
総合評価
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powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
解説でホラーと書かれているのをみて納得した。全部読み終わると女性特有の人生での分岐点が死としてそこから生まれ変わる話だとわかった。これまでの自分を失ってもちゃんと生きていけると言われたようで心強い。
0投稿日: 2025.11.21
powered by ブクログ訪れた人生の転機に伴い、周りから課せられる軋轢や抑圧。主に女性に起こるそのことは、よくあることと言ってしまえばそれまでだけれど、溜め込んだ鬱屈はどこへ行くべきなのか。現実に即しているのに、読むうちに現世と幽世の境目があやふやになってしまうような、独特の読み口の怪談短編集です。 一番印象的なのは「花嫁衣裳」でした。ここでで描かれるのは、結婚。本来は誰にでも祝福されるようなことだし喜ぶべきことなのに、この不安と不快感は何なのでしょう。新生活というのが新しい自分として生きることなら、古い自分は死んだということのか。押しつぶされすり減っていく主人公の前に現れた怪異は恐ろしいのだけれど、どこかしら優しさも感じられました。そういえばその前の「鏡の男」の怪異もなんだか優しいんだよね。人間の方がよほど醜悪に思えます。 一番怖いのは「藁人形」です。これはいわゆる怪異は登場せず、ひたすら人間の情念の物語で、どこまでも邪悪で救いようがありません。これと比べると、本当に他の怪異の優しさが身に沁みました。「ガールズトーク」のあの子たちすら可愛いとしか思えませんよ。 ラストの「帰り道」にははらはらどきどきしっぱなしでした。迷い込んでしまった異世界から、少女は無事に帰れるのか。彼女が見た世界の不思議さも魅力的。謎の看板の数々が、センス良すぎでした。
0投稿日: 2025.11.04
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対岸の家事のドラマをみて原作者が気になったので手に取った一冊。 タイトルからブラックな女子トークの話か…?と 思いきや、なかなかのホラー!! 鏡の男を読み終わってこわくなったので 日の出ている時間に読み切りました。笑 子育て真っ只中世代として『獣の夜』は分かりみが過ぎる…!!抱っこした時にふと気づく、我が子の真っ白に輝くすべすべ肌と自分のカサカサくすんだ手のコントラストを見るたびに話中の「人間をやめた」というフレーズを思い出すようになりました。 自分はどうあれ絶対にこの子は守らなければと思う気持ちは本当に獣の本能でしかない。人間も所詮は動物なんだなと思い知らされる。 『花嫁衣裳』の気持ち悪さもわかるし、 『子育て幽霊』の切なさも沁みたな。 短編集のようで読みやすいけれども、 女性の人生が詰まった濃い〜〜一冊でした。
0投稿日: 2025.04.28
powered by ブクログちょっとファンタジー要素あり。ファンタジーをあんまり読むタイプじゃないので、世界観に入っていくのに少し時間がかかった。前半はこの本あんまり合わないかも?と思っていたけど、後半になるにつれどんどん合う内容になっていった。 なので、好きだったのはラスト2編 「変わるために死にゆくあなたへ」 「帰り道」 いろんなきっかけで今の自分が死に、新しい自分が生まれる。っていう考え方が新鮮でいいと思った。私だけじゃない、みんな今の自分が死ぬのは怖いんだってことがわかったのは、うれしかった。 ほっこり系小説が続いていて刺激的な内容を求めていたので、表紙がイマドキで面白そうという理由で借りた。笑やっぱり味変も大事!
