
総合評価
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powered by ブクログフロイトの精神分析的に社会を意識、下意識、無意識の重層的構造としてイメージすると今まで見えなかったものが見えてくる。 •意識は政治、経済。この経済こそが決定的な要因を持つものとして分析するのが経済学。経済の発展段階の上部構造に政治があるというのが従来の考え方である。 では、経済はどのようにして決まってくるのが。なぜ世界の地域により経済に差があるのか。 例えばマルクスは(1) 原始共産制 → (2) 古代奴隷制 → (3) 封建制 → (4) 資本主義 → (5) 社会主義 → (6) 共産主義と生産力の発展に伴って進むと考えたが、西洋視点の偏りという問題点がある。 これを人間で下意識と無意識に目を向けたのが本書である。 •下意識層は教育。識字率、女性の教育率、中等教育から高等教育率の後を追って経済は成長する。 •無意識層は宗教と家族構造。これらが経済構造と政治構造に大きな影響を与えることに気づくことでコペルニクス的転回がある。 家族構造は原始は核家族から始まり、農耕の発展に連れて直系家族、共同体家族と発展する。何万年、何千年単位の大きな変化であり、数百年や数十年の短いスパンで見れば逆行や例外が起きる事はある。 この観点で見れば最も進んだ形が共同体家族であり、その次が直系家族、そして最も原始的な形が核家族であることがわかる。つまり文明発祥の地に近い場所では最新の共同体家族、その周りに直系家族があり、文明から最も離れた周縁部に核家族が残っている。 そして文明中心部では核家族時代に民主主義は経験済みで、今は英米仏といった最も遅れた地域で民主主義社会となっている。民主主義は産業革命の後の資本主義と親和性が高かったため、西洋が現在の世界覇権を握ることになったと言うストーリー。 ちなみに対戦後に社会主義国となったのはすべて共同体家族構造の地域で、権威主義に基づく平等主義が受け入れやすい土壌があったと考えられる。現在のロシア中国はマルクス主義社会主義ではないが、共同体家族構造が受け入れやすい権威主義体制となっている。 EU、ユーロはキリスト教の神に変わる支配体制。権威主義、不平等主義を受け入れる土壌がある直系家族やゾンビカトリシズムの国家が加盟している。 英国はゾンビプロテスタンティズムかつ絶対核家族であることからユーロに加盟しなかった。EU離脱はその現象。 社会主義国家が共同体家族国家にのみ発生したのと同じメカニズム。 EU、ユーロはフランスがドイツを抑え込むために作ったが、フランスの意図に反してドイツとの経済戦争になり、フランスは敗北。 EU、ユーロがもたらしたもの。 ドイツの経済的一人勝ち。 各国に財政規律=緊縮財政を強いることによる経済的低迷→失業率上昇→有能なエリートの若者のドイツへの流入→ドイツ出生率低下の穴埋め。 グローバリズムにより米国では過去にないほど経済格差が広がっているが、EUを単一国家と見た時は同じ現象が起こっている。 ドイツは経済成長のために移民導入を優先目標としており、そのためにEU内の国家さえ犠牲にしている。ウクライナへの介入もその文脈にあり、民主主義を守るなどは単なるお題目にすぎない。 ウクライナ戦争は西洋の敗北である。ロシアはGDPで測れない強さがあり、西洋以外の国はむしろロシアを積極的または消極的に支持している。 表層的な部分に囚われて本質を見誤ってはいけないことを気づかせる本書である。
0投稿日: 2025.11.24
