内の悩み・葛藤が綴られる。 もう一人の主人公となる女性の都は、隆之が通う高校の同級生で、二人の男女を超えた不思議な関係は、物語の大きな核となって話は進む。 他に数人の男女の重い関係も複雑に絡み合い、個々の迷える心理描写が見事に描かれている。 同性同士でも好きになる事は自然な現象だと私は思う。 人は異性同性に関係なく、お互いに大きな影響を分け与え合うことがあり得ると云うことだ。 気持ちの繋がりだけではなく、肉体をも含めてもっと強い絆を求めたとしても、世間が言う処の異常行動だと私は思えない。 さすが村山由佳女史は、社会の常識から弾かれた人々を描写する観察力には感服するばかりだ。
0投稿日: 2023.01.14
powered by ブクログよかった〜!隆之が親にドカンと言った時、とてもスカッとした〜!!! 出ていけ!と言ったはなから出ていくなと言われたり、ほんと何がしたい?って思うよね。自分の思う通りにいかないからって無闇矢鱈にあたってない?親に向かってなんて口のききかただ!って怒る人すごく多いけどさ、親がそんなんじゃ示しがつかなくない? こんなふうに育てた覚えはない!っていう人も多いけど、逆になんでそんなに自分の子育てに自信があるの?って思うよ。私は完璧にやったつもりですがどうしてこんなことになってしまったんでしょう、私はこんなふうにしたつもりはありません。って事が言いたいんでしょう?子育てなんて正解不正解ってあんまないだろうし、完璧に行えるわけないんだから、それで自分の思った通りの育ちにならないからって子供に当たるのは絶対違うと思うんだよね。これは私がまだ親という立場に立ってないからこそ言えるんだろうけど、できればこの考えを忘れずに子育てをしたいと思う。まぁ理想は子育て自体をしない事なんだけどね。 私はこの作品結構好きで、北崎を切れない都の不完全さも好きだし、隆之の心境の変化とかも好き。北崎みたいな男って客観的に見るとクズ!ってわかるのに実際にハマっちゃうと沼みたいでほんと嫌だよね〜。嫌ないい男!! でもやっぱり親との関係性のとこが1番好きかな。
0投稿日: 2023.01.06
powered by ブクログAmazonの紹介より 等身大の18歳、永遠の青春小説。 気がついたら好きだった。ただ、それだけ──。20歳も年上の写真家に振り回され苦悩する、高校写真部の部長・都。彼女が新たな被写体に選んだラグビー部の同級生・隆之は、同性のチームメイトに密かな恋心を抱き、葛藤していた。傷ついた心をいたわり合うふたり。やがて、それぞれに決断の時が訪れ……。愛に悩み、性に戸惑いながら生きる18歳を瑞々しく描く、不朽の青春小説。 高校生の話なのに、大人のような艶かしさや官能が漂っていながらも、瑞々しさもあって、「リアル」な青春小説を読んだ印象でした。 魅力的なキャラクターが織りなす様々な「愛」の形を垣間見ましたが、切なすぎましたし、「愛」の難しさを感じずにはいられませんでした。
0投稿日: 2022.12.18
powered by ブクログスピンアウト(?)作を先に読んだみたいで、「えっ?」という感じでした。 どちらを先に読むかで印象がガラッと変わってくると思います。 ただ、最後はなんだか書きっぱなしで・・・ その後、どうしてくれるんでしょうか・・・
0投稿日: 2022.11.29
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