0投稿日: 2024.12.11
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鏡の男 私 実家から脱出した。 母 つねに妹のことを心配している。 父 自信のある男。 彼 夢遊病。 花嫁衣装 私 父方の伯父 祖母 職場の先輩 二年前に結婚して妊娠九ヶ月目。 大伯父 ガールズトーク 私 こけしを集めている。 四十代後半の会社経営者 こけしを収集している。 藁人形 松本祐実 まじめに、人に迷惑もかけずに、一生懸命生きてきた。冷凍食品を製造する会社に勤めている。三十三歳。 高田圭介 大手スーパーに勤める営業部員。経営企画室に異動。 鶴橋 祐実の先輩。ふっくらした美人。三十六歳。バツイチ。 坂口 祐実と一緒に冷凍ピザの開発をしている。 芽衣子 圭介の妻。 獣の夜 子供を産んでから完全な眠った夜はない。 子育て幽霊 芙美 母 アルツハイマー。 変わるために死にゆくあなたへ 松木陽菜 小学六年生。中学に進学。 母 恋愛なんかしなくても幸せになれるわよた陽菜に言った。 原口翔 陽菜がいいなと思った同じクラスにいる男子。 帰り道 鈴音 小学三年生。 ひいおばあちゃん 九十八歳で亡くなる。 お母さん 妊娠中。 おばあちゃん
0投稿日: 2024.11.13
powered by ブクログ選択的夫婦別姓制度を調べていて見つけた本。 『花嫁衣装』という作品が、姓を扱っていました 結婚して今までの姓から夫の姓になり、義父母や親族から、同じ姓を名乗る身内として束縛を受けていく様子が描かれています。 いまどき、ここまでの呪縛があるかどうかはわからないけど、婚姻によって姓を変えるのは、ほとんどが女性。「1回死んだ」と思って夫の姓に変わったと言う、主人公の職場の同僚の言葉は重いです。 専業主婦が圧倒的に多かった時代とは異なり、女性の社会進出(これも死語か?)は、もはや当たり前。働き手世代が減っている中、政府が女性の労働力の活用とか言っている。(活用ということばは大嫌い!)(すぐに、活躍と言葉を変えてたけどね) そんな時勢に、雇用の途中で姓が変わるとか、面倒くさくてたまらない。家父長制の残滓とか言われても仕方ないのじゃないかな。 わたしは、早く制度導入されれば良いと思いますけどね。選択的夫婦別氏(姓)。 選択肢が増えることで、自分の人生を自主的に考えるきっかけができると思います。 以下、法務省のホームページより引用 夫婦の氏に関する制度は国によって様々ですが、平成22年に法務省が行った調査等によれば、 ⑴ 夫婦同氏と夫婦別氏の選択を認めている国として、アメリカ合衆国(ニューヨーク州の例)、イギリス、ドイツ、ロシア、 ⑵ 夫婦別氏を原則とする国として、カナダ(ケベック州の例)、韓国、中華人民共和国、フランス、 ⑶ 結婚の際に夫の氏は変わらず、妻が結合氏となる国として、イタリア があります。 もっとも、法務省が把握する限りでは、結婚後に夫婦のいずれかの氏を選択しなければならないとする制度を採用している国は、日本だけです。
21投稿日: 2024.10.27
powered by ブクログもやもやするーー!!そして、わかるーー!! って感じ。 オムニバス形式で8話からなる短編集。 ポップで可愛い表紙からは想像できない、ちょっとゾゾっとしてしまうようなお話ばかり。 どんな怖さっていうかというと、強いものに虐げられて踏みにじられてしまう女性たちの本音が、淡々としてて、だけど静かな炎のように熱く揺らめく感じ。 諦めとか、でも堪え切れない憤りとか、愛情とか。 ある種の怨念?みたいなものを感じるんだよねー。 しかも、男性側は悪意がないと思ってるところがまた...。 あたしが印象的だったのは「花嫁衣装」 結婚したら当たり前のように夫の姓を与えられて、嫁にもらわれたとの名目のもと、まるで「モノ」のようにされてしまうのではないか、という不安と嫌悪感がものすごく怖い。 妊娠中、義父にお腹を触られ、「いつから私は勝手に身体を触られてもいいような人間になったのだろうか?」(本が手元にないので、ニュアンスです。) ってところは、ほんとにわかりすぎて、気持ち悪すぎて倒れそうになった...。。 そして夫は「悪い風にとらないでよ。」って、わかってくれない。。 怖いよーー。 でも各編、最後は希望があるラストだったりもするので、ズーンとはならないかな。