powered by ブクログ人類史を家族構成から読み解き、民主主義の本質に焦点を当てる。 著者によれば、現在先進国に見られる核家族の形態は原始的なものであるという。原始の人類は核家族を単位として生活していたが、それが直系家族、内婚性共同家族、外婚性共同家族などに分岐し、それぞれ独自の政治的経済的様態を生じるようになった。核家族の形態を持っている先進国においてはある意味原始の形態に収斂した結果という。 そして核家族の形態の国々(個人の自由という概念が生まれやすい)が民主主義を発展させ、資本主義に基づく豊かな生活を謳歌しているわけだが、著者はこの民主主義に警鐘を鳴らしている。 特に核家族形態を突き詰めた英米などは、資本主義に基づくグローバル化を推し進めた結果、体勢に順応した高学歴エリートとそこからこぼれ落ちたグループの分断が深まり、トランプの登場やイギリスのブレグジットなどを引き起こしたと分析している。 本書を読んでいて、いくつか疑問が浮かぶ。なぜ家族構成が分岐した後、ロシアや中国などの共同体家族は核家族に収斂しないのか?核家族に収斂するのが例外的な事象なのだろうか?今後も家族構成のあり方が多様に展開するのだとするとすると、今後我々は「どこに行くのか」? これらについて、著者は確定的な言辞を避けているようにも思うが、もとより安易な予測はできないだろう。東西冷戦終結の頃フランシス・フクヤマの「歴史の終わり」のように、リベラルな民主主義や自由経済が勝利を収めたような論調の時代感からすると、今日はあまりに混沌としていて先を見通すことができないとあらためて感じる。
0投稿日: 2025.10.18
powered by ブクログ上巻に引き続き、読了。 良い副題である。つまり、民主主義には必ず『生贄』が伴う、という意味である。例えば、アメリカはトランプ大統領の元、メキシコ人恐怖症を発症することで国内(白人と黒人の)統一を試みる。 ただ、いざ民主化に成功しても、民主主義は教育の普及をもたらし、メリトクラシーによる客観的な能力主義を産む。『生贄』によって団結したはずの集団が、今度は学歴によって再び引き裂かれ、新たな階級闘争が生じる。何という皮肉か。 本書は、イギリスにおいては上流階級の貴族的かつ謙虚な価値観から、労働者階級をそこまで蔑視しない文化があり、それが上下階級を統合できる可能性があるとして、同国への期待という形で締めくくられている。ただ、日本語版後書きでは、その期待が裏切られたと記しており、ため息。 良くも悪くも英米世界は民主主義の最前線である。今日も、英米諸国(欧州も?)は、ウクライナに油を注ぎ、ロシアを『生贄』にすることで、民主主義を守ろうとしている。野蛮さは中々抜けないのである。本書を読むと、何だかロシアに同情したくなるのは私だけであろうか。
0投稿日: 2025.08.16
powered by ブクログ前半は退屈だったが、後半になるほど具体的になってきて面白かった。家族構造と教育、人口動態、経済などを有機的に結びつけ、西洋社会の正義からは距離を置いた学者的な分析は興味深い
0投稿日: 2025.02.07
powered by ブクログ過去課題本。あまり楽しい読書体験とはならなかった。いまだにヨーロッパでも「マルクス主義」が幅を利かせているところがあるんだなと、実感させられる一冊であった。
0投稿日: 2025.01.06
powered by ブクログよく言われるのは、資本主義は格差を助長するが、民主主義がその抑止力になる。つまり、少数の富裕者に対し、多数の大衆層により民主主義的な手続きによって、資本主義の暴走にブレーキを利かせられるのではという発想だ。しかし、実感としてはあまりこれが機能している気がしない。本書を読むにあたり、サブタイトルの「民主主義の野蛮な起源」というのが何の事かと思った。革命を通じて成立させたというその起源の暴力性を指すだけなら、その革命の歴史を振り返るだけで、大した本にはならなかっただろう。トッドが指摘するのは、今も野蛮な側面がある、という点だ。 キーワードから考えるなら、メリトクラシーのような人類の序列化。これを権威主義と言うか、ただの学歴や年収志向とするかは言い方次第だが、生まれつきや環境による「能力の差」があり、それを測定するステータスやスコアがある。そして、この上位者によって民主主義が乱用されやすい。必ずしも、民主主義は弱者の味方ではないのだ。そして、弱者にも責任がある。頭の良い人に任せておきたいという諦め、印象論やポピュリズムに左右されやすい性質。