
総合評価
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powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
本書は、葉室麟最晩年の作品であり、「新宿中村屋」創業の星りょうの目を通して描かれる幕末明治の文芸家たちの群像劇となっている。 北村透谷、島崎藤村、国木田独歩、若松賤子、佐々城信子、三宅花圃、樋口一葉、斎藤緑雨、勝海舟、クララ・ホイットニー、瀬沼夏葉、萩原碌山、中村彝、高村光太郎、ラス・ビハリ・ボースなどとの関わりが描かれている。 それにしても、星りょう(相馬黒光)の交友関係がすごすぎる。作者もその点に注目し、執筆したに違いない。 当時の女性は、男にかしずき男を立てるのが女性の理想とされていた時代。そんな中、自分に正直に蝶のように舞うことがいかに困難だったか、その規範に外れた女性たちがどういう扱いをされたのか、男には許された自由な恋愛が、女だとふしだらや不品行と言われた女の悔しさや苦悩を葉室麟が本書で代弁したのではないか。ある意味、フィクショナル伝記(伝記と呼ぶには作者の想像が加味されている)と呼べそうな新ジャンル本かもしれません。 また、文豪ゴシップ好きな人にも楽しめる作品となっています。 《相馬 黒光(そうま こっこう、1876年(明治9年)9月12日 - 1955年(昭和30年)3月2日)は、夫の相馬愛蔵とともに新宿中村屋を起こした実業家、社会事業家である。旧姓は星、本名は良(りょう)。 来歴: 旧仙台藩士・星喜四郎、巳之治(みのじ)の三女として仙台に生まれた。星家の婿養子だった父は仕事のため別居していた。8歳のときに一家の柱であった漢学者の祖父が死去、十代前半には姉の発狂、父親の癌発病、弟の病気による右足切断が立て続けて一家を襲い、笑わない子となる。少女期より横浜バンド出身である押川方義の教会「仙台日本基督教会」へ通い、14歳で洗礼を受けた。 小学校初等科卒業後、裁縫学校に進むが、進学を強く希望し、1891年に、学費の安かったミッションスクール宮城女学校(現・宮城学院中学校・高等学校)に入学が叶った。しかし、アメリカ式教育の押しつけに反発する生徒たちによる宮城女学校ストライキ事件に連座して翌年自主退学し、1892年に横浜のフェリス英和女学校(現・フェリス女学院中学校・高等学校)に転校した。しかし、明治女学校の講師で文士の星野天知と知り合ったことをきっかけに文学に傾倒し、ミッションスタイルのフェリスに飽き足らなさを感じて退学し、1895年に、星野をはじめ北村透谷、島崎藤村らが講師を務める憧れの明治女学校に転校。1897年に同校を卒業した。明治女学校在学中に島崎藤村の授業を受け、また従妹の佐々城信子を通じて国木田独歩とも交わり、文学への視野を広げた。「黒光」の号は、恩師の明治女学校教頭から与えられたペンネームで、良の性格の激しさから「溢れる才気を少し黒で隠しなさい」という意味でつけられたものと言われている。 卒業後まもない1898年長野県でキリスト信者の養蚕事業家として活躍していた相馬愛蔵と結婚し、愛蔵の郷里安曇野に住んだ。しかし、黒光は養蚕や農業に従ったが健康を害し、また村の気風に合わなかったこともあり、療養のため上京し、そのまま東京に住み着くことになった。 中村屋創業後: 勤め人を嫌った愛蔵の意向で1901年に、本郷にあった小さなパン屋「中村屋」を従業員ごと買い取り、開業。1904年にはクリームパンを発明した。1907年には新宿に移転、1909年には新宿駅近くで開店した。 夫とともに、中華饅頭、月餅、インド式カリー等新製品の考案、喫茶部の新設など本業に勤しむ一方で、絵画、文学等のサロンをつくり、荻原碌山、中村彝、高村光太郎、戸張弧雁、木下尚江、松井須磨子、会津八一らに交流の場を提供し、「中村屋サロン」と呼ばれた。また、岡田式静座法を信奉し、10年間一日も欠かさず静坐会に出席した。 黒光は、愛蔵の安曇野の友人である荻原碌山の支援者となり、碌山の作品『女』像は黒光をモデルとしたものだと言われている。また、亡命したインド独立運動の志士ラース・ビハーリー・ボースらをかくまい、保護した。1918年に長女 俊子がボースと結婚した。そのほか、ロシアの亡命詩人ワシーリー・エロシェンコを自宅に住まわせ面倒をみ、ロシア語を学んだりした。夫が死去した翌年の1955年、78歳で死去した。墓所は多磨霊園(8-1-5-3)。》(Wikipedia)