0投稿日: 2024.05.08
powered by ブクログ女性が主人公のほの暗い話の短編集。 ひとつひとつが短くて読みやすい。 「花嫁衣装」 花嫁衣装が白いのは、一度死んで、婚家の人間として生まれ変わるという意味があるから。女性が姓を変えるのが当たり前の時代。でも、それまで一緒に生きてきた苗字を捨てていく作業は、自分が死んでいくように感じる。なんだかそのモヤモヤな当たり前は、変えていきたいところだと思う。 「藁人形」 呪の藁人形。恋は人を変えると言うけど、この短編は恋に狂わされる女性が多く描かれており、本作の主人公もそのひとり。 「獣の夜」「子育て幽霊」 子育ての壮絶さというか、母が命を削って子育てをしているのだなと感じる。 「変わるために死にゆくあなたへ」 カースト上位グループを祝福組と呼ぶのが斬新。ちな下位は「そうでない組」
0投稿日: 2024.03.21
powered by ブクログライフステージが変わる度に、元の自分は死んでいく……結婚、出産、子育て、介護。 経験してることは殆ど無い(失恋のみ)なのに心に刺さるので、経験者だともっと心にくるんだろうと思います。 「鏡の男」と「花嫁衣装」の描写がキツくて読むのを諦めそうになりましたが、「獣の夜」「子育て幽霊」が圧巻でした。あんまり大きく出るのは好きじゃないけど、老若男女読んで欲しいこれ。。。ここの4篇だけでも。 ラストの「帰り道」もしみじみ良かった。良い話だ…と思ったらラストそうきたか…。びっくりだけれど彼女は強く生きていくだろうな。 思ってたより怪談話でした。しんといけれど面白かった。
3投稿日: 2023.10.16
powered by ブクログ女性を主人公にした8つの短編集。 どこにでもあるような女性にまつわる話だが、視点を変えると背筋がゾクっとなる怖い話になる。 自分ではあまり気にならないことが、気になる人には気になるし、譲れないところでもあるんだなと思った。 女性って、我慢する生き物なんだろうな。
0投稿日: 2023.08.22
powered by ブクログ八つの短編集 思ったよりホラーでした そして“くらやみガールズトーク” 納得のタイトルです さてさてさんのレビューを読ませて頂き、気になっていた一冊で、初読みの作家さんです 二【花嫁衣装】 「結婚前の私はもういなくてね いまの私はたぶん別のなにかなの」 「だから死んだと思うようにしてる」 こんなセリフが出てくる。 これを読んで あぁ、私はこれまで何回も死んだのかもしれない。 と思った。 本当の私って、どこへ行ったのだろう? でも「死んだ」と思ったら何だかラクになった気がする。 五【獣の夜】 六【子育て幽霊】 この二編は、子育て経験のある人には刺さるかもしれない。 小さな子供の温かさと息使いを耳元に感じるほどの描写ですが、結構怖いです。 私が一番好きなのは 八【帰り道】 曾祖母の死と妹の誕生という経験をする小さな主人公。 生と死、そして希望。 “怪談”であるからこその絶妙さが好み。 朱野さんの他の作品も読んでみたいと思いました。
56投稿日: 2023.04.19
powered by ブクログさて、突然ですが、あなたはある夫婦のこんな会話を聞いてどんな思いを抱きますか? 妻: 『妊娠できるかどうかのチェックって、二人で行くんだよね』 夫: 『君一人で行くんでしょう?』 妻: 『不妊の原因って半分くらいは男にあるらしいから… あなたも検査してほしい』 夫: 『いやだよ… 俺に悪いところがあったら… 立ち直れないよ、しかも君の両親に結果を報告するなんて、よくそんな残酷なこと思いつくな』 妻: 『じゃあ私は…』 さて、どうでしょうか?このレビューを読んでくださっている方の性別、年齢はマチマチです。未婚、既婚、出産経験の有無等々、さまざまな方が同じ会話文を読む中には、それぞれの人の属性、経験、価値観によって、そこに見えてくるものは全く異なるのだと思います。