こうした人類の本源的性質には、動物的「野蛮さ」が内在したままだ。そこでは、自由も平等も強者の詭弁となる。 家族構成からのアプローチについて。核家族は、高い個人主義。もう少し大人数の家族形態だと、やはりそれなりの統率者が出てきて、集団主義的になる。わけのわからない、我が家のルール、お父さんのいう事は絶対!みたいな感じの到達地点として、プーチンの言う事は絶対!みたいになっていく(かなり論理を飛躍したが)というのがトッド。上巻では、これと識字率、財産の管理などとの因果関係を解説されていて流石トッド!と思ったが。だが結局、ビッグダディだらけの国家があるかどうかで、そこから独裁が生まれやすいのか、結局そこは良くわからなかった。ただ、民主主義の野蛮さ≒ヤバさ(奇しくも似た音)を感じられる読書となった。
57投稿日: 2024.10.07
powered by ブクログ文化人類学から世界経済や社会の動向を捉えようとする意欲作。ところどころ、論理が飛躍しすぎているようにも思ったが、著者の広範な知識には驚嘆させられた。ところどころノーベル経済学賞に批判的なところが面白い。著者がフランス人の視点から記述していることが本書の魅力の一つと思う。とにかく読むのに時間がかかった。。。 16章の日本の記述は最も興味深かった。少子化は本当に深刻な問題で、その回復のモデルはロシアにあるのかもしれない。移民に頼らず、自国の技術、エンジニアを大切にして、ユニークな日本の伝統・文化・治安が守られることを願いたい。
2投稿日: 2024.04.11
powered by ブクログいやー難しいけど面白い! 伝統的な家族形態,初等教育,高等教育が政治システムや国の在り方までの起源となり,様々な「敵」をなぜ作るのか,なぜ必要悪なのか? こんなにも説明ができるものなのかと感嘆. 最終的にどんな国家のシステムも否定しない,かつ変化の途上とするのは,読後の満足感にはつながらないけど,世界を公平に見る,と言う原点に思い至らずにはいられない.
0投稿日: 2023.04.06
powered by ブクログ翻訳がわざとむづかしく、読みにくくしている。なぜ「台頭」と書かずに「擡頭」とかくのか。一つの文が長い。原文に忠実なのかもしれないが、この訳者はいただけない。
0投稿日: 2023.03.13
powered by ブクログ下意識、無意識を分析することから、なぜ今日の世界が形作られたかを読み解き、その洞察は難解だがとても惹きつけられるものであった。 日本は父系社会であり、女性の地位が低いことや内向きの習俗に囚われているかぎり、衰退の末路を辿るという筆者の主張には、近年の政治・経済・教育の劣化を見る限り納得がいく。 日本版あとがきに書かれている著者のメッセージが響いた。"アングロサクソン世界の動向、とくに米国の動向が今後の日本にとって最大のリスクになる"
0投稿日: 2023.02.04
powered by ブクログ上巻はだいぶ体力の要る読書だったが、そのおかげで下巻はすんなりと理解できた。 アメリカ、フランス、イギリス、中国、ドイツ、ロシア、日本など、異なる家族形態や宗教、教育がたどってきた歴史をもとに、現在を読み解いている。 個人的に興味深かったのは、教育、特に高等教育が不平等主義を後押ししているという現象。識字が課題となる初等教育の普及段階では、教育が平等主義とつながっているが、高等教育になればなるほど、当然のことではあるが格差が広がる。民主制は指導者が必要だから、エリートも必要なわけだが、経済格差と教育格差がリンクして議論されている日本でも、まさにこの部分を直視して問題の落としどころをさぐらねばならないのだろうと思う。 もう一つ面白かったのは、同性婚の法的承認がなされ、女性の社会的ステータスが高い国ほど出生率が高い、という相関関係があるという事実。女性のステータスに関しては、社会的システムの整備など十分想像できる結果だが、同性婚については個人的には新たな視点で勉強になった。
2投稿日: 2022.12.30