3投稿日: 2025.05.04
powered by ブクログ明治から大正にかけて、女学生時代から島崎藤村、北村透谷、国木田独歩、勝海舟、樋口一葉、その他多くの文人、芸術家たちと関わり、交流した主人公・星りょう。 こんなに才能ある人たちと関わってきた星りょうっていったい何者? 架空の人物? と思っていたら最後の方でどんな方かわかり、おおっ!となりました。 この時代いろいろな格差や慣習がある中で、自由に、自分らしさを求めて、世間の目を気にせず意思を貫いて強く生きた女性たちはすごいなと思いました。
0投稿日: 2024.03.12
powered by ブクログ集英社のキャンペーンで購入。こういうのがないと出会わない本がある。 てっきり単なる相馬黒光の伝記かと思ったら、彼女を通じて明治の文豪の恋愛模様を描き、ちゃんと最後は自身と子らの話に繋ぐという凄い本だった。中村屋の歴史も単に流行を先取りしただけじゃないんだなあ。
0投稿日: 2023.07.17
powered by ブクログ若松賤子の小説を読んだ後、ここにも描かれていると知って読み始めた、初めての葉室麟さん。 どうやら、これまでの作風とは異なっているらしいけれど、私はすっかり魅了された。 若松賤子は「我にたためる翼あり」に登場していた。当時の女流作家が何人か出てくるけれど、一番鮮やかに浮かび上がるのは、樋口一葉。ここまで樋口一葉を描いた小説を知らないが、これぞと思わせるリアリティがあった。作者の明治文学への深い洞察が描かせたものに違いない。この時代の明治のインテリたちの動向がよくわかる。 それぞれの短編には島崎藤村、北村透谷、有島武郎など、明治の文学者が現れるが、いわゆるスキャンダルを扱っていて、男たちには魅力を感じない。勝海舟の晩年くらいか。その勝にしても、若い頃はあちこちに女を作っている。明治の男は、裏ではみんなこんなものか。まともに描かれているのは樋口一葉を支えた斎藤緑雨くらい。 解説によれば、作者はこの時代をもっと描きたかったのだという。志なかばでとても残念に思う。 まるで違う筆致で描かれているのかどうか、テーマも違う、他の作品も読んでみたくなった。
2投稿日: 2023.04.07
powered by ブクログ明治時代を生きた女性星りょうの視点から、当時の女性の様々な生き様、恋愛模様を浮き彫りにした物語。 明治の文豪がたくさん出てきます。 どこまでが史実でどこまでが創作なのかさっぱりわかりません。 自分らしく生きたいと願い、生きたりょうが様々な人たちと知り合い、そして、その女性たちとの対比によって、りょうの生き方を浮かび上がらせています。 最後の、娘の俊子の会話が刺さります 「だけど、母さん、ひとは自分だけでは自分らしくいきられないのではありませんか」 りょうが新宿中村屋の創業者につながってびっくりしました。 一つ賢くなった(笑) こうした伝記に近い物語って苦手(笑)
40投稿日: 2023.03.19
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
主人公りょうの人生がまさか中村屋へ、その看板メニューインドカレーへと繋がっているとは思いもよらなかった 錚々たる小説家芸術家の名前が出てくるのでりょうもその世界で大成するのかと思った。意外だったけれど最後まで自分を自分として愛した気持ちのいい女性だった 相馬黒光さん それにしても途中から葉室麟さんの作品を読んでいるということを忘れていた
1投稿日: 2023.03.13