この会話に何を思ったか、それは当然に異なります。 この世の数多の小説は読む人が指定されているわけではありません。もちろん、作家さん個々人がその作品を読んでもらいたい対象者を意識されることはあるのだと思います。しかし、そんな作品も本屋さんに並んでしまえば全てが同じになってしまいます。その本に手を伸ばし、カウンターに持っていった人、それが誰かの制御は不可能です。そう、あらゆる作品が老若男女さまざまな人の手に取られ、さまざまな人の読書の対象になっていくのです。 私は女性作家さんの小説に限定した読書を続けており、その中で極力幅の広い読書を心がけています。対象とした作家さんの数も60名を超えました。そんな作品の主人公はマチマチですし、物語の舞台も当然に異なります。読書をするということは、登場人物に感情移入をする時間でもあります。そこに登場する人物の気持ちを思い、そこに登場する人物の考えを理解していく。私は男ですが、登場人物が女性であったとしても同じように感情移入し、彼女の気持ちを思い、彼女の考えを理解してきた、そのように思って来ました。しかし、その登場人物の気持ちを100%理解することには限界があるのかもしれない、数多の作品は読む人を限定しているわけではないとしても、人によってそこから感じ取れる感覚には大きな差が生じるのではないか、そんなことに思い至りました。 さて、ここに私をそんな思いにさせた作品があります。『名字をとられた時点で、命はとられたのだ』と結婚した先に経験する初めての事ごとに『私はもう死んだ』と思う主人公が登場するこの作品。『子供を産むというのは、きっと人間をやめることなのだと』考える主人公が登場するこの作品。そしてそれは、”結婚や育児で悩んでいる人から「こんなに醜い感情を抱いているのは自分だけかも」と告白されることもある”という朱野帰子さんが、”女子たちの本音”を、まさかの”怪談”の中に描く物語。”現代人がひそかに抱える暗い感情を、怪談としてすくいあげた短編集”です。 『実家から脱出した私がたどりついたのは、築三十年の鉄筋コンクリートマンションの一階、六畳一間の部屋だった』というのは主人公の『私』。『実家の母が心配していたのは、つねに妹のことだった』という『私』は、『幼い頃から』『しっかり者の長女に庇護を求める』『母を母と思ったことはあまりない』という過去を振り返ります。一方で『母と違って』『自信のある男だった』という父は『頭がよくて、冷徹で、愛情を示すのが苦手』という個性の持ち主、そんな父を『普通とは違う、ユニークな人』と『友達に自慢もしてい』ました。やがて『預金が貯まった私が実家を出ていくと告げ』ると、大きなショックを受けた両親。そして家を出た『私』に『あなたの記憶は歪んでいる』『大人げないことはやめなさい』と伝える叔母は、母親が泣いているとも伝えますが、『私は家に帰』りませんでした。そんな『私』が入居に際して部屋を掃除しようとすると、『ユニットバスの天井』裏に大量の『炭酸ガスが出る薬用入浴剤』があるのを発見します。『捨てよう』にも多すぎ、『大家に連絡するのも面倒』と、『うっちゃっておいた』『私』。そんな『私』は『引越ししてしばらくして、同い年の男とつきあいはじめ』ます。『休日になると部屋に遊びに』くる彼はベッドの狭さを理由に『どんなに遅くなっても自分の家に』帰ります。『それが唯一の不満』と思うも『でも、彼は優しかった』と彼を思う『私』は、『温水プールにつかっている気分』と『刺激もないけれど、怖いこともない』今を『普通だ。それが一番いいんだ』と思います。『この人と結婚したら、私は、きっと幸せになれる』と考える『私』。そんなある日、『携帯をよこしなさい』と『彼が手を突き出してき』たという瞬間に行き当たります。そんな彼を『ふざけていると思い』笑った『私』。そのきっかけは、彼の『寝ぼけた顔』を『可愛らし』いと思い、思わず『携帯電話で写真を撮』ったことでした。そんな『私』に『まじめな顔』で『許可なく撮影するのは肖像権侵害にあたる』、『訴える用意もある』と『私を睨みつけ』る彼。『やりとりは一時間』も続き、『出ていって!』