大好き!! 私まじで都と隆之と同い年だから余計に「今」!!読めて良かった。大好き。 この人の本を読むのは初めてだったけど、すごく良かった。 正直本屋であらすじと装丁見て衝動買いしただけだったから、ここまで良いお話だとは思わなかった ありがとう。 胸が痛い。 マジで胸が痛い。 私が彼らと同い年なのもあって、すごい……他人事とは思えないくらい感情移入してしまった。 なんか静かで素敵な文章とか雰囲気なんだけど、だからこそかなしさがひしひしと伝わってくるというか、言葉を尽くして語ったりはしないのにすごく伝わってくるというか。 めちゃくちゃ入り込んじゃう感じがある。 なんか「浸透」してくる作品だった 隆之と都の関係性がいい。 それなりにやることはやってるんだけど、すごくフラットで、お互いを思いやっている感じ。 性愛とは違うけど、お互い大切な存在で、愛なんだなと思う。二人が過ごしてる時間ってそんなにたくさんあるわけじゃないと思うけど、関係性の濃密さみたいなものがちゃんと伝わってくるのすごいな。 最後のほう、隆之が宏樹に嘘つくのマジで泣けた。 ここでも相手のことを思いやるなんて優しすぎるだろ……隆之……隆之が今までどんな気持ちでいたのかわかってんのかよ……。宏樹のこと「おおらか」って評する隆之どんだけ優しいんだよ。 「おおらか」っていうか鈍感だろ。友達って思ってるのお前だけだよ宏樹!!!!おい!!! いけない、感情的になってしまった。 「俺がいるじゃないか。お前のこと一番よくわかってんのは俺だろ?」 ここつらい。 一番わかってるのに、なんでほかの女のことしか見てないんだろう。おれじゃだめなのか?っていう……。 だめなんだよなぁ。 だめなんだよ……。 北崎とかいう男。ひどい。ずるい。 なんでそんな人をかき回すようなことばかり言うんだろう? けど結局好きでいるのやめられないのもわかる。 あんな男に振り回される自分がバカみたいなこともわかってるけど、やっぱりどうしても体レベルで勝手に反応しちゃうんだろうな。 北崎も都に惹かれてるってこと、隆之はわかってたけど都はわかるわけないよね? あんな意地悪な態度とられてさ! これからどうなるんだろう。 北崎、本当にずるい男だよ。 けどいるんだよなあこういう人。 光輝さんも良かった。やさしい。読んでる最中、彼のピアノが聴こえてくるような気がしました。 けど彼の恋人嫉妬深すぎて笑う。 情熱の国スペイン。 フェルナンド・バンデスだっけ? サブキャラも面白みがあって可愛いのが魅力やね。 最後の終わり方もめちゃくちゃ良かったな。 ピアノの音で静かにやさしく物語が終わるのが良かった。その空間が目に浮かぶような、まるでそこの空気が流れ込んでくるような、とにかく素敵な場面で、なんだかたまらない気持ちになった。 最後の終わり方だけで100点満点から200点満点に加点してしまう小説だったな。本当に大好きな結末。 この結末、冷静になったら都の子供とかの問題がなにも解決してないんだけどやっぱりすごく好きだ。 傷つくこともあったしこれからのことはわからないけど、今はとりあえず穏やかに眠っててね、みたいなやさしさを感じるラスト。 シビアな悩みを抱えてる子供たちに対しての、実にこの物語らしいアンサーだったように感じた。 読み終わった後、ベートーヴェンの悲愴を聴きながらちょっと泣いた。うまく言えないけど、読めてよかった。本当に好きだ。
2投稿日: 2022.11.20
powered by ブクログ表紙に惹かれて購入。1994に初出した物語とは思えないほど今の世の中にも当てはまる物語。世間ではタブーとされてきた恋愛や性の多様性についても考えるきっかけに。 好きになったのがたまたま異性だった。 二分の一の確率。
1投稿日: 2022.11.17
powered by ブクログ愛情が恋愛だけでなく様々な立場で様々な形であることがわかる本。 出てくる大人(光輝以外)主人公たちに接しているように感じて、愛情は色んな形があるけどそれを愛情と勘違いをして押し付けるということやタクシーの運転手たちのような大人が多くて、光輝のような大人になっていきたいと思った。
0投稿日: 2022.10.29