powered by ブクログ葉室麟の異色作。 明治時代を生きた個性的な女性たちを熱っぽく描きます。 星りょうは仙台藩士の三女として生まれ、その利発さから「アンビシャスガール」と呼ばれた。 明治28年に、東京の明治女学校へ入学します。 女子教育向上を掲げる校長の巌本善治は「蝶として飛び立つあなた方を見守るのがわたしの役目」と、りょうに語りかけたのでした。 明治女学校の教師・北村透谷と女生徒との間に生まれた恋のいきさつ。 国木田独歩と結婚したが逃げた、りょうの従妹・佐々城信子は… 英語教師のクララ・ホイットニーは義父に当たる勝海舟との間に深い信頼関係を築く。 若松賤子は校長・巌本の妻で、翻訳家・作家として活躍した。その賤子のもとを訪れた樋口一葉…… りょうは次々に個性的な人物に出会い、思わぬ秘密を知ったりもするが、当人はそこまで華麗な才能を見せたり恋愛遍歴をするわけでもない。 だが、後に結婚相手と共に、新宿中村屋を興し、相馬黒光と名乗るようになります。 こういう育ち方をした女性だったのね。 新しい生き方を希求する明治の女性たちの、燃えるような思いと大胆さ。 男性たちもアクが強く、個性的です。 清廉な生き方をする武士を描くことが多かった作者が、もがきあがく女性たちを描きたくなったのですね。 この後どんな風に世界を描いていくのか、その先も知りたかったです。 惜しまれます。
21投稿日: 2022.09.19
powered by ブクログこの時代の人の生き方はなんと強く真っ直ぐなことのような思えた。島崎藤村、北村透谷、国木田独歩、樋口一葉など時代を代表する人達が登場するが皆、痛いほとんど自分の生き方や心に真っ直ぐのように感じた。 それに信じられない位若くしてなくなってる人が多い。この時代に自分が生きてるとしたら何してるだろう?とふと思った。
1投稿日: 2021.10.14
powered by ブクログ自分らしい生き方を求める。激動の明治を駆け抜けた女性たちの夢と挫折、喜びと苦悩を描いた感動の歴史長篇。葉室麟が遺した今を生きる我々へのラストメッセージ!
1投稿日: 2021.10.05
powered by ブクログ202107/新宿中村屋の創業者が主人公ということで、創業立志的な物語と思い手にしたら違った。主人公が明治・大正の文豪文化人らと出会い、まだまだ男尊女卑で窮屈な時代の中、自分・女性の生き方を模索していく物語。つまらなくはないけど、主人公をはじめ登場人物達にあまり魅力を感じられず、恋愛話も多かったりで、自分の好みではなかった。
1投稿日: 2021.09.14
powered by ブクログ今まで著者の作品をより多く読んできた読者ほど、この小説には戸惑いを覚えずにはいられないだろう。 それまでの、己の信じる道を確固として生きる男を清冽に描くという作品とは、一線を画すかのようだから。 主人公は、「アンビシャスガール」と呼ばれた星りょう。後の名は、新宿中村屋を創業発展させた相馬黒光。 彼女と出会い関わりあう人々を通して、星りょうという人物を浮かび上がらせる手法が採られている。 明治の文学者たちが次々と登場する。しかも恋愛絡みで。 国木田独歩、北村透谷、島崎藤村、樋口一葉らと、彼ら彼女らの相手となる人物たち。 さらに、勝海舟まで。 どこからがフィクションで、どこまでが史実なのか、惑うばかりの多士済々。 著者は最晩年の作品になぜ女性を主人公に据え、多数の文学者を登場させたのか。解説で、「男性だけで時代が動いたわけではない」と、近代を総合的に捉えようとする著者の意図があったと、記されている。
8投稿日: 2021.08.19
powered by ブクログこんなハレンチ(笑)な学校があったんですね。まるで教師と女学生が出会うためのような(爆笑) アンビシャスガールとはいえ、なぜこの主人公にあらゆる人物が相談事を持ちかけるのかわかりません。それくらい主人公の特徴もないし、魅力もない。
1投稿日: 2021.07.24
powered by ブクログ割と高名な明治期の文化人たちの浪漫と退廃に満ちた愛欲のエピソード集。 何で主人公の女学生が全編に関わる必要があったのかイマイチ納得がいかないけど。 貧乏とか宗教とか女性解放とか、折角の才能が色々と削り取られて行くのが何か残念です。
1投稿日: 2021.07.14