と叫んだ『私』に、『あとで内容証明を送るからそのつもりで』と言いながら『出ていった』彼を見て『これはどういうことなのだろう』と、『私』は困惑します。そして、『翌日の昼休みに、「昨日は帰れた?」というメールを送』ると、『すぐに返事がき』ました。『帰れたよ、眠い』というその返事に電話をすると『何も覚えていなかった』という彼は、『訴訟だの内容証明だのという話をする私に』、『それって創り話でしょう?』と、答えます。『俺、小さい頃、夢遊病だったらしいんだよね』と続ける彼。そんな話を聞いて『だからうちに泊まらなかったんだ』と『理由がわかって嬉し』いと思う『私』。そんな『私』の彼とのそれからが描かれていきます…という最初の短編〈鏡の男〉。二人の間に緊張が走る彼の突然の変貌が”怪談”らしさを煽るどこか不思議感漂う短編でした。 “出産、親の痴ほう、失恋、引っ越しなど、人生は常に変わっていく…どうして、女性ばかりがそれらを全部背負わなきゃいけないの…くらやみから聞こえてくるのは ー 女子たちの本音。私たちはもう一度、生まれ変わる。解放される。自分のために!すべての戦う女性たちのための応援歌!”と内容紹介に高らかなまでにうたわれるこの作品。そもそも「くらやみガールズトーク」という小説らしからぬ書名もあって、読む前からどんな”女子たちの本音”が飛び出すのかと読む気満々にさせてくれる(笑)この作品。それぞれに関連をもたない七つの短編から構成されています。ただ、内容的に関係はなくとも”女子たちの本音”が聞こえてくる?という共通な印象の中にある作品ばかりです。では、まずはそんな七つの短編の中から、私が特に気に入った三編をご紹介しましょう。 ・〈花嫁衣装〉: 『結婚披露宴が終わり』見送りをする私たちに『うちの一族に合いそうなお嫁さんで安心しましたよ』という夫の伯父。そして、始まった新婚生活の中で『体調がすぐれない』主人公の『私』に『ストレスじゃない?』と話す『職場の先輩』。そんな『私』は、『××さん』と、『上司に呼ばれた時』すぐに気づけず『夫の名字になったのだとふりかえ』ります。『旧姓で通せばよかった』と話す『私』に顔をしかめ『しょうがないだろ。結婚したんだから』『つまらないことでぐちゃぐちゃ言うなよ。夕食がまずくなる』と続ける夫に『ごめん』と謝る『私』の結婚後の複雑な心情が綴られていきます。 ・〈藁人形〉: 『藁人形には、高田圭介、という名前を書いた紙が貼ってある』と、『トートバッグに手を入れて、人形の輪郭をたしかめる』主人公の祐美は、『ほんとに人を呪ったりしていいのだろうか』と、郊外にある神社へ歩みを進めます。『大手スーパーに勤める営業部員だった』圭介が会社に出入りする中に知り合った祐美。しかし、年上でバツイチの鶴橋も圭介を狙っていることを知り、焦る祐美は偶然電車で一緒になった圭介に『生まれて初めての告白』をしました。『いいですよ、つきあいましょう』とうなずく圭介は、つきあっていることを『秘密』にしたいと言います。そして始まった恋愛の先に待つものは? ・〈変わるために死にゆくあなたへ〉: 『美人でも結婚しない人もいるし』というようなことを幼い頃から言われて育った陽菜は、『中学の入学式の日』にその『謎が解け』ました。『顔の善し悪しが、制服のせいで際立っている』、『これはなんて残酷な!』と感じる陽菜は、教室に入り『互いの顔を見合』う中に『神様に祝福された組の女子のグループができ』たのを目にします。『チョウチンアンコウみたいな顔の女子に声をかけられ』『自分もそっちの組だったのだ』と気づく陽菜。そして、『祝福組』と『そうでない組』に『選ぶ権利などな』く分かれた女子たち。そんな中、一人の男子のことが好きになっていく陽菜。 三つの短編の内容を取り上げてみましたがいかがでしょうか。どことなく何をポイントにどんな話が展開するかのイメージがわくのではないかと思います。結婚後の女性に渦巻く感情を描く〈花嫁衣装〉、初めての恋愛の行く末を描く〈藁人形〉、そして、『顔の善し悪し』に焦点を当てる〈変わるために死にゆくあなたへ〉。それぞれの物語には、女性ならではの感情が赤裸々なまでに語られていきます。そして、恐らくそんな作品に関心がわく方は、 男性〈 未婚女性〈 既婚女性〈 子有女性 と、後者の立場でいらっしゃる方ほど面白さが増すのではないかと思います。そう、上記した通りこの作品は”女子たちの本音”を小説から赤裸々に聞くことができるのが最大の魅力なのです。 例えば、〈花嫁衣装〉で光が当たるのは、結婚した女性が体験していく日常の数々です。この作品では職場で旧姓を使わず改姓手続きをとった女性に光があたります。『夫の名字』を呼ばれてもすぐに自分のことと気づけない『私』。『夫の名字の下に自分の名前』があるのを見て『結婚したんだなあという実感がこみあげ』る一方で、『古い名字のついた私がどこかへ行ってしまう』という思いの中に『古い名字たち』の名刺や訂正印をゴミの中から拾い上げ『ロッカーの奥にしまいこんだ』『私』。そんな『私』に『しょうがないだろ。結婚したんだから』と顔をしかめる夫は、改姓が自身のことだったらと訊く『私』に、『男にとって名字を変えるっていうのは当たり前のことじゃない』、『養子縁組』で『遺産をもらうとか』『交換条件』があればまだしも何もないのに名字を変えるのは『犠牲が大きすぎる』と言い切ります。それに『女は犠牲を払って当たり前だと』?と訊く『私』に『一般論だよ』と話を切る夫。そんな『私』は、夫の大伯父から『このままでは、うちの名字を継ぐ人間が絶えてしまう。一刻も早く、男の子を産みなさい』と迫られ、夫も味方してくれない中に『結婚式でまとった白い花嫁衣装』を『私の死に装束だった』と感じていきます。この辺りの感覚、もちろん男性の私であっても主人公の『私』の気持ちに感情移入していくものはありますが、上記の通り、より当事者経験のある方には、その読み味は別物に響いてくるのではないかと思いました。他にも『子供を産んでから完全に眠った夜はない』と、『子供を産むというのは、きっと人間をやめることなのだと』思う主人公の『私』が、『人間をやめて、何になるのだろう。きっと獣だ』と、その気持ちを切々と綴っていく〈獣の夜〉は、出産を経験された方に是非読んでいただきたい短編です。また、『妹なんか生まれてこなければいい』と思う主人公、その一方で『もう生まれてる子と、これから生まれる子、両方を可愛がれるかどうか、怖いんだ』という母親の気持ちを不思議世界の演出の中で描く〈帰り道〉は、女性の方にはより切々とその感覚が響いていくように思います。そう、読めば読むほどに、この作品は、女子なあなたにこそ是非読んでいただきたい、そんな作品だと思いました。 『日本の花嫁衣装が白なのは、一度死んで、婚家の人間として生まれ変わるという意味がある』。 そんな言葉の先に『結婚前の私はもういなくてね。今の私はたぶん別のなにかなの』という思いに囚われていく主人公の『私』。そんな『私』が登場する短編など七つの短編が収められたこの作品。そんな作品では”女子たちの本音満載の物語”が”怪談”の中に描かれていました。男性と女性の視点を絶妙に対比させながら同じ事象がどう違うかを見せてもくれるこの作品。『藁人形』など、”怪談”らしく、背筋をゾクっとさせられる短編も折挟まれたこの作品。 思った以上にさまざまなシチュエーションを描く一気読み必至の物語展開に、ハマる人にはベタハマりな作品だと思いました。
138投稿日: 2022.12.19
powered by ブクログ婚約中の私にまたもや母が貸してくれた1冊。 なんでですか?? 私が、「結婚し、黙ってたら自分の名字のままでいける風潮の男はずるい」と言ったからですか?? ……ちなみにそれに対する直接的なアンサーは書かれておりません。 ホラーテイストの短編もあって、ホラー小説が嫌いじゃない私にはそこそこに楽しめた1冊。 でも一番怖かったのは(おそらく幽霊の話ではない)、「鏡の男」。なんでしょう、ラストのその先に幸せの欠片も見えないんですけど。 全体通して、どうしてなかなか、結婚生活に明るさを見いだしにくい内容なのですが、なんというかこう負けないぞという気持ちにもさせられました。 あと、結婚後にもしこんなこと言われたらどうしてやろう?ってシミュレーションもできました笑
3投稿日: 2022.04.05
